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73話 復活のミア!

 ドン……ドン……ドン……。


「…………?」


 ドンドンドンドンドン!


「んっ……んあっ?」


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!


「し、しまったぁぁぁぁーーーーーっ!!」


 ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい!

 ミアが復活したんだ! この『ドアドン』はミア以外いない!

 あと、2、3日ノンビリできるかと思っていたのに、あのツンデレ元気娘、1日で復活しやがった!


 バビューンとベッドから飛び出して、入口のモニターを見ると、案の定、ミアがツインテールを元気よくフリフリしながらドアを叩きまくっている……。


 どうする?

 着替えてからドアを開けるか?

 いやいや、ミアのことだから、ガンガンドアを叩き続けるに決まってる!

 しょうがない……。


「お、おはようミアお姉ちゃん……」


「もう、遅いじゃない!」


 ミアは上品に靴を揃えて脱ぐと、そのままわたしを押しのけてズカズカと部屋へ入ってくる。


「ん? 澪、もしかして寝てたの?」


「ちょ、ちょっと寝坊しちゃった……みたいな?」


 ミアがジーーーーっと見つめてくる。


「澪、まさかとは思うけど、あたしが休んでいる間、朝のトレーニングをサボったりしてないでしょうね?」


 えっ!?

 ダメなの? 朝のトレーニングってミアがいない時もやらなくちゃダメだった!?


「ちょっ、ちょっ、ちょっとだけ体調が……」


「んーーーーーーーーっ」


 ミアにジーーーーっと見つめられる。凄い眼力(めじから)で!


「た、体調、体調………………ゴ、ゴメンなさい! 眠くて、お休みしてしまいました!」


 水無瀬くんやエステラに習って、最敬礼で頭を下げる。


 ごまかしてやり過ごそうと思ったけど、ウソついてもミアが施設の人に聞けばバレるので、素直に謝る戦略に転換。


「はぁ、澪はいつも眠いのねぇ……。でも、あたしが居ないからって朝のトレーニングをサボったら、次はお仕置きよ! 澪はちっちゃいんだから、ちゃんと体力つけとかないと、ステージの途中でへばっちゃうわよ?」


 ええと、ステージとかやらないから大丈夫……大丈夫だよね?

 カリアさんに芸能界デビューとか言われたのを思い出し、不安になってくる。


「うん、その、前向きに善処していきたいと思います……はい……」


 今のところステージをやる予定はまったくないが、目出し帽の妙な連中に襲われたり、敵魔法少女に暗殺されたりと、何があるか分からないのがこの現界。

 色々な意味で、体力をつけておくという案には、賛同せざるを得ない。


「じゃあ、早く支度しなさい!」


「はーい!」


 とりあえず身支度するか!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ミアに(強制的に)手伝われながら手早く身支度を整え(もちろん着替えは1人でしたよ?)、レストランで朝食(ミア・モーニングB)とツインテール・プリンアラモードという食の芸術を堪能した後、トレーニングルームへ――。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 ランニングマシンの上を快調に走るミアを横目に、わたしはもう顎が上がりグロッキー状態。

 前よりは慣れてきたような気がするのだが、ミアとは比べ物にならないレベルの体力のなさ加減である。


 ん? 『ボディー強化(エンハンスメント)』で大っきくなったら、変身体(トランスボディー)にも反映されるはずだし、身体が大っきくなれば体力もアップするんじゃないか?

 こんど聞いてみよう!


「あら、澪も結構体力ついてきたじゃない!」


 ランニングが終わり、ヘロヘロと座り込んでいると、トレーナーさんと話をしていたミアが声を上げる。


「そうかな?」


「ええ、ほら、ちゃんと体力は向上してるわ!」


 ミアがトレーナーさんの持っているタブレットを見せる。


 なになに……むっ!

 持久力、筋力、瞬発力、柔軟性などの細々としたデータが、トレーニングした日ごとにグラフ化されている!?

 ほえぇ、わたしの毎日の運動量とか、詳細な全部データになってるの!?

 ミアにウソつかなくてよかったわ!


 しかし、目に見えて体力が上がっているのが分かると、これはヤル気出るな!


「ほら、初めてから、こんなに上がってるわ! この調子で頑張りなさい!」


「はーい!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おはよー!」


 元気よく挨拶しながら教室へ入る。

 元気に挨拶をする人間(人間じゃないけど)だと周囲に認知されることが重要なのであり、地味に好感度が上がるのである!


「ユナちゃん、おはよー!」


 仲良くなったメカクレ系文学少女のユナちゃんに挨拶する。

 今日はミアが一緒なので、多分お喋りはできないだろうけどね。


「あっ、おは……ょぅ……」


 案の定、わたしの挨拶に読んでいた文庫本から一瞬頭を上げかけたユナちゃんは、そのまま頭を下げ、声のボリュームがミュートに……。

 多分、わたしの後ろではミアが睨んでいるのだろう。


「後でね?」


 ミアに気づかれないように、ユナちゃんの耳元で小声で囁くと、コクンと小さく肯く。


 恰幅の良いメガネこと水無瀬くんが、わたしの方を見てニヤニヤしている。

 多分、昨日のユナちゃんの件(※68話参照)を思い出したのだろうが、わたしも『ミアにヘンなこと言ったら分かってんな!』という、目が笑っていない笑顔を水無瀬くんへと向ける。


「っ……!」


 わたしの笑顔の意味に気づいたのだろう、水無瀬くんは顔を引きつらせながら、バネ仕掛けの人形のように椅子から立ち上がると、直立不動からの渾身の最敬礼!


「ミアさま! 澪姫! おはようございますです!」


「おはよー、水無瀬くん!」


「ちょっと、水無瀬!」


 頭を上げた水無瀬くんを、ミアが下から()め付ける。もの凄い眼力(めじから)で!


「は、はい……そ、その……なんでございましょう、ミアさま……」


「アンタ、今、澪を見てニヤニヤしてたわよねぇ?」


 完全にチンピラのインネン付けであるが……いや、ミア、よく気づいたな!?


「い、いえ、そのようなことは……」


「あぁぁ? 口答えするんだぁ?」


 エステラより自然なチンピラムーブである!


「そ、そ、それは……」


 水無瀬くんが『助けてぇ、澪えもーん!』という目でわたしを見る。

 ミアにツッコまれて、水無瀬くんが昨日のことを話した(ゲロった)らユナちゃんが危険なので、助け船を出すことにする。


「多分、水無瀬くんは、ミアお姉ちゃんの姿を久しぶりに見れたから嬉しくなっちゃったんだよ!

 ゴールデンウィーク前ぶりだもんね、水無瀬くん?」


「そ、そ、そうでございます! 澪姫さまのお言葉、まさしく金言にて……! ミ、ミアさまの御尊顔を久方ぶりに拝し、つい我を忘れてしまったのでござりまする! ど、どうか、お許しくださいませ!」


 お前、何時代の人間だよ!

 まあ、気持ちは伝わったんじゃないか?

 ミアのツインテールがちょっとだけフリっとしたぞ!


「そうなの? それならしょうがないわね。今日は許してあげるわ!」


 おお、やはり!

 ミアの機嫌がちょっとだけなおったようだ!


「は、ははぁーーーっ、有難き幸せにございまする!」


「あたしだって、ムチャを言うつもりはないの。笑うなら、キモい笑いはやめて、もっと爽やかに笑いなさい!」


「す、爽やかに……で、ございますか?」


「ええ、アンタのキモい笑い顔なんか見たら、澪が泣いちゃうわ! ほら、ちょっと爽やかに笑ってみなさい? あたしがチェックしてあげるわ!」


「ミアさまが、わたくしめの笑顔のチェックを! なんたる僥倖! こ、こんな感じでしょうか……?」


 ミア、結構なムチャ振りである。

 だが、水無瀬くんはミアにかまってもらえることが嬉しいのか、顔を輝かせて笑顔を浮かべるのだが……。


「ニィィーーーーーッ」


 うーん、いや、その……悪いんだが、背筋に震えが走るほどメッチャキモいわ!


「な、なにやってんのよ水無瀬! 澪が怖がってるじゃない! ダメ! 全然ダメ! アンタは一生笑うの禁止!」


 いや、さすがにそれはご無体過ぎる……。

 ショボーンとなっている水無瀬くんが、さすがに可哀そう過ぎるので、2隻めの助け舟の派遣を決定。


「大丈夫だよ、ミアお姉ちゃん。わたしは怖がってないよ(キモかったけど)? 水無瀬くんの笑顔、こ、個性的でいいんじゃないかな? うん! また見たいかも!」


「本当? 澪がそう言うなら、いいけど……。水無瀬、澪に感謝しないさい! アンタが笑えるのは、澪のおかげよ! 一生澪に感謝しながら生きていきなさい!」


 とんでもないセリフである!


「だ、大丈夫だよ、水無瀬くん。気にしないでいいからね?」


「おふぅ……全ては、ミアさま、澪姫さまの御心のままにっ! この水無瀬、ミアさまのお言葉、澪姫の優しさを心に刻みつけて生きていきまする!」


 なぜか嬉しそうな水無瀬くんが、再び見事な最敬礼の姿勢になる。


「貸し2つね?」


 水無瀬くんの耳元でコソっと呟いてから、真面目系イケメンの東雲くんの机へ向かう。


「おはよー、東雲くん!」


「白銀さん、おはようございます。相変わらず朝から面倒なの(・・・・)に付きまとわれているようで、大変ですね。もし本気で困っているのでしたら、私にご相談くださいね?」


「あははは……」


 面倒なの(・・・・)……ミアのことだろう。

 ミアと東雲くんは犬猿の仲なのだ。

 多分……いや、間違いなく、ミアのチンピラムーブのせいなんだけど……。


「はぁ? 面倒なの(・・・・)ってのは、あたしのことかしら?」


 ミアが腰をかがめて、東雲くんの顔を睨みつける……が、いつものように東雲くんはミアをガン無視。


「真面目な白銀さんが、面倒なの(・・・・)に付きまとわれて正しい学生生活が送れなくなるのは、学友として見るに忍びません。本当に、困ったら連絡してくださいね」


「また、あたしのこと無視してぇ! くぅーーっ! このマジメぶったキモ男、マジでムカつくんだけど!!」


「あ、ありがとう東雲くん。その、東雲くんも、ミアお姉ちゃんも、クラスメイトは仲良くしようね? ね?」


 割って入るのも(はばか)られるほどの険悪な雰囲気にビビりながらも、一応常識的な仲裁をしてみる。


「まったく、どうして真面目な白銀さんが、こんなガラの悪い面倒なの(・・・・)と友人関係を維持しているのか、分かりかねますね。優しさもほどほどにしておいた方が良いかと」


「可愛い澪の頼みでも、このマジメぶったキモ男だけとは仲良くできないわ!」


 2人とも、どうしてわたしに向かって話すのよ!

 と、思ったんだけど、2人が直接話したら、もっとヤバい喧嘩になるか……。


「ええと……2人共、できるだけでいいから仲良くしてね? じゃ、じゃあね、東雲くん!」


 東雲くんに軽く手を振ると、逃げるように真壁くんの机へと向かうと――。


「おはようございます、澪姫!」


 スックと席を立った真壁くんが、直立不動の姿勢から最敬礼……。

 しかし、最近、最敬礼するヤツをいっぱい見るような気がするなぁ。


「真壁くん、おはよー!」


「今日も、お元気そうでなによりです! ああ、星名もおはよう」


 顔を上げた真壁くんが、わたしの後ろに立つミアにチラっと一瞬だけ視線を投げ、ついでにといった風に挨拶する。

 まあ、ちゃんとミアにも挨拶できるようになったのは偉い!


「はあ……あま、いいわ。おはよう、真壁」


 おおー!

 なんかインネン付けないか心配だったけど、ミアもちゃんと挨拶できて偉い!


「あの、澪姫。問題があるでしたら、言ってください。水無瀬でも、東雲でも、星名でも、俺に一言、言ってくだされば絞めますから!」


 さっきの諸々のやり取りを聞いて気を使ってくれたのだろうが……物騒である。

 さらに、ミアまで入ってるのがさらに物騒である。


「ちょっと! なんで、あたしまで入ってるのよ!」


「いや、星名は、色々と揉め事起こして澪姫に迷惑かけそうだからな。さっきも東雲と揉めて、澪姫が困ってただろ」


「うっ……わ、分かったわよ! 揉めないようにするわよ!」


「それがいいと思うぞ。澪姫のためにってのはあるが、星名のためにもな」


 おおー、真壁くん大人である。

 ミアも自覚はあったのだろう。プーッと脹れっ面になるが、文句は言わない。


 しかし、ミアの脹れっ面可愛いな。指でプニュっとしたくなる!


「真壁くんは、ミアお姉ちゃんのこと心配してくれてるんだからね?」


「フンっ! 分かったわよ! ちょっと腹が立つけど、澪への忠誠に免じて許してあげるわ!」


「ありがとう、ミアお姉ちゃん! それに、真壁くん、色々ありがとうね! 何かあったら相談するからね?」


「はい、澪姫! 何でも俺に相談してください!」


 大人で頼もしい真壁くんである!

 なんか好意(?)に付け込むようで、少々良心が痛むが……。


「おはよー、久遠くん!」


 窓際に座る、爽やかイケメンの久遠くんにご挨拶。

 今日はミアがいるので、本当に挨拶だけ。


「おはよう、澪ちゃん、ミアちゃん!」


 うわっ! ま、眩しい!

 何て爽やかな笑顔なんだ! 眩し過ぎる!

 うーん、コリャ、女教師でも墜とせるわ!


 ん? 何か違和感……。

 そうだ……久遠くんが堕すんじゃなくて、女教師が久遠くんを堕としにきていたんじゃないのか!?


 大体、管理の厳しい名門校で、女教師を含めて何人もに手を出すなんてありえないだろ?

 久遠くんは加害者じゃなくて、被害者なんじゃないか!?


 そう考えると、色々辻褄が合う……。

 久遠くんに関係を強要した女教師を含めた加害者の女性たち全員が共謀して事実を隠蔽していた――。

 そうじゃなければ、すぐに発覚していたはずだ。

 それ以外、考えようがない。


 個人的な感想だけど、久遠くんは、やたらめったら女の子に手を出すような人間には見えない……それどころか、他人を思いやる優しい心を持った人間に思える。


 親戚のミアにさえ言い訳しないのは、加害者の女性達を思いやってのことか、それとも何か別の理由があったのか……。


 まあ、何にせよ、今さらだ。

 事実がどうであれ、事件は闇に葬られ、久遠くんは龍鳳学園の特別クラスに保護(・・)された。

 本人が何も言わないのだから、好きなようにすればいい。


「久遠くんは、今日も爽やかだね!」


「澪ちゃんは、今日も楽しそうだね」


 久遠くんがキラキラと輝くように笑う。


「澪、このクズとは挨拶以外禁止! 行くわよ!」


「あはは、ミアちゃんは、今日も不機嫌だね」


「はぁ? アンタのせいでしょ! 行くわよ、澪!」


 ミアに引っ張られながら久遠くんに手を振ると、久遠くんも素晴らしい笑顔で手を振ってくれた――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「そうだ! 澪はデビューの話、聞いてる?」


 いつものように、ミアが授業中にもかかわらず普通に話しかけてくる。

 メガネの中年女性教師……国語の安藤先生は一瞬チラリと視線を向けるが、完全にシカトで授業を続ける。


「デビューするって話は聞いたけど、詳しい話は知らない」


 外事部と技研の共同プロジェクトになるとか聞いたけど、打ち合わせはまだなので、今のところ何も分からない状態。


「調整中らしいけど、あたしと一緒にVチューバーとしてデビューするらしいわよ?」


 聞いたことはあるけど、Vチューバーって何すんだ?


「Vチューバー……って何すんの?」


「あたしもよく知らないけど、2人で歌とか歌うんじゃないかしら?」


 オイっ! ミアも知らないのかよ!?

 ミアと一緒に歌うとか、差がついて凄く嫌なんですけど……いや、完全に一緒に歌うなら、わたしが歌下手なのバレないか!

 なら、いーや!


「ということで、澪、今日の放課後はカラオケで一緒に歌の練習よ!」


 おお、ミアのコンサート独り占めじゃん!

 行く! 行く!


「はーい!」


 ということで、放課後はミアとカラオケ大会と決定したのである!


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