66話 ミアのコンサートツアー6 お疲れさま!
ミアのコンサートツアー4日目――。
名古屋に続き、大阪でのコンサートも大盛況のうちに終了しましたー!
パフパフパフパフ~♪♪♪
名古屋より圧倒的に大きな会場で、お客さんもびっしり入っていて、本当に凄い迫力だったよ!
名古屋では一般席の少し前にある関係者席から見たんだけど、大阪では一般席とは切り離された一角につくられた、ステージまでメチャ近のVIP席!
名古屋はお客さんとの一体感がすごかったけど、大阪はミアが近すぎて、まるでわたしが独り占めして見ているみたいな感覚!
どちらにも良さがあって甲乙つけがたいので、やっぱり両方経験した方がいいね!
正直、アイドルのコンサートなんて舐めてたんだけどさ……凄っごく楽しい……いや、感動……いや、見惚れた……うん!
ステージのミアに、ただ茫然と見惚れていたわ。
今回のミアのコンサートツアー、わたしはミアにくっついていただけのオマケみたいな存在だったけど、学園でのいつものワガママツインテールのミアお姉ちゃんじゃなくて、真摯にアイドルとしての仕事に向き合うミアは本当に一生懸命で、アイドル・星名ミアを全力で応援したくなった。
わたしが中1のころなんて、プラモデル持ってブーンとか言ってた気がするから、ミアとの違いに愕然とするわ……。
スタッフさんたちといる時はいつものミアだったけど、さすがに疲れたのだろう。シャワーから出るとすぐにベッドへ直行し、わたしがシャワーから戻った時には、もう気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「すぅーーすぅーーすぅーーすぅーー」
ベッドの上で気持ちよさそうに眠るミアは、いつもシャーシャー言って怒るネコが寝ている時みたいでチョー可愛い。
起こさないように注意しながら、今日も頭をなでなでしちゃう!
わたしも自分のベッドに入ったんだけど、さっき見たコンサートの高揚がおさまらず眠れないので、今日、何度目かのニュースチェックをすることにした……。
色々なニュースサイト、大阪ローカルニュース、ソッチ系の匿名掲示板まで漁ったのだが、昨日の事件どころか、このホテルに関する話題すら何も見つけられない。
富良野さんはいつもと変わらない様子だし、ミアや筒井さん、スタッフのみんなも何も知らない感じ。しかもニュースにも一切出ていない。
部屋を出てから5人を撃って戻ってくるまで20分くらいの出来事だったし、もしかしたら夢だったのかも……とか思って、凄っごく30階を確認しに行きたかったんだけど、『犯人は現場に戻る』って言うし、見張られている可能性を考えて自制した。
結局、スマホを握ったまま寝落ちしてしまったのである――。
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ミアのコンサートツアー5日目――。
大阪から帰る車の中。一番奥からミア、わたし、富良野さんという席順。
ミアはまだ疲れが残っているのか、スースーと寝息を立てている。
わたしは、銃撃を軽々と避けた富良野さんの姿を思い出し、何となく左隣の富良野さんをチラチラとチェック中。
名前は富良野環。
性別は女性。
年齢は聞いていないけれど、多分高校生くらい。
切れ長の目に黒い瞳、長い睫毛、きめ細やかな白い肌。黒髪のポニーテールで、芸能人と遜色ない美人系の娘なのだが、視線を外した途端に気配が消えるような、不思議な雰囲気をまとっている。
職業は……忍者!
ドア越しに行き交う人々の足音のリズムや呼吸の乱れから不審者を特定する驚異的な察知能力。銃弾を軽々と避ける人外じみた身体能力。さらに『認識阻害系統の忍術』も使っていそう。
魔法少女がいる世界なんだから、忍者がいてもおかしくないよね!
そして、忍法をせがむわたしに、アメを出す手品を忍法だと言って見せてくれる、とっても優しい娘である! 優しい娘である!
しかし……30階での事件をコッソリ覗いていたこと、バレてないのかな?
富良野さんの驚異的な察知能力なら気づいていそうだけど、なーんにも言ってこないんだよね。
もしかして、身体能力を強化する忍法を使ってる時は察知系の忍法は使えないとか?
それとも、わたしが覗いていたことを知ってて、何かの事情で泳がせてる?
泳がされてるなら、いっそズバリ聞いた方が自然だよなぁ……。
「どうしたの、澪?」
ジロジロ観察していたら、窓の外を見ていたはずの富良野さんが急に振り向いて話しかけてきた!?
「あ、その……」
どうしよう、ズバリ聞いちゃう?
いやいや、前の席には筒井さんもいるし、ここは遠回しに探りを入れるべき。
5人もヤっちゃってるヤバい案件だしな……。
「ふ、富良野さんの忍法、凄いですよね」
もし意図的に泳がされているなら、これで『30階での事件』を見ていたって遠回しに伝わるはず……!
「ん……もしかして、また忍法が見たい?」
「見せてくれるんですか!?」
そりゃ見たい……というか、どうやって弾丸を避けているのか知りたいというか、わたしの『フォーサイト』も避けられるのか知りたいというか……。
「ん、澪は良い子だから、特別……」
そう言うと、富良野さんはポンと両手を合わせ、ゆっくりと開いた。
すると……カラフルな銀紙に包まれたハート型のチョコレートが、両手いっぱいに!?
「おおっーー!」
パチパチパチパチパチパチ!
思わず拍手してしまった!
だって、さっきまで何にもなかったのに、両手いっぱいのチョコレートだよ?
「フフ、これは良い娘の澪にあげる」
取り出した白いハンカチにチョコレートを包んで渡してくれる。
「ありがとう、富良野さん!」
本当は銃弾を避ける方の忍法を見たかったんだけど……富良野さんの反応を見る限り、わたしが覗き見していたことはバレてなさそう。
あんまりツッコむと、わたしの方がマズい(5人ヤっちゃってるし)ので、まあいいや。
「お腹を壊すから、一度に全部食べないでね……」
富良野さんが、まるで子供に言うように注意してくる。
本気でわたしのこと、小さな子供だと思ってるっぽくて少し心苦しい……。
「じゃあ、富良野さんも一緒に食べよ!」
わたしは富良野さんにチョコレートをおすそ分けして、仲良く一緒に食べました♪
と、そんなこんなで、富良野さんと仲良くなった貴重な1日となったのであった――。
あ、もちろん『忍法チョコレート』は、後でミアや筒井さん、運転手さんにもちゃんと渡したましたよ?
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午後には、東京の白鳥プロダクション本社ビルへ到着!
「うーん! よく寝たわ! うん、復活っ!」
ツインテールをふりふりしながら元気よくロビーへ入っていくミアに続き、わたし、筒井さん、富良野さんの順で応接室へ戻る。
「今回も大成功だったわね! ミア、お疲れさま!」
筒井さんが、冷えたジュースを渡しながら声を掛ける。
そういえばツアー中は喉のためか、ミアにはいつも常温のミネラルウォーターを渡していたな。
「環さんも、お疲れさま! 本当にいつも環さんには助けられるわね。今回も大事になる前に対処できて助かったわ。またお願いね?」
うん、確かに大活躍だった!
絶対、あの連中ってミアを営利誘拐しようとしていた犯罪者集団だよね。
全員が拳銃を持ってるとか、かなりヤバい連中だったけど、富良野さんがバッタバッタと殴り倒したんだよね! さすが忍者!
あー、5人はわたしがヤっちゃったけど、残りの4人は千桜関係の人が処理したのかしら? 現界だと色々ありそうだし、この件は深く関わらないようにするか……。
「私生活の方は龍鳳学園に入ってから落ちついたけど、学園の外はやっぱり色々あるわね……熱心なファンなのは分かるけど、結局ミアに迷惑をかけてるってことが分からないのかしら?」
話を聞いていくと、やっぱり筒井さんは30階での事件を知らないみたい……。
あっ、ミアが居るから言わないだけか!
そりゃそうだ。
筒井さんは全部知っていて、ミアに心配をかけないように、あえて『過激なファン』の話だけをしているのだろう。
マネージャーの気遣いってやつだな。
「富良野さん、いつもありがとう! あたし、男の人はちょっと苦手だから……いつも守ってくれて本当に助かるわ!」
「任せて。ミアは命に代えても私が守る」
ミアの感謝に、富良野さんは真剣な顔で答える。
うーん、確かに5人に囲まれて銃を乱射されるなんて、忍者か魔法少女じゃなかったら普通に死んでる状況だし、マジで命がけだわ。
忍者も楽じゃなさそうである――。
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ミアはまだお仕事が残っているので白鳥プロダクションに残り、わたしだけが龍鳳学園へ戻ることになった。
「澪、あたしは明日、学園に戻るから、いい子にしてるのよ?」
「はーい!」
ミアにも完全に子供扱いされてるけど、別に悪い気はしない。
むしろ、もっともっと甘やかして欲しい!
「ミアと澪ちゃんのお仕事の件で『雪月華風』さんから返事がきたんだけど、検討してくれるらしいわ。ユニットを組めるかどうかは分からないけど、悪くない反応だったから、近いうちに一緒にお仕事できると思うわよ? その時はよろしくね、澪ちゃん」
マジか!?
いやいや、千桜としては魔法少女を芸能人として推すなんて無理だろ。
『慎重に検討した結果、今回は見送らせていただくこととなりました』ってパターンとみた!
「はい、筒井さん。その時はよろしくお願いします!」
社交辞令としてそう言い、ニッコリ笑顔をサービスしておく。
ミアとの共演はないとしても、人間関係を円滑にしておいて損はない。
またミアのコンサートを無料で見させてくれるかもしれないし!
「ううっ、この笑顔の破壊力……本当に可愛いわ。ミアとユニット組めば絶対ヒット間違いないのに……澪ちゃんが三枝家の人間でさえなければ、例え相手が『雪月華風』であろうと、私の剛腕で白鳥プロダクションに引き抜くのに……」
何か、筒井さんの目つきがヤバくなってブツブツ言い始めた!?
うーん、認識阻害は効いているはずなんだけど、ミアのマネージャークラスだと効き目が弱いようだ。
「澪が良い子にしていたら、次に会った時、また忍法を見せてあげる」
最後に富良野さんが、腰をかがめて目線を合わせてそう言ってくれる。
わたしとしては銃弾を避ける方の忍法が見たいけど……まあ、お菓子を出す方だろうな。あれはあれで凄いんだけどね!
「ホント? うん、良い子にしてる! だからまた忍法見せてね!」
富良野さんは子供好きの優しい娘なので、夢を壊さないように子供っぽく喜んでおく。
「ふふふ、約束」
富良野さんと指切りげんまんすると、頭をナデナデしてくれた。
「澪ったら、いつの間に富良野さんと仲良くなったの? あたしも忍者好きの澪が喜ぶように、手品の勉強した方がいいかしら……?」
ミアが何かブツブツ言っているが、迎えの車が来たという連絡が入ったので、筒井さんと富良野さんへお別れのご挨拶をすることにした。
「今回は、ミアお姉ちゃんのコンサートツアーに連れていってくださって、ありがとうございます! 凄ごく勉強になりました! 筒井さん、富良野さん、色々ありがとうございます! お疲れさまでした!」
最後に筒井さんと富良野さんへお礼を言い、2000万円入りのジェラルミンケースを持って、迎えの車(千桜の生活支援課の)へ向かったのであった――。
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