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41話 ハンティング

 新宿ベースからY08ベースに戻ってきたのは、リレッタと約束した時間の少し前だった。


 アンナをカプセルルーム奥の部屋へぶち込み、ソフィアさんに挨拶してから中央ロビーへ向かう。アンナは恨みがましい目でわたしを見ていたが、最初に裏切ったのはアンナなので良心は痛まない! 一緒にネコミミ着ぐるみ(マギスーツ)の実験台になってニャンニャン言おうぜ!


 中央ロビーでカップコーヒーを飲みながら、マギリングを操作する。

 目標だった12発を確保できたのはいいんだけど、どでかいマガジンを4つも持ち歩くのはかなり大変そうだ……というかムリだろコレ。


 持ち歩くのは限界と判断し、ショップ機能で4マガジン分のマガジンポーチと、ハーネス・サスペンダー(マガジンポーチをつけるベルトみたいなの)、ついでに2点式スリングベルト(銃を持ち運びやすくするやつ)を購入。お値段合計、3万6千MG(マギト)


 これで、ほぼスッカラカンである。

 だが、実際に装備してみると、これがお値段以上に便利!


 元から軍服っぽい衣装だったが、ハーネス・サスペンダーにマガジンポーチを付けると、完全に戦闘服って感じでカッコ良い!


 ただ、マガジンが大きいせいで4本が限界だった。1つは地獄の殺戮者(ヘルマーダー)に装填するから、あと1マガジンは大丈夫だが、もっとマガジンを増やすならもう1セット買わないとダメそう。


 地獄の殺戮者(ヘルマーダー)を召喚してスリングベルトを付ける。肩に掛けてみると銃身が頭よりかなり高く突き出て不格好だが、持ち運びはかなり楽になりそう。これは良い買い物!


「全部送還しろ!」


 カッコいいだろと自慢しようと思って待っていたのに、わたしを見た瞬間、リレッタがそう言った。遅刻してきたくせに!


「えーーっ、カッコ良くない?」


「そういう問題じゃねーんだよ。お前の身体込みで、それ全部抱えて運ぶ身になってみろよ……って、マガジン4つになってねーか?」


 さっきのアンナとルビーさんとの一連の騒動の話(守秘義務のところは抜いてね、契約は守るよ!)をすると、リレッタが嫌な顔をする。


「お前、また他人(・・)に200万もたかったのかよ……」


 人聞きの悪いこと言うな! わたしが少し得しただけの正当な取引だ!


「それに、アンナって、治療課のアンナだろ? そんでもってルビーってのは、話を聞く限り技研部長のルビーだよな? あたしが言うのもナンだけど、お前ってヘンなヤツとばっかり知り合いになるよな……」


 えっ、そうなの!?


 リレッタに言われて思い返す。

 アンナは……確かにヘンなヤツだわ。

 ルビーさんは……間違いなくヘン&ヤバいヤツだったなぁ。


 というか、ルビーさんって技研部長だったんだ。メッチャ偉い人じゃん! どうりでマギトいっぱい持ってると思ったわ。


 しかし、技研部長って、良い知己(ちき)ができたんじゃね? スコープとか魔法具作ってくれるんなら、ヘン&ヤバいヤツでも全く問題なし! むしろ今後、色んな魔法具作るの頼めそうでいいじゃん!


 あ、2人が魔法少女の間でどういう評価なのか、一応聞いとくか。


「アンナって魔法少女的には、どういう評価なんだ?」


「うーん、『セクハラ・ウザ教官』かな。アンナってあたしの4期上なんだけど、ヒマなのか、よく新造魔法少女の指導教官やってんだよ」


 えっ!?

 リレッタが魔法少女歴2年だろ? それより4期上って、あれで魔法少女歴6年なのか……。

 うーん、あの大胆なサボり具合は、それくらい経ってないとできないか。後輩のソフィアさんを手下にしてる感じ?


「で、魔法少女研修の時に、何も知らない新造魔法少女に、地位を悪用してネチネチセクハラするウザい教官……て評価だな。本当かどうか知らんが、担当の魔法少女にストーカー行為をしてたってウワサを聞いたことあるぜ?」


 ストーカー行為ってわたしじゃん!

 部屋の天井までわたしのポスター貼ってあったし!


 うーん、ポンコツだけど悪い人じゃないと思うんだけどな……シレっと裏切るし、クソウザいけど。

 多分アンナとしては仲良くしたいだけなんだろうけど、生来のクソウザい性格のせいで皆に避けられちゃうんじゃないか? この現象を『アンナのジレンマ』と名付けよう。


「ルビーさんはどうなの?」


「ああ、あの人は『技研の死神博士』ってあだ名で有名だな。ほら、魔法少女って、手足とか千切れてもそう簡単に死なないだろ? 実験にもってこいらしいんだよ」


 あーー、何かあんまり聞きたくない話になってきたな、オイ……。


「魔法少女を被験者に使って、過酷な実験とカプセル治療を交互に繰り返して、悶え苦しむ被験者を見てニタニタ笑ってるとか、いないとか……」


 聞かなきゃよかった!

 アンナは『技研の死神博士』のこと知ってたから、あんな死んだ目になってたのか!

 ということは、あのポンコツお姉ちゃん、わたしを生贄にして自分だけ逃げようとしてたんじゃねーか! わたしの判断は間違ってなかったわ!


「技研内部では神のように崇拝されてるらしいけど、『絶対お近づきになりたくないAAA(トリプルエー)ランク魔法少女』ナンバーワンだな。『セクハラ・ウザ教官』と『技研の死神博士』、2人と懇意にしてるとか、お前すげぇわ!」


 うーん、間違いなく前世の行いが悪かったんだな……まあ思い当たる節はあるので、反省することしきりである。


「まあ、いいよ。今さらどうしようもないことで悩むんでもしょうがない! 前向きに行こう! な、心の友よ!」


「『な、心の友よ』じゃねーよ! 誰が心の友だよ! 妙な面倒事に、あたしやカーミラ達を巻き込むなよ? そっちの付き合いはそっちで完結させろ!」


 意外に厳しいリレッタであった。

 カーミラさんやセラさんを巻き込みたくないんだとは思うけど、ちょっと冷たくない?


「分かったよ。じゃあ行くか。結局まだまだマギトは必要だからな」


「おう、行くか」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「うん、うん。やっぱり女の子の身体ってのは、こう『ふにゅ』って柔らかくないとな。うん、この抱き心地じゃねーとやってらんねーわ……」


 わたしを小脇にかかえて建物の屋根から屋根へと飛び移るリレッタが不穏なことを言う……まさか、ハーネス・サスペンダーを送還させたのは、『ふにゅ』って感じにするためだった!?


「オイっ!」


「喋ると舌噛むぞ。ちゃんとしがみ付いてろ」


 むぅ! 小脇に抱えられた荷物状態なので何もできん……。まあ、ハーネス・サスペンダーとマガジン装備してると確かにかさばるしな。


「よっと」


 降ろされたのは、昨日の結構高いビルの屋上。


 昨日見えた、倒壊した家屋はすっかり元通りに直っている。

 現界の建物が崩れなければ、鏡界の建物はいくら破壊されてもすぐに元に戻るんだってさ。あ、ベースみたいな魔法少女が作った建物以外ね。


「うーん、よく見えねえな……」


 リレッタが周囲を眺めて呟く。昨日は戦闘音がしたので位置のアタリをつけられたが、今日は戦闘音も聞こえないし、魔法の発動光も見えない。


 双眼鏡とか欲しいな……今度、ルビーさんに頼んでみよう。どうせ逃げられないなら、利用できるだけ利用してやる!


「しばらくココで様子を見るか? 無暗に飛び回るよりいいだろ。あ、飴食べる?」


 駄菓子屋で買った飴を口に放り込みながら、リレッタにも1つおすそ分け。


「おっ、懐かしー! コレまだ売ってんだ!? 昔よく食べたわ、んっ……おお、味変わってねーな」


 リレッタが周囲を見回しながら、飴を口に入れる。わたしも地獄の殺戮者(ヘルマーダー)とマガジンポーチ付きのハーネス・サスペンダーを召喚。素早く装備する。


 地獄の殺戮者(ヘルマーダー)や、ハーネス・サスペンダーも『非物質化(デマテリアライズ)』できればいいんだけど、召喚と送還なんだよね。違いがよく分からん。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 それから小1時間――。


「いねーなぁ……」


「いないねー」


 うーん、レイド級の魔塊鬼(マゴル)どころか、普通の魔塊鬼(マゴル)さえまったく見当たらない。どこかには居るんだろうが、とりあえずわたし達の目に付くところには影も形も見えない。


「この前はすぐ見つけたから、今日も同じようなもんだと思ってたんだけど、狩りってこんなもんなの?」


 狩りの経験が少ないので、リレッタに聞いてみる。


「待ち伏せとかしたことねえからなぁ。普段は適当に歩き回ってるとエンカウントするんだけど、さすがに適当に歩き回ってレイド級の魔塊鬼(マゴル)にエンカウントしたら即ゲームオーバーだし」


「エンカウントって、ゲームみたいに言うなよ」


「逆だろ。こういうのを知ってるヤツがゲーム作ってんじゃねーの? ゲームの練度みたいに、魔法も何度も使ってると威力が上がったり、魔力消費が少なくなったりするんだぜ? 強化(エンハンスメント)とかレベルアップそのものじゃねーか」


 うーん、まあ言われてみればそんな気もする。


「しかし、いないねぇ……偵察用のドローンとかあるといいんだけどな」


「ドローンは聞いたことねぇけど、使い魔みたいなの持ってる魔法少女(ヤツ)はいたぞ。魔塊鬼(マゴル)みたいに煙で覆われた鳥っぽいので、視界を共有できるって言ってた」


「なにソレ。便利そうでいいな!」


「デカい弓を持った長距離戦主体の魔法少女(ヤツ)だったな。マギリングのショップで売ってたらしいぞ。リリナも同じタイプだから、そのうちショップにドローンとか追加されるんじゃねーの?」


 マギリングのショップ機能は、魔法少女ごとに販売される(アイテム)が異なり、必要と思われるものがいつの間にか追加される……と講義で習った。


「うーん、いつ追加されるか分からないんじゃなぁ……」


「まあそうだな。カーミラの『探査の鎖(サーチチェーン)』があればいいんだけど、連れてくるのはなぁ……」


 リレッタはカーミラさんとセラさんには過保護だし、わたしもあの2人には危ない目に遭ってほしくない。レイド級魔塊鬼(マゴル)狩りに連れてくるなんてありえない。


「もうちょっと待って見つけられなかったら今日は帰ろーぜ。明日、もう1回来てもいいだろ」


「そうだな……」


 そんな話をしていると、ふと『フォーサイト』で索敵できないかと思いついた。弱点が見えるなら、敵も見えるんじゃね? という、本当にジャストアイデア(単なる思いつき)だが、ヒマなので試してみる。


 いつもは自動的に発動する『フォーサイト』を意識的に発動し、周囲を眺める。


 光が収束するような効果もなく、視界に変化はない……それでも見回していると、ある方向に違和感を感じた。


 その方向に意識を集中すると、魔力がジリジリと減っていく感覚。建物の向こうに何か居ると感じ、さらに集中すると、軽い目眩と吐き気……魔力切れの兆候だ。慌てて『フォーサイト』をシャットダウン。


「おい、どうした?」


「いや、『フォーサイト』で敵の位置が分からないかと思って試したんだが……多分、あそこら辺に居ると思う……」


 吐き気を抑えつつ、違和感のあった方向を指さす。確認はできないが、カンが『絶対あそこだ』と言っている。


「そうなのか? 行ってみるか?」


「近づかなくていいから、確認だけしてきてくれるか? 『フォーサイト』が索敵にも使えるのか知りたい。悪いが頼めるか?」


「了解。ちょっと待ってろ」


 リレッタが飛んでいくのを見送り、持ってきた最後の飴を口に放り込んで座り込む。


 最初にレイド級魔塊鬼(マゴル)を狙撃した時も魔力切れの兆候が出た。

 普段はほとんど魔力を消費しない『フォーサイト』だが、強力な敵や無茶な使い方をすると魔力を消耗するようだ。

 使い方を考えないと、突然魔力切れになりそうだな……。


 しばらく座っていると吐き気が治まってきた。

 リレッタは大丈夫だろうかと見ていると、ピョンピョンと屋根の上を飛んで戻ってくるのが見えた。アレに抱えられてよく戻さなかったな、という酷い挙動で。


「凄えな、ココからは絶対に見えないはずのビルの向こう側に本当にいたぞ。4匹だけど、どうする? 視線が通る場所に移動するか?」


「いや、魔力切れの兆候が出てる。見えない敵……それも強い敵を無理やり見ようとしたからか、思った以上に魔力を消費したみたいだ。今日はもう帰ろう、見つけても狙撃できなそうだ……悪いな」


 少し無理すれば行けそうだったが、無理をする必要はないので今日は引き上げることにする。


「そうか……どうせ引き上げるところだったんだ。別にいいさ」


 地獄の殺戮者(ヘルマーダー)とマガジン一式を送還し、リレッタに抱えられるのを待っていると……ヒョイとお姫様抱っこされた!?


「ふへっ!?」


 リレッタ顔近いし、胸に身体が押し付けられてるし……なんかコレ、メチャ恥ずかしいんだけど!?


「具合が悪そうだったからよ……あっ、もしかしてお姫様抱っこ、嬉しい?」


 わたしの顔を覗き込んで、リレッタが怜悧な顔で微笑む……何かムカつく!


「べ、別に嬉しくねーし!」


「首に腕回して抱き着いてろよ……落ちるぞ?」


「………………」


 ムカつくが、確かに掴んでないと落ちそうなので、リレッタの首に抱き着く……これ、至近距離からリレッタの顔を見つめる姿勢なんですけど!?


「いくぞ!」


 お姫様抱っこされたまま、ピョンピョンとビルからビルへ飛び移っていく。


 リレッタも魔法少女なので、黙っていれば(・・・・・・)見惚れるほど怜悧な顔の美少女なんだよね……困ったことに。


 リレッタなんぞに見惚れるのは負けた気がするので視線を逸らして景色を見る……んだけど、身体に押し付けられてるリレッタの胸が気になる。凄っごく気になる!


 強化(エンハンスメント)してるせいか、リレッタって、わたしと違ってメリハリのあるメチャいい身体してんだよね。


「なに、なに、顔赤くしちゃって、あたしに惚れちゃった?」


 わざわざソッポを見ていたわたしの顔を覗き込んできたリレッタがニヤニヤしてる。

 無視、無視、ガン無視!


「あらら? もしかして図星突かれちゃった!? 大丈夫、心配すんな。最初は優しくしてやるぜ?」


 どこのエロ親父だよ!


「そういうの、いいから!」


「ん……ああっ! おっぱいか? おっぱいだな! フフッ、みんなおっぱい好きだもんなぁ! ホレホレ~!」


 リレッタがムギュって、おっぱいを押し付けてくる!


「バカリレッタ! 危ないから、ちゃんとしろ!!」


「照れて赤くなってるリリナ、か~~わ~~い~~い~~!」


 ピョンピョンとジャンプしながら、リレッタがニヤニヤ顔で揶揄(からか)ってくる……怜悧な美少女の顔でやられるとムカつき度3倍! マジでムカついてきたわ!


「ちゃ・ん・と・し・ろ!」


 抱き着いていたリレッタの首を絞めながら言うと、さすがに止めた。


「ちょっ、マジで危ねえよ! 少し揶揄(からか)ったくらいでキレんなって……ほら、着くぞ」


 ようやくY08ベースのビル屋上へ着地。ようやくお姫様抱っこから降ろしてもらう。

 まったく、バカリレッタのせいで無駄に疲れちまったぜ!


「そんなに怒んなよ。ちょっとしたジョークだろ」


「うっせぇ! 次やったらカーミラさんとセラさんに、リレッタにセクハラされたって言い付けてやるからな!」


「ごめん! それはマジやめて! 次からは加減する(・・・・)から!」


 加減してやるつもりなのかよ!

 まあ、リレッタのおっぱいの感触は、ちょっと……いや、結構よかったから、まあいいかなと思ったのは秘密。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 で、翌日――。


 今日は土曜日なので学園はお休み。ミアもお仕事で外出中。

 ということで、これはもう寝倒すしかないでしょ! って感じで思いっきりぐーすか寝倒して、起きたのは昼過ぎ。


 リレッタとの約束にはまだ余裕があるので、ルームサービスでのんびり朝食兼昼食をいただき、駄菓子屋で買った残りの飴を装備。準備万端で鏡界へ転移。


 中央ロビーは、土曜日の昼間だからか、昨日のガラガラとは違ってチラホラと魔法少女の姿が見える。これから狩りに行く腕に自信のあるレイド組なのかな?


Y08ベース(ここ)って、結構な数の魔法少女いるよな……」


Y08ベース(ここ)は『黒狼戦』の時に橋頭堡(きょうとうほ)(足がかりになる拠点)だったから、かなりの数の魔法少女が集められたんだよ。戦争は終わったし、今回の魔力潮流(マナ・タイド)騒動が落ち着いたら、別の配置になるんじゃないか?」


 初めて見る顔もいたので何となく呟いたら、後ろからリレッタが説明してくれた。まあ、いつも通り遅刻してきやがったんだけどな。


「別の配置って、転勤みたいなもの?」


「必要な数の『活動拠点移動』って任務が発行されるんだよ。魔法少女って転移装置トランスファーデバイスで移動するから、どこを活動拠点にしてもあんまり変わらないだろ。活動拠点を移動するだけで結構なマギトが貰えるんで、みんな率先して移動する。ああ、戦争の時は『活動拠点移動』の強制(・・)任務が発行されるんで、そっちは別な」


 自主的に活動拠点を移動させるシステムがあるらしい。でも、戦時には魔法少女が必要な地域に強制的に移動させるってことだな。


「じゃあ、そろそろ行こうぜ」


「ん。今日は、ちょっと『フォーサイト』での索敵を試してみたいんだけどいいかな?」


「昨日、具合悪くなってたけど大丈夫か? まあ、具合が悪くなったら、リリナの大好きなお姫様抱っこで運んでやるけどさぁ」


 心配してくれてるのはありがたいんだけど、ニヤニヤしながら揶揄(からか)ってくるのはいただけない。下手に怜悧な美少女な分、余計ムカつくんだよ!

 が、わたしが怒るとリレッタはさらに調子に乗るので完スルー。


「大した魔力消費なしでも方向だけは何となく分かるから、ちょっとずつ移動しながら『フォーサイト』使ってみようと思ってさ。移動しながら、指示する方へ行ってもらえると助かる」


「上手くいけば便利そうだな。了解だ」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「どっちだ?」


「あっち」


 陽光の下、明るい街並みの上をピョーンと飛んでは、『フォーサイト』で違和感のある方向を確認して指を差す。リレッタがその方向にしばらく移動して……というのを繰り返していく。


 もちろんお姫様抱っこではなく、リレッタの小脇に抱えられての移動である。リレッタの両手が塞がっていると、何かあった時に危ないからね。


 『フォーサイト』を使っているが大した魔力消費はなく、今のところ上手くいっている……と思う。まだ魔塊鬼(マゴル)を見つけていないので何とも言えないけど……。


「っ……!」


 リレッタが口の前で人差し指を立てて「しーっ」のポーズをしてから、建物の下の方を指差す。見つけたのだろう。リレッタの指先を視線で追うと、建物の斜向かいの小さな公園に、魔塊鬼(マゴル)が5匹集まっている。


 普通の魔塊鬼(マゴル)とは違う深い黒煙が、まるで生き物のようにユラユラと揺らいでいる。レイド級の魔塊鬼(マゴル)に間違いない。5匹とも赤く輝く目は確認できず、まるで寝ているかのようにうずくまって動かない。もしかして魔塊鬼(マゴル)って夜行性?


 距離は50mほどで、レイド級魔塊鬼(マゴル)と狙撃で戦闘するには危険すぎる距離。

 公園内の魔塊鬼(マゴル)へ視線が通る建物を探すが、今立っているこの建物が邪魔をしているし、住宅街の奥まった場所なので、遠方から狙撃できそうな建物は皆無。


 リレッタにジェスチャーで一旦距離を取ることを提案する。リレッタはすぐに分かってくれたようで、わたしを小脇に抱えると、音を立てないようにジャンプ。魔塊鬼(マゴル)達から距離を取る。


「どうする?」


「どうするかなぁ……なあ、魔塊鬼(マゴル)って寝るの?」


魔塊鬼(マゴル)の生態なんて知らねーよ。あたしが知ってるのは、そこら辺をウロついてて、魔法少女を見つけると襲ってくるってだけだ。寝てるようなのは初めて見たわ。まあ、こんな風に魔塊鬼(マゴル)を探したことないから、あたし達が見てない時にはあんななのかもしれねーけどさ」


「もし寝てるんなら、1匹ずつおびき出せないかって思ってさ」


 考えたのは、小石か何かを投げて1匹ずつおびき出せないかということだ。1匹ずつ遠方から視界が通る場所までおびき出せれば、楽に倒せるんだが……。


「もし1匹起きて、あたし達のこと見つけたら、魔咆哮(マギロアー)で他の4匹も起きちまうんじゃねーか?」


 うーん、リレッタ、囮やってくんねーかな。

 1匹でも、5匹まとめてでもいいから、遠方から狙撃できる場所におびき出してくれれば、確実に1体は仕留められる。リレッタはそのまま逃げ切れば……ダメだな、リレッタのリスクが高すぎる。


「あの公園の近くの射線が通る所まで、大きな音を立てておびき出す、とかどうよ?」


「おびき出せるような大きな音を立てる方法とかある?」


「そこら辺の建物ぶち壊せばいいだろ?」


 リレッタの提案はいいかもしれない――。


「よし、やってみよう」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『リレッタだ。こっちは準備OKだぜ。リリナの方はどうだ?』


 魔塊鬼(マゴル)が集まっていた公園の近くにある道路に、直線で500mほど視界が通る3階建ての建物の屋上。


 バイポッドをセットし、伏射(プローン)姿勢で地獄の殺戮者(ヘルマーダー)を構えていると、頭の中にリレッタの声が響く。


 パーティー通信は、現界にいるカーミラさんやセラさんにも届いてしまうので、近距離通信機能を使用。近くに他の魔法少女がいれば受信してしまうので迷惑かもしれないが、苦情がないのでこのままいく。


『こちらリリナ。こっちも準備OKだ。リレッタの姿を確認してる。やってくれ』


『よし、作戦スタート!』


 作戦といっても大したものではない。まずリレッタが黒い斬撃を飛ばす『黒薙(くろなぎ)』で、公園の裏手にあたる道路沿いの建物を壊しまくる。


 魔塊鬼(マゴル)をおびき出せれば、わたしが狙撃し、リレッタは撤退。

 おびき出せなければ、あきらめて別の魔塊鬼(マゴル)を探す……という手筈。


 リレッタは近くの建物の屋上から『黒薙(くろなぎ)』を連射し、予定の場所周辺の建物を攻撃する。結構な威力があるようで、程なく大きな音と共にいくつかの建物が倒壊しはじめた。


 派手な音を立てているので、おびき出せるかと思ったのだが、魔塊鬼(マゴル)の姿は見当たらない。


『リレッタだ。ちょっと見てくるわ』


『リリナ了解。無理するなよ。迂回して見つからないように慎重に……って来たぞ! すぐ逃げろ!』


 リレッタと話している最中に、レイド級魔塊鬼(マゴル)が現れる……1匹、2匹……おお、5匹全部やって来たようだ。あれだけ大きな音を立てれば、まあ、そうなるわな。


 リレッタがレイド級魔塊鬼(マゴル)の視界に入らないように、建物の後ろへピョンピョンと飛んで逃げていくのが見える。


 わたしは、一番手前側の魔塊鬼(マゴル)に照準したまま『フォーサイト』を発動し、ボンヤリとした光が頭部へと収束していくのを見て、弱点を確認する。


 光が収束するのを待たず、光のラインの中心部、魔塊鬼(マゴル)の頭部へ向けて照準して発砲!


 ガァァァァァーーーーーーン!


 爆発音のような発砲音が轟き、弾丸は頭部へ命中。

 排莢、装填――光が収束し始めるが待たない。

 動きを止めた頭部への『未収束の光のライン』の中心へ照準し、即発砲!


 ガァァァァァーーーーーーン!


 濃い黒煙が黒灰色(こくかいしょく)へ変わる。周囲の2匹がこちらに向かって走り始め、残りの3匹も続いて走ってくる。発砲炎に気づかれたのかもしれない。


 排莢、装填、照準……今回も『フォーサイト』の光が収束するのを待たず『未収束の光のライン』の中心部へ発砲!


 ガァァァァァーーーーーーン!


 思った通り、収束を待たなければ魔力消費はそれほどない。このまま1匹倒せば、2匹目もイけそうか……ん!?


「なにっ……!?」


 頭部に確かに命中したのに、消失していない!?

 今までの2匹は3発で頭部を消失させていたのに……!?


 焦りを押し殺し、排莢。

 マガジン交換、装填、照準――黒煙はさらに薄い。『フォーサイト』の光も即収束。

 4発目、発砲!


 ガァァァァァーーーーーーン!


 魔塊鬼(マゴル)の頭部が消失するのを確認。大丈夫、イける……はず。

 深呼吸してから排莢し、装填……今度は『フォーサイト』の光の導くままに胸部へ照準――5発目を発砲!


 ガァァァァァーーーーーーン!


 胸部に穴が開いた魔塊鬼(マゴル)は、慣性に従って前のめりになりながら崩れ落ち、煙のように消えていく。


 どうする? 一番前にいる魔塊鬼(マゴル)との距離は200mほど……イけるか?

 装填を終え、先頭を走ってくる魔塊鬼(マゴル)を狙いつつ『フォーサイト』を発動――。


「うわっ!?」


 いつの間にか傍らに来ていたリレッタに持ち上げられる。


「送還しろ!」


 リレッタの指示に従い、地獄の殺戮者(ヘルマーダー)とマガジンを送還……した時には、もうリレッタはジャンプしながら逃走に入っていた。


 後ろでドゴーーンッという音と共に建物が崩れる音。首を回して見ると、さっきまでわたしがいた建物が消失していた。まあ、レイド級魔塊鬼(マゴル)4匹に攻撃されたら一瞬で破壊されるわな……。


 2匹目を攻撃しないでよかったわ。リレッタに感謝。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おい、大丈夫か?」


 Y08ベースのビル屋上で降ろされたわたしをリレッタが心配そうな顔で見つめてくる。


「お前、5発も撃ったろ? 今日は索敵にも『フォーサイト』使ってたし、魔塊鬼(マゴル)も近くまで来てたから、リリナの体調がヤバくなる前に持ってきちまったぜ」


 『持ってきちまった』とか、荷物みたいに言うな! まあ荷物みたいに運ばれてたけどさ。


「ああ、ありがと。とりあえず助かった。体調……魔力切れの方は大丈夫そうだ。まだイけそうだけど……」


 『フォーサイト』を十分使わなかったせいなのか、レイド級魔塊鬼(マゴル)の個体差のせいなのか、どちらが原因かは分からないが、今日は4発で倒せなかった。


 何となくだが、光の中央部から着弾が微妙にズレていたような気もするし、ちゃんと光が収束するまで待たないと照準がズレるのかもしれない……。

 『フォーサイト』を使っていれば外すことはないと思うが、魔力消費をケチるなら弾薬は余裕を見ておいた方がよさそうだ。


「ムリをする必要なないと思うぜ?」


 魔力にも弾薬にもまだ余裕はある。もう1匹くらいは狩れそうだが……いや、リレッタの言う通りムリする必要はないな。


「そうだな。今日はこんなとこでいいんじゃないか?」


「ああ、2人でレイド級魔塊鬼(マゴル)を1匹倒せば十分な戦果だ。今夜は、『血の宣誓(ブラッドオース)』としての活動日だからな、忘れずに来いよ」


 そうだった、今日は『血の宣誓(ブラッドオース)』としての活動日だった! すっかり忘れてたわ。


 あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!

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