34話 魔力潮流(マナ・タイド)
こないだの稼ぎで、マギリングのショップ機能からバイポッド(銃の前に付ける二脚の支え)を買ったんだ!
4万マギトもしたんだけど、ちょっと試してみると伏射がメチャ安定して疲れないしイイ感じ!
場所によっては立射や膝射でも使えそうだから、良い買い物だったと思う。
ってことで、早速、狙撃に使ってみようと思ったわけよ。あんまり遠出しても戻るのが面倒なので、Y08ベースの近くでオーガ級が出没するかしないかというエリアの、そこそこ高いビルの屋上まで登ってきたわけなんだが……。
「何だありゃ?」
600mくらい先の通りで、オーガ級とおぼしき魔塊獣が1匹だけウロついているのを発見したのだが、何かがおかしい。
魔法少女歴2か月もないので断言はできないけど、普通魔塊獣って、生まれたばかりのヤツ以外は数匹で群れてるんだよ。それが単独でウロウロしてる。
さらに、街灯の真下にいるのに、パッと見で分かるほど影が濃くて、赤く光る眼がやけに目立っている。600mも離れていれば豆粒ほどの大きさにしか見えないはずなのに、すぐ分かった。
「とりあえず撃ってみるか……」
この距離なら見つかることはないだろう、多分。撃ってヤバそうなら逃げればいい、多分。
千桜に『長距離狙撃での魔塊獣討伐マニュアル』なんか存在しなかったので、完全に手探り状態なんだよね。
1発で倒せればいいけど、倒せずにビームみたいなので反撃される可能性も無きにしも非ず……ってことで、とりあえずコツコツ、ノウハウを蓄積していくしかないんだよね。
600m狙撃なんてこれが初めてだし、まあ撃っちまおう!
地獄の殺戮者を構え、『フォーサイト』を発動……遠いせいか収束に時間がかかる……。何か魔力がジリジリ減ってきてる!? コレって魔法騎士と戦った時と同じ感覚だ。
『フォーサイト』の光のラインが、いつものように1点に収束しない。魔塊獣の頭部あたりにボンヤリと光が集まるだけで、それ以上まとまらない……。なので、とりあえず逃亡ルートを再確認した後、発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
安定した伏射とバイポッドのおかげか、反動は立射とは段違いだ。すぐに排莢し、次弾を装填。
手応えはあった……のだが、魔法少女の強化された視力を持ってしても豆粒ほどの大きさで、どうなったのかよく見えない……。
『ガアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!』
叫んだ!?
その咆哮が衝撃波のように600m離れたここまで伝わって……いや、衝撃波じゃない。頭の中に直接響いてくるような感じ……魔力波みたいなものだろう。
これ、近くでやられたらヤバかったんじゃないか?
だが、何らかの損傷は与えたようで、周囲を探るように咆哮しながらグルグル回っている。見つかっていないなら……と再照準し、2発目を発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
初弾と同じく頭部にヒット! すぐに排莢し次弾を装填! 体にまとわりついていた黒い煙が、少し薄くなったような気がする……っ!?
撃たれた方向を理解したのだろう。こちらへ向かって走ってくる……が、顔(?)はコッチに向いていない。方向だけ分かったのだろう。
逃げるかどうか迷うが、『ヤれる』と言っている直感を信じる。
魔塊獣が高速で走ってくるが、魔法騎士の滑るような移動ほどじゃない。『フォーサイト』の光のラインが魔力消費の感覚と共にジリジリと収束していき……1点に収束、3発目を発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
魔塊獣の頭部が吹き飛ぶ……が、速度こそ落ちたものの、頭部のない状態でまだ走り続けている。
すでに距離は300mを切った。次射がここから伏射で狙える最後になるだろう。
排莢しマガジンを交換、再装填。あと1発撃ってダメなら撤退する。魔塊獣と室内戦とかゾッとしないので、窓からビルの反対側に逃げて走る予定。
魔塊獣のまとっている黒い煙はかなり薄くなっている。アレがバリア代わりに働いていたなら、もう貫通できるんじゃないか? 『フォーサイト』の光のラインがゆっくりと胸部へ収束していく……よし!
収束後、即発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
魔塊獣の胸部が消失。排莢し、一応次弾を装填するが、まだ生きてたら撃たずに逃げる!
腹部と脚だけになった魔塊獣は2、3歩前に進むが、そのまま煙となって消えていった……。しばらく消えたあたりを見続けるが、どうやら完全に消滅したようだ。
思わず大きなため息が出て、全身の力が抜ける……。襲ってきたのは軽い目眩と吐き気。魔力切れの兆候だって習ったが、初めての経験だ。それほど強敵だったのだろう……。
しばらく休憩した後、周囲を十分に警戒しながら魔塊獣が倒れたあたりへ向かう。いや、ほら残った残骸から後で復活してくるとかよくあるじゃん? 一応確認しとかないと、気になるじゃん!
「ちゃんと撃破したんだよな……? ん?」
1cmほどの光る宝石(?)みたいなモノが落ちているのを見つけ、地獄の殺戮者の先端でツンツンしてみる。ほら、触ったら精神が乗っ取られるとかあるじゃん? 一応ね、一応!
強い魔塊獣を倒すと、『マナ結晶』というモノが残ることがある――そんなアンナの授業を思い出す。その時は『RPGみたいだな』って思ったんだけど、コレって『マナ結晶』じゃないか?
指先でツンツンしてみても大丈夫そうなので、拾って持って帰ることにした……。
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「――――ってことがあったんだけど、コレって『マナ結晶』であってますかね?」
Y08ベースに戻って、中央ロビーで1人コーヒーを飲みながらボーっとしていたら、たまたまアンナが通りがかったので聞いてみることにした。
「あれから1度も遊びに来ないのは、みなさんそうでしたのでいいですけど……もっと、こう、『お姉ちゃん、寂しかったぁ』とか『お姉ちゃん、会いたかったよ』とか、演技でいいので言ってほしいです」
演技でいいんだ……!? 演技でいいなら、それくらいはしてあげるよ?
「アンナオネーチャン、サミシカッタヨー!」
魔力切れっぽくて疲れてるから、これで我慢してね!
「おお……やはりリリアさんは優しいですね。お姉ちゃんはとても嬉しいです。感動です。今までで最高に優しい言葉をかけてもらいました。これからは、お姉ちゃんが一生リリアさんの面倒をみてあげますよ?」
いらねーから! しかし、アンナの予想外の反応に焦る。こんな雑な対応で喜ぶとか、アンナ嫌われ過ぎだろ! まあ、ウザいのは分かるけどさ……。
「えっと、アンナさんって結構面倒見いいですし、普通に『ウザ絡み』をやめれば、みんな慕ってくれると思うんですけど?」
「そんな……私に死ねと?」
アンタ、『ウザ絡み』止めたら死ぬのかよ!?
ツッコミを入れようとした時……ふとツインテールの某姉のことを思い出す。
アレ、アレに比べれば、コッチの方が扱いやすくね!?
体力も気力もガリガリ削ってくるアレに比べれば、少々ウザ絡みしてくるコッチの方が、雑にあしらっておけばいい分まだ扱いやすい……のでは? 2人の姉を比べてみると、アンナお姉ちゃんの方が幾分マシだと思えてくる。
「えーと、何でそこまで『ウザ絡み』したいんですか?」
「恥ずかしながら、私、人間関係を構築するのが苦手といいますか……自分では普通にお話ししているつもりなのですが、どうも何を言っても『ウザ絡み』と言われてしまうようなのですよ。これを止めるということは、私がお話しするのを止めろというのと同義ですので……できれば、リリナさんとは、ずっとお話ししていただきたいなと思うのです」
け、結構重い話だった! ま、まあ、色々あるからね、人間関係って難しいよね! アレに比べれば疲労度は少ないし、何だかんだ世話になってるし……まあ、そういうことならしょうがないか。
「ま、まあ誰でも得手不得手はありますから! うん、分かりました。アンナさんは今のままでいいですよ?」
「ありがとうございます、リリナさん。これで安心してリリナさんに『ウザ絡み』できます。今まではかなり遠慮していたのですが、これからは全力でいかせてもらいますね?」
自分で『ウザ絡み』って言うなよ! というか、アレで今まで遠慮してたのかよ!?
「そ、それは、いいですけど(よくないけど)……。コレって『マナ結晶』ってヤツであってます?」
あまり深掘りすると妙なことになりそうなので、話を戻すことにする。
「私は戦闘職ではないので実物を見たことがありませんが、さっきのリリナさんのお話からすると、おそらく『マナ結晶』でしょう。握って吸収するイメージをすると魔力が回復するらしいですよ?」
「そうなんですか? ちょうど魔力消費してるみたいだし、やってみようかな」
魔力不足っぽいし、試してみるかな……。
「ああ、でも任務課に持っていけば、高額で買い取ってもらえるという話を聞いたことがありますよ?」
「高額!?」
「はい、具体的にいくらになるかは知りませんが、行ってみます?」
「行きます!」
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アンナに案内されて任務課へ向かう。内務部任務課――魔塊獣討伐などの通常任務の発行(戦争絡みの任務や新人研修任務は別枠)を担当している部署だ。
千桜では、報酬の受け取り方として「ゴブリン級を1匹討伐するとXマギト」という歩合制の魔塊獣討伐があるが、これとは別に『ゴブリン級を10匹倒すとXマギト』という討伐任務も存在し、歩合とは別にマギトが貰える。
ゴブリン級が増えている時はゴブリン討伐任務が、オーク級が増えている時はオーク級討伐任務が、内務部任務課から発行され、千桜として魔法少女の行動指針に影響を与えている。
任務の受注や清算などはすべて中央ロビーの情報端末で行われるため、ここへ来るのは初めてだ。こじんまりとした任務課の部屋には、3人の魔法少女が情報端末に向かっている。
「なるほど、これは確かに……」
任務課で『マナ結晶』っぽいものを取り出すと、淡い青色の髪を三つ編みにしたメガネっ娘魔法少女がやってきた!
魔法少女のメガネっ娘っているんだ! とちょっと興奮しながらジーっと見ていると……。
「あ、このメガネはわたしの魔法具です。ちょっとした鑑定のような機能があるのです……。はい、これは間違いなく『マナ結晶』ですね。これをどこで?」
とジロリと睨まれる。垂れ目で優しそうなのに、口調は結構厳しめ。
「すぐそこですよ。ベースから南に向かって――――――」
アンナにしたのと同じ説明をメガネっ娘にすると、最初は半信半疑だった表情が、段々と厳しくなっていく。
「マギリングの討伐ログを見せてもらえますか?」
言われるまま討伐ログを開くと、『オーガ級・Bランク 討伐』と表示されている。いつもは『オーガ級 討伐』しか見たことがなかったので、『Bランク』という表示は初めてだ。
「あなた、レイド級の魔塊獣を単独で討伐したの!?」
三つ編みメガネっ娘が目をまん丸にしているのが、ちょっと可愛い。
「レイド級ってのはよく分からないですけど、狙撃しただけなんで戦闘とかはしてないです。遠くから撃っただけです」
三つ編みメガネっ娘の言葉に、任務課の他の2人もやってきてログを覗き込む。
「レイド級の魔塊獣なんて、ここしばらく出現してないでしょ……ええっ!?
本当に1ユニットで討伐しちゃってる!? 凄っごい!」
「あっ、この娘、魔法騎士3ユニット倒したっていうツインテールだよ! ニャンニャン動画見たよ! そうだ、サイン! サインちょうだい!」
ニャンニャン動画って何ぞ? なんか盛り上がってる任務課の2人に、アンナと困り顔を見合わせていると、メガネっ娘が声を上げる。
「静かにしなさい! ベースの近くでレイド級の魔塊獣が出没したってことは、魔力潮流の可能性が高いわ。急いで全魔法少女に警報を! 一応、統合参謀本部にも連絡しておいて!」
メガネっ娘の声に、我に返ったように2人が自分の端末に向かう。
魔力潮流というのは、鏡界の魔力の流れに異変が起き、普段出現しないような強力な魔塊獣が出現する現象だ……と研修で習った。
何か、やけに強いと思ったよ。オーガ級を1発で倒せる弾丸を4発だからなぁ。
何か嫌な予感しかしないんだが……大丈夫かな?
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何だか緊急事態っぽくなってしまい、『マナ結晶』の鑑定も後回しにされ、アンナと一緒に追い出されてしまった。
「OJTの時といい、リリナさんは運が悪いですね。さすがに同情してしまいます」
うっ! 確かに運が悪いのはそうかもしれないけど……アンナに同情されるのは、何か負けた気がする。
「では、私は仕事があるので戻りますね?」
「あっ、もしかして、お仕事中だったんですか? お手数をおかけしてしまったようで、すいません」
そういえば、アンナって何の仕事してるんだろう? 起動した時もいたし、怪我した時もいたし、研修の指導教官もやってたし……どこの部署なんだ?
「いえいえ、リリナさんのためなら、いつでも大丈夫ですよ。大して忙しい職場でもないですし。そうだ、時間があるのであれば、私の職場にご招待しましょうか?」
おっ、メッチャ興味ある!
「本当ですか! お邪魔でなければ、ぜひ!」
アンナについていくと、例のカプセルが並んだ白い部屋へと入っていく。
「やっぱりここが職場だったんですね?」
アンナに続いて一番奥の突き当たりのドアを開け、中の部屋に入る――――何だコリャ!?
部屋中に、わたしのポスターが貼ってある!?
ゴスロリからネコの着ぐるみ、セーラー服まで、研修中のコスプレ画像が全部ポスター化されて壁や天井にまで貼られている!
なにこの辱め!?
「な、な、なんですかコレは!?」
「ぜひリリナさんに見てほしかったのです! どうです、みんな可愛らしくて素晴らしい出来でしょう?」
確かに、スマホで撮ったとは思えないほどメチャクチャ可愛く撮れてるけどさぁ……。
「みなさんポスターサイズをご希望だったので、写りの良いものをチョイスしてポスターにしたのですよ! 200枚ずつ印刷したのですが、あっという間に在庫がなくなってしまいました!」
ふざけんな、この野郎! 何勝手にポスターなんか作ってんだよ!
「何で、わたしに無断でポスターなんか作ってるのかな? かな? まさか勝手に売ったりしてないよね? よね?」
「ご、語尾がヘンですよリリナさん。誤解です。理奈さんがサインした契約書に書いてある通り、これはタレント四樹莉里としての宣材なのですよ! ほら、名前が入ってるでしょう?」
ポスターを見ると、アンナの言う通り、下の方に
『SIKI RIRI 四樹莉里 株式会社雪月華風』
と入っている。
そういえば……偽装名刺を渡された日に、三枝理奈でサインしたような……。
「リリナさん、宣材等の製作は『株式会社雪月華風』に一任すると書いてある契約書にサインしましたよね?」
お、覚えてねーよ!
三枝理奈なんて偽装身分だし……『三枝理奈』ってサインしろって言われたからサインしただけだよ!
「タレントなのに宣材の1つもないのは不自然なので、製作費は『雪月華風』持ちでポスターを作ったのですよ。偽装工作の一環なのです。ちゃんと契約書に書いてありましたよ?」
あーー、迂闊だった!
契約社会の恐ろしさは骨の髄まで知っていたはずなのに、三枝理奈って自分のことじゃないみたいで、ろくに契約書見ないでサインしちゃったよ!
「まさか、配ったりしていないですよね?」
「配らない宣材なんてどこの世界にあるんですか? もちろん主要な広告代理店には全て配りましたよ?」
ウソ……っ!?
「そんな泣きそうな顔しないでください。大丈夫ですよ、他のタレントの宣材と合わせて『一応』って形で配っただけですから。認識阻害の効果は写真にも働きますから、広告代理店に配った分は、担当者がチラ見して資料棚に置かれるだけです」
「広告代理店に配った分『以外』ってのはあるの?」
「はい、教育課の希望者の方々に特別価格でご提供させていただきました!」
やっぱ売ってんじゃねーか!
「売ったらコロスって言ったよね、杏お姉ちゃん!」
「あっ! く、口調が理奈さんになってますよ? リリナさん!?」
「そんなことどうでもいいよね? アンナお姉ちゃん?」
その後、アンナを正座させ、小一時間、説教をしたのであった……。
ちなみにアンナの仕事は、勤務部、医療課、マギドール整備・製造係で、マギドールの製造と、メンテナンスとかやる仕事らしい。普段はヒマなので、教育課の任務を受けたり、治療係の手伝いしたりしてるんだってさ。
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