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63話 ミアのコンサートツアー3 忍法!

「ゴミャン~。ミュアおええしゃん、ゴミャンなしゃい~」


 ミアと富良野さんと、3人一緒にホテルのレストランに来ているのだが、朝からずっとご機嫌斜めのミアにほっぺをムニュムニュされている。

 理由は完全にわたしのせいなので、ミアのなすがままになって平謝りする。


「あたしが澪のために、コンサートの心得を詳しく教えてあげてたってのに、気持ちよさそうにグースカ寝ちゃうってどういうこと? 後で困るのは澪なのよ!」


 いや、わたしはコンサートとかしないから困らないと思うよ?

 と強く思うのだが、プンスカ怒っているミアに逆らえるわけもなく、ただ必死に謝るのだった……。


「ゴミャンなしゃい~。しょのね、ミュアおええしゃんの声を聴いてたら、何か安心しゅて、しゅごく眠くなっちゃったの……本当にゴミャンなしゃい~」


 いや、最初はちゃんと聞いてたんだよ?

 でも、だんだんとミアの声が子守歌に聞こえてきて……気づいたらすっかり熟睡してしまっていたのだ。


「そ、そう……澪は、あたしの声が安心するんだ。ま、まあ、それならしょうがないわね。今回だけは許してあげるから、次はちゃんとあたしの話を聞くのよ? 澪のために言ってるんだからね?」


 ようやくミアがほっぺをムニュムニュするのをやめてくれる。


「はーい!」


 わたしが悪かったので、ホテルのジムで朝の運動をしてここに来るまで、ずーっとプンスカ怒るミアのお説教を黙って聞いていたのだが……黙っていると永遠にお説教され続けるのが分かったので、次からは早めにミアをおだてて機嫌を取ろうと心に決める。


「おはよう、みんな早いわね」


 すでにスーツに着替えている筒井さんがレストランに入ってくる。まだ時間が早いからか、他の主要スタッフ(メイク・衣装担当)の人達と一緒ではなく1人。


 ちなみに富良野さんは、朝、部屋を出てからこのレストランに来るまでずっと護衛を続けてくれていて、今も周囲に視線を飛ばし警戒している。


 制服の警備員もいるのだが、富良野さんはシャワー室にも一緒に入れるし、『こういうボディーガードも必要』と実感した。


「ミアは今日もジムに行ってきたの? コンサート当日くらい、お休みすればいいのに」


「ルーティンやめると逆に調子悪くなるもの。澪も一緒だったから楽しかったわよ?」


 ウソだね!

 ランニングマシンで走ってる時もずっとお説教してたくせに!

 よく走りながらお説教できるなって感心したわ!


「あら、澪ちゃんも一緒だったの?」


「はい、龍鳳学園でも毎朝、ミアお姉ちゃんと一緒にトレーニングしてますから」


 ミアは目覚ましもセットしていないのに、わたしより先に起きて身支度を整えており、危うくミアに着替えさせられる(・・・・・・・・)ところだったのだ。

 わたしの目覚ましが鳴るのが3分遅かったらヤバかった!


 筒井さんが同じテーブルに座りオーダーすると、わたし達の朝食が運ばれてくる。


 ミアは事前にお願いしていた、常温水と梅干し入りの白粥(おかゆ)、野菜スープ、ハチミツ入りヨーグルトとバナナというメニュー。喉に良いらしい。


 おまけ扱いのわたしはミアと同じメニューで、富良野さんは焼き鮭、味噌汁、白米、納豆、緑茶という忍者っぽい(?)和風なオーダー。食べながらも周囲を警戒してくれている。


「一応、今日のスケジュールの確認をしておくわね。会場スタッフは8時に会場入りしてるけど、私達は10時にホテルを出て会場へ向かうわ。12時からサウンドチェック、13時から昼食、14時から15時半までが通しリハーサル、16時半に開場、18時から開演よ。まあ、いつも通りね」


 ほほう。そんな感じなんだ。

 結構前から会場に入ってるんだな。もっとギリギリだと思ってたわ。


 前世ぶりの白粥(おかゆ)をのんびり食べながらそんなことを考えていると、富良野さんはもう食べ終わっていた!?

 さすが忍者(?)である?


 足りないかなと思ったら、意外にお腹いっぱいになった。こういう簡単な食事もたまにはいいな。日本人って感じがするわ……と、そんなこんなで会場へ――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 10時ちょっと過ぎ、会場のスタッフ専用駐車場へ車を停めると、制服姿の警備員が周囲をガードしてくれている。わたし達は先頭で危険をチェックしてくれる富良野さんに続いて裏口へと向かう。


 ミアはツインテールを解いてキャップを深めに被り、遠くからだとミアだと分からないように変装(?)。

 わたしは筒井さんが貸してくれたツインテール専用の穴あきキャップ(!)を被っている。

 遠くから見たらミアに見えるんじゃないか? ミアの影武者(ダブル)っぽい感じ?


 楽屋へと続く会場の廊下の要所要所に警備員が配置され、ミアとわたし達が通る時は一時的に封鎖して一般スタッフからも守っているようだ。過激なファンが問題を起こしたと言っていたから、結構厳重に警備しているのかも?


 何だかVIPになったようで気分が高揚してくる。

 心の太鼓がトントコって鳴ってる感じ!


 富良野さんが安全をチェックしてから、ミアと一緒に楽屋へ入り、ミアがメイクとヘアセットされるのを後ろで眺める。


 スッピンでも可愛いのに、メイクとヘアセットが終わると輝くほど可愛くなった!

 本物のオーラを感じるキュートさに、さすが芸能人と感心することしきりである!


 ステージで、ミアがマイクとイヤモニ(インイヤーモニター:ライブなどで使うプロ仕様イヤホン)の調整をするのを客席で応援(?)し、昼食の後、通しリハーサルまで目まぐるしくスケジュールが進行していく――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 15時半、予定時間通りに通しリハーサルが終わり、控室で一旦休憩。

 富良野さんは部屋の前で警備しており、控室にはミアとわたしの2人だけなので、ミアもさっきまでのステージと違い、ちょっとだけダラダラモード。


 いや、正直ミアのこと甘く見てたわ。

 客席から通しリハ見たんだけど、とても中1の女の子とは思えないオーラがあった。


 ステージで照明の中で歌うミアは、『アイドルの星名ミア』だった。本当に真面目にアイドルやってるってことが痛いほど分かって、中身がアレなわたしとしては妙に眩しく見えた。


 その後、客席のわたしを見つけて、ツインテールをふりふり揺らして手を振ってきた時は、いつもの『ミアお姉ちゃん』に戻ってたけど……。


「凄かったよ、ミアお姉ちゃん! 本当に、本当に、最高のアイドルだよ! ミアお姉ちゃんがステージで歌ってる姿見たら、背筋がゾクってきて鳥肌たっちゃった! 凄っごくカッコ良かった!」


 ソファーに座ってミネラルウォーターを飲んでいるミアに正直な感想を言うと、ミアは自慢げな表情を浮かべて胸を反らした。


「ふふふっ、ようやく澪にも、あたしの凄さが分かったようね? 澪は、あたしの隣に立つんだから、精進しなさい!」


 ツインテールがふりふりしている。

 ミアは上機嫌だ!


 通しリハの後、ちょっとピリピリしているように見えたミアが、いつものミアに戻る。

 開演に向けてテンションを上げていたのだとしたら邪魔しちゃったことになるけど、まあ、あまり気にしないでいこう……。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 開演時間が近づいてきたので控室を出て、開演前の準備でスタッフが慌ただしく行き交う廊下を楽屋へと向かう。もちろん、要所には警備員が立ち、富良野さんが先導して危険は確認済み。


 ミアと2人でノンビリできた控室と違い、楽屋は筒井さんの他にも、メイクさん、衣装さん、ヘアメイクさんなどのスタッフが大勢出入りするので、今回は富良野さんも一緒に楽屋入りして警備してもらう。


 男性スタッフもいたので、着替えの時はどうするんだろうと思ったら、着替える時は女性スタッフのみにするとのこと。

 ああ、もちろんわたしはOKだよ。生物学上、完全に女だし! 女だし!!


 ちなみに、筒井さんの他に常時6~10人くらいの人達が出入りしているのだが、わたしに注目する人は1人もいない。

 忙しいのか、認識阻害の効果なのか分からないが、妙なことにならずに助かった。


 わたしはスタッフって結構多いんだなぁという、なんともありふれた感想を抱きながら、ミアのツインテールが手入れされていく様子を眺めていると――。


「静かに……!」


 突然、富良野さんが片手をあげて楽屋のスタッフ達に注意を促すと、楽屋の入り口の方へ向かっていく。


 楽屋内にいたスタッフ全員の視線が注がれる中、ノックもなくゆっくりとドアノブが回っていく……立っていたのは、妙な紙袋を抱えた太った中年男性。


「え、ああっ!?」


 スタッフ衣装にソックリなTシャツと腕章という姿だが、全員の視線を受けての不審な動作が小細工を台無しにしてしまっていた。


 富良野さんが、忍者のように音もなくツツーっと滑るように前に出ていき、楽屋に入る前に男性の手首をつかむ。


「ぼ、ボクはミアちゃんにプレゼントを……ああっ!?」


「ここは、関係者以外立ち入り禁止区域です。ご退室を……」


「だ、だからプレ……い、痛っ……ううっ!」


 富良野さんは特に力を込めているようには見えないが、中年男性は声を上げて脂汗を流し始める。忍者っぽいというか、合気道の達人っぽい感じ!


「不法侵入で訴えてもいいのですよ? ご退室を……」


「わ、分かった! 分かったから!」


 富良野さんは、騒ぎを聞いて駆け付けた警備員に中年男性を引き渡すと、何事もなかったかのように楽屋の扉を閉める。


「はぁ、前の件があってから結構警備を強化したのに、よくここまで来たわね」


 ミアは呆れたように溜め息をつく。

 特に動揺した様子はなく、ちょっと安心。コンサートとかって、やっぱりメンタル重要じゃない? よく知らないけど。


「ごめんなさい。私の不手際だわ。警備体制を見直すわね」


 筒井さんが険しい表情でミアに謝罪する。


 しかし、富良野さんはどうやってドアを開ける前に不審者に気づいたんだろう!?

 忍術!? 忍法!? やっぱり使える!?


「あ、あの! 富良野さんはどうやって、あの人が来るのを察知したんですか? もしかして、忍法!? 忍法なんですか!?」


 心は少年のわたしがワクワクして聞くと。


「廊下の足音のリズムと呼吸の乱れ……ゴメン、忍法じゃない……」


 また富良野さんがションボリしてしまった!


 でも、廊下の足音とか呼吸の音を聞けるって凄くね!?

 もう、特殊能力って言っていいよ! わたしが忍法って認定するよ!


「ドアが閉まっているのに、廊下の足音のリズムとか、呼吸の乱れが分かるなんて、それもう忍法だよ! うん! わたしが忍法って認定する!」


 いや、だってマジで凄いじゃん!

 魔法少女ならともかく、普通の人間には絶対できないよ? もう、忍法って言ってもいいよ! 『忍法聞き耳の術』とかさ!


「ふふっ、澪は優しい子」


 富良野さんが頭の撫でてくる。


「はぁ、澪は漫画の読み過ぎよね、どうしたものかしら?」


 後ろでわたし達の話を聞いていたミアがため息をつきながら呟く。


「サナトリウムでずっと漫画を読んでいたのでしょ? 影響されるのは、しょうがないわ。ユニットを組むんだし、これからミアが色々教えてあげればいいじゃない」


「そうね。さすがに今のままだと、常識が無さすぎて本人が困りそうだし。あたしが色々教えこんであげるわ!」


 いや、聞こえてるからね!?

 まあ、魔法少女の存在を知らなければ、そう思うよね。わたしも『前』はそうだったし。

 あと、ユニットは組まない!


 と、そんなこんなで、過激なファンの乱入は、忍者・富良野さんが解決してくれたのであった――。


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