79話 真夜中の来訪者・後編
「あー、やっぱり、スパイでしたか……」
悪いツインテールってことは、やっぱりニナがスパイだったのだろう。
あの後どうなったのか凄く気になったので、聞いてみることにした。
「うん、スパイだった。しかし、リリナは、よく気が付いたね? こういうことには自信があったんだけど、ダメだね。完全に騙されてたわ……」
切れ者のステラさんが騙されていたんだから、ニナは相当上手く立ち回っていたのだろう。
ニナ、ツインテールで優しそうな顔してたけど、中身はクズい魔法少女だったのね。
「でも、あれから何時間も経ってないですよね? こんなに早く、よく調べがつきましたね?」
さっきのミーティングからほんの数時間しか経っていないのに、ニナがスパイだって確定したのは凄いんじゃないか?
「機密なんで詳しいことは言えないけど、ニナが定期的にエミリーと会っていた証拠が見つかったんだ」
鏡界じゃ精密電子機器は正常に動作しないから監視カメラとかではないだろう。
つまり、魔法少女の行動は何らかの魔法具で記録され、後から確認できるということだ。
気を付けなきゃ。
「長いことエミリーを探ってたんだけど、そりゃ、防諜課が何を調べているのか全部筒抜けなんだから、尻尾をつかめないよ」
ああ、ニナが防諜捜査の情報を全部エミリーに流してたのか。
「ニナはどうなるんですか?」
「どこのスパイか分かるまで、しばらくエミリーと一緒に泳がせておく。他の魚が釣れるかもしれないしね。リリナも一応、覚えておいてね」
一網打尽にする計画ね。
まあ、今まで放置してきたんだから、もう少し時間がかかっても問題はない……のかな?
「後ろにいる連中の目星はついてるから大丈夫。ニナへは欺瞞情報を流しておいたから、すぐ証拠を押さえられると思うよ」
なるほど。ニナがキーマンだったってことか。
じゃあ、わたし本当にお手柄じゃん!
「その後は、分解処分か『ホンモノ化』か……今回は外部勢力が関係しているから分解処分だろうね」
分解処分って本当にあるんだ……。
『ホンモノ化』ってのは、あの『ホンモノ』のことだよな?
刑罰に使われてるんだ……カーミラさんやセラさんのことを知ってると、何か複雑だな。
「ところで、リリナは、どうしてニナがスパイだと分かったの? あ、このハム美味しいよ、食べて、食べて! ああ、グラスが空いてるじゃない、ビールもどうぞ」
ステラさんが、わたしのグラスにビールを注ぎ、さらにお皿にハムを盛ってくれる。
外見は美人女子大生のステラさんに甲斐甲斐しく世話を焼かれると、何となくキャバクラで接待されているような気分になってくるが……相手はAAAランクの切れ者魔法少女、気は抜けない。
お偉いさんが時々やる、『ボクは誰にでもフレンドリーだよ』アピールかもしれんし……。
おっ、ハム美味しい!
「どうして分かったか、ですよね? まず、わたしがエミリーと接触した話は、それほど重要度が低いのかって疑問ですね――」
わたしは、わたしがエミリーと接触したことをニナが重要でないと判断したことの不自然さを説明する。
「へえ。でも、それだけじゃないんでしょ?」
「そうですね、後は、ニナの視線ですかね。ニナはずっと、わたしとステラさんを見てたんです。まるで、わたし達2人が監視対象だとでもいうようにね」
「なるほど……でも、スパイだと確信するには、ちょっと弱い気がするんだけど?」
どうしよう、カンだって言っちゃっていいのかな?
でも、それ以外に説明しようがないんだよな。まあ結果スパイだった訳だし、いいか。
「えーと、本当のことを言っちゃうと、カンですね」
証拠も何にもない、ただの違和感――つまり『カン』だ。
「なーんか、ニナの態度に違和感があったんですよ。もしニナが本当にスパイだとすると、千桜も危ないと思ったんで、何とかステラさんに調べてもらいたいなと思って、あんな風に言ったんです。わたしの意図に気づいて、すぐ対処していただけるとは思いませんでしたが……」
「カンね……」
ステラさんが真面目な表情で、ジーーっと見つめてくる。
「あ、いや、カンっていっても、結構よく当たるんですよ? ほ、ほら、カンが当たったから、スパイを見つけられたってことで、結果オーライ的な?」
『カンに頼って適当なこと言ったのか』とか文句言われても困るんだけど……。
カンと言われて納得できないのは分かるけどさ、当たってたんだからいいじゃない!
「リリナの固有魔法って補助魔法の『フォーサイト』だよね?」
おお、わたしの魔法調べてあるんだ!
まあスパイを頼む相手だし、それくらいは調べるか……。
「もしかしてその魔法って、勝手に発動したり、普段はほとんど魔力を消費しないのに、自分で発動しようとすると凄っごく魔力を消費したりしない?」
「します! します! その通りです!」
ステラさんが、うんうんと何度も肯き、瞳の星をキラキラと輝かせる。
「やっぱり! リリナを見た時、『ああ、この娘だ!』ってビビっときたんだ! リリナの『フォーサイト』って、多分、私の固有魔法の『アストラル・インサイト』と同系統の魔法だと思うわ!」
『アストラル・インサイト』……日本語だと星の洞察力とか、星の閃きって意味だよね。
「私の『アストラル・インサイト』も、相手の弱点が分かったり、最良の剣の軌道を教えてくれる魔法なんだ! 私の魔法具――」
興奮気味のステラさんが呪文を呟くと、輝く星の粒子が飛び散り、濃紺に金の装飾が施された柄と鞘のレイピアが現れる。
「星詠みのレイピアって言うんだけど、『アストラル・インサイト』と合わせて使うと凄っごく強いんだよ。遠距離からの魔法攻撃だって『斬れる』からね!」
「魔法攻撃が斬れるとか、カッコいいですね! ルビーさんのレーザーみたいなの見ましたけど、ああいうのも斬れるんですか!?」
心は少年のわたしが我慢できずに聞いちゃうと、ステラさんが困ったような顔を浮かべる。
「2発や3発は斬れると思うけど、さすがに、何発も撃たれたら魔力切れになるかなぁ……」
おお、さすがAAAランク魔法少女!
レイド級の魔塊獣軍団を1発で倒したアレを防げるんだ!
「とにかく、この『アストラル・インサイト』って、汎用性があってかなり使い勝手がいいんだよね。敵の居る方が何となく分かったり、何か嫌な感じがしたりとかね。リリナの『フォーサイト』もそうじゃない?」
「そうです、そうです! 索敵にも使えます!」
「やっぱり! 私、結構長いこと魔法少女やってるんだけど、『アストラル・インサイト』について思ってることがあるんだ。多分だけど、敵の弱点が分かるーとか、敵の居る方向が分かるーって、『凄くカンがよくなる魔法』じゃないかって思うのよ」
敵の弱点が見えるって、どういう原理なのか説明できないから、『カンが良い』と言われれば、確かにそうかもしれない……。
「なるほど。確かに、そう言えるかも?」
「変身体でも発動することがあるみたいだし、魔法少女の中でも、かなり特殊な魔法だと思う。特に意識した訳じゃないけど、何となく嫌な感じがして移動したら助かったってことが何度もあったしね」
現界でも発動するってこと?
それって結構凄くない!?
「まあ、リリナも何か気になる違和感があったら、理由は分からなくても『カン』に従って動いた方が良いよ。後で絶対『カンに従って良かった』って思うからさ」
なるほど、覚えておこう。
「実を言うと、私、この『アストラル・インサイト』っていうか、『カン』を評価されて内務部部長になったんだ。怪しい魔法少女とかが何となく分かって、それが全部当たってたんだよ。まあ、今回の件で、すっかり自信なくなっちゃったけどね……」
効果が実証された本物のカンの良い魔法少女が防諜担当なら、カンで対象を特定し、後は証拠集めなり何なり好き放題できるもんね。
それって、スパイ側が対応しようのない最強の防諜システムだったんだろうな。ニナの件があるまでは……。
「それほどニナを信用してたんですか?」
「ニナに会った時、ビビっときたんだよ……それで、良い娘だなーって思い込んでたの」
うーん、『ビビっとくる』ってのがよく分からん。『アストラル・インサイト』の効果だろうか?
違和感とかは感じるけど、ビビっときたことはないなぁ……。
「違和感を感じたことはあるんですが、『ビビっとくる』ってのはよく分からないですね」
「そ、そこらへんは上手く説明できないなぁ……。とにかく、このまま私だけだとちょっと不安なんだ。それで、1つ提案なんだけど……」
ステラさんが、真面目な顔をして、わたしに向き直る。
「内務部に入って、ニナの代わりに私の補佐官になってくれないかな? リリナのカンで千桜を助けて欲しい」
うーん、引き抜きか……。
どうしようかな、戦闘のない内勤への移動は願ったり叶ったりだけど……。
なーんか妙な違和感があるんだよね……。
ステラさんは良い人っぽいんだけど、何だろう、この違和感は?
「…………………………」
大体、違和感があるときは、考えると思い当たる節があるんだけど、色々考えたけど違和感の正体が分からない。
そこで、さっきステラさんの言った「違和感があったら、理由は分からなくても『カン』に従って動いた方が良い」という言葉を思い出し、『カン』に従うことにした。
「すいません、パーティーに所属したばかりなので、今、辞めるのは、受け入れてくれたみんなに申し訳なくて難しいです……少し考えさせてもらっていいでしょうか?」
「ふむ、断らないってことは、脈があると思っていいのかな?」
戦闘のない内勤の魅力には抗い難いので、保留……ということにしておきたい。
そのうち違和感が消えるかもしれないし。
「はい、少し時間をいただければ……」
「いいよ、分かった。ただ、『カン』は万能じゃないってことは忘れないようにした方がいいよ。実際、聖導連盟の奇襲は防げなかったしね。それに――」
ステラさんが、少し真剣は表情になる。
「千桜では日常的に戦争が起こるから覚えておいてほしい。強力な魔法や魔法具が飛び交う戦場では、『カン』程度ではどうにもならないことがある。それを忘れないで、戦場では注意深く行動するんだよ?」
「はあ。ルビーさんやステラさんみたいなAAAランク魔法少女なら、何とでもなりそうな気もしますけど……」
ルビーさんの圧倒的な強さからAAAランク魔法少女の戦闘力を考えると、戦場に出ても無敵なんじゃないかな……。
「あー、リリナは本格的な戦争に参加したことなかったっけ。戦場は、そんなに簡単なものじゃないのよ……」
軽い気持ちで言った言葉に、ステラさんが困ったような表情を浮かべる。
「戦場では、AAAランク魔法少女だって普通に死ぬよ。凄くあっけなくね。現に黒狼のAAAランク魔法少女の3ユニットは、Cランク以下の魔法少女達が倒したんだよ」
マジか!?
「何ていうか……戦場ってのは、死神が大きな鍋の中に魔法少女をポイポイって入れて、お玉でグルグルかき混ぜてるようなもんだ。偶々偶然、死神にすくい上げられた魔法少女が死ぬ。ただそれだけ。強いとか弱いとか、あんまり関係ないよ?」
運が悪いと死んでいくってことか……。
「リリナに覚えておいて欲しいのは、戦場に安全な場所なんてないってこと。遠くから狙撃してても、突然後方から奇襲されたり、味方の魔法に当たるなてことも珍しくない。戦場は常に死神の鍋の中だ」
何か実感がこもってて怖いな……。
自分の実力は、この前の『六本腕』との戦いで嫌ってほど思い知らされてる。
だからこそ安全な内勤に移動したいんだけど……どうも妙な違和感があるんだよな。
本当に何だろう、いつものとは違う感じなんだけど……。
「はい! 湿っぽい話しはお終い。ほらほら、こっちの唐揚げとポテトもどうぞ。ああ、グラスが空いてるじゃない……ほらほら、グーーっと飲んで、飲んで!」
ステラさんは1度パンと手を打つと、ニコニコしながら、わたしのお皿に甲斐甲斐しく唐揚げとポテトを盛り、ビールを注いでくれる……本来、新人のわたしがやるべきなんだろうけど、こんなのやったことないよ!
「すいません」
色々な意味での『すいません』である。
「ああ、そうだ! ニナの件で、遠距離攻撃タイプユニットの集団運用実験は中止するかもしれない。リリナが特殊作戦部で事故にでもあったら、大変だからね」
また、怖いことを……。
「これからは時々リリナの様子を見にくるから、よろしくね? ああ、今日は緊急だったから連絡できなかったけど、今後は事前に連絡するから心配しなくても大丈夫だよ?」
よほど『カン魔法(?)の使い手』を囲い込んでおきたいようだけど……そんなに凄いもんかなぁ?
ステラさんの言葉が正しいなら、かなり応用範囲が広くて使い勝手は良さそうだけど、『これだ』って感じじゃなくて、『何とな~く怪しい』だから、『カン』なのか『カン違い』なのか区別つかないよ?
まあ、安全な内勤希望だったので、この妙な違和感がなくなったら、安全な内務部へ行くのもやぶさかではないな!
「はい。今後ともよろしくお願いします」
と、そんなこんなで、AAAランク魔法少女で内務部部長のステラさんとのコネクションができ、わたしの『フォーサイト』の謎が一つ解けたのであった!
・ステラ :濃紺のサイドポニーに金の星瞳の魔法少女、内務部長
※創設メンバー
・ニナ :銀髪ツインテールに紅眼の魔法少女、ステラに引き抜かれた




