64話 ミアのコンサートツアー4 黒星(ヘイシン)
ミアの名古屋コンサートは大盛況のうちに終了!
会場全体との一体感、高揚、身体全体で感じる痺れるようなサウンドと感情の嵐は、言葉で言い表せないほど凄かったよ!
そう、言葉では言い表せないのだ!
本当の意味でその凄さを理解したいのなら、実際にコンサートに来て自分自身で体験するしかない!
ミアから放たれた情熱のウェーブは、客席のファン達によって増幅され、再びミアへと戻ってくる。
その熱を受け取ったミアは、さらに大きな情熱へと変えて客席へ放つ――。
無限に循環する波のような感動のうねりがコンサートホールいっぱいに広がり、全員がミアと一体となり、全員がミアに魅了されていた――。
「すぅー、すぅー、すぅー」
そんなカリスマアイドル(?)であるミアも、コンサートで全力を出し切ったのか、シャワーを浴びるとすぐベッドへ潜り込み、今はわたしの隣のベッド(隣のベッドだよ?)でスヤスヤと寝息を立てている……。
「むにゃ……澪は……我が儘言わない……ん……むにゃぁ」
失礼な! わたしは我が儘なんて言ったことないぞ!?
寝言に怒ってもしょうがないので、ミアが蹴っ飛ばした布団をかけ直してあげる。
少し眉間にシワを寄せながら寝ているミアをあらためて見ると、とてもさっきまでステージの上で、あれほどパワフルに動き回り、歌い、踊っていたとは思えないほど、凄く小さい。
中1としては大きい方みたいだけど、成人の身体と比べるとやっぱり小さな身体だ。
こんな小さな身体(わたしよりは大きいけど)で、よく頑張った!
偉いぞミアお姉ちゃん!
ミアが起きないように頭をナデナデしてから、わたしも自分のベッドに潜り込んだのであった――。
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コンサートツアー3日目。
昼過ぎに名古屋から次の会場である大阪へ移動し、良さそうなホテルにチェックイン。
新幹線だと1時間ほどのはずなのだが、車だと3時間。でも、高級車なので座り心地は良いし、何より他人の目を気にしなくていいので楽チンである。
距離的には大して離れていないようなイメージなのだが、名古屋と大阪、意外に街の空気感が違うんだよね。臭いとか、雰囲気とか。気候的なものなんだろうか?
昼食後、会場へ移動して下見。
音響や照明のチェックをしてから、ミアは動線(ステージへの出ハケやパフォーマンス中の移動経路)の確認をして終了。
夕方にホテルへ戻り、眠そうなミアのために少し早めに夕食を済ませ、ちょっと休憩して、あっという間に20時――。
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「じゃあ、あたしは打ち合わせに行ってくるから、澪は眠かったら先に寝ちゃっていいわよ」
「はーい、いってらっしゃーい!」
「あっ、そうだ。富良野さんは、しばらく休憩に入るわ。廊下に警備の人はいるけど、『ヘンなの』が多いから気を付けなさい」
「はーい!」
ミアは明日の打ち合わせに行ってしまったので、わたしは1人でお留守番である。
ちなみに、この前みたいな過激なミアファンの襲撃(?)は結構多いようで、ミアは慣れているらしい。
過激とはいえ、ミアを害そうという意図はないので、扱いに困るらしいけど……。
さて、どうしよう?
お風呂はさっき入っちゃったし、名古屋からの移動中にミアと一緒に寝ちゃったので眠くもない。せっかく大坂まで来てるのに、いつもみたいに動画を見て過ごすってのもなぁ……ってことで、ホテル内で何か面白そうなものがないか調べてみる。
ホテルの案内を見ると、バーラウンジとかスパとかサウナとかあり興味をそそるんだけど……今のわたしじゃ入れないよねぇ? VRゲーセンとかあれば速攻行くんだけど、残念……。
しょうがないので飲み物でも買ってこようと部屋を出ると――おっ! 富良野さん発見!
「富良野さ……?」
富良野さんは、わたし達が宿泊している階からエレベーターを使わず階段を下りていく。
忍者って普段何やってるんだろ!?
心は少年のわたしは、好奇心が抑えきれず、富良野さんの尾行を開始!
忍法と呼んで良いレベルの富良野さんの察知能力で、すぐバレそうだけど……。
3階ほど降りた所で、階段からフロアへ向かった富良野さんを追って、わたしも廊下へ出る。
わたし達の部屋のある階と違って警備の人がいないし、静まり返って空調の音だけが響いており少し寂しい感じ。
「っ……!?」
廊下の角を曲がろうとした時、不意に怒鳴り声が響き、争うような音が聞こえてくる!?
「間違いあらへんわ。コイツ、星名ミアの護衛や。始末してこましたれ」
「オラァ! 死ねや!」
パシィィン!
金属を叩いたような乾いた破裂音が響く。
銃声のような、銃声じゃないような……何、この音!?
そーっと廊下の角から覗くと、どう見ても堅気とは思えない片手に拳銃を持った目出し帽に黒ジャージの男達5人と、富良野さんが戦ってる!?
マジ!?
えーーーっ!? なにコレ!? どうなってんの!?
あまりにも想定外の事態に状況が把握できずに、頭がグルグルする。
わたしが混乱している間にも、富良野さんは、撃つと同士討ちになるよう巧みに間合いを調整し、無手にもかかわらず一瞬で1人を沈めてしまった。さすが忍者!
パシィィン!
「近寄らすなや! 離れて撃て!」
パシィィン、パシィィン!
「でもコイツ、めっちゃ強ぇんやって……!」
4人から銃撃をものともせず富良野さんは2人目を倒すが、その隙に3人が距離を取って猛烈に撃ち始める。
パシィィン! パシィィン、パシィィン! パシィィン!
富良野さんは信じられないような動きで銃撃を躱しながら3人に近づこうとするが、3人は拳銃を乱射しながら後退し、廊下の角を曲がってしまった……。
何か躊躇なく発砲してるし、いや、どうなってんのコレ!?
目出し帽の連中、『星名ミアの護衛』って言ってたよね?
もしかしてミアを狙ってる!?
富良野さんが、コイツらをここに誘導した……?
理解が追いつかない頭で必死に考えるが……結局状況が分からない。
とりあえず、富良野さんの後を追って廊下の角を曲がると、倒れた男のそばにサプレッサー付きの拳銃が落ちているのを見つけた。
「拳銃……?」
ひざまずいてよく見る。
魔法少女になってから射撃動画を見るようになったので、ソレを知っていた。
トカレフのコピー品の54式拳銃……黒星と呼ばれる、その筋の人達ご用達の拳銃だ。
「おいガキィ、何さらしとんねん!」
振り向くと、さっきの連中と同じ、拳銃を手にして目出し帽に黒ジャージという格好の男が4人――。
「おいおい、コイツ……星名ミアちゃうんかい!」
「せやせや! ツインテやし間違いねぇわ!」
ヤバい。やっぱりミアを狙ってるみたいだ。
これ、わたしがミアじゃないってバレたら、撃たれそうだよね……。
この変身体だと撃たれたら死ぬ……どうすんだよ!?
「マジかいな? なんか思ったよりチビちゃう?」
「芸能人って、実物はテレビよりちっさく見えるらしいで」
「ほんなら確定やろ。コイツが星名ミアや」
合計4人。
1人はすぐ後ろ、1人は2mほど後ろ、残り2人は5mほど離れている。
全員拳銃は下ろしている。そして目の前には、装弾数8発の黒星……。
撃っちまうか?
「どうするよ? このまま連れてくか?」
「輸送用のキャリーケース、どっかに用意してたはずやろ……どこにあんねん?」
「っ……兄貴に確認してみるわ」
黒星の扱い方は動画サイトで見たので知ってる。
非力な変身体だが、拳銃を撃つくらいはできるだろう。
目標は、いつものターゲットに比べれば巨大といっていいほどで、『フォーサイト』無しでも外す気がしない。
わたしが撃ったことがバレたら面倒だけど……ん! 連中、監視カメラをスプレーで塗りつぶしてくれてるみたいだ!
かなーり命の危険を感じてるし、コレって正当防衛成立するよね?
うん、撃っちまおう!
目の前の黒星を取る。
思ったより細身のグリップで、この小さな身体でも問題なくホールドできそう。
そのままスライドを後退、ガシャッ、ジャキンと装填を完了。出来が悪いと聞いていたが、動作は思った以上にスムーズ。
肘を締め気味に黒星を構え、銃口を真後ろに立っていた男の頭へ向ける。この距離なら外しようがない。引き金を絞るとカチっとシアーが外れる。
パシィィン!
さっき聞いたのと同じ発砲音。
プシュっとかいう感じかと思ったら、かなり音がでかい。サプレッサー仕事しろと言いたい。
黒星、反動はあるが地獄の殺戮者に比べれば大したことはない。これくらいなら、いい精度で連射できそう。
男の眉間に着弾。
ポッと穴が空き、後頭部から血と脳症を吹き出すが、頭がい骨は健在。
当たれば血煙になって頭部ごと粉砕する地獄の殺戮者に比べると、豆鉄砲といっていい慎ましい威力だが、殺傷能力はあるようだ……吐き出された薬莢が宙を舞うのを見ながらそんなことを思う。
次に呆然としてる後ろの男の眉間に照準、即発砲!
パシィィン!
今度も同じように眉間に穴が空き、後頭部から血と脳症をまき散らす。
粗悪品だと聞いていたが、実際に撃ってみるとかなりいい感じ。
反動は確実にグリップすることで上手く処理できるし、発射機構もスムーズに動作、照準も素晴らしい!
黒星バカにしてるやつは撃ったことないんじゃないか?
銃の特性は把握。
5mほど離れた右の方へを狙う。ようやく事態を把握したのか、目出し帽から覗く目が見開いている……眉間に照準、発砲!
パシィィン!
「なんやオマ……」
続けて、ようやく銃を構えようとしている左側の男の眉間のあたりへ黒星を向け、照準……発砲!
パシィィン!
立ち上る濃厚な血の香りがアドレナリンを分泌させはじめるころには、4人を倒し戦闘はあっけなく終了。
素人のようで助かった。相手が魔法少女だったら、即座に撃ち返されていただろう……。
周囲を見渡すが、あれだけの発砲音がしたはずなのに誰も来ない。
こういう事態まで想定して、富良野さんが、わざわざ誰もいないフロアにおびき出したのかもしれない?
とりあえず、誰も来ないのは有難い。
この状況は『仲間割れで勝手にやり合った』ように見せかけるのが一番だと判断。
富良野さんに倒されて気絶している男の手に、わたしの指紋を拭いてから黒星を握らせ、倒れている別の男の方向へ向けて発砲し、床に弾痕を作る。
さらに、別の倒れている男が握っていた拳銃をそのまま気絶している男へ向けて発砲。こちらも『撃ち返した痕跡』を残す。
これで、『内部で撃ち合いになって、全員が相打ちになった』ように見えるはずだ。
不審な点はあるかもしれないが、少なくとも、わたしが関わった痕跡は残らない。
目出し帽で顔が見えなかったせいか、正直、人間を撃ったという実感がない。
完全なバケモノである魔塊獣や、見た目だけは可愛いが殺意満々の魔法騎士を撃った時と何も変わらない。
うーん、よく考えると、わたしって結構ヤバいヤツのような気がしてきた。いや、ただ単に戦闘に慣れてきただけ? どうだろう?
まあ、魔法少女にされるようなヤツが、まともなわけないよな?
うん、魔法少女としては普通だよ?
|良心が痛まなかったこと《・・・・・・・・・・・》に、少しのショックと良心の痛みを感じつつ立ち去ろうとすると……倒れてる男の耳からわずかに音がしているのに気づいた。
インカム……みたいなのをしているようだ。そういえば、『兄貴に聞いてみる』みたいなことを言っていたのを思い出す。
富良野さんの状況が分かるかもと、目出し帽に手を入れて外れかけていたイヤホンみたいなのを取り出す――。
『ま、待ってくれや! 助けてぇな……! じ、自首する! するから! ぐあっ……げほっ……ぐ、ぐぅ……!』
それだけ聞こえ、そして静かになる――これって富良野さんがやっつけたってことだよね!?
4人から撃たれた弾丸を避けながら近接戦闘をしかけるくらいだから、無事だとは思ってたけど、本当によかった! さすが忍者である!
今度こそ、わたしは現場からコソコソと逃げ出したのであった――。
あ、もちろんインカムは入念に拭いてから返しておきました!
ミアのコンサートツアー4 黒星 暗躍する組織編へ続く!
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