44話 発令! 『桜華乱舞』作戦
「あ゛ーーーーーっ゛?」
リレッタやカーミラさん、セラさんといっぱい食べて、飲んで、お喋りして――歓迎会をめいっぱい楽しんだわたしは、最後にカーミラさんとセラさんにお礼を言い、名残惜しさを感じながら現界へ戻ってきた。
幸せ気分のまま、白いネコちゃんぬいぐるみのミャオミャオ(ミア命名。ちなみにミアの黒いネコちゃんはミャアミャア)を抱えてベッドに入り、気持ちよく眠りについた……はずだったのだが、小一時間もしないうちに首がチリチリして起こされる。
眠い目をこすりながら、メタルチョーカーをマテリアライズ……。
『リリナへ、こちらY08ベース。20分以内にY08ベース第3ブリーフィングルームに集合せよ。オーバー』
ヤベぇ。これ、Y08ベースからの強制任務の呼び出しだ。
えーと、なんて答えるんだっけ!?
魔法少女研修で習った受け答えを思い出す。
『了解、アウト』
強制任務とは、戦争時などに発行される、魔法少女に拒否権のない特殊な任務――魔法少女研修で習ったあれだ。
なんだろ、また戦争?
まあ、千桜ってしょっちゅうドンパチやってるみたいだしなぁ。先にレイド級魔塊鬼の件を何とかした方がいいと思うんだけど……。
あーあ、嫌だなぁ……契約だから行くけどさ。
仕方なく変身解除してから、冷蔵庫に入れてあった駄菓子屋で買った飴をポーチに入れ、Y08ベースの転移装置ルームへ――。
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戦争関連の施設がある区画は、いつもの中央ロビーから離れているし、立ち入りにも許可が必要らしいので、実際に行くのは初めてだ。
ブリーフィングルームがある区画へ向かって通路を歩いていくと、同じように呼び出されたのだろう、何人もの魔法少女たちが同じ方向へ歩いていく。
マジで戦争かよ!?
リレッタ達はいる? カーミラさんとかセラさんって、戦争とか大丈夫なのかな……。
キョロキョロと周囲の魔法少女たちを確認するが、リレッタ達の姿は見当たらない。
代わりに、ギャル系魔法少女のエリカさんを発見!
エリカさんは背が高くて、肩とかへそとか色々出てて目立つ格好だからね。
「エリカさん!」
「んー? あ、え、なに、リリナっちも呼び出されたの!? ああ! そういえばリリナっちってさ、フツーに強かったんだっけ」
「? そんなに強くはないですけど……何で呼び出されたのか知ってます?」
「あー、たぶんだけど、レイド級魔塊鬼の件じゃね? ほらこの前、めっちゃ負傷者出てたじゃん? あれで本部が動いたってカンジっしょ?」
よかった。戦争じゃないんだ!
本部から精鋭魔法少女が派遣されてきたって話?
「ウワサになっていた、精鋭魔法少女が派遣されるって話ですかね? わたしが呼び出される理由が分からないですけど……」
「んー、航空機動部とか特殊作戦部のパシリやれって話じゃね? 戦争の時も似たようなことあったしー」
パシリとかさせられるんだ……。
わたしは新人だからしょうがないけど、エリカさんとかでもパシリとかさせられるのかな?
「パシリって何やるんですかね?」
「んー、戦闘補助とか? 後ろから援護の魔法撃ったり、強化魔法かけたりする系ー?」
わたしだと、後ろから狙撃してればいい感じ……なのかなぁ?
でもわたしって、弾も魔力も少ないんだけど役に立つのか?
うーん、一応ちゃんと事情を説明するか。新造だし、大した期待はされてないだろ。
通路の先に、空港とか龍鳳学園にあった金属探知機みたいな狭いゲートがあり、1人ずつ進んでいく。メタルチョーカーで識別しているようだ。
まだ先のようなので、エリカさんと雑談しながら、隔壁のようなゲートをいくつか抜け、奥へと歩いていく。
「この前、リリナっちと話したことだけどー、カーミラっちとセラっちだっけ? 今度さ、戦闘ちょい見せてもらおっかって、あーしのパーティーメンバーと話してたんよー」
確かに命がかかってる問題だし、自分の目で確かめないと信用できないだろう。
今のカーミラさんとセラさんの戦闘なら、誰が見ても文句は出ないと思う。
誤解を解くためにも、早めにエリカさんのパーティーの人にも見てもらったほうがいいな。
しばらく歩くと、第1から第3まで並んだブリーフィングルームが見えてくる。
「あーしは第1だけど、リリナっちは?」
「わたしは第3ブリーフィングルームですね」
「んじゃあ、ま、お互い死なないように、がんばろーねー」
手をヒラヒラさせ第1ブリーフィングルームへ入っていくエリカさんの後ろ姿を見送り、少し先の第3ブリーフィングルームへ向かう。
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第3ブリーフィングルームに入ると、教室より少し大きいくらいの白い部屋に、テーブル付きの椅子が並び、4人の魔法少女がバラバラに座っている。
部屋の後ろ側のドアから入ったので特に注目されることもなく、何を説明されるのかもよく分からないため、適当に後ろの空いている椅子に座る。
そういえば、筆記用具とか持ってきてなかったわ!
メモ帳と鉛筆くらいは持ってくればよかった。|鏡界ってボールペンとかシャーペンとか使えるのかしら?
とりあえずヒマなので周囲を観察。
うーん、知っている魔法少女はいなさそう。といっても、魔法少女に知り合いが多いわけじゃないので当然なんだけどね。
白銀のポニテ、赤茶のショートボブ、金髪の王冠編み。後ろ姿なので顔は見えない。金髪は、わたしの髪より黄味が強い感じ。
その時、ドアが開き、浅緑のショートヘアに褐色肌の魔法少女が姿を見せた。
ワイルドな美しさを宿した顔立ちに、印象的な菫色の瞳。迷彩柄の衣装と相まって、森の中で獲物を狙う狩人のような雰囲気で、可愛いというよりは、凛々しいとかカッコいいって感じ。
目が合ったので軽く頭を下げると、ニコっと微笑みを返してくれる。意外に可愛らしい笑顔で仲良くなれそう……と思っていたら、隣に座ってきた。
「はじめまして、ボクはラティーナ。キミって例の魔法騎士を撃破したツインテールちゃんだよね! よろしくね?」
『前』も含めて、人生初遭遇の『ボクっ娘』である!
ボーイッシュなショートヘアや顔立ちにぴったりの口調と仕草で、『ホンモノ』っぽいんだけど……さすがに聞くわけにもいかず、とりあえずご挨拶。
「リリナです、よろしくお願いします。魔法騎士はわたしがとどめを刺しただけですけど、多分、ラティーナさんのおっしゃっている『ツインテールちゃん』で合ってると思います」
「あはは、リリナちゃんって魔法少女講習を修了したばっかりだっけ? 少しは女の子っぽくしないとダメでしょ?」
ニッコリ微笑むラティーナさんに、ツンとおでこを指先で軽くつつかれる。
どうやら『ホンモノ』ではなさそうだ……けど、距離感がミアっぽい。
別にいやじゃないけどさ。
「その、まだ慣れていないもので、頑張ります」
思わず頭を下げると、ラティーナさんはさらに笑い声を上げる。
「あははは、リリナちゃんは真面目さんだね! 魔法少女になってどれくらい?」
「まだ2カ月経ってないですね」
「そりゃまだ慣れないか。学校に通って、女の子の友達とお喋りしてればすぐ慣れるよ。ガンバレ!」
「はぁ……」
うーん、ミアと話してる時は……できてるのかなぁ?
ちょっと自信がないぞ……指摘されたことはないから大丈夫……と信じたい。
「この部屋に来たってことは、リリナちゃんも遠距離攻撃系なんだよね?」
「そうですけど、この部屋ってどういうことですか?」
「ほら、前の3人もボクも遠距離攻撃系だから、リリナちゃんもそうなのかなって」
前の3人がチラっとこっちを見るが、あまり興味がないのかすぐ前を向く。
「航空機動部とか特殊作戦部のパシリやらされる……みたいなことを聞いたんですけど、ラティーナさんは何かご存じですか?」
「もう、リリナちゃん堅いよ? 練習だと思って、もっと砕けた口調で話してみない?」
何の練習なのかよく分からないが、もっとフレンドリーにいこうという意味だよな?
「え、はい……ええと、知り合いに、航空機動部とか特殊作戦部のパシリやらされるって話を聞いたんだけど、何か知ってます?」
「うーん、70点!」
ニコニコ笑いながら点数を付けられた!?
顔をくっつきそうなほど近づけれら、『もう一回、ボクのことを親友だと思って言ってみて? 練習だよ?』と言われた……。
リレッタの『お前ってヘンなヤツとばっかり知り合いになるよな』という言葉を思い出す……。
コレ、アンナと別方向でウゼェヤツだわ!
「ええと……知り合いに、航空機動部とか特殊作戦部のパシリやらされるって話を聞いたんだけど、ラティーナさん、なんか知ってます?」
「『ラティーナちゃん』」
「えっ?」
「『ラティーナちゃん』って呼んで!」
ウゼェ……マジでウゼェ……。うーーー、我慢、我慢。
「し、知り合いに、航空機動部とか特殊作戦部のパシリやらされるって話を聞いたんだけど、ラティーナちゃんは、なんか知ってるかな?」
「うーん……合格! これでボクとリリナちゃんは親友だね!」
「う、うん……」
リレッタ凄げぇわ!
マジで『ヘンなヤツとばっかり知り合いになる』わ!
当たっても全然ありがたくないけどな!
前の3人が、わたしとは視線を合わせないようにしながら、気の毒そうな表情でチラチラとこっちを見ている……多分、こいつら、ラティーナのウザさを知ってやがったな!
「あっ、パシリの話だったね! ボクたちは狙撃チームじゃないかな。航空機動部と特殊作戦部の精鋭魔法少女が正面の敵を食い止めてる間に、後方から狙撃で援護する任務だと思うよ。戦争の時はよくあったんだ」
そう言いながら、さりげなくボディータッチしてくる……!?
「でも『パシリ』とか、面白いこと言うね。誰が言ってたの?」
「ええと、ここに来る時に、エリカさんとお話しして……」
「ああ、エリカか。エリカとは友達なの?」
「たまに話すくらいですけど……」
ギャルっぽい風体と口調だけど、中身はまともな人なので、わたしとしては、ぜひお友達になりたいところなんだけど……というか、さっきから身体を近づけてきたラティーナが指先で太ももをツツーってやってくるんだけど!
「あ、あの、ラティーナちゃん、手が……」
「リリナちゃんは、どこかのパーティーに入ってるの?」
わたしの言葉をガン無視でニコニコ笑っている……ミアもずっと手を握ってたし、ちょっとだけスキンシップが過激なだけ……だよな?
「えっと、手……」
「リリナちゃんは、パーティーに入ってるの?」
「えっと、『血の宣誓』に……」
「っ!? 『血の宣誓』って、リレッタの?」
「あ、そうです! リレッタの『血の宣誓』です!」
カリアさんのおかげで、『血の宣誓』の話は広まっているようで、ラティーナさんも知っていたようだ。
「なんだぁ、リレッタの娘かぁ……」
ちょっと残念そうな表情で、ラティーナが指先で太ももツツーってやっていたのを止めて身体を離し、頭の後ろで手を組む。
「あーあ、確かにリレッタ好みのウブそうな娘だもんなぁ……」
ウブじゃねーよ!
ん!? なんかリレッタと個人的知り合いっぽいセリフだなぁ……。
「ええと、もしかしてリレッタの知り合い?」
「ん、まあそうだね。ボクはソロでやってるんだけど、時々マギトが足りなくなって、臨時のパーティーメンバー募集の任務……傭兵みたいなことをやってるんだ」
ラティーナはソロなのか……だよな! 分かるわー! なぜとは言わんが。
ラティーナの性格は置いといて、遠距離攻撃タイプがソロなのは分かる。
遠方から隠れて攻撃する遠距離攻撃系って、基本的に近距離・中距離で戦うパーティー戦とは相性悪いんだよね。
わたしも『血の宣誓』で大歓迎されなければ、ソロで活動するつもりだったし。
「リレッタって『血の宣誓』の2人を凄く可愛がってるでしょ? 最近は減ったけど、前は臨時の傭兵みたいな任務を請けて2人のためにマギトを稼いでたんだよ。それで、時々一緒になったんだ」
「リレッタそんなことしてたんだ……」
ハブられてたって割には色々知ってるから、何でだろうと思ってたんだよね。
裏でそんなことしてたんだ……リレッタ、やっぱり良いヤツじゃん!
内心でリレッタの評価を少し上げる。
「うーん……」
ラティーナが顔を近づけ、まじまじと見つめてくる。
「な、なにかな?」
「うん、やっぱり可愛い! リレッタだけ3人とかズルいよ! ねぇ、リリナちゃん……ボクと試してみない? リレッタより上手い自信あるけど?」
オイ! なにを試すんだよ!?
本気で、これ以上ヘンなヤツと知り合いになりたくないんですけど!!
その時、前側のドアが開いて片目が隠れたブルーの髪に海賊風の衣装の魔法少女が入ってくる。追加のお仲間さんか……と思ったら、正面に立った。
ラティーナが「考えといてね?」と小声で呟くと、真面目に前を見る。
どうやらブリーフィングとやらが始まる雰囲気……ん? あの片目が隠れたブルーの髪に海賊っぽい衣装って、どこかで見たことがあるような気が……最近、初めて会う人が多くて記憶があやふやなんだよな……。
「あたしは航空機動部隊のレニーです。まず、急な呼び出しに応じてくれて感謝します」
あっ! 思い出した!
魔法少女研修の時に新宿ベースの転移装置ルームで会った、航空機動部隊のレニーさん!
奇遇だなぁ……と思って見ていると目が合った。軽く頭を下げると、レニーさんも軽く会釈してくれる。
「早速ですが、今回発令された『桜華乱舞』作戦についてを説明します」
正面に大きな立体モニターが表示され、レニーさんが説明を始める。
「5日前に発生した魔力潮流の影響が広範囲に渡って発生し――」
レニーさんの話だと、魔力潮流のせいで、100匹以上のBランクのレイド級魔塊獣が暴れているらしい。
Bランクの魔塊獣を放置すると、さらに強力なBBランクの魔塊獣に融合してしまうため、ランクアップする前に全て討伐する……という作戦らしい。
航空機動部と特殊作戦部の精鋭魔法少女は、討伐対象のレイド級魔塊獣が多すぎて手一杯らしく、人員に余裕のあるY08ベースでは、一般魔法少女からの選抜メンバーと、航空機動部・特殊作戦部からの補助人員で『レイド級討伐隊』を編成するという。
それを聞いた魔法少女たちがザワつきはじめた。
航空機動部と特殊作戦部の精鋭魔法少女が戦ってくれるものだと思っていたのに、自分たちで何とかしろと言われてしまった。負傷者が続出している状況を見れば、不安になるのは当然だ。
さらに、強制任務なのでいくら危険でも断れない。魔法少女たちの間には『カンベンしてくれ……』という空気が広がっていた。
「我々Cチームは、ここにいる長距離攻撃タイプの5ユニットと、あたしの合計6ユニットで編成される補助チームとなる。A、Bチームほどの危険はないから安心してほしい――」
レニーさんの説明によると、AチームとBチームは、それぞれ15ユニットの選抜魔法少女と、航空機動部・特殊作戦部から派遣される補助要員3ユニット、合計18ユニットで編成される主戦力『レイド級討伐隊』として戦い、わたしたちCチームは、そのA・Bチームを後方からサポートする補助的なチームになるらしい。
その説明を聞き、魔法少女たちの動揺は一度は治まっていった――のだが、次のレニーさんの言葉で、再びざわめきが走る。
「みなさんには、今から7日間、『桜華乱舞』作戦終了まで鏡界で任務を遂行してもらいます。魔力の補給は『マナ結晶』を支給しますので、それで補ってください」
マジか!? 1週間、現界に戻れないって……学校どうすんだよ!?
絶対心配するだろうから、せめてミアにはメッセージを入れたいたんだけど……。
「突然過ぎる!」
「現界の生活はどうなるの?」
わたしと同じことを思ったのだろう。前の席の何人かが声を上げる。
「現界での問題は、生活支援課が処理することになっていますので心配は不要です。今回のBランクの魔塊獣の討伐は、可及的速やかに対処しなければ、さらに大きな被害をもたらすことになるでしょう。ご協力お願いします」
唸り声のような、不満の『声なき声』が上がるが、一般の魔法少女では逆らうことはできない。
わたしも、もうちょっと準備くらいさせろよと文句を言いたいのだが……契約だからと思うしかないな。中間管理職(?)のレニーさんに文句言ってもしょうがないだろうし。
「それでは、今回の作戦におけるCチームの具体的な指揮系統、役割を説明していきます――」
どんよりと重い空気に包まれた第3ブリーフィングルームで、表情を殺したレニーさんが説明を始めた。
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1時間後、千桜の全ベースに『桜華乱舞』作戦発動が告げられる――。
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