35話 複合アミューズメント校舎・前編
「んーーーーーーーーーっ」
目覚ましを止め、眠い目を擦りながらベッドから立ち上がる。時間は午前5時40分、ミアの襲撃予定時間の15分前である。
ミアは18時になると自分の部屋へ戻ってくれたので、ミアが帰った後は狩りに行くまで少し寝ておいた。さらに昨日は、例の魔力潮流事件のせいで早く帰ってこられたので、グッスリよく眠れた。
まあ、眠いのは眠いんだけどね。
ドレッシングルームで朝の支度をすませ、ミアが来る前にサッサと着替えも済ませ、荷物の準備もOK! 準備万端で待ち構えていると、インターホンが鳴った。
「おはよう澪!」
モニターを見ると、今日も朝からテンション↑↑↑↑でツインテールをふりふり揺らすミアが映っている。
「おはよう! ミアお姉ちゃん!」
すぐにドアを開けると、ニッコリスマイルでミアを迎える。
「おはよう澪、今日はちゃんと準備できていて偉いわね!」
「えへへ、ミアお姉ちゃんを待たせるわけにはいかないからね!」
さすがにミアお姉ちゃんに着替えさせられるのは……ちょっと、ねえ?
あ、ポンコツの方のお姉ちゃんならいいって訳じゃないよ?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
朝食には『ミア・モーニングC(厚切りフレンチトースト〈メープル増し〉、ソーセージ&スクランブルエッグ、ハッシュドポテト、バナナスムージー)』とコーヒーを頼み、トレーニングルームでランニングした後、教室へ向かう。
若いっていいよね。一晩寝ればすっかり回復するんだもの!
昨日はキツかったけど、今日は昨日よりずっとマシになった。朝の運動って意外と良いかも!
ミアと手をつないで教室に入ると、いつもの5人はすでに席についている。昨日の過ちを繰り返さないように注意しながら、無事に今日の挨拶回りを終了する。まあ、反応はいつも通り……。
わたしとミアが教室に来るのがかなりギリギリっていうのもあるけど、授業に出ても出なくても自由な特別クラスの割には、みんな真面目だなぁ……って話をしたら、ミアがカラクリを教えてくれた。
「出席や遅刻、成績なんかは家に報告がいくのよ。実家に『反省の色なし』って判断されたら、欧米じゃない海外送りだから、後のない連中は授業だけは真面目に出るってわけ」
そういえば、特別クラスって問題児を一般社会から完全に隔離するための施設だったな。
「何の問題も起こしてないのに特別クラスにいる人間は、本当に極少数よ。ここにいるのは、みーんなそういう連中なのよ」
そういえば、あんまりそういうの詳しくなかったな……というか、本業の魔法少女業の方にまだ慣れてないから、現界の事情を詳しく調べてる時間なかったわ。特別興味もなかったし……。
「そうなんだ? ミアお姉ちゃん、色々知ってるんだね!」
「もう、澪は本当に『箱入りのお嬢様』って感じで危なっかしいわね。いい? このクラスの――」
ということで、ミアからこのクラスの事情を色々聴かせてもらった。
まず、デ……恰幅のいいメガネ男子こと水無瀬海くんの本名は、赤羽斗真。大手IT企業『赤羽テック』の創業者の一人息子で、詳細不明だが問題を起こして『特別クラス送り』になったらしい。
メカクレ系の文学少女こと羽音優奈ちゃんの本名は、霧島朔。政界の重鎮・霧島家の御息女で、こちらも問題を起こして『特別クラス送り』。
真面目系イケメンの東雲怜くんの本名は、榊原慧斗くん。財務省の官僚一家の御子息で、彼も問題を起こして『特別クラス送り』。何したんだろう、真面目そうなのに……?
純情不良の真壁陸斗くんの本名は、黒瀬剛士。巨大建設会社『黒瀬グループ』の次期社長候補で、こちらも詳細不明だが問題を起こして『特別クラス送り』。彼は多分、暴力沙汰だろう……偏見かもしれんが。
女を食いまくる爽やかイケメン、久遠空くんの本名は白鳥悠真くん。外務省の名門『白鳥家』の長男で、ミアの従兄。女関係で『特別クラス送り』……。
で、ミアお姉ちゃんは、というと……。
「わたしの本名は白鳥茉莉よ。一応『白鳥プロダクション』の社長令嬢ね。でも芸能活動してるから、世間的には星名ミアの方が有名なんじゃないかしら? 澪とあんまり遊べないのは、芸能関係の仕事があるからなの」
『白鳥プロダクション』といえば、わたしでも知っている、業界トップランクの芸能事務所だ。
「そうなんだ、わたし全然知らなかったよ!」
マジか!? 可愛いとは思ってたけど、ホンモノの芸能人かよ!? ゴメンな、ジュニアアイドルとか全然知らないんだ……。
「澪はずっとサナトリウムにいたんでしょ、しょうがないわ。これでも結構有名なのよ? そうだ、ねえ澪、あんたも芸能活動しなさいよ! そうすればずっと一緒にいられるわ!」
あっ! 思い出した! そういえばわたしも芸能人(?)じゃん!? ツインテールだけじゃなくて芸能人まで被ってるわ!
「あーーーっ」
どうしよう?
正直に『雪月華風』に所属してること言っちゃう? 隠しとく?
あっ、アンナがポスター配ったって言ってたな……。ウソついててバレたらミア絶対激怒するよね。別に困るもんでもないし、言っておくか。たしか設定があったはず……。
「えっと、その……わたしも芸能事務所に登録してるんだ?」
「えっ!? 澪って、ここに来るまでサナトリウムにいたんでしょ? 何で芸能事務所なんかに登録してるの?」
「その……ヘンなスカウトに騙される前に登録しておきなさいって言われて、『雪月華風』関係者に頼んで登録だけしたんだ?」
ゴメンなんさい! ゴメンなんさい! 全部、設定だから、あんまり深くツッコまないでください!
「へー、『雪月華風』って中堅の芸能プロダクションよね。澪の芸名は何ていうの?」
「えっと、四樹莉里っていうんだ。頼まれて登録しただけなんだけどね……」
「あ、本当だ! 写真も載ってるじゃない!」
あっという間にスマホで検索したミアが、四樹莉里にたどり着いたようだ……って、写真ってなんぞ!?
「ウソ? 名前だけだって……うげっ!?」
すごく小さくだけど、「ネコミミ着ぐるみ」を着て、ニャンニャンポーズをしているわたしの写真がHPに掲載されている……。
「か、可愛いわね、この写真。あたしにも頂戴!」
「いや、わたしは持ってないから……」
ベースの個人ロッカーに置いてあるスマホには入ってるけど。
「そうなの? じゃあ貰ってきて!」
やだよ!
「そ、そうだね、今度頼んでおくよ……」
「へー、いいじゃない! あたしの妹分ってことにすれば絶対売れるわ! 三枝の方にはお父さまから話を通していただくから、『雪月華風』には移籍の方向で話をしておくわね!」
いやー! やめてー! 暗殺されてしまいます!
「う、嬉しいけど、芸能活動をするつもりはないんだ。ほら、三枝ってそういうのあまり好まないから……。本当に、安全のために登録しただけだよ? 『雪月華風』の名前を出せば、大抵は大丈夫だからって」
「そういえば、『雪月華風』ってソッチ系とつながりがあるって噂あるものね。三枝の息がかかっているなら納得だわ。でも、澪と一緒にいられないのは残念ね……そうだ! 澪からお願いしてみて! 三枝って澪には甘いみたいだから、澪がやりたいって言えばやらせてくれるんじゃないかしら?」
「う、うん……今度聞いてみるよ(絶対聞かないよ)?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そんなこんなで、放課後――。
「澪、そろそろ準備しなさい」
「な、何の準備?」
帰りのHRも終わり、荷物をまとめたミアが、また何か恐ろしげなことを言い始める。
「今日は、複合アミューズメント校舎に行くわよ!」
複合アミューズメント校舎ってなんだ?
もらった特別クラスの資料には載ってなかったような……?
「丘の向こう側に、特別クラス以外の施設があるのは知ってるでしょ?」
丘の中腹に造られた、30センチ砲の直撃に耐えるベトン製の壁と、切り立った崖に囲まれ、外界と完全に隔離された特別クラス。
その特別クラスの敷地と丘を挟んだ反対側には、駅や街にも近い、龍鳳学園の一般学部の施設が存在するらしい……見たことないけど。
「そこに、複合アミューズメント校舎ってのがあるらしいのよ。そこへ行くわよ」
「複合アミューズメントっていうと、カラオケとか映画館とかある所?」
「よく知ってるわね、そうよ、それ! 他にもジャンクフードレストランとかがあるらしいのよ! ここのレストランにないようなメニューがあるらしいから、一度食べてみたいの!」
いや、ここのレストランで食ったほうが100倍美味いと思うぞ。でも、ファーストフードチェーン店の雑な味もちょっと懐かしいな……。
ん? でも、特別クラスの生徒って、この敷地から出られないんじゃなかったっけ?
「面白そうだけど、ココから出られるの?」
「ええ。複合アミューズメント校舎から外へは出られないし、色々面倒くさい手続きが必要だけど、大丈夫だって! 1人で行くのは面倒だったんだけど、澪と一緒ならいいかなって」
遊びに行くなら大歓迎! さっき調べたらミアって結構有名なマルチタレントで、小5の時から歌手とかモデルとかやってるらしいし、ミアのカラオケとか聞いてみたい!
「うん、行く行く! 準備って何をすればいいの?」
ミアの話によると、この特別クラスの敷地と丘の向こう側とはトンネルでつながっており、専用電車に乗れば『複合アミューズメント校舎』の中へ行けるらしい。
ただ、『複合アミューズメント校舎』から外へ出ることはできず、所定の時間までに戻ってこなければならないとのこと。
さすがの特別クラスも、運営コスト的な問題で敷地内に『複合アミューズメント校舎』を造ることができなかったための苦肉の策……といったところだろう。まあ、少人数のために稼働させるような施設じゃないからな。
準備は生徒証と支給された携帯端末を持っていればいいだけだが、身体検査をされるので覚悟するようにとのこと。またあの刑務所みたいな全裸身体検査やるのか!? まあ別にいいけどさ。
ということで、ミアとわたしは仲良く手をつないで、地下鉄(?)の駅へと向かったのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地下鉄の駅は、エレベーターで地下深くまで降りた、まるで核シェルターのような場所にあった。
というか、この施設って核シェルターそのものなんじゃねーの?
30センチ砲の直撃に耐えるベトン製の壁もそうだけど、そういう事態を想定して造られてるとしか思えない。
ホームにはミアとわたしの2人きり。
相変わらず手をつないで仲良し全開である。JCってこんな感じだったっけ? リアル中学生時代なんて記憶の彼方で覚えてないよ?
「澪は、アミューズメント校舎のどこに行きたい? あたしは駄菓子専門店っていうのに行ってみたいわ! 『買い食い』ってのができるらしいのよ?」
『買い食い』なんてしたことないだろう、お嬢様のミアはウッキウキである。
「わたしは、アニメで見たハンバーガーとポテトが食べてみたい!」
ウソです。久しぶりにあのジャンクでギトった味が食べたいだけです。
しかし『アニメで見た○○』って使い勝手良いな、ほぼ万能である。
「いいわ、じゃあ駄菓子専門店に行った後にハンバーガー屋さんに寄りましょう! その後は、どうする?」
『どうする?』と目をキラキラさせているミアが可愛い。
「カラオケとか行ってみない?」
「カラオケって、色んな歌を歌える所よね? いいわね! 澪は何を歌うの?」
あ、わたしも歌うのか! 忘れてたわ!
「あ、アニメの歌とかかな? あんまり歌とか歌ったことないから……」
魔法少女になってから歌なんか1度も歌ってねーからな。女性ボーカルの曲とかも歌えそうでいいかも? 挑戦しちゃう!?
「いいわ。じゃあ、あたしの歌を一緒に歌いましょ! 歌うのって結構楽しいのよ?」
「うん!」
ミアと歌えるとか、楽しみだわ!
などとミアとキャッキャウフフしながらお喋りしていたら、後ろでエレベーターが開く――降りてきたのは、赤いセーラー服の2人組。
高等部はブレザーなので、中等部の先輩だろう。2人とも大層な美人さんだ。
1人は、柔らかい艶のある茶髪のロングヘアにゆるく巻かれたウェーブがよく似合う、大きく力強い瞳が印象的な美少女。
中学生なのかと疑うレベルの大人っぽさで、美のオーラが放たれているかのような『華』がある。
もう1人は、深い赤みのある茶髪のロングストレートで、長めの前髪は目元ギリギリ。
少しつり目気味の切れ長の目元は中学生らしからぬ艶がある。こちらも負けず劣らずの美少女だが、『妖艶』という言葉が似合うタイプ。
こういうのって挨拶した方がいいの? いらないよね、知らない人だし……と思っていたら、ミアが近づいていく。ミアが手を離さないので、必然的に付いて行かざるを得ないわけで……。
「麗花さん、朱音さん、ご無沙汰しています!」
どうやら先輩2人組と知り合いらしい。
ミアが2人の前でペコリと頭を下げる……って、ミアってちゃんと挨拶できたんだ! 偉い!
頭を撫でてあげたくなるが、なんとか自制。
「あら、ミアちゃん! ミアちゃんも龍鳳学園に入れられちゃったんだ?」
「悠真くんの問題と、最近ミアさんのファンの過激な活動が目立ってきたので、『白鳥プロダクション』が保護目的に転入させたみたいですわ。ね?」
『麗花さん』と呼ばれた華やかな美少女がミアに親しそうに話しかけ、『朱音さん』と呼ばれた妖艶な美少女が事情を説明してくれた。
「全部、あの『クズ』のせいなんですけどね! でも麗花さんと朱音さんが龍鳳学園に通ってるなんて知らなかったです」
「ええ、過激なファンの子達がちょっとね……。ああ、そうだ。一応、龍鳳学園では桐谷美奈って呼んでね? 決まりらしいから」
「私は藤宮瑠奈でお願いしますわ。私は美奈さんと違って少々問題を起こして送られてきましたので、学園の方針には逆らえませんの。ミアさんはミアさんのままでよろしいのでしょうか?」
「はい。あたしは芸名の『星名ミア』のままです。名前が3つもあるの面倒臭いじゃないですか? お願いしてミアのままにしてもらいました」
確かに!!
4つも名前があると自分でもよく分からなくなってくるよ!
「それで、よろしければ、そちらの『小さいミアさん』をご紹介いただけませんか?」
『小さいミアさん』って、あたしのことか!?
「あら、本当だわ! 昔のミアちゃんみたいね!」
「可愛いでしょ! この子は白銀澪。あたしの妹なの! ツインテールもお揃いで、いっつも一緒なの!」
あー、ミアに任せておくとアレなので、自己紹介しておくべきだな。
「私、白銀澪と申します。ミアさんにはいつも大変お世話になっております。以後、よろしくお見知りおきください」
「あら、ちゃんとご挨拶できて偉いわねぇ。よろしくね澪ちゃん」
「そうですね、よろしくお願いいたしますわ」
何か扱いがミアより下の子っぽい。一応、本名(偽名)とか言っといた方がいいのかな? ミアにも言ったし、せっかく覚えた『設定』だし言っておくか!
「本名は(本名じゃないけど)、三枝理奈と申します――」
と、簡単に自己紹介をしていると、地下鉄……線路がなくてタイヤで走る静かなヤツがやってくる。
先頭の1両以外は全部貨物車両というシロモノで、物資輸送がメインで人員の輸送はオマケなんだろう。
「ミアちゃん達も『複合アミューズメント校舎』へ行くのでしょ? よかったら一緒に遊ばない? いいでしょ瑠奈?」
「はい、私もミアさん達の一緒に遊びたいですわ」
「いいんですか! ぜひ! 澪もいいわよね?」
「はい。皆さんとご一緒できて嬉しいです!」
こんなの断れないじゃん!
複合アミューズメント校舎・後編 へ続く!
本名:如月麗花 偽名:桐谷美奈
柔らかい艶のある茶髪のロングヘアにゆるく巻かれたウェーブに、大きく力強い瞳が印象的な、『華』のある美少女。
芸能プロダクション『如月エンターテイメント』の社長令嬢にしてタレント。事務所は違うが、芸能界でミアを可愛がっていた。
本名:東雲朱音 偽名:藤宮瑠奈
深い赤みのある茶髪のロングストレートで、長めの前髪は目元ギリギリの『妖艶』な美少女。
メディア企業『東雲グループ』の令嬢。問題を起して『特別クラス送り』にされた。
以前からの麗花の友人で、麗花と共にミアを可愛がっていた。
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