80話 小田原ベース建設計画・前編
深夜、鏡界、平塚・HT09エリア近郊――。
「エステラ、来るわよ!」
カーミラが叫び終わるのとほぼ同時に、ビルの影から獣型魔塊獣――ビースト級と呼ばれる、全高2m・体長3mほどの、揺らめく黒煙のような四足獣のシルエットが飛び出してくる。
『オオォォォォーーーーーーーッ!』
待ち構えていた『血の宣誓』の5人を見つけたビースト級魔塊獣が、威嚇するような咆哮を放ちながら突っ込んでくる。
「女王の防壁ですわ!」
エステラの凛とした声と共に、淡い銀色の光がリレッタとエステラの周囲を包む。
黒煙に覆われた虎と熊を合わせたようなシルエットに、獰猛に輝く紅い瞳――初めてビースト級魔塊獣と対峙した魔法少女なら、身体が竦んでもおかしくない光景だが――。
わたし達『血の宣誓』は、藤沢・FJ01ベースを出てから、すでに12回もビースト級魔塊獣の襲撃を受けていた。
初見では驚いたものの、リレッタ、カーミラ先輩、セラ先輩の3人が息の合ったコンビネーションで戦闘をリードしてくれたおかげで、初戦ではビビりまくっていたエステラも、今ではすっかり慣れたものだ。
『グオオォォォーーーン!?』
黒煙の爪で引き裂こうと、エステラとリレッタへ襲い掛かったビースト級魔塊獣は、エステラの女王の防壁に阻まれ、後足で立ち上がったまま動きが止まる。
「前と同じ! 胸の上部中心付近!」
一応、『フォーサイト』で見えた弱点を叫ぶ。外見は似ていても、別タイプの魔塊獣ってこともあるからね。
「闇の縛鎖!」
カーミラの魔法、闇の縛鎖が発動。
爪先から黒い鎖が蛇のように魔塊獣へ襲い掛かり、後足で立ったままの四肢へ絡みつき、その姿勢のまま完全に拘束する。
「強化付与弾!」
「黒薙!」
セラ先輩がリレッタへ強化魔法弾を放ち、それを見越して攻撃体勢に入っていたリレッタが、間髪入れずに黒薙を発動!
ザンッッ!
強化された黒い斬撃が一撃でビースト級魔塊獣の頭部から胸部へ深い傷を刻み、黒煙が血煙のように吹き上がる。
『グオォォォォォォォッ……』
リレッタは止まらない。悲鳴のような咆哮を上げて暴れる魔塊獣の胸元へ走り込み、胸の傷の奥へ黒い日本刀・黒誓を突き立てる――。
しばらくすると、魔塊獣の黒煙はスーッと溶けるように宙へ消えていった。
エステラを加えて5名となった新生『血の宣誓』は、見事な連携と手際の良さで、13回目の襲撃も難なく撃退に成功する。
ちなみに、わたしは13回の襲撃で1発も発砲していない。
だって、毎回1匹ずつの襲撃で、わたしが撃つ前に終わっちゃうんだもの!
ちゃんと弱点は教えてるから、いいよね? ね?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
藤沢・FJ01ベースを出発したわたし達は、小田原・OD04エリアまでの道のりの半分以上を進んでいた――。
なぜ、わたし達が『六本腕』達との死闘を繰り広げた小田原なんぞへ向かっているのかと言うと、色々なしがらみ……としか言いようがない。
事の始まりは、『血の宣誓』へのエリカさんからのお誘いだ。
エリカさんのパーティー『ブルーライン』と『血の宣誓』で共同任務を受けないか、とリレッタが誘われたらしい。
任務内容は、藤沢・FJ01ベースから小田原04エリアへ、ベース建設へ向かう工兵課の魔法少女達の護衛。
工兵課の6名の魔法少女と一緒に藤沢・FJ01ベースから小田原・OD04エリアへ移動し、ベース建設が終わるまで護衛すること。
先の魔力潮流動乱で魔塊獣が掃討されたため、強い魔塊獣は居ないだろうということで、エステラのパーティー戦闘訓練も兼ねて共同任務を受けることになった。
そして、エリカさん達のパーティー『ブルーライン』の4名と、わたし達『血の宣誓』の5名、それに荷物を背負った工兵課の6名――総勢15名が藤沢・FJ01ベースを出発したのだ……。
「おつかれ~! 新メンバー入れたばっかとは思えんくらい、あんたらマジ手際よすぎ~!」
戦闘後の小休止に入ると、肩の空いたスウェット風トップス、へそ出しミニスカートに厚底ブーツというギャル風衣装の魔法少女、エリカさんが近づいてくる。
「まあ、1匹ずつだしな」
エリカさんの賞賛に、リレッタが少し得意そうに呟く。
「『血の宣誓』全員、ほんとサクサク動くし、あーし達、今までちょい誤解してたっぽいわ……カーミラっちもセラっちも、今までごめんね~」
リレッタの言葉に、エリカさんは少し真面目な表情になると、カーミラ先輩とセラ先輩に頭を下げる。
誤解……というか、エリカさんが謝ったのは、『血の宣誓』と関わりを持たないようにしていたことに対してだろう。
『ホンモノ』化した魔法少女は魔塊獣を見ると狂暴化し暴走する――それが千桜や普通の魔法少女達の認識だ。
そのため、無謀な戦い方をする『ホンモノ』と一緒に戦うことは、自分のパーティーメンバーに危険だと判断したエリカさん達を責めることはできない。
実際には、カーミラ先輩やセラ先輩のように、『戦闘に慣れ、戦い方を学習する』ことで防げるようなのだが、今まで『ホンモノ』化して長く生き延びた魔法少女が居なかったため、一般には知られていない。
今回の共同任務は、「『ホンモノ』化した魔法少女が、『戦闘に慣れ、戦い方を学習する』ことで、狂暴化・暴走することなく魔塊獣と戦えるのか?」の検証をエリカさんがすることが主目的だ。
エリカさんがこの任務で納得してくれたなら、今後『ホンモノ』化した魔法少女に対する扱いに良い影響があるだろう。
「エリカさん、謝らなくていいわ。確かに、私もセラも、以前は逸り過ぎて、リレッタに沢山迷惑をかけていたの。ようやく落ち着いて戦えるようになってきたのは、最近になってからよ」
「はい。お恥ずかしい話、以前は魔塊獣を見ると気持ちが昂ってしまいまして……よくリレッタさんに叱られました。ちゃんと戦えるようになったのは、本当に最近なんです」
カーミラ先輩の真摯な態度に、カーミラ先輩とセラ先輩は、自分達の今までの危うい戦闘を思い出したのか、バツの悪そうな表情を浮かべている。
「そーなの? リレッタの強さは前から知ってたけどさ、カーミラっちもセラっちも、ほんと安定して戦えてたじゃん? 魔法も魔法具もフツーに強いし、そこに遠距離攻撃のリリナっちとガードのエステラっち入ったら、千桜の上位パーティーにガチで食い込めるっしょ!」
「そうかしら? まあ、リリナもエステラも新人にしては頑張っているし、2人が成長すれば、『ブルーライン』にも負けないくらいにはなれるかもしれないわね?」
「うふふ。先輩として後輩を守らなくちゃって思うし、ちゃんとした姿を見せないとって思って、今までより頑張れるんです! 必ずこの5人で千桜の上位パーティーになってみせます!」
エリカさんの言葉に、カーミラ先輩とセラ先輩は嬉しそうに笑う。
「カーミラ先輩もセラ先輩も、凄く良い人ですわ。お姉さま、わたくしを『血の宣誓』に誘ってくれて、ありがとうございます」
エリカと2人の会話を聞いていたエステラが、目をウルウルさせながらコッソリ囁いてくる。
多分、悪いヤツに騙されて魔法少女にされた(んじゃないかと、わたしは思っている)エステラは、こんなに優しくされた経験がなかったのだろう。
「ああ、『血の宣誓』のメンバーとして務めを果たして、恩返ししないとな」
「はい、お姉さま!」
エステラの『お姉さま』呼びは、まだ慣れないが、身体がちっちゃいだけでいつも『妹』扱いされる身としては、何か偉くなったような気がして悪い気はしない!
「あのよぉ……前は色々、悪かったなエリカ。今後は、その……迷惑はかけねーようにするから『血の宣誓』をよろしく頼む」
黙ってエリカさんとカーミラ達の話を聞いていたリレッタが、視線を逸らしながらエリカさんにボソボソと呟く。
普通に謝ればいいのに。
「気にしなくていーよ。リレッタがメッチャ頑張ってたって、リリナっちから聞いてるしさ。ホント、よくやったなーって思うってば。あーし達こそ、これからよろしくね~!」
「ああ……色々すまなかった」
そこでようやくリレッタがエリカさんに深々と頭を下げる。
「も~、そういうのいーって。それより、今日って、けっこう魔塊獣多くね? 魔力キツかったら、あーし達とチェンジする?」
移動中は、わたし達『血の宣誓』が魔塊獣駆除、エリカさん達『ブルーライン』が工兵課の魔法少女の護衛を行い、OD04エリアに着いてからは、役割を交代することになっている。
いざとなれば、工兵課の魔法少女6人も戦闘可能なので、移動中の『ブルーライン』は比較的楽なポジションだ。
「問題ない、大丈夫だ。しかし、ここら一帯の魔塊獣は一掃したって聞いてたのに、うじゃうじゃ出てくるな。まあその分稼げるからいいけど」
この任務、基本報酬プラス、討伐した魔塊獣という歩合制なので、襲撃が多いのは悪いことばかりではない。
「あー、魔塊獣が多くなってきてるのは、多分、小田原が近いからじゃないか?」
エリカさんとリレッタの会話に、わたしが元黒狼の魔法少女・グラウの話を思い出して何となく口を挟むと、2人とも不思議そうな顔をする。
「ん? 小田原が近いとって……もしかして、あのウワサって本当なのか?」
「ウワサ? あーっ! 黒狼が『マギト炉』暴走させて自爆したってヤツ~? あーしが聞いた感じだと、あれマジっぽいんだよね~」
あれっ!? それほど有名な話じゃなかったのか!?
グラウさんは結構有名な話っぽく言ってたけど、黒狼では有名な話だったってことかな?
「本当らしいですよ? 小田原周辺地域のマナ濃度が爆上がりして、倒しても倒しても魔塊獣が湧き続ける魔境になったって聞きました」
グラウから聞いた話を2人に話すと――。
「あー! 多分、マジでそれだわ! 確かに小田原に近づくにつれて襲撃の頻度が上がってきてる! おいおい、小田原なんかにベース作って大丈夫なのかよ?」
「逆じゃない? ベース作んないとさ、魔塊獣溢れてマジやば~って感じじゃないの~? でもさ、狩る魔塊獣に困んなそうだし、逆にメッチャ良くな~い?」
確かに!
魔力潮流動乱で、一時的にではあるが魔塊獣が一掃されてしまったため、所属魔法少女が多いY08ベースでは、狩る魔塊獣が不足している状況だ。
小田原のベースなら、狩る魔塊獣に困ることはなさそうだ。ベースが完成したら、活動拠点を移動しても良いかもしれない……。
「すいませーん! そろそろ出発しまーす!」
一応、この混成チームの指揮官である工兵課の魔法少女が大きく声を上げるが、このまま魔塊獣だらけの小田原エリアに突っ込むのは、さすがにマズい気がする。
リレッタとエリカさん、工兵課の魔法少女のリーダーに相談し、小田原に近づくにつれ魔塊獣襲撃が増えるという前提で、『血の宣誓』、『ブルーライン』、工兵課の魔法少女達とフォーメーションを決め直し、気合を入れて、小田原に向けて出発したのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
鏡界、小田原・OD04エリア、ベース建設予定地――。
案の定、小田原に近づくにつれ魔塊獣の襲撃頻度は増えていき、結局、小田原ベース建設予定地であるOD04エリアに着くまでに、合計28回、魔塊獣37匹の襲撃を受けることになった。
リレッタ曰く、『ちょっと面倒だったけど、楽に稼げたな!』とホクホク顔。
カーミラ先輩曰く、『上手く連携できるようになったわね。これなら『血の宣誓』のメンバーとして合格よ!』と、エステラを認め。
セラ先輩曰く、『エステラちゃんがいると、回復とか心配しないでいいから、凄っごく楽チンでいいですね!』と、エステラを大絶賛。
エステラ曰く、『わたくし、『女王の防壁』を展開していただけでございますけれど……皆さまのお役に立てましたかしら?』と困惑気味。
エステラの場合は初戦が魔法騎士の襲撃だったから、最初は戦闘にビビっていたものの、すぐにパーティー戦闘に順応していた――といっても、『女王の防壁』を展開して見ているうちに終わる、という展開だったけどね。
わたしはというと、数種類の魔塊獣に襲撃され、『フォーサイト』で弱点を看破してパーティーに貢献し、複数体の魔塊獣に襲撃された時には戦闘にも参加。合計8匹の魔塊獣を撃破して、ちゃんと活躍したよ?
ちなみに、37匹も討伐したけど『マナ結晶』は1つもドロップしなかった。ドロップ率低過ぎだよね、ドロップ率アップ週間とかないのかしら?
パーティー戦闘で余裕のある状態での戦闘なので、試しにルビーさんに貰った技研製のマガジンを使ってみた。
威力は体感だけどオリジナルの5分の1くらい。普通の魔塊獣を相手にするには全く問題ないレベル――なんだけど、事前にわたしの魔力を込めておかなくちゃならないし、何より、1発撃つごとにMGが消えていくんだよ!
ほら、マギリングで買ったオリジナルのマガジンは、時間が経てば勝手に弾が再装填されるでしょ? つまり、いくら撃っても実質ゼロMG!
それに比べて技研製のマガジンだと、撃ったら確実に1マガジンで2万MGが消えるんだ……。つまり、貧乏性のわたしとしては、翌日にはゼロMGで再装填してくれるオリジナルマガジンを使いたくなっちゃうのだ。
で、色々考えた挙句、普段使いは弾代無料のオリジナルを使って、MGがかかる技研製マガジンは予備に10個くらい買っておこうかなぁと、などと思っちゃうのであった――。
小田原ベース建設計画・後編 へ続く!
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