54話 千桜統合総括会議 魔力潮流(マナ・タイド)動乱の終結
鏡界、『落花清域』作戦完了後、都内某所――。
白い照明、白い壁、白い床、白い調度品。すべてが白で統一された会議室。
中央の円卓には、千桜を率いる12名のAAAランク魔法少女が座っていた。
「では、戦略作戦部の方から、今回の『桜華乱舞』作戦と『落花清域』作戦の顛末の説明をお願いします」
統合総括会議議長のルナに『顛末(トラブルの経緯)』と言われた戦略作戦部長のクララは、淡い水色の瞳をわずかに細める。
「では、説明させていただきます。『桜華乱舞』作戦の発動後、当初7日間を想定していた第1次作戦を4日で終了。前倒しで第2次作戦を開始しました――」
当初、『桜華乱舞』は順調に推移していた。
千桜支配エリアと三浦半島のレイド級魔塊鬼の討伐を目標とし、7日間を想定していた第1次作戦は、わずか4日間で終了。
これは、レイド級魔塊鬼によって通常魔塊鬼が駆逐されていたため、想定されていた通常魔塊鬼との戦闘が発生しなかったためと分析されている。
『ランクアップ』現象の発生数を減らすため、戦略作戦部は前倒しで神奈川東部と伊豆半島までの討伐を目標とする第2次作戦を発動。
拠点の存在しない神奈川西部エリアは、聖導連盟の使用した『データリンクを中継する魔法少女を配置する』という方法でベースとの連絡線を確保。
新編された11の『レイド級討伐隊』を主戦力とし、第2次作戦が開始される。
第2次作戦は順調に推移。
特に航空機動部と特殊作戦部に、第1次作戦で効果的と評された一般魔法少女から選抜した遠距離支援チームを加え、実験的に編成された『第11レイド級討伐隊』は目覚ましい戦果を上げた。
触発された他の『レイド級討伐隊』も奮闘し、想定以上の速度で第2次作戦は進行する。
想定外の事態が発生したのは、『桜華乱舞』作戦6日目、11時半である。
BBランク魔塊獣に率いられた大量のBランク魔塊獣が、11の『レイド級討伐隊』の後方へと浸透し、複数エリアでデータリンク用に配置されていた魔法少女を一斉に襲撃した。
データリンクの喪失を確認したベースは、状況確認のため魔法少女を派遣するが、BBランク魔塊獣の遠距離対空攻撃により、魔塊獣達の位置を確認する前に撃破されてしまう。
結局、ベースが複数の魔塊獣集団による連絡線への一斉攻撃に気づいたのは、12時近くになってからであった。
この襲撃により、少数しか配置されていなかったデータ中継用の魔法少女が死亡または撤退したため、ベース側は『レイド級討伐隊』への連絡手段を喪失。
データリンクを切断され包囲された11の『レイド級討伐隊』は、状況を把握できないままBBランク魔塊獣に率いられた大量のBランク魔塊獣の攻撃を受け、大損害を出して潰走。
戦略作戦部は急遽、予備戦力から新たに4つの『救出部隊』を編成し包囲網の突破を試みるものの、BBランク魔塊獣達の巧みに連携した長距離砲撃により苦戦を強いられ、結局、包囲網の突破を断念。
戦略作戦部は24時に『桜華乱舞』作戦の中止を決定し、参加中の全魔法少女に撤退命令を発令する。
そして本日06時、BBランク魔塊獣が大量発生した場合の予備プランである、AAランク以上の魔法少女を投入する『落花清域』作戦を発令と同時に発動。
「――『落花清域』作戦は、千桜の支配エリア全域と、神奈川東部、伊豆半島から、BBランクとBランク魔塊獣を完全に駆逐し、本日18時をもって完了しました……」
18時00分、統合参謀本部麾下のAAランクとAAAランク魔法少女による圧倒的な火力により、神奈川東部・伊豆半島全域の魔塊獣討伐を確認。
『落花清域』作戦を完了する――。
「あれだけの戦力を動員して大損害を出した上に、結局はAAとAAA頼みの力技ですか……」
内務部部長のステラの呟きは、静まり返った会議室に思いのほか大きく響き渡る。
「お言葉ですが、レイド級魔塊獣の集団発生自体が初めての事態です。さらに――
1つ、BBランク魔塊獣がBランク魔塊獣を統率すること。
2つ、遠方のBBランク魔塊獣同士が意思疎通できること。
3つ、BBランク魔塊獣に戦略的思考が可能な知能があること。
これらは全て予測不可能なものでした。今回の損害は、これらの魔塊獣の生態についての新しい知見を得られた代償として、必要最低限度にとどめられたと戦略作戦部では分析しております」
クララは淡々と述べるが、その声音にはわずかな不満が滲んでいた。
航空機動部・特殊作戦部の損害を軽く見るつもりはない。
だが、戦略作戦部としては、
●BBランク魔塊獣の統率能力
●BBランク魔塊獣の長距離意思疎通能力
●BBランク魔塊獣の戦略的判断力
という、これまで確認されていなかった重大な生態情報を得られたことは、極めて大きな成果であると認識していた。
いくつかの課題は残るものの、『桜華乱舞』作戦は『おおむね成功』と評価していたのだ。
そのため、クララとしては『顛末(トラブルの経緯)』などと言われるのは、甚だ心外であった。
『桜華乱舞』作戦への批判めいた言葉を呟いたステラも、クララの説明に異議を唱えることはなく、他のメンバーも、ため息まじりではあるが概ね納得したような表情を浮かべている。
ルナが次の議題に移ろうと口を開きかけた時、意外な人物が手を挙げた。
「1つ、よろしいでしょうか?」
ツンツンと跳ねた深紅の髪、爛々と輝く狂気を孕んだルビーのような瞳。
赤と白の魔法少女衣装の上に白衣を羽織った、技術研究部部長のルビーである。
創設メンバーに続く古参のAAAランク魔法少女だが、これまでルビーが統合総括会議で発言したことはほとんどなかった。
ルビーが発言するのを初めて見るというメンバーも多く、会議室に静かなざわめきが広がる。
「ルビーさん、どうぞ発言してください」
ルナも内心では驚いていたが、表情には出さず、淡々と発言を許可した。
「さきほどクララさんは『全て予測不可能なもの』とおっしゃいましたが、どのような理由からそのように判断なされたのでしょう? 皆様ご存じのように、わたくし達・技術研究部は、魔法具や魔法の研究の他に、魔塊獣の生態についての研究も行っております。しかし、作戦開始前に戦略作戦部から、どのような問い合わせも受けておりません。もしかして戦略作戦部は、魔塊獣の生態について、わたくし達技術研究部以上の知見をお持ちなのでしょうか?」
ルビーの言葉に、クララが一瞬だけ苦い表情を浮かべる。
クララは以前から、作戦前には必ず議長のルナや各部の部長に対して政治的根回しを行っていた。
だが、技研の死神博士――万人が『研究しか頭にない変人』と評するルビーに対しては、政治的根回しをおろそかにしていた。
それでも、ここ数年ルビーが統合総括会議で戦略作戦部の作戦案に意見したことはなく、問題はなかった。
今回は作戦開始を急ぐ必要もあり、いつも通り技術研究部への根回しを省略したのだが……ここにきて足をすくわれた形となる。
「それは……」
「それは?」
政治に無関心に見えても、千桜統合総括会議に出席する権利を持つ、創立メンバーに次ぐ最古参のAAAランク魔法少女である。
軽く扱っていい相手ではない。
以前から自分が軽んじられていると感じていたのかもしれない――クララは、自分の迂闊さに腹を立てながら、必死で合理的な理由を探す。
「『ランクアップ』現象を未然に防ぐため、作戦開始を急ぐ必要がありました。作戦に問題があるようでしたら、前回の緊急統合総括会議でご指摘いただければ……」
「おやおや、クララさんは、今回の作戦の損害は『わたくしのせい』だとおっしゃるのでしょうか?」
「いえ、そのようなことは……」
「そうですよねぇ。わたくし、作戦概要はうかがいましたが、問題点を指摘できるような『詳細な説明』は受けておりません。せめて技術研究部の意見を聞いていただければ、丁寧にご説明してさしあげたのですが?」
「………………」
根回し済みの案件と油断し、ルビーの指摘通り、緊急統合総括会議での説明は作戦概要のみで、詳細な問題点や対応策は割愛していた。
事前に技研へ問い合わせたところで、レイド級魔塊獣の集団発生データなど技研にも存在せず、『ランクアップ現象が大量発生している可能性が高い』程度の助言しかできなかっただろう。
だが、ルビーは『技研に問い合わせをしなかったこと』そのものを問題視しているため、クララには反論の余地がない。
「他にも、あろうことか航空機動部の魔法少女が、強制任務で徴集した一般魔法少女を囮にして逃亡したとか。この事実が広まれば、千桜の運営に対する一般魔法少女の信頼は地に落ちます。これは、忌々しき問題ですよぉ?」
その言葉に、統合参謀本部麾下の全員が震え上がった。
千桜の運営側である航空機動部が、強制任務で徴集した一般魔法少女を囮に逃亡した――もしこれが公になれば、一般魔法少女全体の士気に関わる大問題である。
運営側の魔法少女がいくら強力でも、一般魔法少女にそっぽを向かれては、千桜は基幹から揺らぐ。
統合参謀本部は事実を確認すると、すぐに箝口令を敷き、表立って問題化する前に内々で処理することを決定。
すでにエージェントが被害者の一般魔法少女に秘密裏に接触しているはずである……。
まさか技研のルビーに情報が漏れているとは、クララは夢にも思っていなかった。
隠蔽していた失態が、よりにもよって統合総括会議で暴露される――統合参謀本部にとって最悪の結果である。
この失態により、当分の間、統合参謀本部の発言力は地に落ちるだろう。
「まあまあ、ルビーくん。そこら辺でカンベンしてあげてくれないか?」
クララに助け舟を出したのは、統合参謀本部長のノヴァだった。
ルビーが千桜の政治に関わらないのは、能力がないからではなく、『時間の無駄』だと思っているからだと知っているノヴァは、今回のルビーの行動に何か目的があると睨んでいた。
「そう言えば、単独で神奈川の作戦エリアに赴いたそうじゃないか。AAAランクの魔法少女に気軽に出歩かれるのは問題だと分かっているだろう?」
「フヒヒ、数日前からルナさんにステラさん、エヴァさんもお出かけになっていたようですが、どうしてわたくしだけ叱責されるのでしょうか?」
その言葉に、会議場がザワつく。
日本魔法少女連合に加盟する全ての魔法少女組織は、戦略兵器扱いのAAAランク魔法少女の動向を、オブザーバーであるシルバーイーグルへ届け出る義務がある。
罰則こそないが、敵対組織が相手を非難する口実に使われることもあり、シルバーイーグルの不興を買う可能性がある以上、問題といえば問題である。
『一般魔法少女を囮にしての逃亡』の真偽に触れず、ルビーの憲章違反へと話題をすり替える軽いジャブのつもりだったノヴァの言葉は、強烈なカウンターとなって跳ね返った。
「ルビーくん、何か望みがあるなら、ハッキリ言ってくれないか。運営が一般魔法少女に不信を抱かれれば、千桜の根幹が揺らぐ。ルビーくんも、そんな事は望んでいないのだろう?」
ノヴァが眉を顰めると、ルビーは楽しそうに笑った。
「フヒヒ、これまでは上手くやっているようでしたので口を挟まずにいましたが、最近の『失態』は目に余りますぅ。これ以上はわたくしの研究にも障りが出てきそうですので、言わせていただきますが……くだらない政治ごっこをやっているヒマがあるなら、まともな施策の1つでも考えてはいかがでしょうか?」
ルビーの視線は、まず統合参謀本部麾下――情報部、戦略作戦部、航空機動部、特殊作戦部の各部長へと向けられ、それから設立メンバー5人の目の奥を、1人ずつ探るように見つめた。
その毒気たっぷりの言葉は、失態続きの統合参謀本部への強烈な叱責であると同時に、統合総括会議の裏で暗躍する創立メンバーへの苦言でもあった。
「何を企もうが皆さまのご自由ですが、わたくしの研究に障りが出るようでしたら、全力で叩き潰させていただきますぅ、はい。皆さまご存じの通り、わたくし、研究のためであれば、どのようなことでもいたしますので……心してくださいねぇ」
ルビーの視線を受け、統合参謀本部麾下の4部長は、ルビーが『統合参謀本部の失態を調査するために単独で神奈川の作戦エリアへ赴いた』のだと思い、創立メンバー達は、『常葉魔導協会への裏工作がルビーに露見している』ことを悟った。
これ以降、統合総括会議のメンバーで、技術研究部部長のルビーを軽視する者は居なくなる。
「ん、んんっ……ルビーさんからの貴重な『意見』を踏まえ、関係部署は真摯に対応するようお願いします。特に、今回の被害者である一般魔法少女への対応は統合参謀本部が責任をもって行い、後日、報告をお願いします。では、次にアイリスさん、近隣諸勢力の状況報告をお願いします……」
気まずい雰囲気を誤魔化すように、ルナが話題を強引に切り替えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まず聖導連盟ですが……」
情報部部長のアイリスが端末を操作すると、中央モニターに聖導連盟の支配エリアである中部地方を中心とした地図が映し出される。
「早々にAAAランクを含めて全戦力を投入し、討伐作戦を行ったようですが……まだ作戦は完了していないようです。戦力的な問題ではなく、完全に『手数』が足りていないようですね」
通常の魔塊鬼の発生は人口に比例する傾向がある。
だが、魔力潮流で発生するレイド級魔塊鬼は人口と関係がなく、結果として『面積に比例して』発生してしまっていた。
聖導連盟は千桜の3倍以上の面積を支配している。
単純計算で千桜の3倍のレイド級魔塊鬼が発生しているはずで、その被害は千桜の比ではない。
聖導連盟が支配エリアの秩序を回復するには、相応の時間がかかるだろう。
「神環協盟は、相変わらず確かな情報が入手できない状態ですが……支配エリアが広いため、おそらく魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼討伐に追われている状況でしょう。聖導連盟との停戦は継続しているようです」
京都・滋賀・三重・奈良・和歌山に支配エリアを持つ神環協盟は、千桜の10倍の面積を保有している。
そのため、魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼の数は相当なものだろうが、元より大戦力を有していたと推測されるため、対処はできているのだろう。
中央モニターに、広域関東圏のマップが映し出される。
「次に、銀翼社ですが、すでに全支配エリアで魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼の討伐を終え、平時の配置に戻っているようです」
銀翼社は航空戦力を多く保有し、山岳地帯でも機動力が鈍らないという強みを持つ。
BBランク魔塊獣への『ランクアップ』を許さず、迅速に討伐したのだろう。
「次に、常葉魔導協会です。我々の助言通りシルバーイーグルに助力を求めましたが、『他の組織が自力で対処しているのに常葉魔導協会だけ特別扱いはできない』という理由で断られたそうです」
会議室がわずかにざわめく。
日本魔法少女連合の設立者にしてオブザーバーであるシルバーイーグルが、加盟組織である常葉魔導協会の助力要請を断るとは、誰も予想していなかった。
「まさかシルバーイーグルが、常葉魔導協会を見捨てるとは……何のために高いMGを払っているんだか」
ノヴァが大きくため息をつく。
「続けます。常葉魔導協会は所属する全魔法少女を千葉中央に集結させ、1エリアずつ確実に魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼の討伐を進めたようです」
支配エリアの面積の割に脆弱な戦力しか保有していない常葉魔導協会にとって、苦肉の策だったのだろう。
BBランク魔塊獣への『ランクアップ』さえ無ければ、悪くない策なのだが……。
「常葉魔導協会の作戦は順調に進み、幸運にもBBランク魔塊獣の出現はなく、支配エリアの8割近くで討伐に成功。数日以内に全支配エリアで、魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼を討伐する見込みです」
会議室に微妙な空気が流れる。
総合統括会議に出席している老練な魔法少女達は、『幸運にもBBランク魔塊獣は出現しなかった』などというたわ言を信じるほど純粋ではない。
先ほどのルビーの『ルナさんにステラさん、エヴァさんもお出かけになっていたようですが』という言葉から、『千桜と常葉魔導協会の間で何らかの取引があり、秘密裏にAAAランク魔法少女3ユニットが派遣された』と、全員が容易に想像できた。
実情はこうだ。
千桜は、一度常葉魔導協会からの戦力派遣要請を断っている。
それは、魔力潮流発生直後のシミュレートでは通常魔塊獣との戦闘を想定していたためで、実際には通常魔塊獣との戦闘は発生せず、作戦は想定以上に順調に推移し、戦力的な余力が生まれた。
だが、すでに常葉魔導協会はシルバーイーグルへ助力を要請していた。
シルバーイーグルが助力するものと判断した千桜は、生まれた余力で早々に第2次作戦を発動。
しかし、シルバーイーグルは常葉魔導協会の助力要請を拒絶。
困ったのは千桜である。
常葉魔導協会が崩壊し、放置された千葉・茨城エリアに大量のBBランク魔塊獣が発生するなど、悪夢以外の何物でもない。
千桜は常葉魔導協会への戦力派遣を再検討するが、『シルバーイーグルが断った後に千桜が助ける』という構図は、シルバーイーグルに『千桜はシルバーイーグルを無能に見せようとしている』と疑われかねない。
黒狼を滅ぼし、静岡・神奈川全域へ支配エリアを拡大した千桜は、すでにシルバーイーグルから警戒されている。
その本当の恐ろしさを知る創立メンバー5人は、これ以上の警戒を避けるためと、本来の目的のために『秘密裏に常葉魔導協会を千桜の下部組織として取り込む』ことを画策する。
議事録の残る統合総括会議を嫌い、創立メンバー5人の独断で常葉魔導協会と交渉を開始、AAAランク魔法少女3ユニットの派遣を条件に、秘密協定を締結することに成功する。
秘密協定締結後、総予備(有事のみ招集される人員)である、統合総括会議議長ルナ、内務部部長ステラ、外事部部長エヴァを秘密裏に常葉魔導協会へ派遣。
戦略兵器扱いされるAAAランク魔法少女3ユニットは、その力を存分に発揮した。アイリスは『支配エリアの8割近くで討伐に成功』と報告したが、実際には『全エリアで討伐完了』していた――。
「それは朗報だねえ! 常葉魔導協会が崩壊して、BBランク魔塊獣が溢れ出してくる未来なんか、想像したくもないからね」
実情をすべて知っている――もとい、裏で全てを画策したノヴァは平然とそう言い放ち、ニッコリと笑顔を浮かべる。
内心では、ルビーのせいで『統合総括会議の裏で暗躍する存在』が他のメンバーに露見してしまったことに、強烈な不満を抱えながら……。
「次は、富嶽魔導院ですが……協定通り、静岡で魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼の討伐を行っていたのですが……東は大井川以東、西は伊豆半島の付け根までしか行っておらず、他の地域は放置している状態です」
山岳部や、自分達の本拠地から遠いエリアまで行くのが『面倒くさい』とでも思ったのだろう。
「外事部を通じて確認したところ、『協定通り、静岡エリアの魔塊鬼の駆除は行っている』の一点張りです。そのため、千桜に直接影響が及ぶ伊豆半島全域を急遽第2次作戦の目標に組み入れ、先ほど戦略作戦部から報告があった通り、討伐を済ませております」
自己中心的で、外交関係など一切考慮するつもりのない富嶽魔導院らしい行動である。
富嶽魔導院は、自分達の本拠地に近い狩場だけを利用し、静岡エリアの魔塊鬼駆除を行っていると言い張っているのだ。
間違いではないが悪質である……のだが、富嶽魔導院の対応としてはいつものことなので、メンバー達はため息をつくだけだった。
「それで、放置されている静岡西部の状況はどうなっているのですか?」
ルナの質問に、アイリスが答える。
「現状、何も。完全な放置状態です。聖導連盟は先ほどの報告通りの状態ですし、しばらく経てば、BBランク魔塊獣が周囲に溢れ出してくると思われます」
「はぁ……放置すれば、聖導連盟やシルバーイーグルからクレームがくる。聖導連盟はどうでもいいが、シルバーイーグルはマズい。クララくん、戦力的に静岡西部の討伐は可能なのだろう?」
ノヴァがうんざりしたような口調でクララに尋ねる。
「はい、今回の魔力潮流で発生したレイド級魔塊鬼のデータ分析は終了しています。我々4ユニットのAAAランク魔法少女も含まれますが、統合参謀本部所属の魔法少女だけで、12時間以内の討伐が可能と思われます」
魔法少女達に実戦経験を積ませることはできないが、討伐するだけならまったく問題ない。
BBランク魔塊獣の『ネタ』が割れている今、統合参謀本部麾下の4ユニットのAAAランク魔法少女を投入すれば、蹂躙と掃討だけの『楽なミッション』だ。
「富嶽魔導院へ通達だ。協定を曲解し静岡エリアの魔塊鬼を放置するなら、協定不履行とみなす。24時間以内に静岡西部の魔塊鬼討伐を完了しなければ、協定は破棄。富士山周辺エリアの割譲も『なかったこと』にすると言ってやれ。役立たずの犬に餌をやる必要はない」
普段であれば、このような物言いはしない。
だが、先ほどのルビーの放言で気が立っていたノヴァは、不機嫌そうにそう言い放った。
「では皆さん、今のノヴァさんの提案に反対の方は挙手をお願いします」
傲慢とも取れるノヴァの発言に、慌てて議長のルナがフォローを入れる。
ノヴァのこのような態度は珍しいが、以前から富嶽魔導院の身勝手な行動を不快に思っていたメンバーが大半であり、『自分達の気持ちを代弁してくれた』と好意的に受け取られ、反対する者はいなかった。
「では、エヴァさん。富嶽魔導院への通達をお願いします。連戦になって申し訳ありませんが、統合参謀本部は静岡西部討伐の準備をお願いします――」
結果として、富嶽魔導院は千桜の通達を全面的に受け入れ、24時間以内に静岡西部のBBランク魔塊鬼を含む、全てのレイド級魔塊鬼の討伐を完了。
千桜と富嶽魔導院の協定は、継続されることとなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それでは最後に、統合参謀本部から推薦のあった、勲章授与の件についてです」
「それは私の方から説明させてもらうよ」
そう言ったのは、『一般魔法少女を囮にしての逃亡事件』に関する一連の隠蔽工作の主犯であるノヴァだ。
「今回の被害者である、エルフィーネ、シルヴァ、ミレイユ、ラティーナ、リリナの5ユニットへの『千桜功労勲章』授与を認めてほしい。もう皆にバレてしまっているからハッキリ言うが、秘密保持契約の条件に千桜功労勲章授与を入れているんだ」
臆面もなく、ノヴァは言い切る。
さらに中央モニターに表示された5ユニットのプロフィールを示しながら言葉を続けた。
「Cランク1ユニット、Dランク3ユニット、Fランク1ユニットの一般魔法少女が、BBランク魔塊獣1匹と、Bランク魔塊獣3匹を討伐し、他チームとの共同撃破数も抜きんでている。統合参謀本部で遠距離攻撃タイプの集団運用が検討されるほどの赫奕たる戦果を挙げているんだ。問題はないだろう?」
遠距離攻撃タイプの魔法少女は絶対数が少なく、これまで集団運用は行われてこなかった。
しかし、一般魔法少女部隊の火力不足を補うための苦肉の策として編成された、リリナ達遠距離攻撃チームの強力で安定した火力支援能力は高く評価され、実験的に遠距離攻撃部隊を編成する案まで浮上していた。
高評価ゆえに、さらなる実戦データを求めた戦略作戦部により、神奈川西部方面へ送り込まれることになってしまったのだが……。
「さらに、リリナは聖導連盟の奇襲時に1ユニットで魔法騎士3ユニットを屠った将来有望な魔法少女だ。リリナには、聖導連盟戦が早期終結したために立ち消えになっていた『青銅桜花章』も合わせて授与したい」
『ああ、あのツインテールか……』『千桜通信に出てたツインテールね……』『可哀そうに、厄介ごとに巻き込まれる体質かしら……』『やはり良いツインテールだ……』
などと、ボソボソと呟く声が会議室のあちこちから聞こえる。
こうしてこの日、リリナへの『千桜功労勲章』および『青銅桜花章』の授与が正式に決定されることとなった。
※統合総括会議メンバー、一応ね。
■統合総括会議 :ルナ ←★創立メンバー
└●統合参謀本部 :ノヴァ ←★創立メンバー
│ └◆情報部 :アイリス
│ └◆戦略作戦部 :クララ
│ └◆航空機動部 :ミヤ
│ └◆特殊作戦部 :エミリー
└●人事部 :ソフィー
└●勤務部 :アリス
└●財務部 :リリー ←★創立メンバー
└●内務部 :ステラ ←★創立メンバー
└●外事部 :エヴァ ←★創立メンバー
└●技術研究部 :ルビー ←創立メンバーの1期下
――――――――――――――――――――――――――――――――
ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると凄っごく嬉しくて、凄っごく励みになるの、是非是非お願いします!




