75話 特殊クラスの3人組・中編
人通りのなくなった複合アミューズメント校舎の通路――。
「えっ!? 星名ミアちゃん!? うん、間違いない、星名ミアちゃんだ! ウソっ、隣のちっちゃい娘って、もしかしてミアちゃんの妹!? 凄い! ソックリ!」
こちらをジッと見つめている3人組の横を静かに通り抜けようとした時、突然、セミロングの和風美少女が嬉しそうに声を上げた。
お前、空気読めないってよく言われるだろ! とツッコミたくなるところを堪え、『コッチ見んな!』と念を入れながら、ニッコリ笑顔を浮かべる。
「か、可愛い~~っっ!! ミアちゃんの妹ちゃん、凄っごく可愛いんだけど!」
セミロングの和風美少女がピョンピョンジャンプして大興奮である。
「ちょっとアンタ! こんな所で……」
ミアが注意しようとすると、和風美少女がシュタっと近づいてきて、ミアの手を両手で握り締める。
「星名ミアちゃんですよね! 大ファンです! ゴールデンウィークの名古屋コンサート行きました! 凄っごく、凄っごく、凄っごく良かったです!」
一応向こうが先輩なのだが、ファンだから敬語である。
「そ、そう? ありがとう……」
瞳をキラキラさせて鼻息を荒くしながら捲くし立てる和風美少女に、ミアは少し引き気味の引きつった笑顔を浮かべながら答える。
ミアはファン対応をおろそかにすることはないのだ。
女の子ファンだしね。
「そちらはミアちゃんの妹ちゃんですか? ミアちゃんにソックリで凄っごく可愛いです! 妹ちゃんも、デビューするんですか?」
「あたしにソックリで可愛い……」
「はい! 2人共、お揃いのツインテールが凄っごく可愛いです!」
「そ、そう? この子は、あたしの妹分の澪よ! もうすぐあたしとのコラボでデビューする予定だから、よろしくね!」
和風美少女の言葉に、チョロイン属性のミアは完全にチョロられてしまったようだ。
嬉しそうにわたしを紹介する。
これって、挨拶しなきゃいけないの??
「こんにちは。ミアお姉ちゃんの妹分の白銀澪と申します。芸名は四樹莉里ですので、コラボデビューしたらソッチの名前になると思います。ミアお姉ちゃん共々、よろしくお願いします」
姉であるミアに恥をかかせるわけにもいかないので、一応挨拶しておく。
『特殊クラス』の生徒と絡んで大丈夫かなぁ……。
「深雪、ミアさん達はプライベートでしょ、迷惑になるわ。それに、『特別クラス』の生徒とは……」
常識的な言葉で、和風美少女の深雪(?)さんをたしなめてくれたのは、金髪ポニテの美少女。
外人とは思えない流暢な日本語なので、ハーフかもしれない。
「あっ! ごめんなさい! 私ったら、本物の星名ミアちゃんに会えて、舞い上がっちゃっいました……」
深雪さんがショボーンとした表情になり、深々と頭を下げて謝罪してくれる。
「ふふっ、別にこれくらいかまわないわ」
チョロられてしまっているミアは、上機嫌で笑顔を浮かべる。
「あの、厚かましいとは思うのですが、サインとかは……」
「深雪、迷惑でしょ!」
「いいわよ、それくらい」
おずおずとミアにサインを頼もうとした深雪さんを、常識的な金髪ポニテ美少女が止めようとするが、チョロられているミアはアッサリ引き受ける。
「輝夜、ミアさんがいいって言ってるんなら、いいんじゃないか? それに、『特別クラス』の生徒とは揉めるなと言われてるけど、普通に話すくらいいいだろ」
「そうでしょ、凛! ずーっと大ファンだった星名ミアちゃんに会えたのよ! ちょっとお話しするくらい、いいよね?」
後ろで様子を見ていたハンサム男子こと凛くんが擁護すると、深雪さんはパッと輝くような笑顔を浮かべる。
「もう! 凛はいつも深雪に甘いんじゃない?」
常識的にたしなめていた金髪ポニテ、輝夜さんが、深雪さんの肩を持った凛くんに噛みついた。
「凛が甘やかすから、深雪がこんな常識のない娘になっちゃったのよ?」
「そ、そうかな? 深雪からは『いつも輝夜に甘い』って言われてるんだけど……」
「そうよ、そうよ! 凛は、いっつも輝夜に甘いんだから、たまには私に甘~くしてくれったっていいでしょ? この前だって凛と2人でお出かけしようとしてたじゃない!」
「なに言ってるのよ! 深雪だって、この前、わたしにウソついて、凛と2人で出かけようとしてたくせに!」
むぅ……何この茶番。
何でこんな所で、和洋美少女2人にモテモテのハンサム凛くんの青春ラブコメ劇場を見なくちゃいけないの!?
何か腹が立ってくるんですけど!
確かに凛くんは、カッコいいけどさ!
ハッ!?
まさか、わたしのミアお姉ちゃんは、凛くんに一目惚れとかしてないよね!?
大丈夫だよね!?
などと心配しながらミアの方を見ると、ミアが真面目な顔でわたしを見ている……。
「澪、ああいう優柔不断な男は絶対ダメよ! あんな美少女2人に言い寄られてるのに、どっちにも決められないような男は、結局、誰も幸せにできないわ。 自分自身を含めてね!」
おおー!
ミアが、今、良いことを言った!
「さっきからあの優柔不断男を見つめてるけど、あたしが許さないわ! 漫画の主人公みたいでちょっとカッコ良いけど、見た目で選んじゃダメ! それに……多分、あの2人だけじゃないわよ。他にも絶対、あの優柔不断男を狙ってる娘がいっぱいいるわ!」
何だってぇーーーっ!?
和洋美少女2人の他にも、まだハーレム要員がいるだとぉ!?
つまり、あの2人の他に、黒髪ロングのクールビューティー、運動部の褐色の元気っ娘、守ってあげたい系の従順無口っ娘がハーレム要員として控えている……とでもいうのか!?
なんと、うらやまけしからん!
「澪は男を見る目がないんだから、あたしの言う通りにしなさい?」
「はーい!」
別に凛くんを見つめてたわけじゃなくて、美男美女の青春ラブコメ劇場を妬ましさ200%増しで見てただけなんだけどね。
「じゃあ、その、ミアちゃん……この色紙にサイン、おねしゃーす!」
いつの間にか青春ラブコメ劇場は終わっていたようで、深雪さんが両手で色紙とサインペンをミアに捧げ、深々と頭を下げる。
「あなた、名前は何ていうの?」
「久我深雪です! 久しいに、自我の我、深い雪です!」
ミアは慣れた手つきで、『久我深雪さんへ 星名ミア』とサインを書き上げる。
「うわぁぁぁ! ありがとうございます! 一生の宝物にします!」
深雪さんは色紙を抱いてピョンピョン跳ねながら喜んでいる。
「ふふっ、男の趣味は悪いけど、中々良い娘じゃない!」
チョロられているミアは、深雪さんの反応にツインテールをふりふり揺らし、上機嫌である。
「あ、あの……わたしも、ミアさんのサインをお願いできますでしょうか……」
おずおずと色紙とサインペンを持ってきたのは、金髪ポニテの輝夜さんだ。
「な、なによ! 私には『迷惑』とか言ってたくせに!」
「深雪と一緒に名古屋コンサートに行ったんだから、わたしがミアさんの大ファンだってこと知ってるでしょ! ミアさんのプライベートを邪魔したら悪いから、遠慮してたのに!」
「じゃあ最後まで遠慮しておきなさいよ!」
「わたしだってミアさんのサイン欲しいもん!」
どうやら金髪ポニテの輝夜さんもミアのファンらしい。
2人一緒に名古屋コンサートまで行くほどのファンなら仲良くすればいいのに……って、根本的な原因は凛くんか。罪深いヤツめ!
「あなたも、あたしのファンだったの? ふふっ、もちろんいいわよ。可愛いファンのためなら、サインくらいいくらでもしてあげるわ。あなたの名前はなんていうのかしら?」
深雪さんに加え、輝夜さんもミアの大ファンだと知ったミアは、さらにツインテールを大きくふりふり揺らし、大上機嫌である。
「ありがとうございます! 春園輝夜、季節の春に、公園の園、輝く夜で輝夜です!」
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとうございます! 一生大事にします!」
ミアがサインを渡すと、輝夜さんが顔を輝かせる。
「チッ!」
輝夜さんの喜ぶ姿に小さく舌打ちしたのは深雪さん……行儀悪いよ?
舌打ちされた輝夜さんがギロリと深雪さんを睨みつけ、一触即発の状況に!
「もう! 2人とも、あたしのファンなんだから、喧嘩なんかしないで仲良くしてね?」
「深雪が喧嘩を売ってこなければ、わたしだって……」
「喧嘩なんか売ってないわよ? 文句言ってたくせに、私に便乗して、ちゃっかりミアちゃんのサインもらった、ずーずーしい女だって思ってるだけ!」
2人の言い争いはいつもの事なのか、凛くんは呆れたような表情でため息をついている。
「ほら、喧嘩しない! あたしと澪はこれからカラオケ行くんだけど、一緒に行く? 喧嘩しないって約束するなら、あたしの歌を聞かせてあげるわよ?」
ファンサービスなのか、チョロられているからなのか、上機嫌のミアが2人をカラオケに誘う。
「行く行く! 行きまーす! 輝夜とは仲良しでーーす!」
「え、ええ! 深雪とは親友で仲良しですから、喧嘩なんかしません! ぜひ、ミアさんにお供させてください!」
和洋美少女2人は肩を組んでミアに仲良しアピールを始める。
憧れのアイドルの生歌を聞けるなら、そりゃ喧嘩なんかしないよねー!
「えっと、俺はどうすればいいんだ……?」
2人の後ろに立っている凛くんが、ボソっと呟く。
何となくザマぁである!
「優柔不断男なら、澪に手を出す心配はなさそうだし、一緒でもいいわね……そこの、あなた!」
ミアが小声で呟いて、所在なげに立っている凛くんへ声をかける。
「3人で遊んでいたのに、邪魔しちゃったみたいで悪かったわ。よかったら、あなたも一緒にカラオケに行かない?」
まあ、1人だけハブるのもナンだしね。
やっぱりミアは優しい!
「昔パーティーで見たような気がしたから、もしかしてと思って名前を聞いたんだけど、間違いないわ。久我家と春園家って、千年以上続く本物の名家よ。知り合いになっておいて損はないわ。澪もちゃんと顔を売っておきなさい。それに優柔不断男、久我家と春園家の2人に言い寄られてるってことは、それなりの家だと思うわ」
ミアがわたしの耳元でヒソヒソと囁く。
以前、花梨さんが『400~500年の歴史程度では新参、本物の上級はそれ以上』と言っていたけれど、千年以上続く久我家や春園家は、まさにその『本物の上級』なのだろう。
ミアは、『特殊クラス』の本物の上級エリートと知り合いになっておけば後々役に立つ……そう判断したのだろう。
さすが白鳥グループの社長令嬢である。可愛い顔して、計算高い!
「あー、俺だけ男なんだけど、お邪魔しちゃっていいのかな?」
千年の時の流れに思いを馳せて(?)いると、凛くんが困った顔で頭を掻く。
そんな姿もカッコ良いので腹が立つ……というのは置いておいて、凛くんの意外に常識的な感覚は評価に値する。これで普通にシレっと付いてきていたら、マジモンのハーレムクソ野郎判定をしていただろう。
だが、わたしとしては、男子の凛くんなら気楽に話せそうだし、遠慮しないでご一緒して欲しいところ。え、どうしてかって? そうだよ! 初対面のリアルJCとの会話は、まだ緊張すんだよ!
「歌を歌うのに、女も男も関係ないわよ。一緒に行きましょ!」
「せっかくミアちゃんが誘ってくれたんだから、凛も一緒に行こ!」
「ええ、ミアさんのプライベート生歌を聞けるチャンスなんて、一生ないかもしれないんですよ? 一緒に行きましょ!」
「そう? じゃあお供させてもらおうかな?」
3人の美少女のお誘いに、凛くんは覚悟を決めたようだ。
「あたしは星名ミア。ジュニアタレントをやってるわ。よろしくね」
「わたしは白銀澪と申します。みなさん、よろしくお願いします」
ミアは先輩とか、まったく気にしていない様子で、普通に挨拶しているが、わたしは、難癖つけられても嫌なので、そつなく丁寧に敬語で挨拶する。
「俺は神代凛。よろしくな!」
凛くんが照れたような笑顔を浮かべると、またミアがわたしの耳元に口を寄せてコソコソと囁いてくる。
「神代家も、久我や春園と同じレベルの千年以上続く名家よ。惚れるのは絶対ダメだけど、取り入って澪のファンにしちゃいなさい!」
いや、ムリだって……。
「あはは……」
乾いた笑い声をあげるわたしを横目に、『特別クラス』と『特殊クラス』という謎の混成チームは、誰も居なくなった通路を歩き、カラオケへと向かうのであった――。
・神代 凛
男子が憧れる精悍なハンサム。
中学2年生で深雪と輝夜の友人。
千年以上続く名家、神代家のご令息。
・久我 深雪
黒髪セミロングの芸能人レベルの和風美少女。
中学2年生で輝夜と凛の友人。
千年以上続く名家、久我家のご令嬢。
・春園 輝夜
金髪ポニーテールに碧眼の芸能人レベルの洋風美少女。
中学2年生で深雪と凛の友人。
千年以上続く名家、春園家のご令嬢。
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