74話 特殊クラスの3人組・前編
いつものように地下鉄の駅を降り、重厚な扉を何度もくぐり抜けて、複合アミューズメント校舎へと入る。
今回はミアと2人っきり。仲良く手をつないでのデートっぽいお出かけイベントだ!
「ねえ、ミアお姉ちゃん、Vチューバーって調べたんだけど、ゲーム実況したり、雑談したり、お料理したり、他にも色々なことやってるみたいだけど、わたし達は歌を歌えばいいの?」
授業中にスマホで調べたんだけど、やってることが多すぎて正直よく分からん!
ミアが『歌とか歌うんじゃない』とか言ってたので、何か事務所から聞いているのか確認してみることにした。
「どうかしら? まだ調整中って言ってたけど、あたしが出るんだから、歌を歌えばいいんじゃないかしら? 本当に雑談でいいなら、いつもみたいに、あたしと澪がお喋りするってのもいいと思うけど」
『いつもみたいに、あたしと澪がお喋りする』って……いつもみたいだと、ミアが喋ってるのを、わたしが『うんうん』相槌を打ちながら聞いてるだけになると思うんだけど……。
ん? 歌を歌うより、そっちの方が楽チンなんじゃないか!?
「わたしは、ミアお姉ちゃんとのお喋りがいいかな!」
歌を歌うより、ミアのお喋りに相槌を打ってるだけの方が楽そうなので、一応『雑談』の方を勧めておく。
「また澪は楽しようとしてるわね? トーク力も大事だけど、メインの歌も歌えなくちゃダメよ! 今日は、あたしが徹底的に特訓してあげるから、覚悟しときなさい!」
「うへぇ……」
ミアが『特訓』と言ったら、それはガチの意味での『特訓』なのだ!
それはもう、ガチでマジな体育会系のやつ!
わたしはミアと楽しくカラオケしたかっただけなんですけど!
「もう、そんな顔しなくても大丈夫よ。澪はまず歌うことに慣れなさい。この前のカラオケの時に思ったけど、澪って歌を歌うこと自体に慣れてない感じだったわ。歌う楽しさを覚えれば、『特訓』したくなるわよ?」
いや、それはどうだろう……。
「お、お手柔らかにお願いします……」
などとミアと話しながら、生徒達で賑わう通路へ向かう――。
まあ、案の定、いつもの通り、わたし達の赤い制服を見ると、生徒達は目を逸らしてススーっと端へと避難していく。
「やっぱり、この赤い制服は最高ね。誰もあたしに注目しないわ! 澪もデビューすれば、この素晴らしさが理解できると思うわよ?」
どこでも皆から注目される芸能人としては、顔も見ずに目を逸らして道を開けてくれるってことは気が楽なのだろうと想像はできる。
だが、やはり毒虫扱いされてるようでちょっと寂しい……などと思っていると――。
「何かしら?」
ミアが立ち止まる。
さっきまでススーっと避けていっていた生徒達が、わたし達とは反対側の方を見て、人垣のように通路を塞いでいる。
ミアと手を放し、ピョンとジャンプして覗いて見ると、セーラ服の女生徒2人と学ランの男子の3人組を、他の生徒達が遠巻きに見ている……という、よく分からない状況?
何度もピョンピョンしながら、人垣の向こうを覗く。
「ロケか何かかな?」
思い浮かんだのがロケ。
遠巻きにしながらも3人組に近づこうとはしないのは、撮影の邪魔をしないようにしている……のではないだろうか?
「あれが『Uクラス』の生徒か、なんかオーラが違うな」
「あの人、カッコ良い! 私も彼女の1人にしてくれないかな……」
「美少女2人連れてるのに、あまりムカつかないな。『Uクラス』のオーラの力だとでもいうのか?」
ピョンピョンしながら覗いていると、人垣の生徒達の呟きが聞こえてくる。
「ロケじゃないみたいね。『Uクラス』ってことは……」
「『特殊クラス』の人!?」
わたしたちの『特別クラス』ではなく、『特殊クラス』。
通称『ユニーククラス』と呼ばれる、龍鳳学園の知名度を全国レベルに引き上げた立役者だ。
『特別クラス』が名家や裕福層の子息子女の『隔離施設』として作られたのに対し、『特殊クラス』は、龍鳳学園の名声とブランド力を高める『付加価値』を産み出すために作られた、幼・小・中・高一貫の文字通りの『特殊』なクラスである。
名家や裕福層の子息子女であるという共通点以外は玉石混交の『特別クラス』とは違い、『特殊クラス』は、全員が龍鳳学園にスカウトされた者で構成されている。
正真正銘、個人の卓越した能力に拠って集められたエリート集団である。
一般学部とは隔離された敷地に建設された最高レベルの教育施設に、最高の教育陣を集め、学費・生活費はもちろん、高校生としては破格の交遊費までも全て学園が負担するという優遇の成果として、『特殊クラス』は毎年、日本の最高学府への入学者を多数輩出し、龍鳳学園の名声とブランドを担保する『看板』として機能していた。
『特殊クラス』の生徒の名前や個人情報は学園側によって厳重に保護され、そのカリキュラムや施設の概要さえ極秘扱いで、後に龍鳳学園の『金蔓』として創設された『特別クラス』の運営システムの元となった。
金さえ払えば誰でも入学できる『特別クラス』と、個人の卓越した能力に拠って集められた『特殊クラス』。
名前は似ているが、中身は大違いなのである。
『Uクラス』という通称は、『特別クラス』と混同されるのを嫌悪した『特殊クラス』の生徒が自称したため広まった、という噂もある――。
わたしたちの『特別クラス』という名称自体、世間一般から『特殊クラス』と誤認を誘発する目的で、わざと紛らわしい名称にしたんじゃないかと思ってる。
『特殊クラス』って全国的にイメージいいからね。
お互いの生徒達がいらぬ揉め事を起こさぬよう、敷地自体が丘の周囲を取り囲むように『特別クラス』-『一般学部』-『特殊クラス』と配置されており、唯一の接点になりうるのが複合アミューズメント校舎なのである――。
「うわぁっ! あ、赤服!」
前に出ようと、人垣に近づき過ぎてしまったようだ。
突然、わたし達の制服の警戒色に気づいた人垣の中の1人が叫ぶ。
「赤服!? ヤベっ!?」
「赤服と銀ラインの争いに巻き込まれたらシャレにならねーぞ!」
「に、逃げろ……!」
『特殊クラス』の3人組を遠巻きに見物(?)していた一般生徒達が一斉に、わたし達の方へ振り返り……直後、周囲に壁のように立ち塞がっていた生徒達が、スススーーっと潮が引くようにあっという間に消えていく。
『特殊クラス』は大人気なのに、『特別クラス』はG扱いである……。やっぱりちょっと悲しい……。
「えっと……」
周囲から人が消え、わたしとミアと、3人組が相対する。
「ん?」
目の前には、セーラー服の美少女2人を侍らせている、ハンサム学ラン男子という3人組。
学ランとセーラー服ということは中等部だろう……その袖には『特殊クラス』所属だということを示す銀のラインが2本。わたし達より1コ上の2年だろう。
ちなみに、3人組の制服は、学ランは上下黒、セーラー服はラインとスカーフが白で他は黒という一般生徒と同じ色。
わたし達『特別クラス』の毒々しい赤色と比べると普通にカッコ良く、そこはかとなく学園側の『差別』を感じてしまう……。
しかし、一番目を引くのは3人の容姿だ。3人共、人だかりができていたことに納得する、外見レベルの高さである。
1人は黒髪セミロングの和風美少女、もう1人は金髪ポニテに碧眼という、現界日本ではあまり見ない外見の美少女で、さらにスタイルも良い(黒髪の娘がスタイルが悪いというわけではない……)。
そんな和洋美少女の2人を侍らせているだけあって、学ラン男子もメチャクチャレベルが高い!
久遠くんが女子受けの良い爽やか美少年だとすると、この学ラン男子は男子が憧れる精悍なハンサムタイプ……ね、妬ましい! わたしもこんな外見がよかった!
それは置いといて、実はこの状況は結構マズいのだ。
『特殊クラス』は個人の卓越した能力に拠って集められており、完全に実力主義なのだが……実は『特殊クラス』にも名家や裕福層の子息子女が多数所属している。
つまり『問題を起こさない、名家や裕福層の子息子女の優秀な人材』ということになる。
そんな連中が、言い方は悪いが金さえ払えば誰でも入学できる『特別クラス』の生徒をどう思っているかは、想像に難くない。
まあ、『特別クラス』の中にも、『特殊クラス』を『親の言いなりになってるレベルの低い連中』と蔑んでいる者達も居るらしいが……。
なぜ、わたしが『特殊クラス』についてここまで詳しく知っているかと言うと、転入時に学園側から、必ず守る事項として『特殊クラスとは揉め事を起こさない』よう釘を刺されたからである。それはもう入念に、詳細に、厳重に注意された事項だ。
わたしとしては、全然関係ないし、会うこともないだろうと高を括っていたのだが……。
「大丈夫よ、何があっても澪はあたしが守るから!」
学園の注意を思い出しながら3人組を見ていると、ミアがギュっと手を握ってくる。
頼もしいミアお姉ちゃんである!
「向こうも、わたし達と揉め事を起こさないように言われてると思うから大丈夫だよ。相手にしないで、早くカラオケ行こ!」
見なかったことにしてサクっと離脱してしまえば、問題は起こらない。ミアの手を握り、サッサと通り抜けてしまおう。これぞ大人の対応である――と、その時は思っていた。
まさか相手の方から仕掛けてくるとは、夢にも思っていなかったのである――。
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