61話 ミアのコンサートツアー1 出発!
勲章授与式終了後、鏡界・横浜Y08ベース――。
式が終わり、諸々の手続きが済んだ瞬間、ダッシュで転移装置ルームへ駆け込み、横浜Y08ベースへ戻ってくる。
そう、ミアのコンサートツアーにお供するために現金を用意する必要があり、カリアさんに相談しに戻ってきたのだが……。
「すいませんカリアさん、帰るところを……」
「リリナちゃんのためなら、お安い御用よ」
転移装置ルームから生活安全課へ向かっていると、ちょうど退勤しようとしていたカリアさんにバッタリ出会い、事情を話すと、わざわざわたしのために生活安全課へ戻ってくれたのだ。
「それで、お友達のコンサートツアーに行くのに、現金とスマホと私服が必要なのね? スマホと私服は届けるとして、問題は現金ね。龍鳳学園は、毎月学園から支給される30万の中に生活費がインクルードされているのよ。1人暮らしの魔法少女は現金振り込みだから、前借りできないこともないんだけど……」
1人暮らししてる魔法少女いるんだ!?
わたしも1人暮らしが……あ、いや、龍鳳学園のレストランで食事できるという幸せは、何物にも代えがたいな。やっぱり寮でいいわ!
「リリナちゃんの場合でも、時間さえあれば何とかなると思うけど……明日の昼までに必要なのよね? 今は連休中だから、お金関係を明日までに、っていうのは難しいわね……」
まあ、普通の組織なら急に『金くれ』って言われても無理だよね。
はい、そこらへんは重々承知しております……。
これは借金じゃなくて前借りだから、わたしの倫理観的にはセーフね!
ミアに泣きついてお金借りるよりいいでしょ?
「ちなみに、いくら必要なの?」
「5万……10万くらいあった方がいいかなぁ? あ、ムリなら5万でも……」
ミアは『スマホだけ持ってくれば他は全部用意する』って言ってくれたけど、さすがにノーマネーはマズいだろう。
「明日の昼までに10万ね? それくらいなら私が用意してもいいんだけど、明日から私、お休みなのよ。……そうだ! せっかく『三枝』を名乗ってるんだから、三枝剛造氏に協力してもらいましょ! 明日の昼までに現金で10万届けてもらうわ!」
うーん、そんなに三枝剛造氏を軽く使っちゃっていいのだろうか?
「へーき、へーき。三枝剛造氏にとって10万なんてはした金よ。リリナちゃんは借金嫌いだから、私に借りるよりいいでしょ?」
それを言われると弱い……。
確かにくれるなら借金じゃないからいいんだけど……。
「むしろ、剛造氏は千桜に協力できて喜ぶんじゃないかしら。連休明けたら、私から剛造氏にお礼言っとくから大丈夫よ」
うーん……カリアさんのお休みの邪魔するのも悪いし、カリアさんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろ……。
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翌日、12時30分、龍鳳学園特別クラス地下駐車場、面会室――。
「日本円の現金をご所望とのこと。番号不揃いの流通済み1万円札で10万ドル分、現在の為替レートの端数を切り上げ、合計2000万円をご用意いたしました。ご確認くださいませ」
『お前の名前、セバスチャンだろ!』と突っ込みたくなるかのような執事執事したダークスーツの品の良い老紳士が、ボディーガードの開けた小さなジェラルミン製の手提げケースの中を示すと、再帯封された流通済みの1万円札の束が20個入っている――。
いや、確かに10万って頼んだけどさ、10万円でいいんだよ!
ていうか、2000万円って、わたしの魂、何個分なんだよぉーーーーーーっ!!
話は少し前に遡る――。
龍鳳学園の黒服達が警備する地下駐車場の入り口で、三枝家の使いの人を待っていると、黒塗りにスモークシールドという、自分が車を運転していたら絶対に近づきたくないタイプの高級車がスーっと入ってくる。
ちなみに、私服やとスマホは、休暇中のカリアさんの代わりの来た生活支援課の女の子から旅行用のスーツケースごと受け取り済み。
白いシルクブラウスに桜色の薄手カーディガン、アイボリーのミモレ丈スカートという、いかにもお嬢様って感じの私服に着替え済みで、後はサクっと現金を受け取ってミアの車に同乗してコンサートツアーに出発する予定である。
高級車から出てきたのは、ダークスーツのいかにも『執事です』って感じの、品のいい口ひげを蓄えた老紳士。
わたしの姿を見つけると、多分、認識阻害のあまり効かないタイプなのだろう……驚いたように目を見開くが、すぐに表情を戻す。
一瞬、例のポスター売りの人みたいになったらどうしようと焦ったが、普通で良かった。認識阻害の影響には個人差があるっていうからな。
「私、三枝家家令の天野にございます。理奈さま、お申し付けのお品をお持ちいたしました。お部屋をご用意しておりますので、詳しくはそちらにてご説明申し上げます――」
天野さんについていくと、わたしの後ろからボディーガードっぽい2人の屈強な身体つきのダークスーツの男達がついてくる。
で、連れてこられたのは、天野さんが予約していた地下駐車場の奥にある面会者と会うための個室。テーブルと革張りのソファーの置かれた豪華な応接室といった作りで、さすが龍鳳学園の部屋って感じ。
で、話は戻る――。
「日本円の現金をご所望とのこと。番号不揃いの流通済み1万円札で10万ドル分、現在の為替レートの端数を切り上げ、合計2000万円をご用意いたしました。ご確認くださいませ」
ボディーガードっぽいダークスーツの男の1人が、テーブルの上に置かれたジェラルミンケースを開けると、中には確かに再帯封された流通済みの1万円札の束が20個入っている。
いや、どうすんのよコレ?
受け取っちゃっていいの? 後で千桜に文句言われない?
つーか、コレ持ったままじゃ部屋にも戻れないし、この2000万円入りのジェラルミンケース持ってミアのコンサートツアーいくの!?
「えーと、確かに2000万円ありますね……」
いや、そうとしか答えられないでしょ!?
「領収書も返済も不要なものです。それでは、剛造からの言付をお伝えします。『追加が必要であれば、いつでもご連絡ください。皆様のお力になれる事は三枝の誉です。皆様にもよろしくお伝えください』とのことで、ございます」
『皆様』っていうのは千桜のことだろうな。天野さんは、玲於くんと違ってある程度事情を知っているようだ。
剛造氏はカリアさんの言った通り喜んでるっぽいけど……想定の200倍の金額なんですけど!
「分かりました。感謝します。剛造氏に、よろしくお伝えください」
千桜の看板を背負ってる以上、ここで動揺するわけにはいかない……などというサラリーマン根性がでて、わたしは動揺を抑えながら微笑を浮かべて天野さんに軽く頭を下げる。
ここで断ると角が立つので、カリアさんに相談して、連休明けにでも千桜を通じて返してもらおう。その間、必要な金額は使わせてもらうけどね!
「それでは、我々は失礼させていただきます。理奈さまには、よき休日を」
優雅に一礼して家令の天野さんとボディーガードの3人が去った後には、2000万円入りのジェラルミンケースが残されていたのであった――。
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「それで、2千万もの現ナマを持ってきちゃったの!? 澪って、ホント、世間知らずの箱入りお嬢さまねぇ……さすがに、ちょっと頭が痛いわ」
ミアを迎えに来た白い高級車の後部座席で、抱えていたジェラルミンケース(ガッツリ重い!)のことを聞かれので事情を説明すると、ミアが呆れたようにジト目になる。
「ミアお姉ちゃん、なんかゴメン……」
だってコレ持って龍鳳学園の部屋には戻れないし、持ってくるしかないじゃない!
「はぁぁ……澪のものは全部あたしの方で準備するから大丈夫よ。今から本社ビルに寄るから、現金を預けていきなさい!」
「でも、お小遣いとか持ってないよ?」
「お小遣い2千万もいらないでしょ! あたしのお小遣いから、いくらかあげるから、それで我慢しなさい!」
「えっ、お爺さまがくれたお金から出すよ?」
「帯封切ってバラバラにしたら後で確認するの面倒でしょ。全部あたしに任せておけばいいから、澪は景色でも見てなさい!」
「ありがとう、ミアお姉ちゃん」
悪いことはしていないはずなのに、何だかダメな子になったみたいでちょっと悲しい。
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移動の途中、ミアの所属する白鳥プロダクションの本社ビルで降りて、2千万円入りのジェラルミンケースを預かってもらうことにした。
「初めまして、澪ちゃん……で、いいのかな? それとも理奈ちゃんの方がいい?」
そう声をかけてきたのは、メガネに黒髪ストレートボブの、二十代後半くらいの『ヤリ手感』あふれる美女。
「面倒なので、ミアお姉ちゃんと同じように、白銀澪でお願いします」
ミアから本名を聞いていたのか、確認してくる。
魔法少女名、人間名、芸名、学園名(?)と、紛らわしいことこの上ない。
3つも4つも名前があると、本当に、本当ーーーーーーに、色々面倒なんだよね!
「私、ミアのマネージャーの筒井楓よ。よろしくね!」
「ご丁寧にありがとうございます。わたくし、雪月華風の四樹莉里と……」
反射的に両手で筒井さんの名刺を受け取り、慌てて自分の名刺を取り出す。
こういう条件反射は死んでも直らないなぁと、何となく感動していると――気づく。
いや、今は白銀澪だわ!
「えっと、一応、名刺をお渡ししておきますね。芸名が四樹莉里で、学園名(?)が白銀澪で、本名(本名じゃないけど)が三枝理奈です。共通で澪でお願いします。何か訳わからなくてすいません……」
「あははは! ミアに聞いていたけど、面白い娘ね! それに……」
筒井さんがメガネの縁に指をかけ、ジィーーーーッと見つめてくる。
「本当に……本当に凄っごく可愛いわ。お人形さんみたい! ミアの妹ってユニット組んで売り出せば大ヒット間違いないわ!」
まあ、実際マギドールですし、おすし……。
「ううーーーーっ! くやしいけど、雪月華風所属でバックが三枝家とか、天下の白鳥プロダクションといえ、さすがに恐ろし過ぎて手が出せないわね……」
筒井さんが悔しそうな表情を浮かべる。
雪月華風と三枝のタッグ、強力だな、オイ。
「でも、澪は三枝本家のお気に入りだから、澪のワガママなら聞いてくれそうなのよ。今、澪に頼んでもらってるから、上手くいけば夏には一緒にユニット組めるわよ?」
「本当、ミアちゃん!」
筒井さんのメガネがキラーンと光り、ノートパソコンを開いて……スケジュールを調整しはじめた!?
いやいや、頼んでねーから!
あっ! いや、そういえば、頼んでみるって言っちゃったっけ……?
さ、さすがに暗殺のリスクを許容するのは、危険が危なすぎるのでダメです!
「あ、あの、あんまり表に出るような仕事は難しいかな……?」
「お小遣いにポンと2千万円くれるくらい澪に甘いんだから、澪が本気で頼めば大丈夫よ! 問題は澪ね。澪があんまりヤル気なさそうだから、今回は、どんなに素晴らしい仕事なのか見せるために一緒に連れて来たのよ!」
そ、そうなんだ……。
ゴメン。でもダメなんだ、目立ったら暗殺されちゃうからさ……。
「だいたい、あのポスターで宗教法人ができるくらい信者が集まってるのに、今さら『表に出るような仕事は……』じゃないわよ! もう固定ファンがついてるんだから、あきらめてデビューしなさい!」
ううっ、やーめーてーーー!!!
「少し考えさせてください……」
「まあ、いいわ。あたしのコンサートを見れば、澪もデビューしたくなるに決まってる。このツアーで、澪をジックリ教育してあげるわ!」
そんなこんなで、ミアのゴールデンウィークコンサートツアーが始まったのであった――。
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