59話 満喫! JC生活✨
「おはよー!」
ベース巡回マラソンから数日後――。
いつものように朝の6時からミアと朝食、食後の運動という最近のルーティンをこなし、元気よく朝の挨拶をしながら教室へ入る。
『人間は何にでも慣れる存在だ』と、どこかで読んだ気がする……まあ実際その通りで(人間じゃないけど)、魔法少女とJCとの二重生活にもずいぶんと慣れてきた。
次の『血の宣誓』の活動予定日までは、魔法少女活動をお休みしてミアとの平和なJC生活を満喫する予定である!
中身がアレな立場としては、少々後ろ暗い気持ちもあるにはあるのだが、これも『契約の内』、『偽装工作の一環』ということにして、ミアに甘やかされながら楽しいJC生活を楽しませてもらってます、はい!
カリアさんも『JC生活楽しんで』って応援してくれてたし、これはもう『千桜公認』ってことでいいよね!?
「おはよう、ユナちゃん!」
平和な学園生活にウキウキしながら、いつものように文庫本を読んでいるユナちゃんにご挨拶。
すぐ後ろにいるミアは、相変わらずクラスメートへの挨拶なんかまったく興味ないって顔をしているので放置。
「おはよう……ございます……」
ユナちゃんは、かすかに聞こえるような声量でそう呟くと、恥ずかしそうにすぐ文庫本へ視線を戻してしまう。
音量はちっちゃいけど、ちゃんと挨拶になってたよ!?
つ、ついにユナちゃんが挨拶を返してくれた!
これは……野良猫が手からエサを食べてくれた……みたいな感動である!
このまま手懐けて、頭をなでなでしてやろうという野望が湧き上がってくるが……しつこくしてシャーって言われないように、小さく手を振ってからユナちゃんから離れる――。
「ミアさま! 澪姫! おはようございますです!」
この前まで朝は熱心にタブレットを眺めていた水無瀬くんが、シャキンと直立し、ミアとわたしにピシッと直角に頭を下げる。最敬礼というやつである。
これは理由がある――。
一緒に複合アミューズメント校舎へ行った翌日、わたしはタブレットに集中していた水無瀬くんには挨拶をせずに(ミアが一緒だったから)スルーしたのだが、ミアが何もしていない水無瀬くんにチンピラのような因縁をつけ(もちろんわたしは止めた!)、以後、わたし達が教室に入ってくると自分から挨拶をするようにミアに調教されてしまったのだ……哀れ。
「おはよう、水無瀬くん! ごめんね、いつも(ミアの我が儘につきあってもらって)ありがとね……」
「もったいなきお言葉。この水無瀬、幸甚の極みにございまする!」
水無瀬くんは仰々しい態度でお礼(多分)を言うと、もう一度優雅に一礼する……。
「水無瀬、少しはマシな挨拶ができるようになったじゃない。その謙虚な態度を忘れないようにするのね!」
口元に手の甲を当てて、語尾に『オーホッホホホホホホホ!』という高笑いがつけば完璧な悪役令嬢である。
「はっ、ははぁ! 身に余るご厚情をいただき、感謝の念に堪えませぬ! 今後もミアさま、澪姫さまに誠心誠意尽くす所存でございまする!」
水無瀬くんは、さらに仰々しい態度でミアに頭を下げる。
水無瀬くんの殊勝な態度に、ミアは上機嫌でツインテールをふりふりしている。
うーん、何だこの茶番感……。
「もしかして、水無瀬くんて、こういうの好きなの?」
ミアに聞こえないように小声で聞いてみる。
「グフフフッ、超絶美少女ツインテール姉妹にお仕えする執事役とか、最高のご褒美でゴザルよ! ミアさまのワガママお嬢っぽいところがタマらんのです! グフフッ!」
やっぱりヘンタイだった!
「そ、そうなんだ……ほどほどにね?」
ま、まあ、人の趣味は千差万別だし、わたしに迷惑をかけなければ、好きにやればいいんじゃないか。うん、わたしに迷惑をかけなければね?
「おふぅ、澪姫の、そのゴミクズを見るような侮蔑の視線、素晴らしいでゴザル! 背筋がゾクゾクするでゴザル! もっと、もっと蔑んで欲しいでゴザル! おふぅ、おふぅ!」
メガネがキラーンと光り、口元をだらしなく緩ませている水無瀬くんの顔は、どう見ても怪しい変質者そのものである。
「ミ、ミアお姉ちゃん、ここは危険が危ないから、行きましょ!」
「どうしたの澪? まあいいけど……」
ミアをひっぱって逃げるように、水無瀬くんから離れる。
中1でアレとは、恐ろしいヤツ……!
「東雲くん、おはよう!」
東雲くんにご挨拶。
普通に教科書を読んでいるように見えるが、その中身が大学受験用の参考書なのを知っている。中学1で高校受験を飛び越えて大学受験用の参考書……きっとこういうヤツが東大に入ってエリート官僚として高給を貰うのだろう……妬ましい!
「おはようございます、白銀さん」
いつものように軽く会釈すると、東雲くんも頭を下げる。
相変わらず、わたしの隣に立っているミアのことはガン無視だが、ミアも同じなので何も言うことはない。
真壁くんの席へ近づくと――。
「おはようございます、澪姫!」
ガタっと席を立った真壁くんは、見事な気をつけの姿勢から水無瀬くんのように直角に頭を下げて、わたしに向かって最敬礼する。
「お、おはよう、真壁くん。ええと、別に立たなくてもいいんだよ?」
「とんでもない! 澪姫にご挨拶させていただくのですから、これくらいしないと失礼です!」
少し上気した表情で純情不良の真壁くんはハッキリ言い放つ――あの日以来、わたしのファン(?)であることを隠そうとしなくなった。
「相変わらず、あたしには挨拶がないのね! まあ澪には忠実みたいだから、許してあげるけど!」
そう、真壁くんは隣のミアを一顧だにせず、わたしにしか視線を向けてない……。
「ああ、星名もいたのか?」
「アンタ、あたしに喧嘩売ってんの!?」
「いや、スマン。澪姫が眩し過ぎて、星名に気づかなかったんだ。星名もおはよう」
何かチャラ男の口説き文句っぽいけど、チャラ男と違って本気っぽいところが逆に怖い……。
「むっ、澪が可愛い過ぎるからしょうがないわね! 一応挨拶したから許したげるわ!」
「おう」
ミアへの対応との差がちょっと……いやかなり怖いんですけど!
「じゃ、じゃあね、真壁くん」
再び無言で最敬礼している真壁くんから離れる。
「おはよう、澪ちゃん。すっかりファンが増えたみたいだね。ボクも、もう少し澪ちゃんと仲良くなりたいんだけどな?」
「アハハ、おはよう、久遠くん」
窓際の久遠くんが、いつものように爽やかスマイルで迎えてくれた――のだが、シャーーっとツインテールを逆立てたミアが、わたしを守るように両手を広げて立ち塞がる。
「アンタはいらないわ! 澪が汚れちゃうじゃない!」
「怖い怖い、ミアちゃんだけじゃなく、真壁くんにも凄い形相で睨まれちゃった。フフフッ、ボクはクラスメイトとして澪ちゃんと仲良くしたいだけなのに、2人とも酷いなぁ」
振り返ると、仁王立ちした真壁くんが鬼のような形相で久遠くんを睨みつけている!?
「澪、コイツの言うことは絶対信じちゃダメよ! 全部、女の子を墜とすための手練手管なのよ! 何人の女の子や女教師が、コイツの毒牙にかかったか……真壁、コイツが澪に指一本でも触れたらぶっ飛ばしちゃいなさい! あたしが許可するわ!」
うーん、ミアにここまで毛嫌いされる久遠くんが少し気の毒だが、ミアには逆らえない。
ミアに見つからないようにコッソリ久遠くんに小さく手を振る。
「澪、あんなの放っといて、早く机くっつけなさい!」
「はーい!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そろそろ連休ね。澪は何か予定はあるの?」
そう、そろそろゴールデンウィークだ。
現界で旅行に行ってもいいか、カリアさんに確認したのだが、別に何の規定もないとのこと。
ただ、『呼び出しがあったら、絶対に行かなきゃいけないから、それは覚悟しておいてね』って言われた。転移すれば、どこからでも時間ゼロでベースへ移動できるということもあり、情け容赦なく呼び出しが行われるらしい。
千桜って、ちょこちょこ戦争が起きる物騒な職場っぽいので仕方がない。社畜経験のあるわたしとしては、まあそうだよねって感じ。
で、ゴールデンウィークは連休でも空いてる鄙びた温泉にでも行こうかと思ってたんだけど、連休初日に勲章授与式があるらしいのよ。
勲章授与は千桜所属の魔法少女にとっては外せない一大イベント!
勲章授与式への出席は確定として、その後は温泉への1人旅って予定をザックリ立ててるんだ! 前世ぶりに温泉を楽しんじゃお♪
「連休でも空いてる温泉に行こうかなって思ってるんだ。予約なしのブラリ1人旅! マンガで見て憧れてたんだ!」
マンガ、万能である! マンガ文化万歳!
「それは却下ね! 澪が1人旅なんてとんでもない! 誘拐されてあんなことやこんなことされるのが目に見えるようだわ!」
えー、さすがにそれは……あっ! 今は中学生の……下手したら小学生の外見か!?
勲章と温泉に浮かれすぎて、すっかり頭から抜けてたわ!?
「そ、そうかな」
「当たり前でしょ! 大体、三枝に許可とってないでしょ。普通の家庭だって中学生に1人旅なんか許さないわよ」
うーん、まあそりゃそうか。
よく考えたら、中1女子が1人で温泉旅行とかないか。しょうがない、部屋でゲームでもやってるか……。
「うーん、そんな気がしてきたよ。さすがミアお姉ちゃん」
「はぁ……本当に澪は箱入りお嬢さま過ぎよ! マンガを全部信じちゃダメよ! 何でもまずあたしに相談しなさい!」
「はーい!」
「じゃあ予定はなくなったのね?」
「連休初日は用事があるけど、それ以外は部屋でゲームでもしてようかな。最近映画も見てないから、映画鑑賞もいいかな!」
長らく映画とか見てないので、のんびり最近の映画を鑑賞するのもいいかもしれない。
「そんなの時間がもったいないわ! あたしのコンサートツアーに一緒に来なさい!」
ほう! ミアのコンサートが見れるのか。ちょっと興味あるかも!?
「お手伝いとかするの? わたし、体力とかあんまり自信ないんだけど……」
ツアーに一緒に行くのは大歓迎だが、現界じゃ普通の女の子の貧弱な身体なので、荷物持ちを手伝えとか言われても困る。
「澪は見てるだけでいいわよ? あたしのコンサート一番良い所で見せてあげるわ!」
「いくいく! 何か準備するものある?」
「そうね、外で使う用のスマホくらいかしら? 何か必要な物があったら買えばいいわ!」
さすがお金持ちである……そこで、ハっとする。
そういえばわたし、現金の持ち合わせがまったくないわ!?
カリアさんに相談してみよう、さすがにノーマネーはマズいよね……。
ってことで、ゴールデンウィークはミアのコンサートツアーにお供することが決まったのであった――。
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