77話 魔法少女ステラとニナ
龍鳳学園のわたしの私室。夕日に染まるリビングには2人の見知らぬ魔法少女。
一瞬、暗殺か!? と焦ったが、暗殺ならもう死んでいるはずだと思い直し、素早く相手を観察する。
豪奢なソファーに悠々と座っているのは、サイドポニーの濃紺の髪に金色の星を宿す瞳、可愛らしい顔立ちを持ち、金の装飾が施された濃紺の軍服風ショートジャケットとプリーツミニスカートを身に着けた魔法少女だ。
その後ろに影のように控えるのは、銀髪ツインテール(!)に紅い瞳、少し垂れ目の優しそうな顔つきの魔法少女。黒のタンクトップとスパッツのインナーに、白と銀のロングベストを羽織っている。
わたしと同じツインテールの魔法少女は初めて見た! ウルトラレアである!
2人とも現界で魔法少女の姿を保っているということは、Aランク以上の魔法少女か、ベースから許可を得ているかのどちらかだということだ。
ソファーに座るサイドポニーの娘からは、いつぞやのエミリーやルビーさんから感じたのと同レベルの強烈なプレッシャーが放たれているので、Aランク以上ということで確定だろう。
プレッシャーから、AAAランク魔法少女の1人だろうと目星をつけ、必死で勲章授与式の時に見たAAAランク魔法少女の顔を思い出そうとするが……いや、ムリ。顔を覚えるどころじゃなかったし!
後ろに立つ銀髪ツインテの娘からも相応のプレッシャーを感じるが、サイドポニーの娘とは比べ物にならないレベルなので、秘書とか、お供といったところだろう。
暗殺ではなさそうだが、友好的な訪問だという証拠もない。
頭の中で対応を考えていると、ソファーから立ち上がったサイドポニーの娘が、銀髪ツインテを引き連れ、わたしの前へ歩いてくる。
背丈はわたしより頭1つ大きい。就活中の女子大生といった雰囲気だが、顔つきが可愛いので着替えればJKで通りそう。強烈なプレッシャーがなければだけど。
「千桜運営の内務部部長のステラと申します。リリナさんのお留守中にお邪魔してしまい、申し訳ありませんでした」
丁寧な自己紹介の後、ステラさんは頭を下げる。
社会人的に満点である。
「っ……!」
名前を聞いて、ようやく思い出した!
ステラって、確かエミリーの政敵っぽい感じの人だ。エミリーがOJTの被害の責任を押しつけようとした相手。
ってことは、派閥争い的な話じゃないのか?
エミリーは陰険であまり好きになれないタイプだったけど、ステラさんの方はどうだろう?
少しはマシだといいんだけど……。
「わたしはステラ様の補佐官のニナと申します。お見知りおきを。こちら、心ばかりの品ですが、お受け取りください」
後ろに控えていた銀髪ツインテールことニナさんが手渡してきたのは、『ししやの羊羹』。
ここの羊羹って上品な味で美味しいんだよね! 甘ったるいだけじゃなくて旨味のある甘さがクセになるの!
「これは、これは、ご丁寧にありがとうございます!」
こうなったら、ステラさんの方を応援しちゃうか!
エミリーにはおごってもらったけど、どうせ経費枠でタダだったものだし、『ししやの羊羹』の勝ち!
「ご存じだとは思いますが、Y08ベース、『血の宣誓』所属の魔法少女リリナです。立ち話もなんですので、どうぞお掛けになってください」
「ありがとうございます。お手数をおかけして申し訳ないのですが、機密保持のため鏡界でお話しさせてください。変身解除していただけますか?」
「えっと、わたしはFランクなので、ベースの許可がないと……」
「AAAランク魔法少女の許可があれば大丈夫ですよ。ニナはBランクです。試してみてください」
そういえば、何か例外規定みたいなのを教わったような気がするが……すっかり忘れてるわ!
とりあえず試してみるか。
「はい。変身解除!」
呪文を唱えると、一瞬淡い光に包まれ、いつもの軍服風の魔法少女衣装に戻る。
「あら……うふふっ。ではリリナさん、一緒に潜界をお願いします」
脱いでいたブーツを持った2人に促され、呪文を唱えると、3人は球形の虹色の光に包まれていく――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
龍鳳学園のわたしの私室。夕日に染まるリビングに豪奢なソファー……さっきと全く同じ景色なのだが、ここは鏡界だ。
いやあ、初めて鏡界の自分の部屋に来たわ!
「リリナさん、どうぞ、お掛けになってください」
ステラさんがニコニコしながら、わたしにソファーを勧めてくる。
わたしの部屋なんだけど……あ、いや違うか? 鏡界の所有権とかどうなるんだろう?
「機密保持のため、お手数をおかけしました。すいませんが、しばらくお付き合いください」
わたしとステラさんが向かい合わせにソファーへ座り、ステラさんの後ろには影のようにニナさんが控える。
「ところで、リリナさんとは勲章授与式でお会いしたのですが、覚えていらっしゃいますか?」
正直、まったく覚えていない。
だが、ステラさんの方はわたしのことを覚えているらしく、ジーーっと見つめてくる。
「恥ずかしながら、あの時はかなり緊張しておりまして……申し訳ございません、覚えておりません。ステラさんのお名前は、かねがね伺っております」
なんかステラさんが、やたらとジーーっと見つめてくる。
覚えてなかったの、そんなにダメだった!?
いや、あの状況じゃムリだって!
いやさぁ、わたしだってお偉いさんの顔くらい覚えとこうと思ったよ?
でも、12人からの強烈なプレッシャーのせいで、見知った顔の確認くらいしかできなかったんだよ!
勲章授与してくれたルナさんの顔は覚えてるけど、それくらい……ごめんなさい!
「ええと、それで、今日はどういったご用件で?」
「実は内密にご相談したいことがありまして、ご迷惑だとは思いましたが、帰界でリリナさんのお部屋にお邪魔させていただきました」
まあ、それしか龍鳳学園の私室に入る方法ないわな。
わざわざ鏡界まで連れてきたってことは、派閥争い系の陰謀の相談……とかかなぁ?
「リリナさんは、以前、特殊作戦部長のエミリーの訪問を受けたと伺ったのですが、それは本当でしょうか?」
やっぱりソッチ系ね。
どうしよう、『ししやの羊羹』でポイントは上がってるんだけど、今の話から判断すると、情報が遅すぎる。
エミリーと会った時のわたしは、『魔法騎士3ユニットを撃破した新造ツインテール』として千桜内では結構有名だった。エミリーとの接触した話は、それなりに噂になったはず。
内務部部長なのに、政敵のエミリーの情報がここまで遅いというのは、ステラ派の情報収集能力は難ありと判断せざるを得ない。
「ええ、もうかなり前ですね。訪問といいますか、新宿ベースの甘味処で偶然お会いしまして、聖導連盟の奇襲攻撃の被害の拡大について謝罪していただきました」
『情報収集が遅いんじゃないの?』という指摘と、『お前に責任を押し付けようとしてたぞ』という内容を婉曲的に言ったんだが、通じたかな?
「そうでしたか……実はご相談というのは、エミリーのことでして……」
まあ、そうだろうな。
でも、ステラさんの派閥、情報収集能力に難があるみたいだし、エミリー派に負けそうな気がするんだよね……。
『ししやの羊羹』の分くらいは味方してあげたいけど、負け組に賭けるのはなぁ。
ここは、のらりくらりと中立を維持するか。
「はあ、わたしがエミリーさんにお会いしたのは、その時の1度きりですので、詳しいことは存じ上げませんが……」
「後ほど機密保持契約にサインしていただきますが、エミリーにはスパイ容疑がありまして、リリナさんには防諜課の防諜捜査にご協力いただきたいのです」
うへぇ!?
派閥争いとかのレベルじゃなかった!
しかし、エミリーが外部勢力のスパイだとすると、ステラさんの情報収集能力の低さは、千桜にとってかなりマズい状況なのでは?
エミリーの目的が千桜内部の混乱なら、間接的にわたしにも影響があるだろう。
あんまり関わりたくはないが、一言言わざるをえまい。
「捜査への協力は、やぶさかではありませんが……失礼ですが、エミリーにスパイ容疑がかけられたのは、最近なのです?」
「以前から水面下では動いておりましたが、本格的な調査を始めたのは、聖導連盟の奇襲攻撃を受けた後です。防諜課では、新造ユニットのOJT実施場所の情報が聖導連盟に漏洩し、それを行ったのがエミリーであると分析しています」
なんだ、エミリーがステラさんに奇襲被害の責任を押し付けようとしてたのは、派閥争いじゃなくてスパイ行為の偽装工作かよ。
なんか怪しいヤツだと思ってたんだよね。
でも、そこまで分かってるなら、防諜課の動きとしては遅すぎないか?
「ということは、スパイ容疑のあるエミリーとわたしが接触したことを、ステラさんは今日まで確認していなかった……ということでしょうか?」
いや、これ防諜からしたら大問題じゃないの?
「それについては、私の方から」
ニナさんが、説明を始める。
「リリナさんとエミリーが接触した事実は把握しておりましたが、重要度が低いと判断しておりました。全ての情報をステラ様にあげるわけにもいきませんので、重要度が低いと判断した情報は下の部署で処理しております」
全ての情報をトップが知る必要はないし、実際にそんなことは不可能だ。
だけど、それほど重要度が低い問題だろうか?
わたしが騒げば、ステラさんにとってあまりよろしくない事態になっていた可能性もあったんじゃないか?
何か違和感があるなぁ……あ、いや、自意識過剰だな。新造ユニットだし、わたしが多少騒いでも影響はないと判断されたのか。
「それで、なにをどう協力すればいいのでしょう?」
「魔力潮流動乱で活躍した遠距離攻撃タイプユニットの集団運用実験を、特殊作戦部で行うことになります。その時にリリナさんが選ばれるので、特殊作戦部内の情報収集をお願いしたいのです」
えーっ、またあのラティーナ達と一緒になるの!?
凄く嫌なんですけど!
「危険なことをお願いするつもりはありません。何回か特殊作戦部での実験的な戦闘に参加するだけです。その過程で分かった、特殊作戦部の部隊の雰囲気や噂などを報告していただきたいのです」
別に部隊の雰囲気や噂なんか全然いいんだけど……ラティーナ達と一緒ってのが問題だな。うむぅ……。
「あ、遠距離攻撃タイプユニットでチーム組むとしたら、特殊作戦部の部隊の雰囲気や噂とか、あまり分からないと思うんですけど、そんなので役に立ちますか?」
この前のCチームみたいな扱いだと、他のメンバーとは休憩の時くらいしか話をしない。
そんなんで役に立つのかしら?
「はい、内務部が一番恐れているのが部隊の離反です。それには必ず部隊内に不審な言動などの兆候が表れます。些細なことでもかまいません。リリナさんが普通でないと感じるようなことがあれば、それを報告していただきたいのです。もちろん相応の報酬はお支払いいたします」
まあ、素人をスパイとして使えるわけもなく、些細な補足用の情報を得るための一般協力者……のような扱いなのだろう。もしかしたら囮かもしれない。
ラティーナと一緒に行動するのは避けたいところだが、強制任務として発行されたら断りようがない。報酬が貰えるなら、協力した方が得だろう。
「分かりました。本当に、それだけいいのであれば――」
その時、ふとニナさんに違和感を感じる。
何だろう?
「――わたしとしては問題ありません。詳しい報酬体系と、業務内容の説明をお願いできますでしょうか?」
何だ? 何でこんなに違和感がある?
「そうですね、まず業務内容ですが――」
何か……ん!? そうだ、分かった! 視線だ!
ニナさんの視線がヘンなのだ!
普通なら、わたしを見ているはずなのに、ニナさんはステラさんとわたしを見ているのだ。
そう、まるでわたし達2人が監視対象だとでもいうように。
スパイは本当にエミリーだけなのか?
こちらがスパイを送り込むのであれば、当然向こうもスパイを送り込んでいるのでは?
ステラさんは『以前から水面下では動いていた』と言っていたが、なぜこれほど時間が経っているのに捕まえられない?
なぜニナさんは、エミリーがわたしと接触したことを重要でないと判断した?
エミリーの不利になる可能性のある情報を握りつぶしたのでは?
証拠なんか何にもない。
ただのカンなんだけど、魔法少女になってから、このカンがよく当たるんだよね……。
エミリーの時と同じ臭いがする。絶対ニナさん怪しいわ。
「それで報酬は、回数ではなく継続的にお支払いするように――」
ステラさんは、何も気づいてないんだろうなぁ……。
教えたいんだけど、ただのカンだから説明しようにもできない。
それに、わたしが疑っていることをニナに悟られるのもマズそうだ。
外部の組織とつながっているなら、本当に現界で暗殺されかねない。
「――といったところが、防諜課からご提案できる条件です。いかがでしょう?」
特殊作戦部の運用実験に派遣されたらヤバいか?
いや、ステラさんの話だと大した任務じゃない。わたしが疑っていることがニナにバレなければ、わざわざ事件を起こして疑われるようなことはしないだろう。
だが、このままニナを放置しておけば、千桜自体が危うくなる可能性がある。
愛社(?)精神なんぞ欠片もないが、元黒狼のグラウの話を聞くと、千桜がなくなると不利益を被るのは確実だ。
わたしが疑っていることをニナに悟らせずに、ステラさんに伝える――これしかないだろう。
「分かりました、お引き受けします。これからよろしくお願いします!」
わたしがそう言うと、ステラさんが嬉しそうにニコニコ微笑む。
「お引き受けいただき、ありがとうございます、リリナさん! 内務部のトップとして現場の生の情報が聞きたいので、今後は私に直接報告してくださいね!」
ステラさんは何だか凄っごく嬉しそうで、ニッコニコである。
防諜とかに関わっちゃいけないタイプのお人好し見えるけど、大丈夫なのかしら?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
機密保持契約書にサイン(もちろん入念にチェック済み)して、終始和やかな雰囲気の中で契約は終了。
実際の活動は、運用実験が始まってからになるらしいけど、ステラさんは、ちょくちょくわたしの所に来るみたいなことを言っている。
ちょっと、いや、かなーり心配になる人である。大丈夫かな?
窓から飛んで帰るのかと思ったら、ちゃんと玄関から出ていくようだ。
ステラさんがロングブーツを履き、次にニナさんがブーツを履く。
その時を待っていたわたしは、躓いたフリをしてステラさんに抱きつくように倒れ込む。
「おっと!」
予想通り、ステラさんが抱きかかえてくれた。その瞬間――ステラさんの耳元で呟く。
『気づいてます?』
わたしの言葉は聞こえたはずなのに、ステラさんは顔色一つ変えずに、わたしを立たせてくれる。
少なくともこんな伝え方をした時点で、ニアには知られたくないと分かる……分かるよな?
もしかして、ステラさん、わたしの呟きに気づいていない?
「ふふっ、リリナさんは、おっちょこちょいですね。気をつけてください?」
ステラさんはニコニコ微笑みながら、わたしを立たせてくれる。
「リリナさん、大丈夫ですか?」
心配そうな表情を浮かべているニナは、幸いわたしの呟きに気づいた様子はない……ステラさんもだけど。
「大丈夫です、本当にごめんなさい! 次は気をつけます……」
ステラさんには気づいてもらえなかったようだが、ニナの前で不審な行動はとれない。
しょうがないので、次のチャンスを待つことにする。
うーん、ステラさんみたいな、お人好しが防諜のトップで千桜大丈夫かしら?
次のチャンスまで、千桜が無事であることを祈っておこう――。
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鏡界の玄関で2人の後ろ姿を見送ってから、帰界で現界に戻り、変身体へ変身する――。
遅めの夕食を終えてシャワーを浴びると、もうグッタリである。
「はぁぁぁ、色々面倒くさいなぁ……」
何か、メチャクチャ疲れたぞ……。
ミアや『特殊クラス』との楽しいカラオケ大会の思い出が消しとんでしまった……とか言いつつ、凛くんから来ていたメッセージに返信を送る。
うん、凛くんて、カッコ良すぎる外見以外は、普通の中学生男子で話しやすいんだよねー!
本来は『血の宣誓』の活動日なのだが、昨日、秘密基地パーティーをやったので今日はお休みである。なので、もう寝ちゃうのである!
「おやすみー!」
まさか真夜中に侵入者に叩き起こされるなどとは夢にも思わず、ベッドに入ったわたしは、すぐにグースカ眠り落ちていったのであった――。
・ステラ :濃紺のサイドポニーに金の星瞳の魔法少女、内務部長
※創設メンバー
・ニナ :銀髪ツインテールに紅眼の魔法少女
ステラに特殊作戦部から引き抜かれた
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