49話 魔塊獣(マゴル)包囲網を破れ! 前編
「みんな、魔塊獣との間のビルを撃ちまくれ! 一瞬でいいから、魔塊獣達の視界を塞ぐんだ!」
クズならやるかも……と、ボンヤリとは考えていたので、すぐに反応できた。
魔法騎士が使っていた煙幕が欲しいところだが、ないものねだりをしても仕方ない。
わたし達と、グレース達を追ってきた魔塊獣達との間にあるビルを、全員で撃ちまくる。
連射力はないが破壊力だけは高いCチームの火力が発揮され、数発でビルが倒壊していく――これで少しは時間稼ぎできるはず。
「武器はすぐに送還! わたしに続いて、全力で走って! ラティーナちゃん、西の方に魔塊獣が居ないか、レオンで確認して!」
建物の倒壊で砂煙がもうもうと立ち上り、街灯も破壊されて薄暗くなる中、Cチーム全員で西へ向けて全力で走り出す。
全員武器はなし、逃走に全振り状態である。
航空機動部や特殊作戦部の魔法少女のように強化されてはいないが、それでも民家の屋根や低いビルをジャンプで登るくらいはできる。
瓦礫を乗り越え、低い建物や塀を飛び越えながら、西へ西へと走っていく。
魔塊獣達が追撃してこないことを祈りながら――。
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『桜華乱舞』作戦7日目、03時。小田原、OD04エリア某所――。
わたしが先頭になって、ラティーナの指示に従い魔塊獣を避けながら全力で走っていく。市街から走り続けていると、だんだんと民家が少なくなり、空き地や山林が増えていく。
瓦礫の山を越えてからは、なるべくスピードの出る走りやすい場所を選んできたので、もうかなり距離を離したと思うんだけど……。
「ラティーナちゃん、周囲に魔塊獣は居る?」
ラティーナは逐次魔塊獣の位置を教えてくれていたが、この先は視界の開けた丘へ登るので念のため確認。
「この辺には居ないみたいだけど……なんか、さっき居た方から魔塊獣が分散してウロウロしてる。ボク達のこと探してるみたい?」
魔塊獣が魔法少女を『探す』なんて初めて聞いた。
やっぱり『6本腕』の影響か? Bランクを集めていたことを考えると、放置すると本当にヤバいタイプかもしれない……。
まあ、今のわたし達は、とにかく生き延びるのが最優先なんだけど!
「ラティーナちゃん、周囲の状況はどうかな?」
「安心して、この周り大丈夫だよ!」
人家の少ない丘を登り、街灯もない真っ暗な山道の傍らにある平屋の一軒家へと入る。
家の中は消灯しており、マギドールの強化された視界で何とか見える暗さだが、とりあえずは問題ない。
マップを開き、周囲に魔塊獣が居ないことを自分の目で確認する――どうやら、ひとまずは逃げ切れたようだ……。
「もしかして、あたし達……助かった?」
「そ、そうだよね……私達、助かったんだよね?」
「わ、わたし、まだ生きてる……」
ラティーナ以外の4人は、ずっと魔塊獣に追われていると思い込んで、ただ、わたしの後ろに続いてガムシャラに全力疾走し続けてきた。今になってようやく、自分が助かったと実感できたようだ。
わたしを含め、5人全員の魔法少女の衣装は無理な全力疾走で所々穴が空き、身体中スリ傷だらけ。全員、だらしない格好で畳敷きの床に座り込み、荒い息を吐いている。
「はぁーーーっ、さっき魔塊獣の群れが目の前に現れた時は、絶対、死んだと思ったわ!」
「だねぇ! もうダメだわって思った……私達、よく生き残れたよ……」
「わたし達、本当に助かったのね……」
ミレイユさん、シルヴァさん、エルフィーネさんが、荒い息を吐きながら笑い声を上げる。
「みんな無事でよかった! リリナちゃんのお手柄だね!」
ラティーナも身体中擦り傷だらけで、迷彩柄の衣装もボロボロなのに、いつものようにニコニコしている。
「そうね。リリナのおかげね。リリナが間髪入れずにビルを撃つように言ってくれたから、逃げる時間が稼げた……同じ魔法少女なのに、あんなことするなんて思わなかったわ……」
「あたしも。突然攻撃されて、一瞬頭が真っ白になっちゃって何もできなかったよ。やっぱリリナに指揮を任せて正解だったわ! リリナに頼んだあたし偉い!」
「あんな状況で慌てずに、よく指示が出せたね……。やっぱりリリナ、こういうの慣れてるわ。無事帰るまで、よろしくね?」
「うん、さすがボクのリリナちゃん!」
みんな褒めてくれているみたいなのだが、わたしはそれどころじゃなかった。
他のみんなは一応とはいえ強化しているようだが、わたしは完全な無強化状態。ムチャクチャに疾走してきたせいで、身体中バラバラになりそうだ。
四つん這いの姿勢で耐えていたが、それでも苦しくなり、仰向けに床に寝っ転がって息を整える。
「リリナちゃん、頑張ったね! 偉い、偉い!」
ラティーナが頭を撫でてくる……全てが面倒で、そのまま撫でられるままになる。
「おっ、リリナを撫でる会? あたしも撫で撫でしてあげるー!」
「いいね、命の恩人だからね。私も参加~~!」
「フフ、じゃあわたしも参加しないとね! リリナ、頑張って偉い、偉い!」
グダっているわたしの頭を、4人にワシャワシャ撫でまわされるという謎の状況だが、悪い気分じゃない。
撫でられているうちに、ジワジワと『助かったんだ』って実感が湧いてきた。
とりあえず、生き残った……。
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少しだけ休んで体力回復。
マギドールの素体としてのスペック以上の動作をした場合、魔力消費で補填されるようだ。これは初めての経験なので、覚えておく。
ようやく頭が働くようになり、急いでマップを開く。
グレース達4人組は、Bチームの生き残り3人を残して、その先のエリアまで進んでいた。それでもベースとのデータリンクが回復していないということは……まあそういうことなんだろう。
Bチームに、グレース達4人組との顛末を送っておく。
「リリナって色んなところに気が回るよね。ちょっと感心するわ。私じゃ絶対無理」
起き上がったわたしがすぐにマップを確認し、Bチームにメッセージを送ったのを見て、シルヴァさんが感心したように呟く。
「この後どうなるか分からないけど、Bチームもグレース達を警戒しておかないと危ないでしょ。それに、グレース達がベースに戻ってウソを言いふらしたら困るから、証人をつくっておかないと。わたし、保身にかけては定評あるよ?」
グレース達のクズっぷりからすると、ベースに戻ったら嘘八百を吹聴しかねない。
『わたし達がグレース達を囮にしようとした』とかね。
「おお、リリナ、指揮官っぽい! いいぞ、もっとやれ! グレース達には絶対一泡吹かせてやりたいな!」
「ええ、グレース達のやったことは絶対許せない。でも、とりあえずはベースに生還してからね……」
「グレース嫌い! ボクの大切な彼女達を傷つけようとしたグレースのこと、ボク許さないから!」
お前の彼女じゃないけどな! と4人共思っているだろうが、視線を逸らせるだけで誰も否定も反論もしない。狡賢い魔法少女達である。
「そうだ。ラティーナちゃん、ありがとう! ラティーナちゃんの先導がなければ、魔塊獣と遭遇して危なかった。本当に助かったよ!」
実際、ラティーナのレオンナビがなければ、何度か魔塊獣に遭遇していた。こういうことは、親しい間でも、ちゃんとお礼を言っておかないとダメなんだよね。モチベーション的に。
「ううん! ボクの大切な彼女達のためだもん! これくらい当然だよ!」
お前の彼女じゃないけどな! と4人共思っているだろうが……以下略。
生き残った高揚感に包まれた4人が、真っ暗な和室の居間でワイワイと雑談する中、わたしは頭の中で状況を整理する。
マップで確認すると、光っていない赤い点(過去に確認された魔塊獣)が広範囲に渡って表示されている。分布状況から考えて、魔塊獣は、手分けしてわたし達のことを探しているようだ。
魔塊獣達がさらに追跡範囲を広げる可能性と、鏡界に留まれる魔力の残量を考えると、長くここにとどまるわけにはいかない。
本来ならベースがある東方へ向かいたいところだが、ベースとのデータリンクが回復していないということは、ベースとこのエリアの間に、遠距離攻撃能力を持つBBランク魔塊獣が存在している可能性が高い。
南方への移動は『6本腕』とBランク魔塊獣の大群が待ち構えているので論外。
北方だが、グレース達が飛行せずに走って移動してきたということは、北方にも遠距離攻撃能力を持つBBランク魔塊獣が存在していると考えていいだろう。
となると、残りはベースと反対側になるが、西側しかない。
マップをもう一度確認する。西にあるのは、箱根へと続く山岳地帯……。
魔塊獣は現界の人口が多い場所に集まる習性がある。それなら、人が居ない山の中は魔塊獣は居ないんじゃないか?
魔塊獣が居なければ――狙撃されるリスクなしで帰界を使える!
周囲をラティーナのレオンで偵察し、もし魔塊獣が居たら、5人で掃討すればいい。それで安全に現界に戻れる、多分……。
「よし! 西へ向かおう! 西側の人がいない山奥から、帰界で現界に戻る!」
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『桜華乱舞』作戦7日目、04時。小田原郊外、OD05エリア某所――。
Bチームの3人から返信がきた。
『救援が来るまで隠れている方針』であることと、『グレース達は3人の居る場所を迂回して逃げ去った』という内容が書かれている。
その後には、『少し不利になると航空機動部はすぐ飛んで逃げる』とか、『すぐ逃げるくせに飛べるだけで精鋭扱い』とか、『航空機動部は卑怯者の集まり』など、3人から航空機動部の悪口が大量に送られてきた。
腕を失った1人も元気そうで良いのだが……ちょっと複雑な気分。
A・Bチームとは仲良くやっていたつもりだったけど、意外と仲悪かったのね。
今になって思い返すと、AチームとBチームって、休憩中も結構離れて座っていたわ!
レニーさんは良い人だと思うけど、グレース達はなぁ。
特殊作戦部も全員が良い人かというと、特殊作戦部長のエミリーとかは腹黒そうで苦手なタイプだし……まあ、大きい組織には良い人も悪い人も色々いるということだろう。
一眠りして魔力を回復したかったが、魔塊獣の追跡に見つかるリスクを避けるため、睡眠は取らず、暗いうちに移動を開始することにした。
「もし山の中にBランク魔塊獣が居たら、1匹なら討伐、複数なら退避ね。現界に戻れれば、後は何とでもなる」
戦闘方針をみんなに伝え、いざ出発。
周囲はまだ暗いが、空はだんだんと薄紫色に染まり始め、夜が明けていく。
暗闇でも広範囲の視界を確保できるラティーナのレオンに先行偵察してもらい、舗装されていない暗い林道を山岳部に向かって休みなく小走りで進む。
思った通り、人里離れた山中に魔塊獣の姿はない。
想定通り、小田原の市街地から順調に距離を取れている。
そろそろ『六本腕』から4キロ近くは離れたはずだ。
万が一、帰界中に見つかったとしても、4キロ離れた動く人間大のターゲットに命中するとは考えにくい。
帰界は虹色に発光するので、目立たないように明るくなってから、まずはわたし1人で試すつもり。
わたしが無事だったら、順番に帰界する。
問題は、勝手に帰界で現界に戻って、千桜に何か言われないかだが……ぶっちゃけ逃げるハメになったのはグレース達のせいなので、責任は全部グレース達に押しつけることに決定。
「山頂に着いたら、完全に夜が明けるのを待って、まずわたしが帰界を使うから。わたしが無事だったら、みんなも――」
「みんな止まって! 山の上に『六本腕』が居るよ! 他にも、魔塊獣が集まってきてる!!」
瞬間的に足を止め、マップを確認する。
確かにこの先の山頂に複数の赤い光点、さらに北側から10ほどの赤い光点が山頂へ向かっている。
「……………………」
ここまで、ほぼ一直線に向かってきた。先回りされるはずがない……。
だとすると、北から来た別の『六本腕』だろうか?
しかし、なぜ人家の1つもないこんな山の中に……いや、理由なんかどうでもいい。ここはダメ、撤退だ。
「っ…………………………引き上げる。とりあえず、さっきの民家まで戻る」
偵察しながら進んできたので、そのまま戻れば安全なはず……いや、想定外のことが起きている。
OD04エリアから魔塊獣が追跡してきている可能性もある。用心に越したことはない。
「ラティーナちゃん、周囲の索敵をお願い!」
みんなすぐに現界に戻れると思っていたはずなので士気は下がるだろうが……危険を冒すわけにはいかない。
わたし達は一旦、例の一軒家まで戻り、改めて対策を考えることにした……。
魔塊獣包囲網を破れ! 中編へ続く!
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