51話 魔塊獣(マゴル)包囲網を破れ! 後編
ガーーーーンッ!
銃声が響き、何かが撃ち込まれた感覚――身体がフっと楽になる。
「リリナ、『六本腕』を牽制して! 他のみんなにも回復弾を撃つわ!」
エルフィーネさんの叫びに我に返る。
目眩も吐き気も治まっている!?
エルフィーネさんが回復弾を撃ってくれたようだ!
「了解!」
そのまま膝射で頭部へ照準。
エルフィーネさんの拘束弾のおかげで狙いやすい……発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
『六本腕』の頭部へ着弾!
黒煙が薄れ、わずかに頭部を仰け反らせる。
拘束弾の効果があるうちに頭部への攻撃を続行!
排莢、照準、『フォーサイト』の導きに従い……発砲!
わたしの攻撃に、ミレイユさんの白炎の矢が追撃!
『六本腕』の頭部が再び白炎に包まれる。
3発目を撃ち、わたしがマガジンを交換し終えた頃には、ミレイユさんに続き、シルヴァさんとラティーナも復帰。
エルフィーネさん、最高っ! 愛してる!
「ゴメン、もう魔力が……これ以上特殊弾は撃てないわ」
特殊弾は魔力を消耗する。エルフィーネさんは十分仕事をした……。
「大丈夫、後はわたし達が……『六本腕』を倒す!」
その時、『六本腕』が頭部を庇っていた一番上の両腕を広げる。
その手のひらが黒く光り始め……さらに真ん中の両腕も同じように黒く光り始める!?
「シルヴァさんが左上、ミレイユさんが左下、ラティーナちゃんが右上、わたしが右下!」
手短に指示を出し、すぐに射撃姿勢に入る。
右下の腕へ照準を続け……『フォーサイト』の導くままに発砲!
ほぼ同時に、シルヴァさん、ミレイユさん、ラティーナちゃんも攻撃。
左上の腕は消失!
左下の腕は着弾と共に爆発し、これも消失!
右上の腕は着弾と同時に爆発するものの健在。ラティーナが矢を番えている。
右下の腕は健在だが……排莢、装填、照準……発砲!
右下の腕も消失!
そのまま次弾を装填し、ラティーナの炎の矢が刺さった右上の腕へ照準。
『フォーサイト』の導きに従って発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
着弾と同時に右上の腕が爆発し……消失!
「頭を攻撃して!」
わたしは最後の1発が入ったマガジンへ交換。
シルヴァさん、ミレイユさん、ラティーナちゃん、特殊弾は撃てないがエルフィーネさんも頭部へ攻撃を集中し……シルヴァさんの超電磁砲の直撃で頭部が消失!
だが、『六本腕』はまだ動き続けている!?
4人が胸部へ攻撃を集中するが、『六本腕』は動き続け……。
次第に黒煙が薄くなり、最初に破壊した真ん中の両腕が少しずつ再生していく!?
「ウソ……でしょ!? 何で!? わたし、もう魔力が……」
「っ……! 再生するってインチキだろ……あたしも、もう魔力が切れるぞ……」
「私ももう……コリャムリだわ……」
「ボクはもうちょっとイけるけど、そう長くはもたないよ……」
シルヴァさん、ミレイユさん、エルフィーネさんが魔力切れでへたり込み、ラティーナは苦しげな顔で、再生を続ける『六本腕』の胸部へ弓を撃ち続ける。
残弾は1発……。
だが、『六本腕』が弱っている今なら、『フォーサイト』で弱点を見つけられるかも……。
淡い期待を込めて『フォーサイト』を発動……。
ジリジリと魔力が消費される感覚と共に、今度は光がゆっくりと収束していく!
これなら1発で『六本腕』を仕留められ――急に猛烈な吐き気と目眩に襲われ、『フォーサイト』が解除される。
「ま、魔力切れ!? もう少しなのに……もう少しなのに!」
魔力さえあれば『フォーサイト』を使って1発で『六本腕』を倒せるのに……。
魔力さえあれば……魔力!?
駄菓子屋で買った飴を入れてあった、今は空のはずのポーチの奥を探る。
指先に小さく堅い感触。
「あった……」
最初にBランク魔塊獣を倒した時に拾った『マナ結晶』!
内務部任務課で買い取ってくれなかったので、ずっとポーチに入れて持ってたのをすっかり忘れてた!
すぐに『マナ結晶』を握る……。
スゥーっと魔力が身体中に行き渡り、力が漲ってくるような感覚!
「ラティーナちゃん、大丈夫だから、わたしに任せて!」
わたしは立ち上がると、地獄の殺戮者を構え、『フォーサイト』を発動する。
ジリジリと魔力が消費される感覚と共に光はゆっくりと収束し、『六本腕』の下腹部の1点へと収束する。
照準。
『フォーサイト』の導きに従い……発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
『六本腕』の動きが止まり、全身に纏っていた黒煙がただの煙となり、ゆっくり消えていく……。
「『六本腕』を本当にやったのね……」
しばらく全員が沈黙した後、エルフィーネさんが呟くように言った。
「凄い……凄い! 凄い! 凄いっ! リリナ……お前、やっぱ凄いヤツだったわ。あたしの目に狂いはなかったよ!」
「私達で、BBランク魔塊獣を倒したの? 信じられない……」
「やった~! ボクの彼女達最強!」
みんな地面にへたり込み、笑い声を上げる。
全員、魔力切れ寸前で、目眩と吐き気に襲われているはずなのに、おかしくてしょうがなくて、笑いが抑えられない!
これで帰れる……。
これでみんな無事に帰れるんだ!
みんなでバカみたいに大きく笑い続けた――――ソレの接近に気づくまでは……。
峰の上から、『六本腕』が……2匹の『六本腕』がゆっくりと近づいてくる。
そして、その後ろからは『六本腕』に付き従う軍団のような、数十匹以上のBランク魔塊獣達が……。
「ハハハ……何だよ、まだ居るのかよ……」
「あー、さすがにコレは、ちょっとムリかしらね……」
「上げてから落とすとか、最低でしょ……私もさすがにコレはくるわ……」
「アハハ、さすがにボクでも、こんなにいっぱい居ると困っちゃうな……」
遠距離で意思疎通の手段があるなら、当然、自分が接敵したら他の『六本腕』にも伝えるわな……。
どうする? どうする?
逃げる?
わたし達のフィジカルじゃ、Bランク魔塊獣からさえ逃げ切ることはできないだろう。
戦う?
魔力はまだあるが、残弾はゼロ。他のみんなもほぼ魔力切れ状態。戦ったって勝ち目なんかない。
わたし達がどうすることもできない状態だと分かっているのだろう。
2匹の『六本腕』は大量の魔塊獣達を引き連れ、砲撃する素振りも見せず、ゆっくりと近づいてくる。
「リリナ、まだ魔力はあるんだろ?」
ミレイユさんがニヤリと笑いながら言う。
「魔力はあるけど、残弾がゼロ。もう攻撃手段がない……」
「魔力があるなら、大丈夫ね。逃げなさい、リリナ」
エルフィーネさんが優しそうに微笑む。
「私も先輩として、少しくらいリリナに良いところを見せたいからね。虚空貫槍はあと1発くらいは撃てる。何とか脚止めするからリリナは生き延びて。フフッ、ちょっとカッコいいでしょ?」
シルヴァさんが、いつものようにニヤニヤ笑いを浮かべる。
「帰ったらリリナちゃんのこと、いっぱい可愛がってあげようと思ってたのに残念! リリナちゃんは生き延びてね! ボクはこの3人の彼女と仲良くやるよ!」
ラティーナがニコニコ笑いながらロングボウを番える。
「リリナ、わたし達の分まで頑張って生き延びるのよ!」
エルフィーネさんは微笑みながらマスケット銃を構える。
「リリナ、帰ったらグレースの野郎をとっちめといてね! 約束だよ!」
ミレイユさんがニヤリと一瞬わたしを見てからクロスボウを番える。
「リリナ、私が命懸けで戦うんだから絶対生き延びてよ。さあ虚空貫槍、最後の仕事よ!」
シルヴァさんがHMDを装着し、超電磁砲を構える。
勝ち目どころか、数分持ちこたえることだってできないって、みんな分かってるのに……それでもわたしを逃がすために戦おうとしてくれている……。
どうせ逃げたって助かる確率なんてほとんどない。
契約は守られるべきだ。逃げて犬死するより、せめて契約通り戦って死ぬ方がマシだろう。
よく考えれば、雨の降りしきる夜の街で、借金を抱えたまま1人寂しく野垂れ死ぬはずだったんだ。
こんな愉快な先輩達と一緒に死ねるなんて、最高じゃないか?
そうだよ! まったく最高だ! こんな最高な死に方はそうないよ?
「フフフッ、今さら、わたしだけハブろうとか、さすがに非道いでしょ! 頼りない先輩達を置いて、1人で行けないって! 一応、わたしがリーダーなんだからね!」
わたしは、みんなの後ろにくっついて、ニコリと笑いかける。
「アハハハ! やっぱりリリナって自分ではしっかり者だと思ってるダメっ娘だね! ダメ可愛い過ぎでしょ!」
「そうね。リリナって凄っごくダメ可愛いんだけど……このままでいいのか、ちょっと心配になっちゃうわね」
「リリナちゃん、他の彼女達といっしょに頑張ろうね!」
「フフフッ、それでダメ可愛いリリナ、どうする? 私は1発しか撃てないよ?」
「『最初の1匹は絶対殺す』作戦で行きましょ! 単なる嫌がらせだけどね。さっきの『六本腕』がえぐった所に最初に来た『六本腕』の方を集中攻撃! 全員、頭を狙って!」
「了解! って、1射しかできないけどね!」
「わたしも1発……倒れなければ2発いけるかしら?」
「ボクは3射くらいいけるよ!」
「まあせめて頭くらい吹っ飛ばしたいところだね!」
右の『六本腕』か、左の『六本腕』か。
ゆっくりと近づいてくる魔塊獣を、落ち着いた気持ちで見つめる。
ああ、もう一度、ミアや『血の宣誓』のみんなに度会いたかったなぁ……。
「来るよ! 左……!」
左の『六本腕』の方が、わずかに早い!
みんな射撃準備を整え、息を詰める――。
キュワンッッッ!
後方上空から放たれた紅い光線が走り、魔塊獣達を横一線に貫く。
直後、ドンッという巨大な衝撃音と共に、貫かれた魔塊獣達が爆ぜるように吹き飛んだ。
「えっ……」
瞬きするうちに、地形が変わっていた。
土煙の向こうでは、あれだけ大量に居たBランク魔塊獣達が跡形もなく消え失せ、2匹の『六本腕』だけが、かろうじて形を留めて倒れているという、理解が追いつかない状況。
何がどうなったのか……そんな当たり前の疑問さえ浮かばず、全員がただ目の前の信じられない光景を呆然と見つめていた。
「いやぁ、探しましたよ、リリナさん。頼まれていたモノが出来上がりましたので、お届けに参りましたぁ」
声を掛けられて、ハッと我に返る。
振り向くと、ツンツンと跳ねた赤髪ロングに白衣を羽織った、少し垂れ目で優しいお姉さん風の美少女が、わたしの地獄の殺戮者と同じくらいの巨大なレーザーライフルっぽいモノを抱え、地上へ降り立ったところだった。
「ルビーさん!?」
紅い瞳を爛々と輝かせ、ニタァ~と気味の悪い笑顔を浮かべているのは、間違いなく技研部長のルビーさんだ!
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