76話 特殊クラスの3人組・後編
複合アミューズメント校舎内、カラオケルーム内――。
「♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪♪♪♪~♪ ♪」
カラオケルーム付属のミラーボールの光を浴びながら、ミアが軽快なリズムに乗って持ち歌を熱唱する。
「きゃーーーっ! ミアちゃん最高ーーっ!」
「はぁぁぁぁ……生ミアさんの生歌を生で拝見できるとか、信じられない! 感動です!」
ミアの圧巻の歌声に、深雪さんも輝夜さんも大喜びである。
「じゃあ次は、3人で歌ってみる?」
「はい、はーい! 歌う、歌う! ミアちゃんと一緒に歌いまーす!」
「わたしも! ぜひ一緒に歌わせてください!」
ミアほどではないが、深雪さんも輝夜さんも、かなり上手い。
少なくとも、わたしよりは全然上手い……。
いや、こんな歌下手なわたしが、Vチューバーとして歌うって許されるのだろうか……と悩むが、よく考えると、別に芸能人として成功することが目標ではないのを思い出す。
そうそう、今回はデビューすること自体が目標なのだ! 結果なぞ知ったことではないのである!
戦略目標を間違えると、ろくでもない泥沼戦に引きずり込まれることもある……常に最終的な戦略目標を意識し、間違えないようにしなくては!
などと、心の中で必死に歌下手の言い訳をしながら3人の歌を聞いていると――凛くんがジーっとわたしを見つめてくる。
「? どうしたんですか?」
「キミって、ま……澪ちゃんで、いいんだよね?」
? ちゃんと自己紹介しただろ。
「いや、澪ちゃんって不思議なんだ。最初は、目を離したら忘れてしまいそうなくらい影が薄かったのに、こうやってちゃんと見ると、すっごく可愛く見える。何か特別なことをしてるのかなって……」
メタルチョーカーの認識阻害機能に気づかれた!?
深雪さんには最初から『美少女』だと見抜かれていたみたいだし、気づく人は居るんだけど、それを『不思議』だと見抜いた人は初めてだ。
どうしよう……とりあえず誤魔化しておくか。
「もう、『すっごく可愛い』だなんて、もしかして凛くん、わたしを口説いてたりします? 深雪さんと輝夜さん……それに他の娘たちに怒られちゃいますよ?」
どうだ?
凛くんがラティーナのような『本物の誑し』でないならば、この攻撃は効くんじゃないか?
ちなみに、『本物の誑し』だったらぶっ飛ばす!
「他の娘たちって……な、なんで、それを!?」
ミアの読みはバッチリであった!
やはり、和洋美少女コンビの深雪さんと輝夜さんの他にも、黒髪ロングのクールビューティー、運動部の褐色の元気っ娘、守ってあげたい系の従順無口っ娘がハーレム要員として控えているのだ!
うらやまけしからん!
「フフフ。わたしを甘く見てはいけません。凛さんの女癖の悪さなんか、とっくにお見通しなのですよ?」
「女癖が悪いって言われるのはちょっとなぁ……どっちかっていうと女運が悪いって方が近いと思うんだけど……」
自嘲気味に乾いた笑顔を浮かべる凛くんを見て、少し考えを改める。
確かに沢山の美少女に言い寄られれば、それで幸せなのかと言われると、性格のアレなのもいるだろうし、トラブルメーカーもいるだろうしと、手放しで喜べないのは分かる気もする……。
というか、何人もの美少女が自分を狙って暗闘を繰り返してるとか、居たたまれない状況だろう。久遠くんを思い出して、少し凛くんが気の毒になってくる。
モテる男にはモテる男の辛さがあるのかもしれない。わたしにはサッパリ理解できないが。
確かに、わたしが凛くんの立場で、深雪さんと輝夜さんのどちらか選べって言われたら困る。
「まあ、少し気持ちも分かるけど、モテる男の宿命だと思って頑張るしかないね。ああ、全員を幸せにするって手もあるよ? 大変っぽいけど、(ラティーナもやってたし)大丈夫。頑張れ!」
「何か澪ちゃん、テキトーなこと言ってない?」
「いやいや、(ラティーナみたいに)実践してる人(?)もいるみたいだし、凛くんの(テクを駆使しての)頑張り次第だと思うよ? わたしはミアお姉ちゃんに手を出さない限り、無限に応援してるから、(テクを鍛えるのを)頑張りたまえ!」
まあ、ハーレムルートもありなんじゃない? 知らんけど……。
「なーんか、澪ちゃんと話すの気楽でいいんだけど、年の離れたオッサンと話してるみたいな気分になってくるよ」
あー、スマン、素で話してたわ。
「まあまあ、凛くんの置かれてる状況って、他の男子から見ればうらやまけしからん状況な訳で、あんまり悩まずに、ハーレムルートを楽しむってのもいいんじゃない?」
凛くんが誰か1人に決めると、刃傷沙汰が起きそうな気がするので、テキトーにハーレムルートをお勧めしておく。
「いやいやいやいや、ゲームじゃないだから、ハーレムルートって絶対問題あるでしょ!?」
なに、全員を(テクを駆使して)満足させれば問題ないよ(多分)。
と、ラティーナを思い出すが、さすがにDC(男子中学生)に言うことではないので自重。
別のアプローチにする。
「じゃあ聞くけどさ、誰か1人を彼女にしたら、選ばれなかった他の娘達が可哀そうだとは思わないの? ちょっとずつ幸せを分かち合えば、全員幸せになれる……かもしれない」
「澪ちゃん、それ、クズの理論だよね?」
ぐはぁ!
悪い魔法少女に感化されて、わたしの思考がクズになっていた!?
反省しなければ……。
「た、確かに、凛くんの言う通りだわ。反省する……」
「でも、澪ちゃんの言う通り、俺が選ばなかった娘のことを思うと、誰か1人を選ぶことができないんだ……」
凛くんは良い子っぽいので、人生の先達として何かアドバイスをしてあげたいのだが……あいにくモテモテになった経験はないので、何も浮かばない。情けない大人である。
「優柔不断って言われてもしかたがないと思うけど、俺、みんなのこと好きなんだ……」
モテ男の贅沢な悩みではあるが、悩みは悩みである。
実際に成功(?)してる例を知ってるだけあって、凛くんの成功のために、ここは開き直って、自らのクズさを受け入れてクズい助言をしてあげよう!
「凛くん、そりゃ何人もの女の子に手を出せば、世間からクズと罵られることは間違いないよ。でも、それで女の子たちが幸せになれるならいいんじゃないかな? 時には女の子たちを幸せにするために、自分がクズになる勇気が必要なんじゃないか?」
「クズになる勇気!」
凛くんが目を見開いて、わたしを見つめている。
どうやら、心に響くアドバイスができたようだ! クズだけども!
おっと、ここで忘れてはいけないことが1つ――。
「1つ注意点がある。これは絶対に守らないとダメ! 最初から全員に納得させること! 隠れて4股をかけたりすると、絶対ひどい目にあう。だから、必ず最初に全員に納得してもらうんだよ?」
これぞ、ラティーナ理論である!
「クズになる勇気、最初から全員に納得……なるほど! 澪ちゃんて、メッチャ、クズだね!」
うぐはらばぁ!!
ズバリ言われてしまった!
そうじゃないかとは思ってたんだけど、やっぱりそうだよね!
ラティーナ理論は現界では受け入れられなかったよ! 当たり前だよね!
「ゴメン、凛くん。さっきのことは全部忘れて……ラティーナに憑りつかれていたみたい」
「アハハハ、でも、澪ちゃんと話してたら、悩んでたのがバカらしくなってきたわ。最悪、澪ちゃんご推薦のクズハーレムルートも考えてみるかな?」
大笑いする凛くんに、頭をポンポンされる。
「あうう、いや、忘れて。ちょっと、いや、かなーり恥ずかしいので……」
「アハハ、いやいや、澪ちゃんのお勧めだからね。ちゃーんと参考に覚えておくよ! あっ、そうだ、よかったらID交換しない? 俺、この手の事を相談できる女の子って居なくてさ、よかったらまた相談に乗ってくれよ」
「IDはいいけど、自分で言うのも何だけど、相談相手としては、あまり期待しない方がいいよ? なにせ、クズなもんで……」
中身はアレな上にクズだし……あまり期待されても困る。
「ああ、相談っていっても軽い雑談だから大丈夫、大丈夫! 澪ちゃんの意見を真面目に参考にすると、俺までクズになっちゃいそうだからな!」
「ゴラァ! わーすーれーろー!!」
やっぱり男子相手は話しやすい。ノリがね。
「ほら、次は澪の番よ! 遊んでないで、ちゃんと歌いなさい!」
「はーい!」
と、そんなこんなで、『特別クラス』と『特殊クラス』の混成チームは、各人それぞれにカラオケを満喫したのだが……。
帰り道、わたしは、凛くんとイチャついていたとミアにほっぺをびよーんってされ、凛くんは2人から、あんなちっちゃい子にまで手をだしてと説教されたとか。
ちなみに、凛くんとは友人になりました! もちろん、深雪さんと輝夜さんともね――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
凛くん達3人組と別れ、ミアと一緒に『特別クラス』に戻ってきた――。
散々地下鉄の中でほっぺをびよーんとやられながら尋問を受けたのに、ミアはずーーっとループして同じ文句を言いつづけているのだ。
「あれだけ言ったの、優柔不断男に頭ポンポンされてニコニコしちゃって! どうして澪はあたしの言うことが聞けないのかしら?」
ミア、深雪さんと輝夜さんと熱唱してたはずなのに、よく周りを見てるんだよね。
別にニコニコはしてないけどさ。
「だから、ミアお姉ちゃんが、取り入ってファンにしろっていうから、頑張ってたんだって?」
「………………」
ミアは不機嫌そうな顔で、ギュっと手を握っている。
「え、ええと、ミアお姉ちゃんも、頭ポンポンする?」
「する!」
何となく嫌な雰囲気を流そうと思った言葉に、ミアが食いつく!?
脚を止めると、頭をポンポンしてくる!?
「はぁ、あんな優柔不断男に澪の初めての頭ポンポンを取られたと思うと、腹立たしいわ! どお、あたしの頭ポンポンは、あんな優柔不断男より、ずっと上手でしょ?」
頭ポンポンに上手も下手もないと思うし、凛くんが初めての頭ポンポンでもなんだが、ミアの機嫌を取っておくことにする。
「う、うん、ミアお姉ちゃんのほうが、断然上手だよ! ミアお姉ちゃんに頭ポンポンされると、なんか気持ちいいよ?」
「そうでしょ! 澪の頭ポンポンは、あたしだけの権利なのよ! 2度とあの優柔不断男に頭ポンポンさせたらダメよ?」
うーん、ミアには膝枕してもらった時に、頭ナデナデしてもらったことがあるのだが、頭ポンポンと何か違うのだろうか?
頭ナデナデの方が上のような気がするが……大人のわたしは、そんな些細なことは指摘しないのである!
「分かったよ、ミアお姉ちゃん! 次からは凛くんに頭ポンポンされないように気をつけるね!」
「絶対よ! きっとあの優柔不断男、美少女達の頭をポンポンして、自分に惚れさせてるのよ! 間違いないわ!」
「えっ、頭ポンポンすると惚れちゃうの!?」
黙ってるつもりだったのだが、思わずツッコミを入れてしまう。
「澪の好きな漫画でよくあるやつじゃない! あの優柔不断男、きっとそれを実践してるんだわ!」
そういえば、少女漫画とかであったような気もするなぁ……よく覚えてないが。
しかし、そんなのマネしてるなら、かなーり痛い人だと思うんだけど。
凛くんは、何か何も考えずに手が乗せやすいからポンポンしたって感じだったけどなぁ。
「分かった! 注意するよ!」
異論はあるものの、ここで凛くんを擁護するとミアの機嫌が悪くなることは確実なので、大人なわたしは黙って従うのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ミアと別れ、ようやく自分の部屋へと戻ってくる。
ハーレムクソ野郎だと思ったら、意外に凛くんは良いヤツだったし、深雪さんも輝夜さんも、ちょっと騒がしいけど楽しい子達だった……などと思いながらリビングへ入ると――。
「……………………」
「申し訳ございません、勝手にお邪魔させていただいております」
夕暮れ時、窓から入る夕日が茜色に照らすリビングで、2人の見知らぬ魔法少女が澪……リリナを待ち構えていた――。
・神代 凛
男子が憧れる精悍なハンサム。
中学2年生で深雪と輝夜の友人。
千年以上続く名家、神代家のご令息。
・久我 深雪
黒髪セミロングの芸能人レベルの和風美少女。
中学2年生で輝夜と凛の友人。
千年以上続く名家、久我家のご令嬢。
・春園 輝夜
金髪ポニーテールに碧眼の芸能人レベルの洋風美少女。
中学2年生で深雪と凛の友人。
千年以上続く名家、春園家のご令嬢。
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