37話 レイド級魔塊鬼(マゴル)軍団の脅威
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~ち゛がれ゛だぁ゛~~~」
部屋の前で、ミアに持ってきた駄菓子の半分(全部食べていいよって言ったのに、律儀に半分だけ残していった)を強奪され、さらに手をつないだままツインテールをふりふりさせるミアと『次はボウリングとVRゲームね!』と約束して、ようやくバイバイし……。
寝室に戻ったわたしは、制服のままキングサイズの広いベッドへダーーーイブ!
「あ゛~~あ゛~~あ゛~~」
いや、楽しかったよ?
ミアや美奈さん、瑠奈さんと一緒に遊んでた時は、そりゃ楽しかったさ!
でもさぁ……中身はアレなわけよ。
比較的落ち着いて大人っぽい瑠奈さんのテンションに付いていくのもやっとなのよ!
ミアとか美奈さんの↑↑↑↑テンションに付いて行くのは無理だからっ!
多分だけど、魂のテンションエネルギー的なものが、リアルJCとアレとでは違うんじゃないかなぁ。
加齢によって減っていくとか……?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
21時。Y08ベースから変身解除の承認を受けて魔法少女の姿に戻り、鏡界へ転移――。
転移装置ルームから中央ロビーへ向かう通路を歩いていると、何やら騒然としている。
なんだろう?
今までこんなことなかったのに……と不思議に思いながら中央ロビーに入ると、大勢の魔法少女達が集まっていた。
「ううっ……」
「早くカプセルルームへ!」
出入口の方が騒然としており、中央ロビーの魔法少女達をかき分けて、何人もの血だらけの魔法少女が慌ただしく運ばれていく。
なに? なんなの?
また戦争でも起きたの!?
中央ロビー全体が異常な緊張感に包まれている。焦って周囲を見回すと、バッグを持ったカーミラさんとセラさんが、ソファーに座った見知らぬ魔法少女と話しているのを見つけた。
「カーミラさん! セラさん!」
「あっ、リリナちゃん!」
「リリナさん! 大変なことになったわ! あなたもこっちに来て話を聞きなさい」
わたしが声を掛けると、2人に呼び寄せられる。
「あんたも『血の宣誓』か?」
2人と話していた、ロングの緑髪をセンター分けにした魔法少女が、疲れ切った様子でソファーにうなだれながら、わたしの方を見る。
「はい、あの……わたし達のことは……」
「ああ、ここの魔法少女の大半はカリアから事情を聞いてる。あんたは違うみたいね?」
『違う』というのは、『ホンモノ』じゃないという意味だろう。
カリアさんが『血の宣誓』の事情を広めてくれたらしい。仕事が早くて助かる。
「はい、わたしは先日加入したばかりの新造魔法少女です。色々気を使っていただいてるようで、ありがとうございます」
カーミラさんとセラさんは不思議そうな顔をしているが、一応お礼はしておかないとね。
「ああ、明日は我が身だからね。気にしなくていい……」
「それで……何があったのか教えていただけますか?」
「ああ、こっちのお嬢ちゃん達には話したんだけど、昨日、魔力潮流が発生したらしくて、レイド級の魔塊鬼が出没してる……」
ちなみに昨日アンナに聞いた話だと、『レイド級』というのは複数パーティーでの殲滅が推奨される強さの魔塊鬼のことらしい。
「これは昨日、警報が出たから知ってるでしょ? 今朝、正式にこいつらの討伐任務が発行されたんで、あたし達『アークライト』は、『フロストエッジ』、『ミラージュウィング』とレイドを組んで討伐に向かったんだ……」
『アークライト』『フロストエッジ』はパーティー名だ。
『ミラージュウィング』は、わたしが仮入隊(?)で入れてもらったことがあるパーティーだ。すぐ追い出されたけど。
「最初は順調だった。オーガ級の大きさの魔塊鬼で、レイド級って言うだけあって確かに強かったけど、パーティー間の連携も上手くいって、負傷者も出ず確実にダメージを与えてた……」
そこで緑髪の魔法少女は大きくため息をつく。
「とどめを刺すってところで、別のレイド級魔塊鬼が現れたんだ! しかも1匹じゃない、3匹だ!
最初にウチのリーダーが殴られて吹き飛ばされて……その時、3匹が叫んだ。魔咆哮ってやつだ」
魔咆哮……わたしが聞いた、あの魔力波みたいなやつのことだな。
「『ミラージュウィング』は少し離れてて、あたし達はリーダーを助けるために距離があったけど、『フロストエッジ』の連中は至近距離で3匹の魔咆哮を受けてしまって、完全に恐慌状態になった。
あたし達が援護してなんとか逃げ出せたが……『フロストエッジ』は全員、あたし達も2人が重症だ……」
そこまで言うと、フロア中央へ視線を向ける。
さっきの魔法少女達に続いて、何人もの血まみれの魔法少女が次々と運ばれてきている。
「あたし達だけじゃない。さっきからレイドを組んで出撃した連中が、次々にやられて戻ってきてる……。全部で何匹のレイド級魔塊鬼がいるのかも分からない。
あんた達は……その、アレなんだから、絶対外に出るなよ?
そのうち本部からA級なりB級なりが派遣されてくるだろうから、討伐されるまでは大人しくしてた方がいい。マギトが稼げなくなるのは痛いけど、死ぬよりマシだ……」
話を終えた緑髪の魔法少女にお礼を言うと、彼女は「別にいい」とでも言いたげに手をひらひらさせ、そのままガックリとうなだれてしまった。
わたしとカーミラさん、セラさんは顔を見合わせる。
わたしが仕留めた時は1匹だった……確かに、あれが複数いたらシャレにならない。
「ど、どうしましょう? マギトの蓄えもそれほどないし……」
「そうね……リレッタが来るのを待って、相談しましょう」
2人の不安そうな表情を見ると、胸がざわつく。
もしかして、マギトかなり厳しいのかな……?
いや、待てよ。
これ、もしかしてだけど――
わたしがリレッタから200万マギトも貰っちゃったせいじゃない?
「心配しなくても大丈夫よ、リリナ。あなたの運営費くらいなら、なんとかなるわ」
「そ、そうですよ。無駄遣いしなければ大丈夫ですから! リリナちゃんは心配しなくても大丈夫です!」
わたしの微妙な表情を見て心配したのか、2人が真剣な顔で励ましてくれる。
い、いや、その優しさが……わたしの良心にブッ刺さって痛いんですけどっ!
絶対、わたしのせいだよな……。
リレッタの治療費もあったし、そもそも他のパーティーは週1か週2で狩りしてるのに、『血の宣誓』が週3で狩りしてたのって、マギト稼ぐためなんじゃ……?
ヤ、ヤバい。罪悪感が半端ない……。
「なんか、大変なことになってるみてーだな!?」
涙が出るほど親切な2人から、良心にグサグサと銛を突き立てられていると、ようやくリレッタが現れた。
5分の遅刻だけど……ぜ、全然OKっスよ?
カフェスペースは満杯だったので、空いている壁際へ移動する。
その間にも、負傷した魔法少女が間欠的に運び込まれていく。
「リレッタ、状況は把握している?」
「ああ、大体な。レイド級魔塊鬼が複数出没して、ベースから外に出るのもヤバい状況らしい。出撃したパーティーの大半が被害にあってるみてえだ」
レイド級魔塊鬼1匹でも討伐は大変なのに、それが複数……。
ラスボスが仲間を呼ぶみたいなもんだ。
「リレッタ……さん、こういう時はどうなるんですか?」
本部から強い魔法少女が派遣されると言っていたが、詳しく知っておきたい。
「こんな状況は初めてだから、あたしだってよく分かんねーよ。でも、おそらく統合参謀本部の特殊作戦部とか航空機動部の精鋭が送られてくるんじゃねーか。戦争の時も、ヤバい所には連中が派遣されてたからな」
『特殊作戦部』と『航空機動部』は、一般の魔法少女とは違う、命令拒否権のない千桜直轄の『軍』みたいな組織だ。
A級やB級の魔法少女で構成されていて、めちゃくちゃ強いらしい。
ただ、『特殊作戦部』には前に会ったエミリーとかいう腹黒そうなのがいるので、あまり良いイメージはない。
死傷率激高なので、誘われても絶対入るなってアンナに言われたトコね。
「じゃあ、そいつらが来てレイド級魔塊鬼を討伐するまで待ってればいい……ってことですか?」
ええ、後輩としてちゃんと敬語使いますよ。
相手が遅刻野郎でもね!
「問題は、いつ来るのかってことだな……」
「それまで秘密基地にも行けませんし……」
「そうね。それも問題だわ」
秘密基地って何だ?
「ほら、魔法少女同士、現界では連絡も接触も禁止されてるから、他のパーティーのマネしてウチも鏡界に秘密基地――というか、ちょっとしたミーティング場所を作ったんだよ。本当なら、今日リリナを招待するはずだったんだ」
パーティーメンバー同士はメタルチョーカーで連絡は取れるけど、確かに全員で顔を突き合わせてミーティングできる場所は欲しい。
いつも中央ロビーってわけにもいかないしな。
中央ロビーに知らない顔が多いのは、他のパーティーが普段そういう場所に集まっているからなのかもしれない。
「せっかくリリナちゃんの歓迎会の準備をしてきたのに、残念です……」
「仕方がないわ。こんなことになってしまったのですもの……」
カーミラさんとセラさんが持っているバッグって、わたしの歓迎会の準備だったのか……。
2人とも良い娘すぎだろ。リレッタが命懸けで守るのもよく分かる。
「それより、マギトの蓄えが心配ね。今月は大丈夫だけど、来月はかなり厳しいわ」
「最近、色々出費が続きましたからね……」
うっ……良心が痛い!
今、わたしっていくら持ってるんだろ。こないだバイポッド買っちゃったし……ん!?
おっ!? 何で!? 160万マギトも増えてる!?
これって、昨日の『オーガ級・Bランク』の討伐報酬か!
何度マギリングのウインドウを確認しても、|1,612,270MG《161万2千270マギト》と表示されている。
詳細を見ると、討伐報酬が120万MG、任務報酬が40万MGとなっている。
わたしが倒した時はまだ任務は発行されてなかったはずだけど、あのメガネっ娘、任務報酬もつけてくれたんだな……ありがたい。
1匹でこれとか、めっちゃ良い稼ぎじゃん……と思ったけど、3パーティーで倒すんだから、このくらいの報酬がないと厳しいか。
こ、これさ……もうちょっと貯めれば、もう1個マガジン買い足せるよな?
あっ……いやいや、ここは我が『血の宣誓』のために使うべきだろう……う、うん……べ、別に惜しくなんかないんだからね!
「あの……どれくらい足りないんですか?」
おずおずと聞くと――。
「リリナが心配するほどではないわ。リレッタの治療費の支払いがあるから、少し厳しいってだけよ。この事件が長引かなければ問題ないわ」
「ええ。リリナちゃんは心配しなくても大丈夫ですよ。こういうことは先輩に任せておいてください!」
ううっ……そうやって優しくされるの、一番効くからやめてぇ!
カーミラさんもセラさんも、わたしにメチャクチャ甘いんだけど何で?
ああ、この2人がお姉ちゃんだったら……って、思考が何かヤバい方向に行ってる!?
いやいや、わたし中身はアレだから!
先達の魔法少女達がやけに女の子っぽいって思ってたけど、周囲に女の子として扱われると、無意識に女の子っぽく行動するようになる『ラベリング効果』ってやつだろ!
どこへ行っても妹扱いされるから、中身も妹になっちゃうところだったわ!
危ない、危ない……気をつけないと!
ん? それなら、リレッタって普段どんな扱い受けてるんだ……?
まあ、深く考えないことにしよう。
「あたし達がここにいても邪魔になるだけだ。何かあればベースから連絡がくるはずだし、今日は引き上げよう。ベースから連絡があったら、いつもの時間にここに集合。連絡がなくても、火・木・土はここに集まるってことでいいな?」
「そうね。今の私達の力じゃどうしようもないものね。外に出ることもできないのでは、残念だけど今日は解散ね」
「ううっ、残念ですけど、しょうがないですね……リリナちゃん、この事件が治まったら、ちゃんと歓迎会開くからね?」
「はい! 楽しみにしてます!」
「ええ、楽しみにしててね! 現界でも会えればパーティーできるんですけどね……」
「そうね。本当に残念だわ……でも、大丈夫よ。きっとすぐに解決するわ」
カーミラさんはそう言って、優しく頭を撫でてくれる……くすぐったいけど、安心する。
「はい!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
メタルチョーカーはパーティー通信はできるが、個別での通話ができない。
だから、4人で転移装置ルームへ向かった時、リレッタの背中に『そうだん』と書いて合図を送っておいた……多分伝わったはずだ。
面倒だが、一度現界に戻ってから再び転移し、転移装置ルームへ戻ってくる。
リレッタはまだ来ていないようだ。
カーミラさんとセラさんがいると相談しにくいので、リレッタだけ呼び出したかったのだが……あの合図、分かったかな?
少し待って来なかったら諦めよう。
通路の端で立っていると、珍しい人に声を掛けられた。
ギャル系魔法少女のエリカさんだ。
「やっほー! ツインテールちゃん!」
金髪に黒のメッシュが入った髪、肩出し・へそ出しの魔法少女衣装は相変わらず目立っている。
「あっ! エリカさん! この前は、申し訳ございません、ご挨拶にも伺わずに……」
わたしは深々と頭を下げる。
命の恩人だというのに、忙しさにかまけてご挨拶に伺っていなかった……完全に社会人失格である。
「あの時は命を助けていただいたにもかかわらず、満足なご挨拶もできず、申し訳ございませんでした。私、リリナと申します。改めまして、お礼申し上げます。本当にありがとうございました」
本来ならいくらか包むのが礼儀だと思うが、マギトは完全にデジタル通貨(?)っぽい。
となると、お礼は別の形にすべきだろうか……。
「あー、そーいうのいいから。ツインテールちゃん、研修終わっても話し方固いの直らないわねー。ちゃんとしな?」
ううっ、エリカさんにたしなめられてしまった……。
「はい、申し訳ご……ごめんなさい」
「うんうん、ちゃんと中学生っぽく話さないとダメだって!
そうそう、リリナっち、リレッタの『血の宣誓』に入ったんだって?」
「あ、はい……」
「ああ、カリアっちから話は聞いてるからー。というかー、リレッタ達のせいで怪我したの、あーしらのパーティーだから、ある程度事情は知ってたんよー」
そういえばエリカさん、リレッタへの扱いがぞんざいだったな……。
「あーし達がリレッタのことシカトしてたのってー、別に怪我させられたからーとかじゃないんだよねー。『ホンモノ』が危ないってのは、リリナっちも知ってるっしょ?
仲良くして死なれたら悲しいし、ムチャな戦いに巻き込まれるのもごめんだから、距離置いてただけなんよー」
『ホンモノ』は魔塊獣相手に無茶な戦い方をする――その話は聞いていた。
仲良くして死なれたら悲しい、という気持ちも分かる。だから距離を置いていたのか。
「それに……言っちゃ悪いけど、正直どうせ半年くらいかなーって思ってたわけー。
そしたらリレッタが予想以上に頑張っちゃって、そのままってカンじ? そんなんだから、カリアっちから話は聞いたけど、『ホンモノ』がいる『血の宣誓』とは仲良くはできないかなー」
「ええと、そのことなんですが……カーミラさんとセラさんは、確かに『ホンモノ』ですが、魔塊獣と戦ってる時もムチャなことはしていませんよ」
『血の宣誓』で戦った時から考えていたことを、エリカさんに話してみる。
「カーミラさんもセラさんも、冷静に魔塊獣を相手にして、リレッタと連携して適切に攻撃していました。
いくらリレッタが命懸けで守るって言っても限度があります。さすがに2年もムチャな戦いを続けられるわけがありませんよ」
「っ……!」
エリカさんがハッと目を見開く。
「わたし達の同期は、初めての戦闘で『戦意高揚剤』を投与されたんです。そのせいでみんなバカみたいに敵に突っ込んで死んでいきました。多分、千桜の上層部は、戦闘経験のない魔法少女が逃亡しないように『戦意高揚剤』を投与したんだと思います」
あれは酷かった。
だが、あの時の『暴走』と、リレッタが言っていた『ホンモノ』の行動が似ていると思ったのだ。
「『ホンモノ』って、要は『生まれたばかり』の状態ですよね。
生まれたばかりの魔法少女が魔塊獣との戦闘から逃げないよう、製造時に『戦闘意欲が異常に高まる仕組み』を植え付けられているんじゃないでしょうか?
そしてそれは、成長に従って理性で制御できるようになるもの……なのではないかと思うんです」
「……………………」
「正直に言って、『ホンモノ』の2人の戦闘能力は、他の魔法少女よりずっと強力ですし、魔塊獣との戦闘もリレッタの指揮に従って危なげなくこなしていました。千桜の方で『ホンモノ』になる条件の明示や、『ホンモノ』への教育方法を確立すれば……」
「少しお待ちを」
エリカさんが真剣な表情でわたしの話を止めた。
「以前、魔法少女の製造について調べたことがございまして、その時に知ったのですが……。
マギドールと魂の接続は確かに千桜で行っていますが、肝心の『魂の入手』と『魂とマギドールの接続技術』は完全にブラックボックスで、千桜はその方法を把握していないのです」
態度も口調も急に変わったエリカさんが続ける。
「『ホンモノ』になる条件についてですが……おそらく『それらを提供している者達』が秘匿しているのでしょう。この話は、これ以上掘り下げないほうが賢明かと」
『前』のことなので口には出せないが、『それらを提供している者達』とは、例の『黒い男』のことだろう。
エリカさんは、これ以上話すと千桜よりヤバい連中に目を付けられる、と警告しているのだ。
「ですが、『ホンモノ』についてのリリナさんの推論は、十分に納得のいくものです。今まで長期間生存した『ホンモノ』がいなかったため、周知されていなかったのでしょう。
検証を重ねる必要はありますが、事実であれば『血の宣誓』への対応を考え直してもよいかもしれません……」
「分かりました。『ホンモノ』の話はこれ以上掘り下げません。『血の宣誓』への対応は……すいませんがお願いします。よければ一度、リレッタと話してみていただけませんか?」
「分かりました。それについては約束します」
「あの、それで……エリカさんの口調なんですけど……」
「あっ!? し、失礼……ゴメン、ゴメン! ヘンな口調になっちゃって、ゴメンねー! うんうん、リレッタのことは了解ー! 今日はリリナっちと話ができてよかったよー! じゃあリリナっち、またねー!」
エリカさんは焦ったように手をフリフリして、転移装置へ向かって行った。
わたしはその後ろ姿を見送りながら、さっきの話を反芻する。
エリカさんの話によると、千桜でさえ『黒い男』と対等に話せる立場ではないようだ。
そもそも魔法少女の存在自体が『黒い男』の企みっぽいし、『魂』を抜き出すなんて、どう考えても人間の技術じゃない……。
この辺は本当に触れない方がよさそうだ。
わたしは『黒い男』と契約して魔法少女として与えられた仕事をする――それでいい。
何でもするという条件だったし、『黒い男』との契約について何ら問題はない。
わたしとしては、カーミラさんとセラさん(ついでにリレッタも)が、他の魔法少女から不当な扱いを受けなければそれでいい。
だって2人とも、本当に良い娘だからね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エリカさんが去ってから15分ほどしても、まだリレッタは現れない。
中央ロビーの方は相変わらず騒然としているようだし、これ以上待っても仕方がないと諦めようと思った時、ようやくリレッタが現れた。
「悪い、遅くなった……それで、相談って何だ?」
「ああ、カリアさんに『ホンモノ』の件を話したって話はしたっけ?」
「いや……そうか。なんか他の魔法少女の当たりが優しくなったと思ったが、そのせいか……」
「それで、エリカさん……ギャルっぽい魔法少女の、知ってるか?」
「ああ、あたし達と揉めた張本人だからな。それで?」
「さっきちょっとエリカさんと話したんだけど――」
『黒い男』関係の話は省略し、『ホンモノ』についてのわたしの推論と、エリカさんの反応をまとめてリレッタに話す。
「――ってことで、一度エリカさんと話してみて欲しいんだ。ちゃんと魔法少女やってるのに、このままじゃカーミラさんとセラさんが可哀そうだ」
「そうだな……分かった。悪いな、リリナには色々世話になっちまって……お前だって魔法少女になったばかりであんな目にあって大変だろうに……マジで感謝してる」
リレッタは、わずかに目を伏せてうつむく。
あのリレッタにそんな風に言われると、背筋がモゾモゾする。
「気にすんな。リレッタさんには、200万も貰ってるからな!」
「アイツらがいない時はリレッタでいい。リリナに『さん』付けで呼ばれるの気持ち悪りぃわ」
「じゃあ、リレッタ、コレ……」
わたしは|1,612,270MG《161万2千270マギト》と表示されたマギリングのウインドウを見せる。
「お前、この前まで10万も持ってなかっただろ……」
リレッタの怜悧な顔が驚きに変わり……さらに怪訝な表情へと変わる。
「まさか!? リリナ、お前、援交したのか!? リリナの初めてはあたしが貰うって約束だったろうが!」
そんな約束してねーよ!
「そんな約束はしてない! あと援交って、あの援交か? 援交なんかしてもマギトは稼げないだろ?」
「なんだ、違うのかよ……リリナの貞操が奪われちまったのかと焦ったぜ」
何言ってんだコイツ……。
「あ、いや、そういう悪質なのがいるんだよ。戦闘ストレスで狩りができなくなる魔法少女って意外に多くてな、運営費が払えない魔法少女を狙って声を掛けて、現界の『そういう』仕事を斡旋するんだ」
リレッタが辟易したようにため息をつく。
「そうやって稼いだ現金でマギトを買うってわけだ。もちろん結構な手数料を取られるが、狩りに行けない魔法少女にとってはマギトを稼ぐ唯一の手段だから文句も言えねぇ。で、現金を必要としてる魔法少女には、マギトで現金を売るって寸法だ」
うわぁ、嫌な話聞いた……。
でも、現界で連絡取るの禁止されてなかったっけ?
「詳しい話は知らねぇよ。こういう状況になると、そういう悪質な連中が出てくるからリリナは気をつけろよ。お前みたいなのは需要が高いらしいからな……もし高額で誘われても、ホイホイ付いていったりするなよ!」
子供じゃないんだから、ついていかねーよ!
しかし、他の魔法少女を売って、現金とマギトを両方稼いでるってわけか。
まあ、魔法少女なんかにさせられるヤツには、そういうのもいるだろうな……。
でも現界で千桜にバレずに連絡取り合ってるってことだろ?
どうやってるのかはちょっと興味あるな。やらんけど。
「で、そのマギトはどうしたんだ?」
ああ、そうだ。その話だったわ。
「昨日、レイド級魔塊鬼と戦ったんだよ」
「はぁ? バカなんじゃねーの!? 死にたいの、お前!?」
酷い言われようである。
「いや、昨日は1匹しかいなかったし、600mくらい離れてて豆粒くらいの大きさだったから、普通にオーガ級の魔塊鬼だと思ったんだよ! レイド級だなんて知らなかったしな。4発撃って、魔力切れになりかけたけど何とか倒した」
「マジで!? お前、ほんとに1人でレイド級魔塊鬼倒したの!?」
「だから、そう言ってるだろ。帰りは魔力切れでヘロヘロだったけどな」
「レイド級ってのは複数パーティーが時間かけてやっと倒すモンだぞ。いや、いくらあの銃が強くても、4発で倒すっておかしいだろ……」
あー、それ多分地獄の殺戮者の威力じゃなくて、『フォーサイト』のおかげだわ。弱点見えるからな。
「わたしの魔法『フォーサイト』の話はしたっけ? 敵の弱点が見えるんだよ。
だいたいの敵は点で見えるんだけど、レイド級は最初ぼんやり頭部が弱点だとしか分からなかった。そこに2発撃ち込んで、3発目を撃とうとした時にようやくハッキリ弱点が見えるようになったから、そこ撃ったら頭が吹っ飛んだ」
「マジか!」
「でも、頭が吹っ飛んでも走り続けてるんだよ。で、またフォーサイトで見たら、今度は胸に弱点が見えたんだ。そこ撃ったら倒せた」
「もしかして、魔法騎士と戦った時もそれか?」
「ああ。強い敵は弱点が見えるまで時間がかかるみたいだ。レイド級なんかは、時間かけてもぼんやりとしか見えなかったけど」
「あの銃と、その『フォーサイト』って魔法の組み合わせが強いのか……納得いったわ」
「そうそう。それでこのマギト、『血の宣誓』で使ってくれよ。わたしがリレッタに200万マギトもらっちゃったのが金欠の原因だろ?」
「いや、リリナに200万渡したのはあたしの判断だし、あの時リリナが戦えなきゃ全員死んでた。今でも、あの判断が間違ってたとは思ってねぇ。あの200万のことは気にしなくていい」
200万もらった時も思ったけど、リレッタってメチャ気風がいいんだよな。
頼れる兄貴(姉貴?)分って感じで、カーミラ達にリーダーとして慕われてるのも理解できるわ。
「じゃあ、提案なんだけど……『血の宣誓』でレイド級魔塊鬼を狩らないか? もちろん正面から戦うんじゃなくて、遠くから狙撃して1匹ずつ倒す感じでさ?」
遠方からの狙撃にしても危険があることは分かってる。
でも成功させれば、カーミラさんやセラさんが『ホンモノ』でも、レイド級を討伐できる実力があると周囲に証明できる……そう思っての提案だ。
「リリナの言いたいことは分かる。あいつらの力を証明しようってことだろ?
でもよ……過保護って思われても構わねぇが、あたしはあいつらを少しでも危険な目に合わせたくねぇ。それならハブられてる方がマシだ」
まあ、そうか……リレッタは2年もあの2人を守り続けてきたんだもんな。
危険な目には合わせたくないよな。
「リレッタの言うことも分かる。わたしだってあの2人を危険な目に合わせたくないからな。分かった、この話は聞かなかったことにしてくれ。でも、これは預かっといてくれ」
わたしはリレッタのマギリングに自分のマギリングを重ね、160万マギトを送る。
「お、おい!」
「『血の宣誓』のリーダーのリレッタさんに預けとくだけだ。何かあったら使ってくれ。わたしだって同じ『血の宣誓』のメンバーなんだから、問題ないだろ?」
「分かったよ。預かっとくけど……預かっておくだけだからな」
リレッタが、やれやれと言った表情を浮かべる。
「じゃあ今日はこんなところかな。悪かったな、相談に乗ってもらって」
「相談って、エリカのことと160万預かっただけじゃねーか。それより、『今日はこんなところ』じゃねぇだろ。リリナ、これから1人で行くつもりなんだろ? レイド級魔塊鬼狩り」
バレたか。
せっかく毎日6発撃てるんだから、撃たなきゃもったいないだろ。
毎日1匹ずつ倒していけば、1週間で1120万の稼ぎだぜ?
「あたしも一緒に行く。リリナは1匹ずつ遠くから狙撃するから大丈夫とか思ってるんだろうが、お前、狙撃中は完全に無防備になってるの気付いてないだろ? 魔法騎士と戦った時、助けてやったの忘れてるんじゃねぇか?」
ああ、そういえば、何匹いるのか分からないんだった!
確かに狙撃してる時にリレッタが周囲を警戒してくれれば助かるな。
それに……リレッタが一緒なら『血の宣誓』としてマギトが稼げる。
「ええと、いいのか?」
「あの2人と一緒はダメだが、あたしだけならいいぜ。リリナの狙撃中、周囲の警戒はあたしがする。ヤバそうなら問答無用でリリナを抱えて逃げる。それでいいか?」
「分かった、よろしく頼む!」
「まかせろ。その金髪ツインテールをハンドルにして後ろからヒィーヒィー言わせるまで、死なれちゃ困るからな」
「マジだったの、アレ!? キモっ!」
ということで、リレッタと2人でレイド級魔塊鬼狩りに行くことになったのだった――。
あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!




