48話 魔法少女グレース
まずは、さっき砲撃をしてきた魔塊獣の確認が第一だろう。ちょうどいいことに、偵察ドローン(?)を使える魔法少女が1人いる。
「砲撃した魔塊獣を確認したいんだけど、ラティーナちゃんの使い魔で偵察してくれないかな?」
「いいよ! リリナちゃんのために、ボク頑張るよ!」
「えっと、見つかって、あの砲撃で撃墜される可能性もあると思うんだけど……」
「ボクの使い魔はステルス機能あるから大丈夫だと思うよ! でも、もしヤられちゃったら、購入費は払ってほしいかも?」
そうだよね。ラティーナの私物(?)だもんね……。
「ええと……おいくらするんでしょうか?」
「1つ200万マギト! 高いから1つしか買ってないんだ」
200万……嫌な値段だな、オイ。
「あたし達4人で頭割りすればいいでしょ?」
「まあ、それくらいでいいなら安いもんだな」
「リリナ、マギトがないなら、わたしが立て替えるから心配しないで大丈夫だよ?」
困った顔をしていたのか、エルフィーネさんが心配したように言ってくれる。
ありがたいけど、借金は嫌だ……まあ、何とかなるだろ、多分……。
「あのー、ラティーナさん、なるべく墜とされないようにお願いします……」
「アハハ、リリナちゃん何で敬語なの? 大丈夫だよ。ボクの大事な彼女達のためだもん! ちゃんと偵察してくるよ!」
「「「「………………」」」」
すっかりわたし達を彼女扱いするラティーナだが、今はラティーナの使い魔の重要性を全員が理解しているので、視線を逸らせるだけで誰も否定も反論もしない。
狡賢い魔法少女達である。
「ん……方向は南の方。多分、下にウロついてるBランクとは別のタイプ……じゃないかと思う。とりあえず、怪しいのがいるか見てきて」
「分かった!」
ラティーナが呪文を唱え腕を掲げると、黒い煙につつまれた鷹のような鳥が現れる。ただ、魔塊獣のように眼が赤くなく、グリーンだ。
「じゃあ飛ばすよー! 行って、レオン!」
ラティーナの腕から飛び立ち数回羽ばたくと……スウっと夕空に溶け込むように消えていく。
「消えた……凄い、ステルスってやつ?」
「うん! ステルス能力のおかげで、レオンは今まで1度も墜とされたことはないんだ! 攻撃能力はないけど、いい子だよ!」
「ねえ、ラティーナ、視界共有ってどういう風に見えるの?」
今回の作戦では偵察を航空機動部の魔法少女達が担当していたので、ラティーナの使い魔を見るのは初めてのシルヴァさんが興味津々で聞いている。
ちなみに、わたしはラティーナから色々聞いていたので、ある程度知っている。
「スマートグラスみたいな感じかな。目の前にレオンの視界のウインドウが見えるの。小さくもできるし、視界全体に拡大もできるんだ。何匹か買えば、色々な視点から切り替えて見えるみたいだよ!」
「ステルスで音もしないし、色々な所が覗き放題ね……うらやまけしからん!」
シルヴァさんが目を輝かせているのが、ちょっと怖い……。
「んーーー、多分、見つけたよ! こっから南の丘の上にある、お城の一番上にいる! 多分探してるヤツ。腕が6本ある! でも大きさは、お城の下に集まってきてる他の魔塊獣より、少し小さいみたい」
使い魔が飛び立ってから、いくらも経たないうちにラティーナが叫んだ。レニーさんからBBランク魔塊獣の詳細は聞いていないが、多分ソレだ。
「ソイツが何をしているのか分かる? ソイツと同じようなのはいる?」
「他の魔塊獣が集まってくるのを待ってる? みたいな感じ? お城の上から、集まってくる魔塊獣を見てる。『6本腕』なのは1匹だけ?」
魔塊獣を集めて何を企んでいるのか分からないが、とりあえず今はBBランクの詳細情報が得られただけで十分だ。
データリンクの文字通信機能で、『6本腕』のBBランク魔塊獣の状態を、Bチームの3人に向けて送信しておく。グループチャットのようなもので、同じ『第11レイド級討伐隊』としてA・B・Cチーム全員が登録していたので可能な通信方法だ。
逃げたBチームの誰かが救助されるか、ベースへの帰還に成功すれば、少しは役に立つ情報だろう。
本来なら急いで討伐しなきゃいけないんだろうけど、一般魔法少女から臨時編成されたCチームがそんなことできるわけもないので、逃亡を最優先目標に設定。
「ありがとう、ラティーナちゃん。使い魔はしばらくその『6本腕』を監視していてくれるかな?」
「了解ーっ!」
マギリングのマップを見ると、Bチームの3人は隣のエリアまで上手く逃げられたみたいだが、ベースとのデータリンクは回復していない。
つまり、さらに先のエリアにも魔法少女は居ないということだ。
マギリングのデータリンク消失は、ベース側でもすぐに気づいたはずだ。
それなのに救援どころかデータリンクを復旧させることもできないというのは、復旧できない何らかの理由があるということ。
つまり、わたし達は周囲を全て魔塊獣に包囲された状態で、何らかの理由が解決されるまで孤立無援で耐えなければならない。
おそらく、ココとベースの間にも『6本腕』と同じようなBBランクの魔塊獣が居て、データリンクの妨害をしているんじゃないかな。
砲撃をしてきた魔塊獣が確認できたので、みんなに、今の状況と、これからの方針を説明することにした。
「実は、ここに来るまで、本当にヤバくなったら帰界で戻ればいいやって思ってたんだ」
今回相手にするBランク魔塊獣には遠距離攻撃能力がないと聞いた時から、万一の時は帰界で帰ればいいと思っていたのだ。
「あっ! そういえば、そんなのあったわ!」
「あった、あった。私もすっかり忘れてた!」
「わたし研修の時に1度使っただけだけど、使えるかしら?」
「そういえば、ボクも魔法少女研修の時しか使ったことない」
わたしはついこの前、魔法少女研修が終わったばかりなので覚えていたけど、日常的に転移装置しか使わない一般の魔法少女は、潜界とか帰界とか、すでに記憶の彼方だろう。
「でも、さっきのキルゾーンへの砲撃を見て、帰界は使えないのが分かった。アレ、発射数は10発もなかったけど、あの連射速度でBチームの居る場所に正確に全弾当ててきたでしょ」
間違いなく『6本腕』のBBランク魔塊獣だろう。
「飛行目標に対しての命中精度は分からないけど、Aチームとレニーさんが戻らないってことは、アレに撃ち落とされた可能性もある。のんびり上昇する帰界は狙撃されるリスクが高すぎて使えない」
帰界の話で、みんな戻れると思ったのだろう。わずかにため息が漏れる。
さらに、周囲エリアを魔塊獣に包囲されていること、ベースもそれを解決できていないこと、救援が来るまでどれくらいかかるか分からないといことを説明する。
「――って感じの状況なんだよ。多分、数日以内に救援がくると思うから、それまで上手くやりすごそう。ただ、いつ状況が変わるか分からないから、戦闘、移動の準備だけはしておいてね」
千桜がBBランク魔塊獣が増えるのを黙って見ているわけはないので、早急に新しい『レイド級討伐隊』が派遣されてくるだろう。
基本的には救援を待っているだけでいいが、いつ何があるか分からない。もし何かあった時のために心構えだけは促しておく。
「それで、みんな『マナ結晶』持ってる?」
鏡界は居るだけで魔力を消費するが、きちんと睡眠を取りながら戦闘等に魔力を使わなければ、10日以上問題ない。
みんな支給された『マナ結晶』を使い切っていたため、わたしが|みんなに笑われながらも《・・・・・・・・・・・》貯め込んでいた『マナ結晶』を、1つずつ渡す。
さすがにみんな遠慮していたけど、わたしが1人占めして、仲間の援護が受けられないなんてアホらしいって言ったら、受け取ってくれた。
フフフ、やっぱり取っておいてよかったでしょ、『マナ結晶』!
「またリリナがドヤ顔してる」
誰かがボソっと呟いた……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『桜華乱舞』作戦6日目、21時、小田原、OD04エリア某所――。
内階段を使って、屋上から2階の、外の様子が確認できる洒落たナイトライトが灯る部屋へと移動し、これまでと同じように全員同じ部屋で雑魚寝することに。
「お泊り会みたいだね!」
相変わらずニコニコ顔のラティーナに、みんなが低くため息をつく。
特にすることもないので、別の部屋から運んで床の上に敷いた布団の上をゴロゴロしながら雑談タイムなのだが、食べ物や飲み物は皆無、正直、楽しいとは言い難い雰囲気。
「お泊り会って、もう5日間もやったでしょ。あー、ビールとツマミが欲しいわー」
ミレイユさんがつまらなそうに呟く。
「えー、でも作戦中だからって、いつも早めに寝ちゃってたよ? 今日はいっぱいお話ししようよ! あっ! じゃあ、みんなで楽しいことしようよ! ボク頑張るから!」
何を頑張るんだよ! とツッコミを入れそうになるが、ラティーナなら普通に答えそうなのでやめた……。
「ね、ねえ、ラティーナの、使い魔って、戻さなくて大丈夫なの?」
「うん、私もそれ気になる! ああいうカッコ良いの見るの初めてだから! ねえ、あのまま、ずっと動き続けられるものなの?」
ラティーナの言葉に何やら不穏な空気を感じたシルヴァさんとエルフィーネさんが、慌てて『健全なお泊り会』方向へ軌道修正する。
「使い魔は、24時間は飛び続けても大丈夫じゃないかな? 現界に戻るときは戻さないとダメだけどね!」
「凄いんだね! あたしも使い魔みたいなの欲しいな!」
「ボクは、気付いたらショップに追加されてたから、ミレイユちゃんも突然追加されるかもよ! 便利だけど、ちょっと高いんだけどね! それで、みんなで楽しい……」
「そ、そういえばラティーナって何期だっけ? わたしは――」
その後も、隙あらば不穏な空気を醸し出そうとするラティーナを、4人が必死で『健全なお泊り会』方向のお話に持っていき、(無理やり)盛り上がるのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『桜華乱舞』作戦7日目、02時。小田原、OD04エリア某所――。
交代で睡眠を取ることになり、今はわたしが当直中。
魔法少女は自由に睡眠時間を調整できるのが本当に便利! 変身体にもぜひ欲しい機能である。
ミアや『血の宣誓』のみんなのことを考えながらマップを覗いていると、隣接する北エリアのデータリンクが、いつのまにか回復している!?
確認すると、北から4つの青い光点が、ゾロゾロと赤い光点を引き連れてコッチに向かってきているという、かなり嫌な状況。しかも速い!
わたし達とは別の討伐隊なので、メッセージを送ることもできず、近距離通信が届く同じエリアに入るまで連絡手段がない。
このままだと戦闘に巻き込まれそうなので、すぐにみんなを起こす。
パッと見ただけでも15匹以上の魔塊獣を引き連れている。
多分Bランク、最悪BBランク。
A・Bチームが健在でも同時に相手するのは厳しい数だ。
とても逃亡中の4人と、わたし達5人で撃退できる相手じゃない。
「とにかく、コッチに来られても困るってことを説明して、別の方へ行ってもらうってことでいいかな?」
みんなの了解を取ってから、1分も経たないうちに4人がこのエリアに入ってくる。
『OD04エリアへ移動中の魔法少女へ。こちら『第11レイド級討伐隊』のリリナ。所属と移動目的を連絡せよ。オーバー』
しばらくして返信が入る。
『リリナへ。『第7レイド級討伐隊』のグレース。退却の援護を頼みたい。オーバー』
『グレースへ、こちらリリナ。わたし達は一般魔法少女で編成された狙撃チームで、ここに取り残されているだけだ。援護できる戦力はない。申し訳ないが、別方向へ移動してほしい。オーバー』
少し間があって、返信。
『リリナへ、こちらグレース。以後、リリナ達をあたしの指揮下に編入する。屋上からあたし達を追撃している魔塊獣共を狙撃しろ! アウト』
なに言ってんだコイツ。
ここで15匹以上と戦闘になれば、例の『6本腕』や周辺のBランク魔塊獣達に気づかれる可能性がある。
そうなれば南北から挟撃され、最悪『6本腕』に砲撃される。
『グレースへ、こちらリリナ。近くに遠距離攻撃能力を持つBBランクの魔塊獣と大量のBランクがいる。遠距離攻撃を誘発する可能性があるので援護はできない。別方向へ移動してほしい。オーバー』
『リリナへ、こちらグレース。一般魔法少女は黙って命令に従え! すぐ着くぞ、攻撃の準備をしろ! アウト』
ふざけやがって。
わたし達を脚止め要員として使い捨てにするつもりだな。
『グレースへ、こちらリリナ。航空機動部のレニーの命令がなければ、指揮系統の変更は認められない。繰り返す、レニーの命令がなければ指揮系統の変更は認められない。今すぐ別方向へ移動しろ。オーバー』
お互い『こんな所で魔法少女なんかやってる』クズ同士である。
こちらを捨て駒にするつもりなら、こちらも相応に対処するだけだ。
『いいから命令に従え!』
どうする?
グレース達を撃っちまうか?
脚を止めれば、あとは追撃してきた魔塊獣達が処理してくれるだろう。
いや……さすがに人としてマズいか? 人じゃないけど。
逃げるにしても、長距離攻撃タイプのわたし達は大した強化を受けていない。
一度Bランクに見つかれば、隣のエリアにたどり着く前に追いつかれるだろう。
素早くマップを確認して方針を決める。
「みんな、いつでも建物から脱出できるように準備して! ラティーナちゃん、『6本腕』に動きはある?」
「ううん、前と変わってないよ!」
「何か動きがあったら教えて!」
「リリナ、どうするの?」
ミレイユさんが心配そうに聞いてくる。
「もちろんシカト。わたし達は強制任務でレニーさんの指示に従うように言われただけで、航空機動部や特殊作戦部の指揮下に入ってるわけじゃないから、何の問題もない」
「そうね。どう考えても脚止めの捨て駒扱いだものね。リリナの言う通りにするわ」
「グレースってヤツ、ムカつくし、いいんじゃない?」
「ボクはリリナちゃんの言う通りでいいよ! グレースって嫌い!」
ミレイユさんも肯いてくれたので、シカトってことで!
北からどんどん青い光点が近づいてくる。もちろん十数個の赤い光点が、追いすがるようにその後ろに続いている。
「もう見えるはずだけど、何もしないでやり過ごすよ!」
道路沿いに、北から魔法少女達が走ってくるのが見えた。
このまま南へ向かえば『6本腕』や大量のBランク魔塊獣と鉢合わせするんだが……何か考えがあるのか?
『リリナ、何をしてる。早く狙撃しろ!』
近距離通信でグレースが叫ぶが、もちろんシカト。
そんな自殺みたいな真似、するわけないだろうが!
『チッ! 役立たずが!』
わたし達がいるビルの前まで来た4人の魔法少女達は、立ち止まると――この周囲のビルに攻撃しはじめやがった!
「あのクソ野郎!」
「くっ! 外へ逃げろ!」
魔法少女のクズっぷりを舐めてた。
わたし達を囮にするつもりなら、ビルから追い出して魔塊獣に見つけさせるかも……とは思っていたけど、まさか本当に攻撃してくるとは思わなかった!
ビルから飛び出した直後、周囲の建物と同時に、わたし達がいたビルが崩落しはじめる。
立ち上る砂煙の中を急いで魔塊獣のいない南側へ走ると――周囲のビルがことごとく破壊され、瓦礫の山で道が塞がれている!?
道路を走るならともかく、これじゃあ追いつかれる!
『じゃあな、リリナ! あたし達が逃げ切るまで、なるべく時間を稼いでくれ!』
見ると、轟々と立ち上る砂煙の上に4人の魔法少女が浮かんでいる。
こいつら、航空機動部の魔法少女だったのかよ!
最後にご丁寧に『6本腕』がいる方へ向けてビームを発射し、そのまま建物スレスレの高度で東へ飛び去っていく……。
まったく! やっぱりグレース達を撃っとけばよかったぜ!
「リリナ、アイツらを追ってきた魔塊獣が……」
北から十数匹のBランク魔塊獣が姿を現す。
「リリナちゃん、今の攻撃で『6本腕』がこっちに向かってくる!」
このままだと、南北で魔塊獣に挟まれる――!?
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