32話 血の宣誓(ブラッドオース)
わたしがリレッタのパーティー『血の宣誓』に入ると伝えると、カリアさんは驚いた表情を浮かべていたが、『ホンモノ』の話をすると、次第に真剣な顔つきになっていった。
「ウソっ!? だって、あの事件が起きたのって2年近く前よね……『ホンモノ』なら3か月、長くても6か月で……っ!! リレッタが、2人を守ってあげていたのね……2年も、たった1人で……」
カリアさんは、とても悲しそうな顔をした。
「私達、運営はあくまで魔法少女達のサポートなの。新造魔法少女ならともかく、一人前の魔法少女のプライベートにまでは踏み込めない……でも、せめて他の魔法少女に相談していれば……」
「リレッタ、他の魔法少女達とは交流がないって言ってたから……」
「そうね。あの事件以来、みんなリレッタ達には近づかなくなったから……。わかったわ。他の魔法少女達には、私からうまく伝えておく。大丈夫、みんな『ホンモノ』のことは知ってるから、悪いようにはしないわ」
「お願いします。リレッタって口と態度は悪いけど、結構良いヤツなんです」
「そうね。とても……とっても良い人よね……」
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カリアさんに後のことを頼んで、リレッタ達のところへ戻ると、3人がそろってわたしを迎えてくれた。
「リリナさん、改めてよろしくお願いね。あなたが入ってくれて、心強いわ」
カーミラは落ち着いた微笑みを向けてくれる。その信頼は、『リレッタが連れてきた人間なら信じる』という、リレッタへの揺るぎない信頼から来ているのだろう。
「リリナちゃん、これから一緒に頑張ろうね! あ、好きなお菓子とかある? 今度持ってくるよ?」
セラフィーヌは満面の笑みで、距離感ゼロの歓迎モードだ。
「2人とも、ありがとう! リレッタ、しばらくの間、よろしくな!」
「ちょっといいかしら?」
わたしがリレッタに話しかけると、カーミラが少し表情を曇らせる。
「リリナさんは、中1よね?」
「えっ、はい」
まあ一応、中学1年生ってことになっている。中身はアレだけどな。
「私達は全員、中3よ。リレッタとは親しいみたいだけど、『血の宣誓』に入ったからには、リーダーであり先輩であるリレッタには敬意を払いなさい。これからは、ちゃんと『リレッタさん』って呼ぶこと」
おー、カーミラさん、なんか中学の先輩っぽいこと言い始めた……って、中身は本当に中学生か。
「あ、はい。分かりました。リレッタ『さん』ですね」
とりあえず素直に返事をしておく。リレッタが困ったような表情で視線を泳がせているのが、ちょっと面白い。
実際、リレッタは魔法少女としての先輩だし、魔法騎士の襲撃が無ければ、普通に『さん』付けで呼んでいただろう。職場じゃ年は関係ない。モノを言うのは職歴だけだ。
それだけじゃない! リレッタさんには200万もらってるからな! なんならリレッタ様って呼んでもいいよ? あと200万くれ、マガジン買うから!
「そう。それでいいわ。お互いに命を預け合う魔法少女のパーティーでは、上下関係が大切なの。まずリーダーのリレッタの指示に、何かあればサブリーダーの私の命令に従うのよ?」
カーミラは真面目な顔で頷く。その横で、セラフィーヌがこっそりわたしの袖を引っ張ってくる。
「カーミラちゃん、ちょっと堅いんだよ~。でも、ウチのパーティー、みんな仲良しだから安心してね?」
おお、優しい気づかい! これは間違いなく癒し系!
「ああ、まあ、そういうことだ。カーミラはこういう性格だからよ」
リレッタが苦笑しながら肩をすくめる。
「ちょっとリレッタ、『こういう性格』って何よ。私は規律を守ってほしいだけよ?」
「はいはい、分かった分かった。じゃあリリナ、これからはよろしくな! カーミラも、セラも、リリナと仲良くしてやってくれ」
「『血の宣誓』のメンバーとして歓迎するわ。よろしく、リリナ」
「よろしくね、リリナちゃん!」
「よろしくお願いします。カーミラさん、セラフィーナさん、リレッタさん!」
一番年下の後輩として、先輩方にペコリと頭を下げる。カーミラさんは満足そうにうなずき、リレッタはまた目を泳がせている。
「リリナちゃん、わたしのことはセラって呼んでね? みんなそう呼んでるし」
「はい、セラさん!」
セラフィーナって長いもんね。
「はわぁ~、リリナちゃん可愛い! わたし部活とかやってないから、リリナちゃんが初めての後輩です」
「セラ、あんまりリリナを甘やかしちゃダメよ。後輩を正しく躾けるのも先輩の役目よ」
「はい! 先輩方には、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
もう一度、新入社員ぽく挨拶して頭を下げる。上下関係にうるさいカーミラさんも満足したようで、うんうんとうなずいている。
「リリナ、『ホンモノ』になっちまったけど、今の2人も『新しい大切な仲間』なんだ。その……リリナも仲良くしてやってくれ」
リレッタが耳元で小さく囁く。多分、2人とも『ホンモノ』になる前は、まったく違う性格だったのだろう。それでもリレッタは、今のカーミラのことも、セラフィーナのことも大切に思っているようだ。
「ああ、わたしも2人と仲良くなりたい」
そう言うと、リレッタは照れたように笑った。
リレッタも、以前の大切だった仲間とは別に、今の2人を『新しい大切な仲間』として守りたいと思っているのがよく分かる。
「じゃあリリナ、パーティー登録に行くぞ。登録が終わったら、すぐ狩りに行くからな」
「はい、リレッタさん!」
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パーティー登録は簡単で、パーティーリーダーと一緒に中央ロビーの情報端末にメタルチョーカーをかざして登録するだけだ。パーティーを抜けるときも同じ。
「しかしリリナ、前と比べるとずいぶん女の子っぽくなってねーか? リリナもアレをやられたのか?」
「アレ?」
「ほら、ちゃんと指示された話し方をしないとビリビリってくるヤツだよ。研修の3日目くらいだったかな、マテリアライズしたメタルチョーカーに機械つけられただろ? あたしなんか、今でも時々夢に出てくるぜ」
ああー、杏が言ってた『体で覚えてもらう』ってのはソレか……。
「いや、わたしは真面目にやってたから。あのOJTを生き延びて、千桜がどれだけヤバいところか分かったからな。あれで真面目にやらないヤツはアホだよ」
「ぐぅっ、確かに。あたしの時の研修前OJTはヌルかったからなぁ。覚悟の違いか……あっ、そういえばエステラはどうしたんだ?」
「ああ、エステラか。あいつは多分ビリビリの方だな。真面目・不真面目とか関係なくアレだからな……。研修が終わるまで結構時間がかかるって言われたわ」
「あー、まあ真面目だし良いヤツなんだけどなぁ……。そうだ、研修が終わったらエステラも『血の宣誓』に入ってくれねーかな? タンクいねーんだよウチ」
「こっちに来たら聞いてみたらどうだ? そういえば、『血の宣誓』のメンバーってどういう役割分担なんだ?」
「あたしは中近距離で攻撃メインで、まあまあ防御もこなせる。カーミラは魔法のチェーンで索敵・攻撃・拘束ができる長距離万能タイプ。セラは、銃だな」
えっ、またまたキャラ被りなの!?
「リリナの強烈なヤツと違って、色々な種類の魔法弾を撃つやつな。魔力で作った色んなタイプの弾丸を発射する。回復弾もあるから、攻撃もこなせるヒーラーって感じだな。詳しくは後で実際に見てくれ」
「もしかして、弾代って無料?」
「ああ。その分、魔力を消費するけどな。リリナのヤツよりは全然コスパいいんじゃねーか」
真面目に聞いたわたしに、リレッタがケラケラ笑いながら答える。酷くない? かなり深刻な問題なんだけど!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時間は22時。宵闇に包まれる頃だが、明るく煌めく街灯やビル、住宅から漏れる灯りのおかげで、周囲はそれほど暗くない。鏡界での街の灯りの仕組みとがどうなっているのか、いまだによく分からないが……。
「次の通りの右側から、オーガ級3匹が接近中よ!」
カーミラの付け爪のような魔法具、闇の使徒から黒い魔力のチェーンを伸ばして前方を索敵していたカーミラが叫ぶ。視界の通らない場所の敵の数や大きさまで把握できるのは、かなり優秀だ。
「戦闘準備! カーミラ、敵の姿が見えたら2匹を拘束。セラは援護を頼む。あたし達はいつも通りにいくぞ!」
「了解よ!」
「了解です!」
先頭に立つリレッタの指示に、カーミラとセラフィーナが力強く返事を返す。
「来るわ!」
カーミラの叫びと同時に、前方の交差点に3mほどの高さの、人型の黒い霧の塊のようなものが現れた。
あれがオーガ級の魔塊鬼なのだろう。他のパーティーと狩りをした時はベース周辺しか行かなかったので、ゴブリン級、オーク級は見たことがあるが、オーガ級を見るのは初めてだ。
巨大な人型の影の周囲に黒い霧がまとわりつき、眼と思しき部分が赤く光っている。3mの巨体から放たれる暴力的なオーラは、ゴブリン級やオーク級の魔塊鬼とは比べものにならない。
『ク゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ゥ』
こちらを認識したのか、交差点の中央まで進み出た3体は、咆哮とも鳴き声ともつかない音を発しながら突っ込んでくる――。
「『黒薙』!」
黒い日本刀を構えたリレッタが、中央のオーガへ飛ぶ斬撃を放つと同時に突っ込んでいく。それに呼応するように、カーミラが呪文を詠唱する。
「『闇の縛鎖』!」
まだ距離はあるはずなのに、闇の使徒の爪先から黒い輝きを放つ鎖が何本も蛇のように吐き出され、3匹のオーガへ絡みつくと、両手両足を一気に拘束した。
「貫通弾!」
クレー射撃の銃のような魔法具、聖なる光を構えたセラが呪文を唱えると、銃身がわずかな魔法発動光に包まれ――そのまま発砲!
リレッタの『黒薙』で動きが止まった中央のオーガの膝に命中し、黒い鎖に拘束されたままの巨体がガクリと片膝をつく。
「『強化付与弾』!」
続けてセラが呪文を唱え、再び発砲。弾はリレッタに命中し、強化魔法と思しき光がリレッタの身体をふわりと包み込む。
わたしはと言えば、リレッタから「まず、あたし達の戦い方を見て、適当にすればいい」と言われていたので、地獄の殺戮者をローレディポジション(銃口を下げた待機姿勢)で構えたまま、『血の宣誓』の狩りを見学していた。
試しに入れてもらった他のパーティーと比べても、手際がいい。3人とも動きが手慣れていて、特にカーミラとセラは、『ホンモノ』が魔塊鬼と対した時に陥ると言われる興奮状態になることもなく、落ち着いて対処している。
役割分担もしっかり理解しているし、リーダーのリレッタに、生真面目なカーミラ、癒し系のセラフィーナで、役割的にも性格的にも良いパーティーだ。
「鎖の拘束は、もう少し効いているはずよ。リリナ、あなたの攻撃を見せてくれるかしら?」
オーガ達の拘束を終えて手が空いたカーミラが、わたしに声をかけてくる。
リレッタは黒誓で中央のオーガと近接戦闘中、セラはその援護で適宜攻撃を入れている。左右のオーガをヤっちまうか……。
「了解!」
すぐに立射姿勢で左側のオーガへ射撃準備。『フォーサイト』がオーガの胸部へ瞬時に収束する。拘束されているから狙いは楽だ――発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
爆発音にも似た発砲音。オーガの胸の中心に大穴が開く。即座に排莢し、どでかい薬莢が宙に舞った。
身体が小さいせいか、魔法少女の身体でも立射では反動を完全には殺しきれない。4人での戦闘なら余裕もあるし、次は膝射に変えよう。
右のも撃っちゃっていいのかな? カーミラを見ると、ポカンとした表情で固まっている。
「ウソっ……信じられない、オーガを1発で消滅させたというの?」
オーク級の魔塊鬼を倒した時も、パーティーの連中がこんな反応してたな。6発だけしかないって分かったら残念な顔をしてパーティー加入を断られたけど。
リレッタも中央のオーガを倒したようで、左と中央のオーガが黒い霧になって消えていく。
「カーミラさん、右のも撃っちゃっていいですか?」
膝射へ姿勢を変え、右側のオーガへ照準。フォーサイトが胸部に収束したまま、カーミラの指示を待つ。
「待て! リリナ撃つな! 弾がもったいねー!」
リレッタが叫びながら右側のオーガに斬りかかる。セラも援護射撃を開始。ダメージは入っているようだが、牽制程度だな、アレは。
ムフフ、これは威力ではわたしの地獄の殺戮者が圧勝では? 多機能性では完敗だが、キャラ被りしなくてよさそうだ。
わたしはリレッタの指示通り、照準を維持したまま待機する。
リレッタはやっぱり強い。カーミラの拘束魔法とセラの援護があるとはいえ、たったの3振りで3m以上あるオーガを倒してしまった。何が凄いって、魔力消費もなく『タダ』だということ。近接武器のコスパの良さが羨ましい。
「セラ、見た? 凄いのよ! リリナがオーガを1発で倒してしまったわ!」
「ドーンって音がしたら、左側にいたオーガの胸に大きな穴が開いて、そのまま煙になって消えちゃいました! リリナちゃん、凄いです!」
「本当よ! オーガを1人で倒せるのって、Dランク以上って言われてるのよ? リリナって、本当に凄いわ!」
カーミラさんとセラさんがやってきて、凄い凄いと褒めまくってくれる。どのパーティーでも褒められてはいたが、こうやってキャッキャはしゃがれるのは何だか気恥ずかしい。
「おい、リリナは確かに凄いけど、1日に6発しか撃てないんだ」
戻ってきたリレッタが、釘を刺すように2人へ言う。そう、6発しか撃てないことでいつもパーティーメンバーには入れられないと言われていたのだ。
「それくらい何でもないですよ! リリナちゃんがいれば、トロール級やサイクロプス級も『血の宣誓』で倒せます! リリナちゃん1人なら問題でしょうけど、わたし達と一緒ならまったく問題ないです!」
「そうね! リリナがいれば、もっと強い魔塊鬼を倒せるわ! 人数の不利で他のパーティーに後れを取っていたけど、これで今まで『血の宣誓』をバカにしていた連中を見返せるわ!」
「それは……まあ、そうだけどよ。お前達がまた無茶をしそうで……」
興奮するセラとカーミラとは対照的に、リレッタは心配そうだ。
「大丈夫よ、リレッタが何を心配しているかは分かってるわ。私達だって経験を積んでいるのよ。最近は前みたいに無茶はしていないでしょ? リレッタは少し過保護なのではないかしら?」
「そうですよ。前は魔塊鬼を見ると、自分でもよく分からない感じになっちゃってましたけど……最近は冷静に戦えるようになってきたんです! 本当に最近ですけど……えへへっ」
「いつもリレッタに守ってもらっていたけど、可愛い後輩ができたのですもの。これからは後輩を守る立場なのだから、無茶はしないわ。そんなに心配しなくても大丈夫よ?」
「そ、そうですよ! わたしだってリリナちゃんの先輩になったんです! 先輩として、後輩魔法少女に恥ずかしくないところを見せてあげるのです!」
「……………………」
『ホンモノ』……『前』の残滓から戦うために作られたマガイモノの疑似人格。
でも、カーミラもセラフィーヌも、1人の人間としてちゃんと生きて、成長している。少なくとも、わたしにはそう思える。絶対にマガイモノなんかじゃない。
これが、リレッタが守ろうとしている『新しい大切な仲間』――その意味が、ようやく分かった。
「リレッタさん。大丈夫です、先輩方が無茶をしそうになったら、優秀な後輩のわたしが絶対に止めてみせます!」
リレッタ、少しくらいは手伝ってやるよ。1人でカーミラとセラを止めるのは難しいだろうが、わたしと2人なら何とかなるだろ。心配すんな、ちゃんとやるよ。なにせ、200万も貰ってるからな!
それに……敵と切り結んでいたリレッタは気づいていなかったかもしれないが、さっきの戦闘では2人とも確かに冷静に対処していた。
多分だが、例え『ホンモノ』になったとしても、そこからちゃんと戦闘経験を積めば、冷静な判断を下せるようになるんじゃないか?
「分かったよ。今日はもう少しオーガを狩って、連携を固めていこう。索敵で敵が6匹以上いるなら戦闘は回避、5匹以下なら狩る」
リレッタはわたしに『頼む』と視線を送ると、このメンバーでの作戦を説明し始める。
「セラは今まで通り、あたしと同じ1匹を集中攻撃して倒す。カーミラも今まで通り、敵を拘束したら、あたし達とは別の1匹を攻撃してくれ」
そこで言葉を切り、リレッタはわたしへ視線を向ける。
「リリナは、敵が3体以上いる時に、あたし達とカーミラが攻撃していないヤツを撃て。それと、残弾は必ず1発は残しておけ。これで安全度は変わらないまま、殲滅速度が上がるはずだ」
「リレッタ……さんが危ない時は、撃ってもいいですか?」
「いや、あたしは即死じゃなければセラが回復してくれるから大丈夫だ。それより、ここら辺にはいないだろうが、飛行タイプや素早い獣タイプが後方まで攻撃してくることがある。そういう時は、そいつを最優先で撃て」
「了解よ!」
「了解です!」
「了解!」
「よし、じゃあもう一狩りいこうか!」
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それからしばらく狩りを続けて連携を確認し、わたしの弾も残り1発という状況になって、Y08ベースへ戻ってきたのは深夜2時を過ぎた頃だった。
こんな時間だが、周囲にはまだ結構な数の魔法少女がいた。昼間は学生をやっている子も多いので、夜に狩りをする魔法少女も多いのだろう。
わたし達『血の宣誓』は、中央ロビーのカフェスペースでアイスコーヒーを飲みながら反省会だ。
「リリナちゃん、頑張ったわね! 偉かったよ!」
「そうね、初めての連携であれだけうまく立ち回れるなら言うことはないわ。攻撃回数が少ないのは私達でカバーするから気にしなくてもいいわよ。フフッ、最初にしては上出来じゃないかしら?」
わたしが倒したのはオーガ5匹だけだったけど、2人の先輩方は褒めてくれるので嬉しい。中身がアレな連中より、カーミラさんやセラさんの方が優しくてずっといいよ?
あーーー、甘やかされるの最高っ! もっと甘やかしてくれてもいいよ?
「まあ最初にしては、良いんじゃねーか」
まあ、お互いの立ち回りやクセは大体理解できた。とはいえ、まだ4時間程度。本当に息を合わせるなら、この何倍も時間がかかるだろう。
「じゃあ、今日の反省会はこれで終了だな」
「えっ、反省会って、それでいいの?」
「あら、リリナは意外に真面目なのね? 今日は問題ないわ。これ以上は、色々な局面で場数を踏んでいくしかないのだから。後は雑談でもしましょう?」
反省会っていうから、「良かったことで継続すること」「悪かったことで課題になること」「次に試すこと、改善案」とかを真面目にディスカッションするのかと思って気構えてたぜ……。
「そうですね! 雑談しながらリリナちゃんと親交を深めましょう! では、今日のお菓子の時間ですー!」
セラさんが、小さなポーチから可愛らしい紙ナプキンの包みを取り出し、テーブルの上に置いた。
「じゃじゃーーん! 今日はチョコレートクッキーでーす! さあ、召し上がれ!」
包みを開くと、ハートやクローバーなど、色々な形のチョコレートクッキーが現れる。手作りって感じで、どこかあったかい。
「いただきます」と美味しそうにクッキーを食べ始めたリレッタとカーミラさんを、セラさんがニコニコしながら見守っている。
「リリナ、セラのお菓子はマジで美味いぞ。食ってみろって」
「リリナちゃん、よかったら食べてみて?」
3人の仲良しな雰囲気に少し気後れしたが、勧められて頂くことにした。これが、マジで美味しい! お店で売っているような洗練された味ではないけど、素朴で温かみのある美味しさだ。そんな感じで、クッキーを食べながら雑談タイムへ移行。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、鏡界って食べ物持ち込めるんですか?」
新宿ベースとかY08ベースとか、色々な食べ物や飲み物が売っているけど、ずっと鏡界で作ったものだと思っていた。このチョコレートクッキーは現界からの持ち込みっぽいし、もしかして普通に持ち込みできるのだろうか?
「ああ、研修じゃそういう細かいこと教えないもんな」
「フフフッ、いかにも新人って感じで初々しくていいわね」
「コホン、それでは先輩として、わたしが教えてあげますね! 飲食類の持ち込みは大丈夫です。でも、機械は動かなくなっちゃいますし、試したことはないですけど、普通の生き物は死んじゃうらしいですよ?」
生き物はダメなんだ。覚えとこ。
「マナ濃度に対応できる生き物は大丈夫らしいけど、実験するわけにもいかねえからな。機械はハサミくらいなら問題ないけど、セラが『移動が面倒だ』って自転車を持ってきたんだけど、チェーンがギギギって動かなかったわ」
「もう、わたしが教えてあげようと思ってたのに!」
セラがぷーっとほっぺを膨らませるのが可愛い。
「リリナちゃんも、必要な物はポーチとかに入れて持ち歩いた方がいいわよ? ハンカチとかでも意外に役に立つことがあるからね?」
あー、そういえばリレッタ達を連れ帰る時に、身体に縛り付けるロープとか欲しかったわ。サバイバルキットでも用意しとくか。
「あっ、ハサミがOKなら、剣とかボウガンとかって持ってこれませんかね?」
「おい、それは習ったろ。魔法具じゃないと魔塊鬼に傷1つつけらんねーぞ」
そういえば、そうだった。
「そうだった。近接用の武器があれば、少しは役に立てるかと思ったんだけど……ダメかぁ」
戦闘の時、眺めてる時間の方が多いから、なんか申し訳ないんだよね。
「リリナは、そんなこと気にしていたの? リリナは戦闘に慣れるところからでいいわよ?」
「そうですよ。リリナちゃんは無理しないで、ゆっくり成長していけば大丈夫だからね?」
セラさんはそう言って微笑むと、急に真面目な顔になる。
「以前は、わたしもカーミラさんも結構無理をしてて、その度にリレッタさんが怪我をしながら助けてくれたんです。それでカーミラさんと話して、これからはちゃんとリレッタさんの指示に従って、無理をしないで戦っていこうって決めたんです」
「そうよ。『血の宣誓』の全員が生き残るために、上下関係が大事なの。リーダーの指示に従ってパーティーで動けば、誰も死なずにすむわ」
カーミラさんが上下関係にうるさいのって、理由があったんだな……。
「そうだったのか……」
リレッタは知らなかったのか、珍しく考え込むような表情を浮かべている。
「そんなことより、リリナはその服装を何とかするのが、当面の目標ね」
「そうですね! リリナちゃんは……うーん、ピンクが可愛くていいんじゃないでしょうか?」
ん? 服装ってなに?
「いいえ、リリナの性格と髪色からすると、イエロー以外考えられないわ」
?? 何の話なのかサッパリなので、視線でリレッタに助けを求める。
「あー、身体強化は知ってるだろ?」
そう、魔法少女はマギボディーを強化できる。耐久力やパワーを上げるといったフィジカル能力の向上が目的だが、身体の一部をカスタマイズすることもできる。胸を大きくするとかね。ただ、マギトを支払えばだけど……。
「アレと同じで、マギトを払えば、魔法少女の服もカスタマイズできるんだよ」
「えっ、そんなことできるの!? 知らなかった!」
「実用的な効果は皆無なんで、研修じゃ教えねーからな。カーミラもセラも以前は別の服だったんだ。カーミラはもっと毒々しい感じので、セラは天使っぽいの」
「フフ、パーティー名を『血の宣誓』に変えた時に、リーダーのリレッタに合わせてセーラー服風の衣装に揃えたの」
「ちょっとマギトがかかっちゃいましたけど、お揃いになって嬉しいです!」
そうだよな、セーラー服風で衣装が揃ってるってヘンだと思ってたんだ。
「前のパーティー名は『ブラックサンダーズ』ってダサい名前だったから、私が素敵な名前を考えてあげたのよ?」
「うん! 凄くカッコいいよね!」
フフンとドヤ顔のカーミラと、目をキラキラさせているセラ。その隣には、目が死んでいるリレッタ……。
他のパーティー名と比べて、『血の宣誓』ってやけに中二臭いと思ってたんだが、本物の中二作品だった!
「か、カッコ良いです! 『ブラックサンダーズ』じゃなくて良かったです!」
「フフッ、そうでしょう? リレッタはあまり気に入っていないようだけど」
セラさんも気に入ってるようだし、とりあえずドヤ顔のカーミラさんに迎合しておくことにした。
「ダサくて悪かったな……お菓子食ってる時につけたんだよ……」
リレッタがボソボソと呟いているが、誰も気に留めていない……。
スマン、わたしとしては『血の宣誓』も『ブラックサンダーズ』も、丙丁つけがたいんだが、中学生イジめるのは可哀そうじゃん! きっと数年後にベッドでゴロゴロしながら後悔すると思うし……。
「それで、リリナの衣装のことなんだけれど――――」
その後も、わたしの衣装のことで3人が盛り上がっていたんだが、結構今の衣装気に入ってるんだよね、軍人さんっぽくてカッコ良いし。セーラー服は嫌じゃないけど……マギト使うなら、まずマガジン買い足したいんだよなぁ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、次の予定はどうします、リレッタさん?」
雑談タイムが一段落したので、今後のスケジュールを確認する。
「あたし達は火・木・土の週3で狩りしてるんだけど、それでいいか?」
「はい、それで大丈夫です!」
パーティーに入っていても1人で活動することはできる。せっかく毎日6発は撃てるのだから、パーティーでの活動がない日は、安全な場所で1人狩りをしよう。これからは、何かあればメタルチョーカーのパーティ通信機能でみんなに助けを呼べるしね!
「先輩のみなさん、今日は色々ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」
初日の新人としてのけじめに、立ち上がって3人に頭を下げる。
「リリナ、頑張りなさい。サポートはしてあげるわ」
「うふふ、こちらこそよろしくね! あぁ、後輩って可愛いですねー!」
「まあ、よろしく頼む。正直、リリナが入ってくれて助かるぜ……」
最後にリレッタがボソッと言う。今まで1人で大変だったんだろう。でも、カーミラさんとセラさんと色々話してみて思ったけど、もうそこまで心配する必要はないと思う。2人とも、ちゃんと一人前の魔法少女になっている。今度リレッタと2人の時に、話してみよう。
そんなこんなで、わたしの『血の宣誓』としての初めての活動は、無事終了したのでした!
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