60話 勲章授与式
鏡界、新宿ベース内――。
今日は、お待ちかねの勲章授与式である。
カリアさんから軽く式典のプログラム説明を受けたのだが、わたしの知っている現界の仰々しい式典とは違い、かなーり簡素なものだった。
こんなので大丈夫なのかと心配になって聞いてみたら、『魔法少女は、面倒くさいこと嫌いだからねぇ』と返された……ああ、魔法少女は、そうだよねと納得。
出席者は、受賞者の5人に、統合総括会議メンバーの12人のAAAランク魔法少女、そして千桜通信の収録スタッフだけというので、そこまで緊張しなくてすみそうだ。
ちなみに今のわたしは、いつもの魔法少女衣装の上に、黒と銀の地に金と銀の装飾、裏地はワインレッドの礼装マントという服装。
このマント、ちょっと中二っぽいけど、わたしの軍服風の魔法少女衣装にピッタリで、鏡の前で見惚れちゃうくらいカッコいいのよ!
どうせ汚れても綺麗になる仕様だから普段使いしちゃおうかな。
貰ったものだし、好きにしていいよね?
などと、颯爽とカッコいいマントをなびかせながら指定された控室へ向かって――っ!?
突然腕を掴まれ、途中の部屋へと連れ込まれる!?
「なっ!?」
こんな所で襲われるとは想定しておらず、スキップしながら浮かれていた自分を後悔しつつジタバタと身体を動かす……。
「リリナ、わたしよ、わたし。エルフィーネよ!」
「あ、えっ、エルフィーネさん? どうしたんですか?」
確かに、わたしと同じ黒と銀の礼装マントを纏い、黄金色の髪を王冠編みにしたエルフィーネさんだ。
「リリナが控室に行く前に、どうしても伝えておかなきゃいけないことがあって待ってたの」
いつも優しげなエルフィーネさんが、ひどく真剣な表情をしている。
何か大変なことが起こったのだと、すぐに理解できた。
「何があったんですか?」
「リリナちゃん、落ち着いて聞いてね。実は……」
「あ! リリナちゃんとエルフィーネちゃん、みーーーーっけ!」
いつの間にかドアを開けたラティーナが、嬉しそうに叫ぶ。
ラティーナも迷彩柄の衣装の上に黒と銀の礼装マントという式典用の姿。浅緑の髪と褐色肌に迷彩柄の衣装、そして礼装マントが意外にマッチしている。
「シルヴァちゃんとミレイユちゃんは、もう控室で待ってるよ! 2人も早く行こ!」
「ああ……」
いつものようにニコニコしながら言うラティーナの言葉に、なぜかエルフィーネさんがガックリと肩を落とした?
「? エルフィーネさん?」
「ほら! 早く行こ!」
「………………」
「??」
なぜか肩を落としたままのエルフィーネさんと、『??』なわたしは、ニコニコ顔のラティーナに背中を押され、控室へ向かったのであった。
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ラティーナに背中をグイグイ押されながら、エルフィーネさんと共に20平米ほどの控室へ入ると、わたし達と同じ黒銀の礼装マントを羽織ったシルヴァさんとミレイユさんが待っていた。
5人お揃いの礼装マント姿は、まるで戦隊モノの集合シーンのようで、思わずキメポーズを取りたくなるほどカッコいい。
エルフィーネさんの言葉が気になって、控室の中を注意深く観察する。
わたし達5人のほかには、スタッフの腕章を付けた魔法少女が2人いるだけ。
『フォーサイト』が反応することもなく、『?』のまま、とりあえずシルヴァさんとミレイユさんに挨拶することにした。
「シルヴァさん、ミレイユさん、こないだぶり! 早いですね」
指定時間の10分前に全員集合。やっぱりこうでなくちゃね。
「ああ、うん。リリナも早いね」
「よ、よう」
? 2人とも、何だか歯切れが悪い。
いつも通りなのはニコニコ顔のラティーナだけ。
エルフィーネさんも妙に落ち着かない様子だし、みんなどうしたんだ?
「これでボクの彼女達が全員集まったね!」
えー、まだその設定続いてたの!?
そういえば、みんなと最後に話した時、わたしだけ逃げ出したんだった。
ラティーナをどう扱うべきかとシルヴァさんとミレイユさんを見ると……2人ともフイッと視線を逸らした!?
ラティーナは2人の間に立ち、自然な動作で腰に腕を回す。
えっ、シルヴァさんとミレイユさん、なんでちょっと顔赤くなってるの!?
ま、まさか……っ!?
慌てて後ろのエルフィーネさんを見ると、顔の前で手を左右に振って『わたしは違う!』と全力アピールしてくる。
「いったい何が……?」
「あの2人は、淫獣の餌食になってしまったのよ……」
なん……だと……っ?
もう一度2人を見ると、そこには下世話だが凛々しかったシルヴァさんも、悪ノリ好きなミレイユさんもいなかった。
トロンとした瞳でウットリとラティーナを見つめるメスの顔をした乙女が2人……!?
ラティーナ達に背を向け、コソコソ話を続ける。
「何があったんですか?」
「ちょっと前、シルヴァと話したんだけど……どうやらあの2人、わたし達が行った後、断り切れなくて一度だけって約束で淫獣と試してみたらしいのよ」
ほほう……。
「それだけで、あんなになるんですか? 何か精神系の魔法を使ったとかじゃないですか?」
「強力な魔法耐性を持つ魔法少女にそんなチャチなものは効かないわよ。せいぜい幻覚を見せるくらいだけど、それだってよくて数秒ってところよ」
「じゃあ、あの2人は……」
「そうよ。純粋に淫獣のテクニックであんな風になってしまったの。2人だけの時は、まだまともなんだけど、淫獣が一緒だと……アノ状態よ」
チラリと視線を戻すと、シルヴァさんとミレイユさんは、完全に発情したメス顔でラティーナを見つめている。
「あの時、わたしが逃げ出したばっかりに、シルヴァさんとミレイユさんが、あんな姿に……」
「わたしにも責任があるわ。リリナちゃんのすぐ後に、わたしも2人を置いて逃げちゃったから……っ!」
チラリと視線を戻すと、上気してトロンとした表情の2人を両腕に抱えたラティーナが、ニコニコ笑いながら近づいてくる。
事情を知った後だと、ちょっとしたホラーである。
「リリナちゃん、気をつけて! 淫獣は、わたし達を狙っているわ!」
「狙ってるなんて酷いよエルフィーネちゃん、キミたち全員ボクの彼女でしょ!」
ラティーナはいつものようにニコニコしている。
なんで勲章授与式に来ただけなのに、こんな訳の分からん修羅場みたなのに巻き込まれなきゃいけないんだよ!?
いや、運が悪いのはいつものこと。
最後まであきらめるな、考えろ、考えろ! どうする? どうする?
「そ、その、わ、わたし、心に決めた人がいるんで……」
何を決めたかは言ってないのでウソじゃない!
「酷い、リリナちゃん、浮気したの?」
いや、元から付き合ってねーし!
宇宙誕生から今まで、わたしとラティーナが付き合った事実なんて存在しねーから!
ただ否定してなかっただけだから!
「でも……リリナちゃんが本当にその人のことを愛してるんなら、ボクは恋人同士を引き裂くなんて酷いことはしないよ。その代わり……リリナちゃんの愛が本物なのか、試させてもらうからね?」
「……………………」
「ダメよ、リリナちゃん! 1回試したら、そこで人生終了よ!」
エルフィーネさんは口では応援してるけど、わたしを盾にしてラティーナから隠れてる!?
考えろ、考えろ、考えろ! どうする? どうする? どうすれば逃げられる?
「ス、スタッフゥーー!! 全員揃ってるんで、そろそろ打ち合わせ始めちゃってくださーーい!!」
わたしの小さな灰色の脳細胞が告げた回答は、イベントスタッフの介入だった。
いや、咄嗟に思いつく方法なんて、こんなもんだって!
式典終わったら即トンズラして、何とか逃げ切ってやる!
「えっと、本当に大丈夫っスか?」
「終わるまで待っててもいいっスよ?」
スタッフの腕章を付けた魔法少女の2人が、『面白かったのにもう終わり?』みたいな表情で聞いてくるのがムカつく!
「はい、お願いします! リリナちゃん、ナイス!」
スタッフを手招きしながらエルフィーネさんが明るい声を上げる。
いや、わたしを盾にしたことは忘れねーからな!
まあ、魔法少女なんてそんなもんだよね。わたしでも多分同じことするし!
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会場は、かなり大きめの多目的ホール……なのだが、何というか映画のセットのようで、実際に使用しているのは極一部だけだ。
画面映えだけを考えたような、画角内だけを計算して飾り付けられたステージの周囲に、大型三脚にセットされた3台のカメラが配置されている。
ステージの上には、わたし達5人のほかに、見るからにヤバそうな12名のAAAランク魔法少女が、白と金の地に豪華な装飾が施された礼装マントを着用して並んでいる。
正直、バケモノじみた12人から放たれるプレッシャーが強烈すぎて、すぐに逃げ出したいくらいなのだが……他の4人は平然としているので、先輩として少し見直すことにする。
こういうのも慣れなのかもしれない。慣れないと部下の魔法少女とか大変だもんね。
怖いもの見たさというか、要注意魔法少女であるバケモノ共の顔を覚えておこうと眺めていると、エミリーと目が合った。
好きなタイプではない……ハッキリ言うと嫌いなタイプだが、それだけで敵に回すほど子供じゃない。微笑んで軽く会釈すると、向こうも微笑み返してくる。
次にルビーさんと目が合い、こちらも軽く会釈。
ルビーさんは、わたしに向かっていつものようにニタァ~と笑い、手をフニョフニョと動かしてくる。不気味な挙動とは裏腹に、ルビーさんはノリが良くて好きだ。気前もいいし、何より命の恩人だしね!
ふと、濃い紺色の髪をサイドでまとめ、金色の瞳をした可愛い感じの魔法少女が、わたしをジーっと見つめていることに気づく。
最初にミアに睨まれた時と同じレベルで、すごーく熱心に見つめられているので、ちょっと怖い。
気に障るようなことをした覚えはないのだが……と、そこでハッとする。
もしかして、エミリーと敵対している後方組の内務部長――ステラさんじゃないの?
ステラさんは、エミリーが言っていた『回復剤を戦意高揚剤に切り替えた人』だ。
甚だ不本意だが、わたしがエミリーに会釈したのを見て、『敵』認定されてしまったのかもしれない。どちらかといえば、腹黒エミリーよりステラさんと仲良くしたいんだけど……。
あ、いや、ステラさんの方も腹黒だったらどうしよう!?
うーん、2人とはあまり関わらない方がいいとは思うんだけど、巻き込まれる可能性もあるので放置ってわけにもいかない。
身を守るためにも早々に千桜の権力構造についての情報を入手したほうがよさそうだ。
ジーーっと見つめてくる紺色髪に金眼の魔法少女がステラさんかどうかも分からないので、とりあえず気づかなかったことにして放置することにする。
しかし、これだけバケモノじみた魔法少女が揃っていれば、千桜は負けないんじゃないか?
もう一度ステージ上の12人のAAAランク魔法少女を見るが、千桜が負ける姿なんて想像できない。
いや、聖導連盟にも同じようなのが居るのかな?
前線組と後方組で内戦とか起こさないでくれよ……。
そんなことをステージの上でだらだら考えていると、式が始まるようだ――。
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「これより、千桜勲章授与式を執り行います」
進行役の魔法少女の宣言で、勲章授与式が開始された。
説明されたプログラムは、①開式宣言、②聖導連盟戦と魔力潮流動乱で戦死した魔法少女への黙祷、③統合総括会議議長の挨拶、④功績紹介、⑤勲章授与、⑥閉式宣言――以上で、小一時間ほどで終わるらしい。
黙祷が終わると、統合総括会議議長のルナと紹介された、銀白色の長髪に銀白色の瞳を持つ魔法少女がステージ中央で挨拶を始める……『魔力潮流動乱の収束宣言』とか、そんな感じの、魔法少女でも眠くなりそうなやつ。
式典は淡々と進み、受賞者の名前、ランク、功績が読み上げられていく。
「……ミレイユ、Dランク。『桜華乱舞作戦』においてBBランク魔塊獣1匹、その他レイド級魔塊獣を多数討伐――」
わたしはFランクなんだけど、みんなのランクを初めて知った。
シルヴァさんがCランクで、エルフィーネさん、ラティーナ、ミレイユさんがDランク。
低いように見えるけど、一般魔法少女の中では中堅上位ってところだ。
『ランク=強さ』ではなく、千桜への貢献度なんだけど、魔塊獣を討伐すると貢献度が上がるので、実質『ランク≒強さ』みたいなもの。
ランクは任務をこなしていれば自動的に上がるが、千桜が任務とは別に貢献度ポイントを付与することもできる。今回の勲章授与でポイントが付くので、Fランからは脱出できるはず。
ランクは階級ではないので気にする必要はないのだが、『Fラン』はイメージが悪いので、早くランクアップしたかったんだよね。
ちなみに、ランクが上がるとマギリングのショップで買えるアイテムが増えたり、割引が効いたりするらしい。
「リリナ――」
おっ、わたしの番だ。
「Fランク。『桜華乱舞作戦』においてBBランク魔塊獣1匹、その他レイド級魔塊獣を多数討伐。さらに先の『聖導連盟戦争』において、Dランク魔法騎士1ユニット、Eランク魔法騎士2ユニットを撃破」
ん? わたしだけ、聖導連盟との戦いも功績として発表されているな。
功績紹介が終わり、各人が順番でステージ中央に呼び出され、ルナさんに『千桜功労勲章』をつけてもらい、500万MGを授与される。
「リリナ」
緊張……というより、バケモノみたいな12人のAAAランク魔法少女からのプレッシャーに怯えないようにしながら、中央のルナの前に立つ。
「リリナには、『桜華乱舞作戦』での功績に対して『千桜功労勲章』と500万MGが、さらに『聖導連盟戦争』での功績に対して『青銅桜花章』と1000万MGが授与されます」
マジっ!? 『青銅桜花章』くれんの!?
『青銅桜花章』の話は聞いてなかったよ!?
情報部からの特別協力報酬と合わせて、な・ん・と・1700万MGの臨時収入である!
思わず『千桜バンザーイ!!』と叫びそうになるのを必死で堪えながら、ルナさんに『千桜功労勲章』と『青銅桜花章』をつけてもらう。
「ふふっ、リリナちゃん、口元が緩んでるわよ? 撮られてるんだから、もうちょっと我慢しなさい」
耳元でルナさんに囁かれ、真っ赤になりながら急いで口元を引き締める。
やはり、表情筋のチェックはすべきだな……。
そんなこんなで、1700万MGという大金をゲットする授賞式が終わったのであった!
え、式の後?
あ、はい、もちろん式が終わったら、即トンズラしました――。
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