53話 お帰り、ただいま
「リリナ!!」
「リリナちゃぁぁぁぁぁんっ!!」
カリアさんの方へ歩いていると、突然背後から叫び声が響き、振り向くより早く赤い影が飛びついてきた。さらに反対側から白い影がガシッと掴んでくる。
「おおうっ!?」
カーミラさん……と、セラさん!?
両側から抱きつかれ、ガッチリとホールドされたまま、2人に全力で抱きしめられる。
「よかった……よかった……っ! リリナ! 本当に、本当に生きてて……よかったーっ!」
「リリナちゃん! リリナちゃぁぁぁぁん! うえぇぇぇぇぇぇーーーーんっ!」
カーミラさんは涙交じりの震え声で、セラさんは子どもみたいに泣きじゃくりながら、2人とも震えながらわたしを抱きしめて離さない。
なんだこれ?
帰ってきただけで、こんな大歓迎されるものなの?
「本当に……本当に無事で……よかった……リリナ……」
「リリナちゃん……リリナちゃん……リリナちゃぁぁぁん!」
よく分からない。
こんなふうに迎えられたことなんて、今まで一度もなかった。
『ただいま』と言っても返事が返ってこないことの方が多かったくらいだ。
「おい、カーミラ、セラ。リリナが困ってるぞ」
近づいてきたリレッタが、宥めるように2人を諭す。
「リリナ、あんまり心配かけるんじゃねーよ……」
リレッタも、わたしのこと心配してくれたんだ……。
なんだろう、あまり心配なんてされたことがなかったから、ちょっと嬉しい……。
「本当に、よく無事に戻ってきた……まあ、あたしは、あの惨劇を生き延びたリリナなら絶対無事に戻ってくるって思ってたけどな!」
リレッタがニヤリと笑う。
だが、セラさんが鼻をグズグズさせながら、涙目でニッコリ笑った。
「ぐすっ……ウソばっかり……。リレッタさんも、毎日わたし達と一緒にベースに来て……ずっと、リリナちゃんのこと……戦略作戦部の人に聞いてたんだよ。最後は『消息が分かったら連絡するから』って……追い出されちゃったんだから……ぐすっ……」
「フフッ、そうね。リレッタの心配っぷりは凄かったわよ。通信封鎖がいつ解除されるか分からないからって、1時間おきにパーティー通信で連絡してたわ。ちょっと焼けちゃうくらい必死だったのよ?」
「ば、バカ!」
リレッタ、そんなに心配してくれてたんだ……。
わたしなんか、心配される価値のある人間じゃないのに……少し照れる。
「ありがとう……? こんなに心配されたことがないから、どう反応すればいいのか分からないけど……ちょっと嬉しい? 自分のことを心配してくれる人がいるってのは、意外にいいもんなんだな……」
「はあぁ、まったく。やっぱり魔法少女になんかにされるようなヤツは……」
うるせえ、お前もそうだろうが!
「まあ、今は、あたし達『血の宣誓』のメンバーなんだ。いいかリリナ、ウチじゃ勝手に死ぬのは禁止だからな! 破ったらコロス!」
何だそりゃ。
「そうよ、リリナ。よく覚えておきなさい。『血の宣誓』では、新入りが先輩より早く死ぬなんて絶対に許されないわ。分かったわね、リリナ?」
「そうですよ……リリナちゃんは、初めてできた大事な後輩なんですから。先輩のわたしに黙って勝手にいなくなったら、絶対、絶対、ぜーーーったいに許しませんからね!」
2人とも目を真っ赤にして鼻をグスグスさせながら、真剣な表情でわたしを見つめてくる。
「はい、ありがとうございます……」
2人が本気で心配してくれているのが分かったので、素直に頷く。
カーミラさんとセラさんを泣かせるのは嫌だからな。
「フフフ、リリナ、お帰りなさい」
「お帰り、リリナちゃん」
「ん……よく帰ったな、リリナ……」
「カーミラ先輩、セラ先輩……リレッタさん……ただいま」
「あら、いいわね、それ。『カーミラさん』より『カーミラ先輩』の方がずっと良いわ! リリナ、先輩を心配させた罰として、これからは『カーミラ先輩』って呼びなさい。いいわね?」
「あ、カーミラさんズルいです! わたしも! わたしも『セラ先輩』がいいです! うん! 罰としてこれからは『セラ先輩』です!」
なんとなく先輩呼びしたら、好評っぽい?
「じゃあ、あたしも『リレッタ先輩』で……って、何でそんなに嫌そうな顔するんだよ!?」
なんとなく。
リレッタは『リレッタさん』でも違和感あるんだよねー。
『リレッタ先輩』……うーん、『リレッタパイセン』くらいがしっくりきそう。
「リーダーのリレッタさんは別格ですから、『リレッタパイセン』で、どうですか?」
「うへぇ、前のこと思い出すからそれはやめろ! じゃあ『リレッタさん』で!」
リレッタが本気で嫌そうな顔をするので、リレッタは『リレッタさん』で決定。
2人の時は呼び捨てにするけどね。
「フフ、リリナ、偉いわ。ちゃんと『血の宣誓』のエンブレムを付けているわね!」
わたしの胸元に付けたエンブレム缶バッジを見つけたカーミラ先輩が、嬉しそうに微笑む。
みんなの胸元にも同じエンブレムが輝き、まるで同じ戦隊のメンバーみたいだ。こういうのは嫌いじゃない!
「うふふっ、後はリリナちゃんの衣装をそろえないといけませんね! なるべく早くMGを貯めて、最優先でつくりましょう!」
いや、そこまでしなくても……。
「そうね、今のままだとリリナだけ仲間外れで可哀そうだわ。今度、みんなでデザイン案を持ち寄るっていうのはどうかしら? そうだ! リリナの生還を祝って『お帰り会』を開きましょう? その時に衣装を決めるの!」
「いいですね! 秘密基地への招待もかねて、リリナちゃんの『お帰り会』で衣装を決めましょ! 準備もあるんで、じゃあ次の――」
カーミラ先輩とセラ先輩が楽しそうに秘密基地の話や衣装の話、『お帰り会』の予定を語り合い、そんな2人をリレッタが笑いながら見守っている。
――なんとなく。
なんとなくだけど、帰ってきたんだって……そう思えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの、ゴメンなんさい。リリナちゃん、この後のことでちょっといいかしら?」
小一時間、『血の宣誓』の4人でワイワイガヤガヤ雑談を楽しんでいると、申し訳なさそうにカリアさんが話しかけてくる……しまった! もしかしてずっと待っていてくれたのかも!?
『血の宣誓』のみんなも、事情を分かってくれ、カリアさんと別室でお話しすることになった――。
「リリナちゃんまずは、お疲れさまでした。そして、帰ってきてくれて、ありがと!」
簡素な机と向き合った椅子の置かれた、生活支援課の面談室で、カリアさんがそう言って優しく微笑む。
「戦略作戦部から生存は絶望的って聞かされても、『血の宣誓』の娘達は、絶対リリナは生きてるって、ずっと作戦司令部の通路に詰めてたのよ。リリナちゃんは、いい仲間を持ったわね」
そうでしょ! 『血の宣誓』のみんな、良いヤツなんだよ!
「魔法少女って、本当にあっけなく死んじゃうのよ。私の担当の娘も結構亡くなってるけど、そんな時は、現界で一杯やって忘れることにしてるんだ。生存は絶望的って聞かされて、ああ、リリナちゃんも逝っちゃったかって思って、一杯やろうかって思ってたんだけど……リリナちゃんが無事に帰ってきてくれて、本当に嬉しいわ」
しかし、担当魔法少女が、どんどん死んでいくってヤバいよな。
死ぬ方は後は野となれ山となれでいいけど、残される方は精神的にキそう……。
メンタルよわよわのわたしには、絶対ムリだわ。
「それで、龍鳳学園への復帰の話なんだけど……」
転入1週間で、1週間休みとか、絶対ヤバいよね。
ミアが心配してるだろうな……。
「学園にも、リリナちゃんのクラスメイトにも、ちゃんと説明してあるから安心して」
おお、ありがたい。
ミアに何て言い訳しようか、悩んでたんだよね。
「三枝理奈は、母方の親戚、榊原家の結婚式に参列するためにモルディブに行ってたことになっているわ。島では榊原杏さんと一緒に行動して、3日で帰る予定が天候不順で1週間になってしまったという設定よ。これ、モルディブの入出国スタンプの押されたパストートに、記念写真の入ったデータチップ、こっちが親戚、招待客、宿泊施設、島、交通機関など設定資料諸々。明日の登校までに頭に入れておいて。ああ、入出国記録は全部改竄済みだから、心配しないで大丈夫よ?」
うへぇ、結構な量があるなぁ。まあしょうがないか……。
「うふふふっ、あらためて、お帰り、リリナちゃん!」
話が一段落すると、カリアさんが、わたしを見つめて優しく微笑みながらそう言ってくれた。
「ただいま……」
少しくすぐったいけど、悪い気分じゃない――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「リ゛リ゛ナ゛ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん゛!」
通路に出ると、白衣を羽織った赤髪ショートボブに金色の瞳の魔法少女が、鼻水と涙を垂らしながら突進してきたので、思わずヒョイと避ける。
「ど、どうじて……よげるんでずがぁぁぁぁ!」
いや、酒臭いからつい。
言わずと知れたポンコツお姉ちゃん、アンナである。
「リリナさんの生存が絶望的と聞いて……お姉ちゃんは……お姉ちゃんは……うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
「あー、アンナお姉ちゃん、会いたかったよー(棒)」
一応、心配してくれていたみたいだし、お約束なのでいつものセリフを言っておく。
「うわぁぁぁぁん! よがっだぁぁ……リリナさんが、帰ってぎだぁぁぁ……うわあぁぁぁぁぁん!」
アンナが酒臭い身体で、ベタベタとわたしにしがみついてくる。
「ん! アンナお姉ちゃん、飲んでるでしょ! メチャクチャお酒臭いんだけど!」
「だって……だって……この世でたった1人の肉親のリリナさんが絶望的だって……もう酔っぱらって忘れるしかないって思って……うわぁぁぁぁん!」
いや、肉親じゃねーし!
「というかアンナお姉ちゃん、変身体じゃないんだから、いくら飲んでも酔わないでしょ!」
しがみついてくるアンナを必死で引きはがしながら、一応ツッコミを入れておく。
魔法少女は酔わないし、毒も大抵平気なのだ。兵器だけに……なちゃって!
「そ、そういえばそうですね。どうりでガブ飲み焼酎を3本いっても酔わないと思いました!」
「ガブ飲み焼酎って、5リットル入ってるやつじゃないの? 15リットルも飲んでたら途中で気づくでしょ!」
「たった1人の肉親のリリナさんを失った悲しみが大きすぎて……」
いや、アンタの肉親じゃねーからな!
というか魔法少女に肉親なぞいない!
アンナ、ポンコツ度が上がってないか?
最初に会った時は……いや、こんなもんだったか?
あんまり話さなかったからバレなかっただけか……。
「はぁーー、アンナお姉ちゃん、ちゃんと無事に帰ってきてるでしょ!」
「はい……無事に帰ってきて、お姉ちゃんは嬉しいです。あの……その……リリナさん、お帰りなさい……」
少し照れ臭そうに、アンナがボソッと言う。
「ただいま……。そ、そうだ、この1週間、モルディブで杏お姉ちゃんと一緒に過ごしたことになってるみたいだから、話合わせておいてよね」
わたしも照れ臭くなって、話題を変える。
さっきカリアさんから聞いた設定だと、三枝理奈が慕う親戚の杏お姉ちゃん――榊原杏と1週間モルディブで過ごしたことになっているので、その確認だ。
「へ? 何ですかソレ?」
オイ、カリアさんは連絡済みだって言ってたぞ。
「すいません……丸2日間、ガブ飲み焼酎とポテチの日々だったので、内部連絡を見落としていたかもしれません……」
「ええと、ちゃんと仕事はしてる?」
「はい。ソフィアが頑張ってくれてます!」
ソフィアさんに菓子折り買ってこないとな!
アンナの面倒を見るのは嫌だから、たっぷり賄賂を渡してソフィアさんにアンナの面倒を押しつけよう……。
一応、アンナには魔法少女研修で色々世話になったし、知り合いだし、それくらいはやるよ?
「まあ、とにかく、無事帰ってこれたから。アンナお姉ちゃんも、ソフィアさんにばっかり頼ってないで、ちゃんと仕事してよね……」
命からがら帰還した直後に、ダメ姉の面倒を見る妹の気分をタップリ味わわされるのであった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ベタベタしがみついてくるアンナをあしらいつつカプセルルーム奥のアンナの部屋へ押し込み、ようやくカリアさんが取っておいてくれた宿泊用の部屋へ向かう。
モルディブに行っていたことになっているわたしは、明日はカリアさんの車で龍鳳学園へ向かう予定だ。ちなみに、龍鳳学園から正式に外出した記録も捏造済みとのこと。
明日までに資料を覚えなくてはいけないので、カリアさんから渡された資料類に目を通していると、ドアがノックされた。
「失礼します。情報部のクロウと申します。少々お話よろしいでしょうか?」
鍵はないので、そのままドアを開けると、アッシュブラック(黒に近い灰)の髪をローポニーテールにまとめ、黒のタイトスーツ風の衣装を纏った魔法少女が、スチールグレーの瞳でこちらを見つめていた――。
ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると凄っごく嬉しくて、凄っごく励みになるの、是非是非お願いします!




