67話 エステラの帰還
ミアのコンサートツアー5日目、ゴールデンウィーク最終日――。
お嬢様衣装に着替えたわたしは、迎えに来てくれた花梨さんの運転する黒塗りの高級車で、龍鳳学園へ向けて移動中。
「どうだった? ゴールデンウィークはお友達と楽しめた?」
「ええと、まあ、なんというか、楽しめたといえば……楽しめた、みたいな?」
「あら、歯切れが悪いわね? 何かあったのかしら?」
「実は――」
今日から業務に復帰した花梨さんに、コンサートツアー中に起きた『大阪の某ホテル30階での事件』について説明する。
「それは聞いてなかったわ……凄いわね、理奈ちゃん。そこまでいくと、何か憑いてるとしか思えないわ。一度、お祓い行ってみたらどう?」
ルームミラーに映る花梨さんが、心配そうな顔をしている……。
うーん、確かに聖導連盟の奇襲から始まって、『レイド級討伐隊』に選抜されてからの転戦、グレースの裏切り、『六本腕』の群れからの襲撃……と、そこまで考えて、ふと思い出す。
わたし、魔法少女になる『前』から両手で余るほど……どころじゃない!
星の数ほど、ろくでもない目に遭いまくってるわ!
というか、ろくでもない目に遭ってなければ、魔法少女なんかになってないわ!
「ふぅ……花梨さん、どこか良い神社知ってます? ぜひご紹介ください!」
お祓いでこの災難から解放されるなら、ぜひお願いしたいところである!
「そうね、霊験あらたかな神社を調べておいてあげるわ。スピリチュアルとかってバカにする人もいるけど、こういうのって結構効果あるのよ?」
そういえば、わたし魔法少女だけど大丈夫かしら?
「あのぉ……魔法少女にもお祓いって効きますかね?」
この世の理から外れた(?)魔法少女にも効果があるのだろうか?
「うーん、魔法少女がいるんだから、神さまもいるんじゃないかしら? 神さまなら、魔法少女でも何とかしてくれるでしょ!」
わたしはかなり真剣で聞いたのだが、花梨さんは結構気楽である……。
「もう、そんな不満そうな顔しないでよ。あんまり期待されると困るけど、気休めくらいにはなるわよ? 実際にご利益あったって人もいっぱいいるんだしね?」
しまった! 感情がすぐ顔に出てしまうのを何とかしなければ……。
「でも理奈ちゃん、全部のイベントで生き残って、勲章まで貰ってるんだから、結果的によかったんじゃない? 『千桜魔法少女物語』とかあったら、理奈ちゃん主役張れるわよ?」
イベントって言うな!
しかも、その『千桜魔法少女物語』の主役とかメッチャ嫌なんですけど!
絶対、この後もろくでもない目に遭い続けるストーリーじゃん!
どっちかといえば、『ミアと澪のシンデレラアイドルストーリー』とかの方がよくない?
「あっ! ところで、コレどうしましょ?」
手に持った、番号不揃いの流通済み1万円札2000枚入りのジェラルミンケースを示す。
「剛造氏がそこまでするとは思わなかったわ。お金なんかいくらあっても困らないんだし、貰っとけば? あ、銀行とかに預けちゃダメよ? 色々面倒だから」
まあ税務署とか、色々あるよね。
でも、貰っちゃっていいのかしら?
「剛造氏には千桜名義でお礼しておくから大丈夫よ。魔法少女は色々制約があるから、現界のお金を持ってても、あんまり使う機会はないと思うけどね?」
確かに魔法少女は、明日生きていられるか分からんしなぁ……。
まあ、くれるというなら貰っとくか。
実際、魔法少女に必要なのは、装備やアイテムを買える『マギト』なんだけどね。
「すいません、龍鳳学園には持って入れないんで、花梨さんが鏡界に持って行ってもらえますか? 後で取りに行きますから」
「了解! じゃあ鏡界で待ってるわね?」
2000万円か……正直、魔法少女なんかになる『前』に欲しかったわ。
そうすりゃ、こんなことなんかやってないのに!
『前』のことをグチってもしょうがないのは分かっているけど、どうしても、お金のこととなるとグチりたくなるんだよ!
分かるだろ?
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恒例の(?)花梨さんの小芝居を観覧した後、全裸身体検査を終えて龍鳳学園へ戻ってきた。
赤セーラーのままベッドに飛び込むと、いつものようにゴロゴロする。
「ふぅぅ……」
久々の我が家である!
最近、私物(ヌイグルミのミャオや、通販で買った書籍類、駄菓子とか)も段々増えてきて、ようやく自分の部屋なんだと思えるようになってきた。
このままゴロゴロしたいところだが、花梨さんが待ってることを思い出し、ゴロゴロの誘惑を振り払ってピョンと起き上がる。
ゴロゴロの誘惑に後ろ髪引かれながらもメタルチョーカーを『マテリアライズ』してY08ベースへ連絡。変身解除の許可を得て、Y08ベースへと向かうのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
Y08ベースの中央ロビーは、以前のガラガラ状態から、ようやく『何人かいるなぁ』という程度まで魔法少女達が戻ってきていた。
魔塊獣が湧き始めたとは聞いているが、結構な数の魔法少女が所属するY08ベース周辺で、まともに狩りができるとは思えない。
『血の宣誓』としての稼ぎを考えると、魔法少女の少ない他のベースへ引っ越さないとマズいかもしれない。
「リリナちゃん、お待たせ!」
カフェスペースで中央ロビーを眺めながらボンヤリしていると、ジェラルミンケースを持ったカリア(花梨)さんが、ピンクプラチナのポニーテールを揺らしながら近づいてくる――。
ん? カリアさんの後ろに、もう1人魔法少女が続いてくる!?
「はい、頼まれてたの持って来たわ。それから……彼女、ようやく魔法少女研修が終わって、さっきこのベースに着いたのよ」
カリアさんからジェラルミンケースを受け取ったわたしは、カリアさんの後ろに所在なげに立つ魔法少女をしげしげと見つめる。
銀髪縦ロールに、キツそうなお嬢さま風の顔立ち。
そのお嬢さま風の顔つきにピッタリな、黒と紅のゴージャスな衣装をまとった『悪役令嬢』然とした魔法少女――間違いない、一緒に魔法騎士と戦った同期の魔法少女、エステラである!
「両脚は……繋がってる!」
思わず魔法騎士に両断されていたエステラの足首を確認してしまう。最後に見た時は無残なモノだったが、どうやら無事に繋がったようだ。
「エステラ! 無事でよかった!」
「お、お姉さま……」
『お姉さま』……だと!?
あのチンピラムーブがデフォで、わたしのことを『姐さん』呼びしてたエステラが、『お姉さま』だと!?
「お姉さまが凄い戦果を上げていると聞いて……わたくし、少しでもお姉さまのお力になれればと、頑張って、頑張って……ようやく魔法少女研修を修了して……ううっ」
エステラの言葉の端々から、魔法少女研修所での彼女の努力が想像できた。
おそらくエステラは、『血の滲むような努力』なんて生ぬるい、『恐怖に彩られた地獄』を潜り抜けてきたのだろう……。
「エステラ、よく頑張った。よく頑張ったなぁ……」
「うあっ、ああっ……お姉さまぁ……うっ、ううっ……うわぁあぁぁぁぁぁっ!」
エステラはフラフラとわたしの前に来ると、ガクンと膝を床につき、わたしの太ももに縋り付くようにして号泣し始める。
「お姉さまぁ……わたくし……わたくし……お姉さまに早くお会いしたくて……魔法少女研修を頑張りましたの……うわぁぁぁぁんっ!」
号泣しながらも、お嬢さま口調は崩れない……。
あの頭カラッポでチンピラムーブがデフォだったエステラが、こんなに号泣してもお嬢さま口調を維持している……。
いったいどれほどの地獄を潜り抜ければ、ここまで変わるのだろう?
エステラに施された『教育』を想像し、恐怖に戦慄する。
「何も言うな……エステラ、よく頑張ったなぁ……」
しばらくエステラの頭をポンポンした後、両肩を掴んで、跪いていたエステラを立たせてやる。
「エステラ、胸を張れ! お前が……お前こそが本物の漢よ!」
「うわぁぁぁぁぁぁっ! お゛姉さ゛ま゛ぁぁぁーーー!」
エステラに号泣しながら抱きすくめられる……ん?
「んーーと、何かエステラ、大っきくなってない?」
元からわたしより少し背が高かったエステラだが、何かさらに一回り大きくなっている!?
「ぐずっ……それは……教育係のお姉さま方が、そのままだと小学生に見えるからって……ぐすっ……カンパして……強化してくださったの……ですわ……ぐすっ」
なんだソレ……ズルくない?
あ、いや、エステラに施した『教育』の罪滅ぼし的な意味があるのかもしれない……。
というか、絶対そうだろ。まあ、ここまで変えちゃうと良心痛むよね……。
うーん、こんなんなっちゃうくらいなら、遠慮しとくかな……。
わたしは自分で稼いだマギトがあるし!
「ふふっ、2人は一緒に魔法騎士と戦った仲なんでしょ? 積もる話もあるでしょうし、リリナちゃんが宿泊用の部屋まで送ってあげて?」
カリアさんが、パチンとウインクする。
「あと、リリナちゃん、エステラちゃんが入るパーティーの件、よろしくね?」
最初の強制任務、『魔法少女として最初のパーティーを組む』ってやつだな。
わたしはかなり時間がかかってしまい、カリアさんに迷惑をかけたけど、エステラは『血の宣誓』に入れれば大丈夫だろう。
軽く手を振って去っていくカリアさんを見送った後、エステラと2人で宿泊用の部屋へ向かったのであった――。
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「マギリングをココに当てればロッカーが使えるようになる。現界に置いておけない私物とか入れておけるからね――」
宿泊用の部屋がある区画と、魔法少女の個人用ロッカーは同じ方向にあるため、途中でエステラにロッカーの使い方を教えながら、2000万円入りのジェラルミンケースをしまう。
「そういえば、この前の魔力潮流動乱でも、素晴らしいご活躍をなさったと聞きましたわ。勲章まで受賞なされたとか……さすが、お姉さまですわ!」
泣き止んだエステラが、興奮気味にまくし立てる。
銀髪縦ロールにキツめの顔立ちという容姿にピッタリ合ったお嬢さま風の話し方……なのだが、以前のエステラを知っているわたしからすると違和感が凄い。
「魔法騎士は、エステラとリレッタと協力して倒したのに、わたしだけ勲章を貰っちゃって……何だか申し訳ないな」
「とんでもないですわ! お姉さまが居なければ、わたくしもリレッタさんも、あそこで生き残れませんでした……全部、お姉さまのおかげですわ!」
エステラはそう言ってくれるが、勲章だけじゃなく結構なマギトまで貰ってしまっているので、少し申し訳ない。
しばらくは、マギトも含めてエステラの面倒を見てやろう。
「ここが宿泊用の部屋だよ。鍵はないから、気をつけてね」
「はい、お姉さま!」
「………………」
お嬢さま言葉のエステラ……何かやりづらい。
この『お嬢さまエステラ』に慣れる日は来るのだろうか……。
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「へえ、明日には現界の学校へ転入するのか。学校に慣れるまではしばらく苦労すると思うけど、慣れれば『前』より楽だと思うから、心配しなくても大丈夫だよ」
毎日の美味しい食事に、甘やかせてくれるミアお姉ちゃん……最高である!
「お姉さまは、もう新しい生活に慣れたのですわね。さすが、お姉さまですわ!」
エステラと一緒に部屋へ入り、雑談を交えながら魔法少女としてのアレコレを教えていく。
「ここは誰も居ないから、前の話し方で大丈夫だと思うぞ?」
エステラが無理をしているなら、2人の時くらいは普通に喋らせてあげたい。
わたしもリレッタと話す時は口調が戻っちゃうからね。
「えっ! あっ……ああっ……はぁはぁ……はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
エステラが何か言いかけた瞬間、突然、過呼吸のようにハアハアと息を乱し始める!?
まさか『教育』のせいか!?
「無理に昔の話し方に戻す必要はないぞ! さっきの話し方でいい!」
「はぁはぁはぁ……も、申し訳ございませんわ……前のように話そうとすると……お、恐ろしい記憶が……」
エステラが両手で自分の身体を抱きしめながらガクガクと震え始める!?
やっぱり『教育』のせいっぽいな。教育係、エステラに何をしやがったんだ……!?
「大丈夫だ、思い出さなくていい! 今の話し方のほうがエステラに似合ってる! 今の話し方で大丈夫だ……深呼吸してみろ。そう……ゆっくり吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
エステラはしばらく深呼吸を繰り返すうちに、だんだんと落ち着いてくる。
「もう大丈夫ですわ……お姉さまには迷惑ばかりおかけして、何と申し上げてよいのやら……」
「エステラが頑張ったことは分かってる。気にすることはない……本当に、本当に1人でよく頑張ったな」
肩をポンと叩くと、エステラがウルウルと涙目になる。
「今、リレッタがリーダーをやってる『血の宣誓』に入ってるんだ。エステラの話もしてある。もうエステラ1人じゃない。これからは一緒に頑張ろうな」
「リレッタさんのパーティですか? はい、お姉さま! よろしくお願いいたしますわ!」
そんなこんなで、エステラの『血の宣誓』への加盟が決まったのであった――。
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