42話 サプライズイベント
夜、Y08ベース、中央ロビー――。
リレッタと別れた後、龍鳳学園の自室に戻って二度寝をたっぷり堪能してきたので、お目目パッチリ、気分爽快である。
リレッタに「セラの差し入れがあると思うから夕食は抜いてこい」と言われたので、夕食を摂らずに転移。セラさんの作るお菓子って素朴だけど美味しいんだよね。今日はなんだろう?
約束の時間にはまだ早いので、カップコーヒーを買ってカフェスペースのベンチに座る。
正直、龍鳳学園のレストランで供されるコーヒーと比べると「うーーん」という味なのだが、不味いほどでもないので買ってしまう。
コーヒーを飲みながら中央ロビーを見渡す。
チラホラと魔法少女の姿は見えるものの、レイド組という感じではない。任務を受けるでもなく、とりあえず来てみました、という雰囲気で立体モニターを眺めている。
みんな本部から「精鋭魔法少女」が派遣されてくるまで様子見、という感じなのかもしれない。
複数のレイド級魔塊鬼と戦うだけでも遠慮したいのに、何匹いるか分からないレイド級魔塊鬼に奇襲される可能性まであるとなると、普通は出撃したくないだろう。
だって、死んじゃうもの。
わたしだって地獄の殺戮者での遠距離狙撃なのに、リレッタの協力がなければ結構ヤバかった。リレッタが運んでくれたり、狙撃中の面倒を見てくれるのは正直メチャ助かってるし、感謝している。
あのエロ親父みたいなセクハラが無ければ最高に良いヤツなんだけどなぁ……なんて思っていると、向こうからリレッタとカーミラさん、セラさんが歩いてくるのが見えた。
カーミラさんとセラさんはともかく、リレッタが遅刻しないのは珍しい!
「リレッタさん! カーミラさん! セラさん!」
立ち上がって手を振ると、カーミラさんとセラさんが笑顔で応えてくれる。
「あっ、リリナちゃん!」
「リリナ!」
「おっ、ちゃんと来たな。偉い」
『遅刻魔のリレッタとは違うわ!』とツッコミたいが、カーミラさんとセラさんの前なので自重。
「じゃあ、場所を変えるか。こっちだ」
「いくわよ、リリナ」
「リリナちゃん、こっちだよ?」
リレッタが先頭になり、運営の内勤魔法少女用施設が集中している、普通の魔法少女とは縁のない区画へ向かっていく。
「ここだよ、リリナちゃん!」
「入って、リリナ」
「鍵とか掛けてないから入れよ」
ベースには、戦時や内勤ローテーションでベース待機が必要な魔法少女のために宿泊室が用意されている。魔法少女研修所へ行く前日に泊まったワンルームマンションの部屋もその一つだ。
案内されたのは、その宿泊室の一室だった。
打ち合わせでもするのかと思いながら扉に手を掛ける――扉を開けた瞬間、思わず目を瞬かせた。
「えっ……これ!?」
部屋の中は中学の文化祭のように、色とりどりの紙飾りが天井からゆらゆらと揺れ、壁には手書きの星やハートの切り抜きが貼られている。どれも形が少しずつ歪んでいて、誰がどれを作ったのか想像できるくらい『手作り感』があふれていた。
テーブルの上には、手作りクッキーにサンドイッチ、可愛らしいカップケーキやお菓子が並び、ほのかに甘い匂いと香ばしい匂いが混ざり合って漂っている。
そして、少し曲がった文字で書かれた横断幕。
『WELCOME リリナ!』
その横断幕を見上げた瞬間――。
「せーのっ!」
パァンッ! パパパァンッ!
乾いた破裂音が小さな部屋いっぱいに弾け、色とりどりの紙吹雪が花びらみたいに舞い落ちてくる。
リレッタは勢いよくクラッカーを両手で構え、ニヤニヤ笑っている。カーミラさんは自慢げに微笑み、セラさんは優しそにニコニコ笑っている。
舞い落ちる紙吹雪の中、カーミラさんが胸を張る。
「フフッ、どうかしら? 驚いた? 私たちがこの部屋を借り切ったの。今日は、正式に仲間になったリリナのための歓迎会よ!」
「さすがに、いつになるか分からない魔力潮流騒動が収まるまで待っていられませんからね! ちゃんとリリナちゃんの歓迎会をやらないと!」
「まあ、そういうこった!」
や、やめろよ……こんなの……どう反応すればいいか分からないだろ……。
「リリナ、あらためて歓迎するわ。『血の宣誓』へようこそ!」
「リリナちゃん、ウェルカムだよ! 『血の宣誓』へようこそ!」
「『血の宣誓』に歓迎するぜ、リリナ!」
「っ……み、みんなっ……あ、ありがと……うっ……んっ」
みんなが、わたしのために一生懸命に準備してくれたってのが分かる、温かいサプライズ歓迎会……やめろよ、涙腺緩くなってんだから……。
「な、二人ともいい子だろ?」
リレッタが肩を抱いて耳元で囁く。
「う、うん……ありがとう! すっごく、すっごく……嬉しいっ!!」
「もう、泣かないの。しかたない子ね。魔法少女に普通の人間のような家族はいないわ。でも、これからは『血の宣誓』のみんながリリナの家族よ。忘れないでね」
「そうですよ! これからは『血の宣誓』の私たちがリリナちゃんの家族です! 何でもお姉さんたちに相談してくださいね!」
「リリナ、リレッタお姉ちゃんって呼んでもいいんだぜ?」
「ば、バカっ……」
「うふふっ、飾り付けはリレッタさんが頑張ったんですよ。リレッタさんがこんなに頑張るのって本当に珍しいんです。よかったら後で褒めてあげてくださいね?」
「お、おいセラ! 言うなっての!」
リレッタが遅刻してないのおかしいと思ったら、早めに来て飾り付けしてくれてたんだ……。
「ありがとう……リレッタさん……」
素直に言葉が出た。本当に嬉しかったからだ。
リレッタは珍しく赤くなりながらそっぽを向く。
「ば、バカ。マジで礼なんか言うなよ……別に大したことじゃねぇんだからよ。本当は、あたしの方が礼を言いたいくらいなんだからよぉ……」
カーミラさんがわたしの手を取る。
「あなたが来てくれて、本当に嬉しいわ。ずっと三人で戦ってきたけど……リレッタに負担をかけてしまっていたから心苦しかったの。リリナが来てくれて、リレッタの負担もかなり減るわ。これからは四人で力を合わせて頑張りましょう」
セラさんも手を重ねる。
「リリナちゃんが入ってくれて、『希望』が見えた気がするの。今まで関わりのなかった他の魔法少女達も、リリナちゃんが入ってから何だか優しくなった感じがするし……だから、ちゃんとリリナちゃんの歓迎したかったんだ!」
「ほら、リリナが入った新生『血の宣誓』に、乾杯しようぜ!」
リレッタが紙コップにジュースを注いで押しつけてくる。
「あ……ありがとう。わたし、『血の宣誓』に入れて……本当に、本当に嬉しい……です……」
カーミラがぱっと笑顔になる。
「じゃあ、始めましょうか。リリナの加入を祝って──」
「「「『血の宣誓』の、新しい仲間に──乾杯!」」」
「ありがとう……『血の宣誓』のみんなに、乾杯!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
色とりどりの紙飾りが揺れる小さな部屋で、四人は小さなテーブルを囲んで座り、肩が触れそうなほど近い距離で笑い合う。
紙皿や紙コップも、カーミラさんとセラさんが描いたのだろう、小さな猫ちゃんや謎の動物のイラストが入っていて、思わず笑ってしまう。
よく見ると、部屋の隅にはリレッタが慌てて隠したのか、包装紙の切れ端やセロテープの芯が転がっている。
そこには『血の宣誓』の、どこか家庭的で、胸の奥がじんわり温かくなる空気が満ちていた。
「リリナ、サンドイッチ食べてみて。味は合うかしら? サンドイッチは私が作ったのよ?」
カーミラがサンドイッチを乗せた紙皿をそっと差し出す。
「いただきます!」
ひと口かじった瞬間、思わず「……んっ」と変な声が漏れた。
パンはふわっと柔らかく、噛むとほんのり甘い。
その間から、カーミラさんが丁寧にスライスしたハムの塩気がじゅわっと広がり、シャキシャキのレタスと一緒に口の中で混ざり合う。
ひと口ひと口が、なんかこう……胸の奥がじんわり温かくなる感じ。
「うん……すごく美味しい!」
そう言うと、カーミラは胸を張って満足げに微笑んだ。
「フフッ、遠慮しないでいっぱい食べなさい」
「リリナちゃん、こっちも食べてみて!」
セラさんが、カラフルにデコレーションされたカップケーキを勧めてくる。
まだサンドイッチを食べている途中なんだけど……断れない雰囲気なので、急いで飲み込んでカップケーキをいただくことに。
フォークでそっと割ると、ふわっと甘い香りが立ちのぼった。
セラさんのカップケーキは、見た目からして優しい感じで……食べる前から胸がくすぐったい。
ひと口食べた瞬間、思わず目を瞬いた。
「なにこれ、柔らか……」
生地はしっとりしていて、噛むとほろっと崩れる。
甘さは控えめなのに、口の中がじんわり幸せになる感じで……龍鳳学園のレストランの洗練されたスイーツとは違う、素朴だけど温かさのこもった“セラさんの味”だ。
上に乗っているクリームも軽く、甘いのに全然しつこくない。
ひと口、またひと口と食べているうちに、胸の奥がじわっと温かくなる。
「リリナちゃん、どう……? お口に合ったかな?」
「ん~~~美味しい! めっちゃ美味しいです!」
言った瞬間、セラさんがふわっと笑う。
「このクッキーも美味しいですよ? ああ、こっちのカップケーキも! リリナちゃん、好きな方を食べてみて?」
「もう、セラったら。お菓子はサンドイッチの後よ。ほら、リリナ。こっちのサンドイッチを食べなさい?」
「もう、カーミラさんズルいです! リリナちゃんはどっちが食べたいですか? お菓子の方が食べたいですよね?」
「いいえ、まずはサンドイッチよ。そうよね、リリナ?」
カーミラさんとセラさんが両側からぐいぐい迫って来る……この状況で、どっちか選べるわけないだろ! どうしろってのよ!?
「わ、わぁ! わ、わたし、両方食べたいなぁー!」
両側から責められて困っているわたしを、リレッタが笑いをこらえながら見ている……助けて、リレッタ! お願い!
「じゃあ、まずは、このチョコレートクッキーをどうぞ? リリナちゃんのために頑張ってつくったんですよ?」
「あら、私だってリリナのために頑張ったのだけれど? リリナ、クッキーは後にして、こっちのタマゴサンドから食べなさい? 美味しいわよ?」
「まずはチョコレートクッキーですよね、リリナちゃん?」
「タマゴサンドからよね、リリナ?」
あうぅぅ……た、助けてリレッタ~~~!!
「はぁ……リリナが困ってるだろ。普通に順番に食べればいいだろ……って、カーミラもセラも、面白がってやってるな!?」
「フフッ、困ってるリリナが可愛いから、少し揶揄ってしまったわ。ごめんなさいね」
「うふふっ、ごめんね。困ってるリリナちゃんが可愛すぎて、つい!」
カーミラさんもセラさんも、わたしを揶揄っていたらしい。
もう、やめろよな。真面目に対応した自分が恥ずかしい……。
「リレッタ、そろそろアレを配りましょうよ。できているのでしょう?」
「ああ」
「あ、できたんですね? 楽しみです!」
アレって何だろう……と思っていると、リレッタがポーチから缶バッジを取り出し、全員に配り始める。
「カーミラがデザインした『血の宣誓』のエンブレム缶バッジだ」
「可愛くて、カッコいいですね!」
「あら、よくできてるじゃない! フフッ、みんなこれから活動する時は、このエンブレムを必ずつけるのよ?」
ハート型の盾をベースに、可愛らしい短剣が二本交差し、下部のリボンには『Blood Oath』とカッコいいフォントで書かれている。
中二っぽさと可愛さが同居した絶妙なデザインで、カワカッコイイ!
「カーミラのやつ、リリナが入ってからずっと、4人でお揃いのエンブレムをつけるんだって、デザイン頑張ってたんだぜ?」
リレッタが小声で教えてくれる。カーミラさんの温かい気持ちが伝わってきて、それだけで胸が熱くなる。
「カワカッコイイですね!」
「フフフッ、リリナも気に入ってくれたみたいね。貸してごらんなさい。私が付けてあげるわ……」
カーミラさんが、わたしの胸元にエンブレム缶バッジを付けてくれる。
「じゃあ、わたしはカーミラさんに付けてあげますね!」
カーミラさんの赤と黒のセーラー服風の魔法少女衣装に缶バッジを付けると、セラさんが自分の缶バッジを差し出してくる。
「リリナちゃんは、わたしには付けてくれない……なんてイジワルしないですよね?」
そう言われたら断れるはずもなく、セラさんの白いセーラー服風衣装にも缶バッジを付ける。
「うふふ、ありがとうリリナちゃん!」
「リリナ、もちろん、あたしにも付けてくれるんだろ?」
リレッタがニヤニヤしているが、カーミラさんとセラさんの手前、断ることもできず、リレッタにも缶バッジを付ける。
こうして四人の胸元に『血の宣誓』のエンブレムが輝いた。
「じゃあ、もう一回乾杯しようぜ!」
全員でもう一度紙コップを持ち、今度は四人が声を揃える。
「「「「『血の宣誓』に乾杯!」」」」
最初に『血の宣誓』に入った時は、「魔法少女として最初のパーティーを組む」という任務を終えたら適当な時期に抜けて、ソロで活動しようと思っていたことは――永遠の秘密!
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