56話 澪の買い出し紀行・前編
「複合アミューズメント校舎へ行きたいなぁ……」
「いいわね! チョコスティックがなくなっちゃったから、あたしも行きたかったの!」
ホームルームの終わり際、鏡界用の飴が欲しいなぁと何気なくこぼした一言から、ミアとの複合アミューズメント校舎行きが決定してしまった。
本当は、わざわざ学園に申請して用意してもらうのも面倒だったので、コンビニへ買い出しに行く感覚で――と、ついポロっと言ってしまっただけなのだが、ミアが食いついてきた。
「今日はボーリングとVRゲームとカラオケね! 澪はボーリングってやったことある? あたしは初めてなの!」
別にミアを誘うつもりはなく、1人でだらだら買い物に行こうかなーってレベルの話だったのだが、目をキラキラさせたミアが嬉しそうにツインテールをふりふりしているので、わたしも――
「わーい! ミアお姉ちゃんと一緒にお出かけだー♪」
と、両手を挙げて喜んでしまった。
ミアにこんな顔で言われて、断れるわけないじゃん!
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ガゴガコガコーーーンと、派手な音を立てて全てのピンを1撃で倒し、得意げにツインテールをふりふりしながら胸を張る。
「どお? ストライクよ!」
「ミアさま、ナーイスです!」
「上手いもんだな」
「ミアお姉ちゃん、凄ーい!」
最初のドヤ声がミア。
太鼓持ちを務めるのが、デ……恰幅のいいメガネの水無瀬くん。
ボソっと低い声で褒めたのが純情不良の真壁くん。
そして最後がわたし。
ダブルデートっぽいような、っぽくないような、謎の4人組によるボーリング大会である。
赤学ランと赤セーラーという、警戒色バリバリのヤバい特別クラスの4人組に、普通なら潮が引くように人が消えていくのだが……さすがにボーリングのレーンということもあり、周りには普通に人がいる。チラチラ見られているような気はするが……。
「ほら、次は水無瀬よ。澪が待ってるんだから、さっさと投げちゃいなさい!」
「は、ははー! では投げさせていただきますー!」
どうして、こんな謎の4人組が一緒に行動しているかというと、少し前に遡る――。
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放課後、複合アミューズメント校舎へ向かう地下鉄の駅のホーム――。
わたしとミアは、誰もいないホームでボーリングのルールをスマホで確認しながら、電車を待っていた。
「2回投球して、ストライクとスペアっていうのがあるらしいわ? 計算がややこしそうね」
「そこらへんは、機械が計算してくれるんじゃないかな?」
スマホを見ながらツインテールをふりふりさせるミアを見ていると微笑ましく、わたしまで笑顔になってくる。
と、そこへ意外な組み合わせの2人がエレベーターから降りてきた。
純情不良の真壁くんと、恰幅のいいメガネの水無瀬くんだ。
どういう組み合わせなんだ?
『???』と思いながらも一応会釈すると、真壁くんは視線を逸らし、水無瀬くんはニッコリ微笑んでくる。
「ミアさま! 澪さま! さっきぶりです!」
なぜか敬語の水無瀬くんに、狂犬(?)ミアが噛みつかないか少し心配したが、今日はミアが意外に大人しい。
「ん……」
お世辞にも態度がいいとは言えないが、水無瀬くんにちゃんと返事をしている!?
「ちょうどよかったです。先週、ミアさまに頼まれていた例のブツですが、今朝、連絡がありまして、これから受け取りに行くところです……」
「えっ! 本当?」
何だブツって?
「ブツってなに?」
「クククッ、澪さま、よく聞いてくださいました! あのコスプレ写真の大家で天才写真家と名高い『本多桃』氏、渾身の傑作――ゴスロリ、巫女服、メイド衣装、そしてセーラー服の豪華4点セットポスターです!」
ん? どっかで聞いたことがあるような名前だな、オイ。
何か凄っごく嫌な予感がするんだけど!
「残念ながら、幻と言われる『ネコミミ着ぐるみ』は入手できませんでしたが、今回の4点セットも一般市場には出回らない希少品で、好事家の間では1枚100万は下らぬ値段で取引されているという逸品です!」
「それって、もしかして……」
「そう! それぞれ200枚しか刷られなかったと言われる、天才写真家『本多桃』氏撮影による、『四樹莉里』さまの幻のポスターです!」
ソレ、杏が作った、わたしの宣材ポスターじゃねーの!?
「えっと、ソレってわたしの宣材ポスターだよね?」
「はい!」
間違いかもしれないと一縷の期待を込めて聞いてみるが、思った通り杏が作ったわたしの黒歴史ポスターだった!
というか、杏ってコスプレ写真の大家なの!? 天才写真家なの!?
なんで、そんなバカみたいな値段で売買されてんの!?
それより、なんでわたしの宣材ポスターが勝手に売買されてんの!?
ツッコミ所多すぎだろ!
「ええと……ただの宣材のポスターだよ? どうして100万もするのよ!?」
「簡単です、澪さま。美少女写真しか撮らないという天才写真家『本多桃』氏の最高傑作として評価が高いからです。芸術品として価値が高いのですよ」
あのポンコツお姉ちゃん、天才写真家とか言われてんだ……。
そう言われれば、杏に撮ってもらった写真は異常に可愛かったわ!
「さらに、これらのポスターと一緒に配布された幻の作品『ネコミミ着ぐるみ』を一度でも目にした者は、魅入られたように『四樹莉里』さまのポスターを手放せなくなるという話です。秘匿していた『ネコミミ着ぐるみ』のポスターをご本尊とした『四樹莉里』教ってのがあるそうですよ」
うわぁ、なんでそんなに目立っちゃってんのよ!?
これ暗殺の危機なんじゃねーの!?
現界の権力組織に目をつけられなきゃいいんだけど……マジでヤバくないか!?
元はと言えば、あのネコミミ着ぐるみを作った千桜のせいなんだから、千桜に回収させようか……でも、すでに市場ができてしまっている状態で無理やり回収して衆目を集めるより、奇特な好事家が死蔵していてくれた方が露見しにくい……か?
素早く思考を巡らせ、現界の権力組織に露見しにくい方を考え、このまま放置することが最も露見しにくいと判断。あの黒歴史ポスターのことは……無かったことにして無視することに決定!
「むぐぐ……」
「それで? もうお金は振り込んであるんだから、早く渡しなさいよ!」
えっ、ミア買ったの!?
1枚100万だよ!?
なんで、あんなもん買うんだよ!? アンナの部屋にペタペタ張ってあるぞ!?
頭痛が痛くなってきたわ……。
「今から受け取りに行くところです。特別クラスに外部から物を持ち込む唯一のルートは複合アミューズメント校舎経由なのですので、『校舎内で買った』ということにして持ち込むのです。ミアさま、澪さまもご一緒にどうですか?」
なるほど!
複合アミューズメント校舎が密輸ルートになってるわけか!
「そうね、水無瀬なんかが澪のポスターに触ったら汚れちゃうから、あたしが受け取るわ!」
「ははーー!」
「あっ、真壁くんは、わたし達と一緒で大丈夫? 水無瀬くんと一緒に遊ぶ予定だったんだよね?」
「そ、それは……」
「いやいや、澪さま。真壁も、澪さまのポス……むぐぅ……う゛う゛う゛う゛!」
後ろから真壁くんに羽交い絞めにされ、口を塞がれた水無瀬くんがモゴモゴ言っている……。
さっき『ポス』って言ったよね?
もしかして、真壁くんも、わたしのポスター受け取りに来たとか!?
「………………」
わたしがジーーーーっと真壁くんを見つめると、真壁くんは赤くなってプイと視線を逸らす。
「っ………………ちがっ」
「んっ……んっぷはぁ! もう、どうせ後でバレるんだからいいでしょ! 真壁は、澪さま……『四樹莉里』さまのファンなんですよ! 本人は否定していますが、値の付かないと言われる幻の『ネコミミ着ぐるみ』ポスターを所有しているとか、いないとか?」
「ち、ちがっ……」
「なんだ、アンタ、澪のファンだったの!? 意外に良いセンスしてるじゃない! それで、幻の『ネコミミ着ぐるみ』ポスターは本当に持ってるの?」
ミアが上機嫌に真壁くんに話しかける。
どういう状況だよコレ!?
「いや……親父の会社の広報部でチラっと見ただけだ……」
「その一瞬でファンになったらしいですよ。一目惚れってヤツ? 接点なんかなかったのに、オレが『四樹莉里』さまポスターを入手できるコネクションがあると知ったら、頭下げて頼んできたんですよ。ポンと数百万振り込んでくるし、オレが保証します、真壁は本物のファンですよ!」
「ば、バカ野郎!」
ええと、『雪月華風』のHP掲載と同時に宣材ポスター配ってるはずだから……もしかして転入前からわたしのファンだった!?
そっけない態度のくせに、顔赤くしてたのって……。
「もしかして、真壁くん、転入してくる前からわたしのこと知ってた?」
「あ、ああ……その、そっけなくして悪かった……まさか、あの『四樹莉里』さんが転入してくるとは思ってなくて、どうしていいか分かんなくてよ……」
真っ赤になって目を逸らす真壁くん、ちょっと可愛い。
しかし、魔法少女、罪深いな……。
認識阻害無しで魔法少女を見てしまったばかりに、純情な中学生がこんなことに……申し訳ない。
「フフフッ、見る目はあるみたいだし、澪のファンとして認めてあげるわ!」
ミアが腕を組んで勝ち誇ったように宣言する。
「ああ、よろしく頼む。1億までなら俺の裁量で動かせる。俺にできることなら、何でも言ってくれ」
中学1年生が、デビューもしてないアイドル(?)に1億も使っちゃダメだろ!
「あら、いい心がけね! ほら、澪、ファンにはちゃんと対応しなさい」
えーーー!? どう対応すればいいんだよ!?
「ええと、無駄使いしちゃダメだよ?」
「はい、全部、『四樹莉里』さんの応援に使います!」
いや、いや、ヤバいだろ……。
と、そんなこんなで、謎の4人組は地下鉄に乗り込んだのであった――。
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対核地下司令部のようにいくつもの隔壁がある通路を抜け、黒服に重そうな扉を開けてもらって、ようやく複合アミューズメント校舎のフロアへ出る。
赤学ランと赤セーラーの4人組の登場に、周囲が一瞬ざわめき、すぐに混雑していたわたし達の前の通路がススーっと開けていく……。
歩きやすいんだけど、ちょっと寂しい気分にもなって複雑……だったのはわたしだけのようで、ミアはスキップしそうなほどウッキウキだし、水無瀬くんも真壁くんも何事もないかのように普通に歩いていく。
大金持ちとか芸能人ってメンタル違うんだな……。
で、水無瀬くんに案内されたのは、ごく普通のキャラクターショップ。
結構混みあって繁盛していたのだが……わたし達が近づくと、円状に周囲から人が居なくなる。
すかさず現れた、ショップのエプロンをつけた30代くらいの店員さん。
「何かお探しでしょうか?」
どうも妙な感じだ。
高くも低くもない声、ありふれた顔立ち、平均的な背格好で、一瞬目を離したら忘れてしまいそうなほど影が薄い。
「今日のおすすめは何ですかね?」
?
水無瀬くんが妙なことを言い始める。
今日のおすすめって、キャラクターショップって毎日おすすめが変わるのか?
「そうですね、お客様にピッタリの品が入荷予定だったのですが、少々遅れておりまして……1時間ほどお時間をいただけますでしょうか?」
「なるほど、分かりました。では後ほど」
ショップを離れながら、水無瀬くんが説明してくれる。
「オレ達が入学した時から、学園の検品が厳しくなったって話は聞いてたんですが……すいません、1時間ほどどこかで時間を潰してきましょう」
水無瀬くんと店員さんのやり取りは、どうやら何かの符牒だったようで、検品でのトラブルで入荷が遅れているらしい。
「しょうがないわね。じゃあボーリングでもしましょ!」
ということで、なし崩し的に謎の4人組はボーリングに行くことになったのであった――。
澪の買い出し紀行・後編 へ続く!
本名:黒瀬剛士 偽名:真壁陸斗
巨大建設会社『黒瀬グループ』の次期社長候補。
認識阻害効果なしで人間離れした美少女『四樹莉里』のポスターを見てしまい、一瞬で魅了される。
本名:赤羽斗真 偽名:水無瀬海
恰幅のいいメガネ男子、大手IT企業『赤羽テック』の創業者の一人息子。
天才的なIT技術と怪しいコネクションを持つ。
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