36話 複合アミューズメント校舎・後編
電車のドアが閉まり、静かに走り出す。
「うふふっ、ずっと手をつないじゃって、ミアちゃんと澪ちゃんって本当に仲良しなのね?」
ミアとわたしを見て、美奈さんがほんわり微笑む。
「ミアお姉ちゃんは、いっつもわたしのことを心配してくれるんですよ? ミアお姉ちゃんと仲良くなれて、とっても嬉しいです!」
親しい知人達の前でミアを上げ、ポイントを稼ごうというコスい作戦である。
「あらっ! 三枝の縁者にしては、ずいぶんと謙虚ですわね?」
「ちょっと、朱音!」
朱音さんの言葉からすると、本当の三枝家の人達は、あまり謙虚ではないのだろう。
わたしの言葉に素で驚いた瑠奈さんの発言に、美奈さんが瑠奈さんの本名でツッコミを入れる。
三枝グループって現界では影響力強そうだからね……実際は千桜の傀儡だけど。三枝剛造でさえ、花梨さんにスケベジジイとか呼ばれてたし……。
「三枝っていっても、傍系の傍系ですから、あまり気を使わなくて大丈夫ですよ?」
「えっ、でも澪って三枝の本家で相当気に入られてるでしょ? 普通、身辺調査くらいで圧力かけてこないわよ?」
あー、それ間違いなく千桜絡みのせいだわ。
三枝剛造氏が千桜に気を使ったんだろう。
「そうなの?」
美奈さんが不思議そうな顔でわたしに聞いてくるが……どう答えりゃいいんだ?
「私の調べでは、三枝理奈さんは三枝剛造氏の事故で亡くなった七男、三枝将也氏夫妻のご令嬢……というところまでは分かりましたが、それ以上は圧力がかかりましたわ。三枝剛造氏に、ずいぶんと可愛がられているご様子ですわね」
おおー、よく調べたな。
一応、出生記録から病歴、歯科治療の記録まで作ってあるから、国の検査が入っても大丈夫だって言ってたし、調べられても問題ないとは思うんだけど……。
正直、現界の偽装身分の事情には深入りしたくないので、サラッと流してほしい。
「そこは、家庭の事情ということで……すいません、お察しください」
ペコリと頭を下げる。家庭の事情って言っとけば、普通は深く突っ込まれない。
「分かりました。澪さんは素直で謙虚ですわね。某女史よりよほど好感がもてますわ。実は、ミアさんの身に害が及ばないか心配でご一緒しようと思ったのですが、杞憂でしたわ。そうでしょう、美奈?」
「え、ええ。三枝関係の人だと、その……ねえ? わたしの可愛いミアちゃんが騙されて酷いことされてるんじゃないかって心配だったの……」
えっ、そうだったの? それで突然一緒に行こうなんて誘ったのか。
ミアって面倒見もいいし、凄っごく良い娘なんだけど、人との距離感が微妙にバグってるから、わたしもちょっと心配だったんだよね。
多分2人も、ミアのことを本気で心配していたんだろう。チョロイン過ぎるから……。
「あの……そんなにあっさり信用してしまって大丈夫ですか?」
一言二言しか話してないのに、そんなにすぐ信用しちゃって大丈夫?
こっちの2人のことも少し心配になってきた。
「あら、心配してくださるの? フフっ、澪さんは優しい娘ですわね。私が知っている三枝家の方々の印象が悪かったというだけですから、澪さんがその方々のご同類でなければ問題ありませんわ」
三枝家への印象が悪すぎて心配してたってことか?
どんな連中なんだよ?
「それに、私、人を見る目はあるつもりですの。澪さんの目は、利害や打算の色をしていませんわ。澪さんは、家門とか地位とか利益とか、そういうことをまったく気にしていないのでしょう?」
妖艶な笑顔を浮かべながら近づいてきた瑠奈さんが、わたしの目を覗き込んでくる。
「ええ、まあ……」
ちょ、ちょっと瑠奈さん、顔近い……。
「もう、麗花姉も、朱音姉も、心配し過ぎ! 澪は悪いことなんかしないわ! 澪はあたしの妹なのよ!」
ミアがわたしから瑠奈さんを引き離して、毛を逆立てたネコちゃんみたいに威嚇する。
シャーって言いそう。
「フフッ、ミアさんも、澪さんのことを大切に思っているみたいですわね。澪さんが純粋にミアさんのことを大切に思っていることが分かりましたし、それだけで十分信頼に値しますわ」
「澪ちゃんが悪い娘には思えないし、ミアちゃんがここまで懐いてるなら、本当に良い子なんでしょうね。澪ちゃん、疑って御免なさいね」
「2人とも、ミアお姉ちゃんのことを本気で心配していたんですよね。実はわたしも、ミアお姉ちゃんってすぐ他人のことを信用しちゃうんで、ちょっと心配だったんです」
「フフッ、やはり澪さんは、ちゃんとミアさんのことを見ているみたいですわね」
「うふふっ、意外に澪ちゃんの方がしっかりしてそうね?」
「そんなことないわよ! 澪の面倒は、全部あたしが見てあげてるんだから! あたしの方がお姉さんなの! そうよね、澪?」
真っ赤になっているミアがちょっと可愛い。
ここはミアお姉ちゃんを立てておこう!
「うん! ミアお姉ちゃんが色々教えてくれて、凄っごく助かってるんです! これからもよろしくね、ミアお姉ちゃん!」
「しょ、しょうがないわね! 澪は何にも知らない『箱入りのお嬢様』だから、これからもあたしが色々教えてあげるわ!」
美奈さん、瑠奈さん、そしてわたしの3人に温かい目で見守られながら、ミアはツインテールをふりふり揺らしながら得意げに宣言したのであった。
電車内で、美奈さん達と色々話したんだけど、2人とも中等部の3年生なんだって。
2人とも中学生には見えないって言ったら、わたしも小学生にしか見えないって言われてギャフンだった……。
桐谷美奈さんは、如月麗花という、海外にも展開する大手芸能プロダクション、如月エンターテイメントの社長令嬢かつ、トップマルチタレントで(美人だと思ったよ!)、ミアとは別事務所だが、マルチタレントの先輩……というか面倒見のいいお姉ちゃんとしてミアを可愛がっていたらしい。
特別クラスへは、過激なファンが暴走し美奈さんに危険が及びそうなので、|如月エンターテイメント《事務所》の意向で転入してきたとのこと。
年齢に似合わぬ妖艶さを持った美少女、藤宮瑠奈さんも、美奈さん、ミアと仲がいいから芸能関係かと思ったら違っていた。
いや、違ってはないのかな?
本名は、東雲朱音さんで、テレビ・新聞・雑誌などの『オールドメディア』から、SNS・動画配信・ネット広告などの『ニューメディア』まで、様々なメディア系企業を擁する『東雲グループ』のご令嬢とのこと。
芸能事務所のスポンサーなんかもやってる関係で、美奈さんやミアと知り合い、美奈さんと一緒にミアのことを妹みたいに可愛がっていたらしい。
特別クラスに送られた理由を聞いてみたんだけど……黙ってニコニコ笑ってるだけなのが凄く怖かったので聞くの止めた。
面倒なので、桐谷美奈さんを『女優・美奈』さん、藤宮瑠奈さんを『メディアっ娘・瑠奈』さんと覚えておく。
名前を覚えるコツは、あだ名をつけることらしいぞ? 本当かどうか知らんけど。
と、そうこう言っているうちに、電車がホームに入っていく――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地下鉄を降り、誰もいないホームからエレベーターに乗って最上階へ向かう。
千桜のベースを彷彿とさせる、秘密基地みたいな金属探知機(?)付きの廊下を、ミアと手をつないで仲良く歩く。黒服が警備する重そうな扉を抜けると、ようやく複合アミューズメント施設らしいフロアへと出た。
ちなみに、行きはないけど、帰りは着替え付きの身体検査があるらしい……どんだけ厳重なんだよ!
「意外にいいじゃない! もっとしょぼいのかと思ってたけど、思ったよりよさそうね!」
ミアが興奮気味にツインテールをふりふりさせて喜んでいる。
ミアの言う通り、通路は広く天井も高い。歩いているのが学ランやセーラー服、ブレザー姿の生徒達だけだという点を除けば、完全に商業用の複合アミューズメント施設だ。
龍鳳学園は中高一貫の普通の私立校だが、入学の必要学力が高いせいか生徒の質も良く、結構な人出なのに暴れたり騒ぐ者もいない。みんな品良く楽しんでおり、雰囲気も良い感じ!
ただ、気になったことが1つ。
わたし達以外の生徒の服って、普通に黒なんだよ。
学ランは上下黒、セーラー服はラインとスカーフが白で他は黒、ブレザーは上着が黒でボトムはグレー……。
だから、赤セーラーのわたし達の目立つこと目立つこと。
というか、わたし達を見ると、みんな避けるように遠ざかっていく?
「あっヤバっ! 赤服じゃん……」
「赤服と関わるのはマズいって……他のトコいこう?」
「触らぬ赤服に祟りなしってね……」
ん? もしかしなくても『赤服』ってわたし達のことだよね?
「ああ、気にしなくてもいいですわよ? 『特別クラス』にそういう人達が集まっているのは周知されていますので、関わり合いを持たないようにするのは常識的な判断ですわ」
瑠奈先輩が説明してくれる。
ああ、やっぱり避けられてるんだよね。
わたし達が歩くと、みんな視線を合わせないようにして、モーゼのように人波が割れていくもんね……。
やけに毒々しい赤色だと思ったんだよ!
これ警戒色じゃん! こいつヤバいって誰が見ても分かるように、こんな毒々しい赤い制服にしたんだろ!
「でも、わたし達としては助かるのよ? ほら、わたしもミアちゃんも、ちょっと有名だから。中々こういう場所に来れないけど、ここならみんなの方から避けてくれるからね」
なるほど! 芸能人って大変なのね……などと思っていると、ミアは周囲のことなどお構いなしで、目的地の駄菓子屋へ一直線に入っていく。ミアの歩みに合わせて、少し遅れて人波が分かれていく様子が、見ていてちょっとだけ面白い。
「わっ! 凄いわよ澪! なにこれ、全部お菓子なの!? 色がすごいわっ! 澪、見てごらんなさい!」
「あら、ミアちゃん、これ……10円って書いてあるわよ? 本当に10円なの……? 10ドルの間違いじゃないかしら?」
ミアと美奈さんが、目をキラキラさせて棚に張りつく。
ミアだけかと思ったら、意外にも美奈さんもテンション↑↑↑↑ではしゃいでいる。
如月エンターテイメントの社長令嬢で、トップクラスのマルチタレントの美奈さんも、自由に出歩いたことがないのかもしれない。
よく考えると、ミアと美奈さんは境遇が似ている。
美奈さんがミアを可愛がっているのは、そういう理由もあるんだろう。
「お二人とも、落ち着いてください。これは『駄菓子』といって、庶民文化の象徴ですわ」
瑠奈さんが、妙に詳しそうな顔で説明する。メディアっ娘・瑠奈さんも『東雲グループ』のご令嬢のはずなんだけど、結構自由だったのかな?
「瑠奈さん、なんでそんなに詳しいんですか……?」
「昔、こっそり抜け出して、買い食いしていましたの。秘密ですわよ? フフッ」
瑠奈さんにが妖艶な笑みでウインクする。
『メディアっ娘・瑠奈』さん、以外にアグレッシブだった! 警護の人達泣いてそうだけど……。
「澪! ここに『当たり付きチョコスティック』ってのがあるわ! 当たったらどうなるのかしら!?」
「もう1本もらえるんだよ」
「えっ、そんな夢みたいな制度が……!? これ全部当たったら……ゴクリっ」
震えながらチョコスティックを両手いっぱいに握りしめて、ツインテールをずっとふりふりしているミア可愛い。
「あら、この美味E棒って、いろんな種類があるのね。うふっ、せっかくですから全部買っちゃいましょう!」
美奈さんの方もミアに負けじと(?)、美味E棒を両腕いっぱいに抱えている!?
「ミアさん、美奈さん、それは買いすぎですわ。まずは食べる分だけにしましょうね?」
「「はーい……」」
2人のお嬢様がしょんぼりする姿が、なんか可愛い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「むぐっ……チョコスティックって……んっ、いくらでも食べられるわね! むぐっ……んっ、はい、澪ももう1本食べなさい? あ、アタリを確認してから食べるのよ?」
「うん、ありがとうミアお姉ちゃん。じゃあ、このチョロチョコをお返しにどうぞ?」
「あら、それも美味しそうね。澪ちゃん、わたしの美味E棒と交換しましょ!」
結局、駄菓子屋で小さな紙袋をもらい、入るだけチョコスティックを詰め込んだミアと、入るだけ美味E棒を詰め込んだ美奈さんは、誰も視線を合わせようとしないのをいいことに、堂々とチョコスティックと美味E棒を食べながら通路の真ん中を歩いていく。
「あたし、凄っごくお行儀悪いことしちゃってるわ! これが不良の気分なのね!」
「うふふっ、ミアちゃん、誰も見てないから大丈夫ですよ?」
わたしはカレースナック、チョロチョコ、ミニラムネ、ゼリー菓子……その他諸々、チョコスティックしか買わなかったミアが後で食べるかなーと思って、お勧めをチョイスしておいた。
瑠奈さんも、いっぱい買っていた。多分、わたしと同じように、美味E棒しか買わなかった美奈さん用なんだろう。支払いは生徒証に付いているカード払いだ。
4人でお行儀悪く駄菓子を食べながら、次の目的地『マックリアバーガー』へと向かう。
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「澪! これが『ハンバーガー屋さん』なのね!? すごい匂い! これは……お腹が減ってくるわ!」
「あら、メニューが多すぎますわ……どれを頼めばいいのかしら?」
カウンター前で固まるミアと美奈さん。
実は結構混んでいてオーダーの行列ができていたのだが、赤服の威力は凄まじく、わたし達が並んだ瞬間、スゥーっと前の行列がどこかへ消えていき、気づけばアッという間に先頭に立っていた。
「ミアお姉ちゃん、セットはポテトと飲み物が付くやつだよ。AからDのどれかを頼めばいいんじゃないかな?」
「えっ、そうなの!? じゃあ、このAセットってやつをお願いするわ!」
「それでは、わたしはこのBセットをお願いいたします!」
ミアと美奈さんはウッキウキで、見ていて微笑ましい。
「駄菓子屋でもそうでしたけど、澪さんは庶民文化に詳しいですわね?」
フフフ、突っ込まれると思って、ちゃんと答えは準備してある。
「はい、アニメとかマンガで見て覚えました! このハンバーガー屋さんの『マックリアバーガー』も、アニメとかマンガでよく出てくるんですよ?」
「ああ、なるほど。日本のアニメとマンガは、あらゆるジャンルがありますので、意外と様々な分野の勉強になりますわね。確かに、駄菓子のアニメもありましたわ」
さすがメディアっ娘・瑠奈さん、そっち方面もチェックしているらしい。
瑠奈さんの前では注意しないと、何のアニメか聞かれたらマズい!
「瑠奈さんは、何にします?」
「そうですわね……それでは、私Cセットにしますわ」
「じゃあ、わたしはDセットで!」
多分、赤服の連中が来たときは、みんな同じような感じなのだろう。店員さんがわたし達の反応を見て苦笑している。
トレーを持って店内に入ると、スススーーっと人が引いていき、奥の席でダベっていた男女ペアの4人組が視線も合わせずに席を立ってくれた。うーん、何か強面のヤクザみたいな気分?
「「「「いただきます」」」」」
『いただきます』をして、ハンバーガーにかぶりつく。ああ、この雑な味だよ! なんかシャバに帰ってきたって感じ!
芸能人お嬢様の2人組はハンバーガーを一口食べた瞬間――。
「っ……おいしいっ!!」
「この『ジャンク』という味……クセになりますね!」
ミアと美奈さんが同時に感動している! まあ味濃いし美味しいよね! 健康にはアレだけど……。
「フフっ、皆さん良い顔をしていますわね。んっ……そうそう、この単純でまっすぐな味、懐かしいですわ」
瑠奈さんは優しく微笑みながら、懐かしそうにハンバーガーを食べている。瑠奈さん、ハンバーガーも抜け出した食べてたな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そしてカラオケ店。
「じゃあ……歌うわね?」
ミアがマイクを握った瞬間、空気が変わった。
歌い出した途端――。
「ミアちゃん、また上手になってるわね……」
「さすがミアさん。他のアイドル達と比べても、声量と表現力が桁違いですわ……」
プロ舐めてたわ!
美奈さんも瑠奈さんも、ミアの歌唱力に素直に驚いている。
もちろん、わたしもただただ圧倒され、ミアの歌に聞きほれてしまう。
「次は澪の番よ!」
「えっ、わたしが歌うの……?」
いやいやいやいや!
さすがにミアの後に歌うとかいう羞恥プレイは遠慮したい!
美奈さんと瑠奈さんに助けを求めるように視線をさまよわせると、2人が『ガンバレ!』と口パクしている……。
逃げられない雰囲気……どうしよう!?
う、うろ覚えだけど、魔法少女研修で見せられた『中高生に人気のアニメ曲』のうちの1つなら、かろうじて覚えている……。
「う、歌とか初めて歌うから、あんまり上手くなくても許してね?」
「大丈夫よ、澪。あたしがハモってあげるわ!」
ミアが隣に座り、肩を寄せてくる。
しゃーない!
素人なんだからヘタで当然!
ここはミアの引き立て役を立派に演じてやる!
そう、これはミアを引き立てるために、わざと下手に歌うんだからな!(言い訳)
「じゃ、じゃあこの曲歌ってみようかな……」
「あ、このアニメ知ってるわ! あたし、ヒロインのオーディション受けたかったのに、スケジュールが合わなかったのよ」
そういえば、ミアって声優もやってるんだった。
これからは言い訳の元ネタになるアニメやマンガのチェックはしておこう……。
「じゃあいくわよ、澪!」
「うん……」
歌い始めると、ミアが優しく声を重ねてくれる。
「あら、澪さん、可愛らしい歌声ですわね」
「うふふ、澪ちゃんの歌、好きよ?」
褒められて、わたしは耳まで真っ赤になった。
魔法少女研修での杏との羞恥耐久訓練より、よっぽど酷い辱めである。
「はぁぁーーーーーーーーーーっ」
ミアの助けもあって何とか歌いきると、大きくため息をついて脱力する。
昨日の魔塊鬼を狙撃した時より緊張したわ!
「澪ちゃん、上手だったよ!」
「ええ。ミアさんの助けがあったとしても、とても初めて歌ったとは思えないほど上手でしたわ」
美奈さんと瑠奈さんが褒めてくれる。
まあ、メロディーもろくに覚えていなかったから、ミアがいなかったら悲惨だったと思うけど。
「澪、初めてにしては中々上手かったわ! 声は凄っごく可愛いんだから、もうちょっとお腹から声を出すようにすれば、もっと良くなると思うわ。そうだ、今度一緒にレッスン受けましょ! 澪も一応タレントなんだから、絶対役に立つわよ!」
いえ、結構です……。役に立つことがあったらマズいんです……。
「あら、澪ちゃんもタレントなの?」
「それは初耳ですわ……あっ、そういえば……」
ミアの余計な一言に2人が反応し、瑠奈さんがスマホを操作し始め――。
「これ、澪さんですわよね? ツインテールが隠れていたので気づきませんでしたわ」
瑠奈さんがスマホの画面を見せてくる。
そう、例のネコミミ着ぐるみでニャンニャンポーズを取るわたしのポスター画像である……。
「うっ……」
写真や動画でも認識阻害が発生するはずなのに、なんでピンポイントで見つけるかなぁ……。
あっ、もしかしてネコミミ着ぐるみの効果が何か影響してる?
「あら、可愛い!」
「ど、どこでそれを?」
「澪さんを気に入ったファッション誌のアートディレクターが、キッズモデルとして使いたいって推してましたの」
うーん、一度ネコミミ着ぐるみの効果について調べてもらった方がよさそうだな……。
「あっ、ポスターまで作ってるんじゃない! 澪、今度このポスター持ってきなさいよ!」
瑠奈さんのスマホを覗き込んだミアが声を上げる。
わたしだってポスターの存在を知ったのは昨日だ。偶然アンナに会わなかったら、目玉飛び出るくらい驚いてたわ!
「ぽ、ポスターは全部配っちゃったからもう無いって……」
「もう! じゃあ写真は頼んだわよ!」
「う、うん……」
「澪ちゃんは、ミアちゃんと同じ『白鳥プロダクション』なの?」
「澪は『雪月華風』の所属よ。三枝が動いて、澪が悪いスカウトに騙される前に『雪月華風』に入れたみたい。ほら、『雪月華風』の所属だって言えば、どんな悪質プロダクションでも手を出そうと思わないでしょ。三枝って澪に対しては凄っごく過保護なの」
ソッチ系って、本当にソッチ系なんだ……。
うーん、千桜なら有り得るか。いや、傀儡組織として普通にソッチ系の組織も使ってそう……。
「あら、やっぱりそうでしたのね。『雪月華風』って可愛い娘が大勢所属している割には、メディアへの露出が少ないのが不思議でしたの。三枝グループの仕事を専門で請け負う御用事務所ということですのね」
あー、魔法少女だから大っぴらに表には出られないんだよね。
芸能プロダクションとして表の仕事はしているけど、魔法少女は偽装用に『表に出ない社内用パンフレット』とか『グループ内限定の動画』の仕事をすることがあるって言ってたし、三枝グループでそういう仕事をしてるんだろう。
「安全のために所属しただけですから、わたしが芸能関係の仕事をすることを三枝は許さないと思いますよ。わたしのことはいいですから、次は美奈さん歌ってくださいよ!」
突っ込まれると魔法少女としてヤバいので、話題を変える。
「そうね、久しぶりに歌っちゃおうかな! ミアちゃんの後だとプレッシャーがあったけど、澪ちゃんが歌ってくれて助かったわ」
「フフッ、澪さん、グッジョブでしたわ。この順番で歌っていきましょう」
ミアの後の緩衝材かよ!
まあ、ミアとのデュエット楽しかったからいいけどさ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして……女の子同士の定番(だと思ってるんだけど違う?)、プリクラ撮影である。
「澪! もっと近くにきなさい、ほら、ほっぺくっつて!」
「ミアちゃん、もっと寄って寄って!」
「こういうのは『角度』が大事ですわ。ほら、顎を少し上げて」
「ちょ、ちょっと近い……!」
ミアが抱きつき、美奈さんが盛り上げ、瑠奈さんが妖艶ポーズ。
リアルJCとマジもんのキャッキャウフフである。完全にテンション↑↑↑↑の3人に翻弄されて、とても楽しめるようなものではない……ううっ、気疲れするわ!
でも、撮れたプリクラは――4人とも満面の笑顔だった!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そろそろいい時間なので帰ろうとしていたら……ミアがクレーンゲームで沼った。1匹目の黒ネコちゃんは取れたのだが、どうしても色違いをもう1匹欲しいらしい。
「澪! あの白いネコちゃんが欲しいの! あと100円で取れそうなの!」
あー、ここのアーム弱いから100円じゃ無理だよ……。
生徒証兼クレジットカードで月30万まで使えるから、粘れば取れなくはないけど。
「ミアお姉ちゃん、100円じゃ無理じゃないかな。ちょっとずつ右に移動させて……」
「ミアちゃん、ストップ! そこで下じゃないかしら?」
「アームの強さ的に、これは『押し技』が有効ですわね……」
4人で30分以上悪戦苦闘し、ついに――。
「取れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ミアがツインテールをふりふり揺らして飛び跳ねる。
「はい、澪! お揃いよ!」
ミアは満面の笑顔で、今取ったばかりの白ネコちゃんのぬいぐるみをわたしに差し出してきた。
「えっ、わたしに!? あ、ありがとう、ミアお姉ちゃん!」
ヤバい……ミア良い娘すぎる……!
涙腺ゆるんでるからやめて……!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
4人とも着替え付きの身体検査を終え、地下鉄のホームへ――。
身体検査の結果、ぬいぐるみと駄菓子の残りは持ち込み許可が出た。校外からの持ち込みは禁止だが、複合アミューズメント校舎は校内扱いなので問題ないらしい。
「今日は本当に楽しかったわ。ミアちゃん、澪ちゃん、また一緒に遊びましょうね?」
「ええ。今日は久しぶりに楽しめましたわ。澪さん、これからもよろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
今日一日で美奈さん、瑠奈さんとすっかり仲良くなれた気がする。
ミアとはもう、『生まれた日は違えども、死す時は同じ日同じ時を願わん!』って感じよ!
だってミア、良い子すぎるんだもの!
多分わたしは鏡界でアッサリ死ぬんだろうけど、それは覚悟してるんで……。
「ミアさん、可愛い妹分ができて羨ましいですわ」
「ダメですよ、澪はあたしの妹ですから、あげませんからね!」
「あら、可愛いことを。澪さん、愛されていますわね? 嫉妬してしまいますわ。ねえ美奈?」
「ううっ、ミアちゃんにこんなに懐かれてる澪ちゃん、羨ましいです! でも澪ちゃんも可愛いから、これからは2人とも愛でちゃうことにします!」
「も、もう、麗花姉も、朱音姉も、あたしのことからかって……でも、今日は楽しかったわ! またこの4人で遊びに来ましょ!」
確かに、こんなに楽しんだのは久しぶりだ……。
「澪は、それまでに歌の練習をしましょうね! あたしがコーチしてあげるから光栄に思いなさい!」
ミアはツインテールをふりふり揺らしながら、得意げに胸を張った。
あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!




