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43話 千桜緊急統合総括会議

 鏡界、都内某所――。


 白い照明、白い壁、白い床、白い調度品。すべてが白で統一された会議室。

 中央の円卓には、千桜を率いる12名のAAAランク魔法少女が座っていた。その表情は、聖導連盟の奇襲時よりもさらに険しい。


 今回の魔力潮流(マナ・タイド)は、千桜どころか鏡界全体に深刻な影響を及ぼしていた。


「早速ですが、緊急統合総括会議を始めます。4日前に発生した魔力潮流(マナ・タイド)の影響で、各地の情勢が急激に変化しています……」


 議長であるルナの声は、いつになく重い。


「ステラさん、千桜支配エリア内の状況をお願いします」


 内務部部長のステラがうなずき、説明を始める。


「中央モニターをご覧ください。赤い光点が、現在レイド級魔塊鬼(マゴル)の出現が確認された地点です」


 円卓中央の立体モニターが点灯し、広域関東圏の地図が表示される。そこには無数の赤い光点が散らばっていた。


「この4日間で、300匹以上のレイド級魔塊鬼(マゴル)が確認されています。魔力潮流(マナ・タイド)はすでに収束したと見られ、新たなレイド級の出現は確認されていません」


 記録上、魔力潮流(マナ・タイド)が連続発生した例はなく、今回は終了したと判断された。


「数は多いものの、当初確認されたレイド級はすべてBランクでした。航空機動部と特殊作戦部の投入により、東京都内の討伐はほぼ完了しています」


 モニターが更新され、東京都内の赤点はほぼ消えていた。周辺部も徐々に減少している。


「現在までに135匹の討伐に成功していますが……今回、初めてレイド級魔塊鬼(マゴル)が『集団行動』するケースが確認されました。複数体との戦闘で一般魔法少女に損害が発生したため、討伐任務の発行は一時停止しています」


 レイド級が大量出現した例はなく、集団行動は完全に想定外だった。

 複数体との戦闘は一般魔法少女の想定任務外であり、負傷ユニットが多数発生。死亡例まで出たため、内務部は任務発行を停止した。


「一般魔法少女には、航空機動部・特殊作戦部の討伐完了まで待機してもらう予定でしたが……複数のBランクが融合し、BB(ビービー)ランクへ『ランクアップ』する事例が確認されました」


 会議室がざわめく。


 魔塊鬼(マゴル)を放置すると強化されることは知られていたが、『融合して上位種になる』のが確認されたのは初めてだ。


 しかもB→BBは、文字通り桁違いの強化を意味する。


 航空機動部・特殊作戦部に所属する魔法少女ならBランクは単独撃破可能だが、BBランクとなればパーティー戦闘が必須。複数体ともなれば、航空機動部・特殊作戦部で構成されたレイド規模の戦力が必要になる。


「このため、ある程度の損害を許容してでも、ランクアップ前にBランクのレイド級魔塊鬼(マゴル)を討伐する必要があります」


 中央モニターに、各ベース所属魔法少女のランクとユニット数が表示される。


「戦略作戦部との協議の結果、航空機動部・特殊作戦部のみでの早期殲滅は不可能との結論に至りました。詳しい作戦は後ほどクララさんから説明がありますが、両部隊の派遣に加え、各ベースから選抜した魔法少女による『レイド級討伐隊』を編成し、早急にBランクの殲滅を進めます」


 放置すれば、さらに強力な怪物が生まれる。

 だからこそ、損害を覚悟してでも早期に芽を摘む――それが今回の方針だった。


「反対意見はないようですので、航空機動部・特殊作戦部と各ベースで編成した『レイド級討伐隊』の共同作戦を許可します」


 この決定により、『レイド級討伐隊』編成のために、強制任務が発行されることになる――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「次に、近隣諸勢力の状況報告を、アイリスさんお願いします」


 ルナに指名された情報部のアイリスが、特徴的な虹色の瞳を瞬かせてから軽く頭を下げる。


 魔力潮流(マナ・タイド)は、千桜周辺の勢力の動向にも深刻な影響を与えていた。


「データはみなさんのマギリングに送りましたので、詳細はそちらをご確認ください。まず聖導連盟ですが……」


 中央モニターには、各勢力範囲ごとに色分けされた、近畿と中部地方の境を中心にした地図が映し出される。


「聖導連盟は神環協盟と全面戦争に入っていましたが、魔力潮流(マナ・タイド)発生と同時に停戦しました。神環協盟の動きは不明ですが、聖導連盟はレイド級魔塊鬼(マゴル)への対応のため、戦力を再配置しているようです」


 モニターの表示が切り替わり、広域関東圏の勢力図が映し出される。


「同盟中の銀翼社の魔力潮流(マナ・タイド)による被害状況は、千桜と同程度だと思われます。おそらく戦力的に余裕があるのでしょう。大きな混乱もなく、粛々とレイド級魔塊鬼(マゴル)の討伐を進めているようです」


 銀翼社は埼玉北部から群馬を拠点に勢力を広げている魔法少女組織だ。

 以前、千桜との戦争で埼玉南部を失陥し、現在は同盟勢力として着実に戦力を増強している。


常葉(ときわ)魔導協会も、被害状況は千桜と同程度だと思われますが、戦力的にかなり厳しく、魔法少女に損害が出ているようです」


 常葉(ときわ)魔導協会は千葉・茨城を支配エリアとする魔法少女組織で、千桜とは不可侵条約を締結中。

 戦力は支配エリア維持で手いっぱいで、今回の魔力潮流(マナ・タイド)に十分な対応ができていないようだ。


「山梨の富嶽魔導院は、相変わらずですね。魔力潮流(マナ・タイド)の被害はほとんどないようです。あそこは支配エリアが小さい割に強力な魔法少女が揃っていますから、すぐに討伐したのでしょう」


 富嶽魔導院は富士山周辺の小規模勢力だが、強力な戦力を保有しているため周囲から放置されている。


「外事部から、よろしいでしょうか?」


 黒に銀の長髪、銀灰色の瞳を持つ外事部部長エヴァが手を上げる。


常葉(ときわ)魔導協会から、戦力の派遣要請が来ています。先ほどの話の通り、戦力不足で手が回らないようですね」


 同盟相手の銀翼社ならともかく、千桜自身も戦力不足の状況で、不可侵条約のみの常葉魔導協会へ戦力を派遣する理由はないのだが……。


常葉(ときわ)魔導協会ですが、あそこは戦争経験もありませんし、保有戦力も多くありません。今、常葉(ときわ)魔導協会が崩壊すると千桜も困るのでは?」


 財務部長のリリーが心配そうに言う。

 常葉魔導協会が崩壊すれば、千桜東部に空白地帯が生まれることになり、千桜としては歓迎すべき事態ではない。

 とはいえ、同盟相手でもない勢力を援助するだけの戦力的余裕は、今の千桜にはなかった。


「いざとなれば、シルバーイーグルに助力を頼めばいい。日本魔法少女連合のオブザーバーとして、高いマギトを払っているんだ。こういう時こそ働いてもらわないとねえ」


 そう言ったのは、統合参謀本部長のノヴァだ。


 第二次大戦終了直後、GHQ統治下の日本で、米国に本拠地を置く魔法少女組織、シルバーイーグルが組織した日本魔法少女連合は、現界でいう国際連合のような組織である。

 千桜、聖導連盟、銀翼社、富嶽魔導院、常葉魔導協会など、シルバーイーグルの指導下で形成された日本国内の主要な魔法少女勢力は、すべてこの日本魔法少女連合に加盟している。


 シルバーイーグルは現在までオブザーバーとして参画し、その強大な戦力を背景に、日本魔法少女連合内の条約や協定違反に罰則を科し、事実上、連合内の「警察官」として振る舞ってきた。


 しかし加盟組織は、オブザーバー料として高額のマギトを支払わされており、不満を抱く勢力も多く、この状況で助力を惜しめば、加盟組織の不満と不信感はさらに高まるだろう。


 そのため、常葉(ときわ)魔導協会がシルバーイーグルへ助力を要請すれば、シルバーイーグルとしても助力せざるを得ないはずだ――。

 それがノヴァの読み(・・)だった。


 結局、現状早急に派遣できる戦力が千桜に存在しないという実情から、常葉魔導協会へは『シルバーイーグルへの助力要請』をアドバイスするに留めることになる――。


「富嶽魔導院からは、静岡からの魔塊鬼(マゴル)の侵入が目に余るとの苦情と、千桜が自力で討伐できないのであれば、静岡側の富士山周辺エリアを割譲してほしいとの打診が来ています」


 静岡は元々、黒狼から聖導連盟が奪ったエリアだ。

 聖導連盟はこのエリアを千桜へ割譲するつもりだったのか、魔塊鬼(マゴル)狩りをせず完全に放置していた。


 休戦協定で支配権は千桜に移ったが、千桜も戦力不足で放置。

 その結果、強化された魔塊鬼(マゴル)が溢れ出し、隣接する富嶽魔導院の支配エリアへ侵入している、というわけだ。


「いっそのこと、富嶽に静岡の全エリアを割譲してしまってもいいんじゃないかな?」


 ノヴァがそう提案する。

 現状の千桜に静岡エリアを統治する余力はなく、妥当な意見ではあるが――。


「実は、静岡全エリアの割譲について打診してみたのですが、『富士山周辺以外は不要。聖導連盟との緩衝地帯として利用されるのは迷惑』と言われてしまいまして……」


「あはは、さすがに見抜かれてるかぁ。じゃあ富士山周辺エリアの割譲を条件に、静岡エリアの魔塊鬼(マゴル)の駆除を依頼できないか? 富嶽にとっても悪い話じゃないだろう?」


 魔塊鬼(マゴル)を狩ればマギトが手に入る。

 富嶽魔導院にとっては、富士山周辺エリアに加えて、自由に使える狩場が増えることになる。

 しかも、その狩場を維持するために魔法少女を駐留させる義務もないので、断る理由はない、という判断だ。


 後に富嶽魔導院は、富士山周辺エリアの割譲を条件に、静岡エリアの魔塊鬼(マゴル)駆除依頼を受け入れることになる――。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「それでは、戦略作戦部からレイド級魔塊鬼(マゴル)討伐作戦の概要を説明をさせていただきます。今回の作戦目標は『1週間以内での、レイド級魔塊鬼(マゴル)の完全討伐』となり――」


 スモークブルーと呼ばれる、煙るような水色の髪を揺らしながら、戦略作戦部長のクララが説明を始める。


 静岡、神奈川西部は名目上、千桜の支配エリアであるものの現状拠点1つない状態なので今回の作戦対象地域外。


 東京のレイド級討伐はほぼ終了しており、残りのレイド級は一般魔法少女から編成する『レイド級討伐隊』のみで対応可能。


 埼玉南部は、銀翼社への抑止力として比較的ランクの高い魔法少女が所属していたため、一般魔法少女から編成される『レイド級討伐隊』と、戦略作戦部から派遣される戦術指導部隊の組み合わせで対応。


 問題は神奈川東部だ。黒狼戦で橋頭堡(きょうとうほ)として戦力を集めていたY08ベースを除くと、他の拠点は魔法少女のランクこそ高かったものの、必要最低限のユニット数しか所属していない『スカスカ』の状態だった。


 その上、魔力潮流(マナ・タイド)直後に、少ないユニットで複数のレイド級と交戦し、死亡ユニットまで出す始末。とても独力で『レイド級討伐隊』を編成できる状況ではない。


 そこで戦略作戦部は、『レイド級討伐隊』の主戦力として航空機動部・特殊作戦部の部隊をY08ベース以外の神奈川東部のベースに分散配置し、一般魔法少女はその援護を担当させる方針を決定する。


 一方、黒狼戦や聖導連盟戦を経験したベテラン魔法少女を擁し、さらにユニット数にも余力のあるY08ベースでは、複数の『レイド級討伐隊』を編成することが可能だった。


 そのため、Y08ベースでは、一般魔法少女から編成した複数の『レイド級討伐隊』を主戦力とし、航空機動部・特殊作戦部からは少数のベテラン魔法少女を派遣し、討伐隊の援護にあたらせるという方針が決定される。


 こうして、黒狼戦役を上回る動員数となるレイド級魔塊鬼(マゴル)討伐作戦――『桜華乱舞』が発令されることになる――。


※大戦力を動員し、短期決戦で解決しようという方針です。

※組織的にはこんな感じ

■統合総括会議  :ルナ    ←★創立メンバー

└●統合参謀本部 :ノヴァ   ←★創立メンバー

│ └◆情報部  :アイリス

│ └◆戦略作戦部:クララ

│ └◆航空機動部:ミヤ

│ └◆特殊作戦部:エミリー

└●人事部    :ソフィー

└●勤務部    :アリス

│ └◆補給課

│ └◆工兵課

│ └◆医療課

│ │ └▼治療係    :ソフィア

│ │ └▼整備・製造係 :アンナ

│ └◆通信課

│ └◆教育課

│ └◆生活支援課

│   └▼相談窓口係  :カリア

└●財務部    :リリー  ←★創立メンバー

└●内務部    :ステラ  ←★創立メンバー

└●外事部    :エヴァ  ←★創立メンバー

└●技術研究部  :ルビー

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