31話 再会、リレッタ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~ち゛がれ゛だぁ゛~~~」
私室に戻ったわたしは、制服のままキングサイズの、広ーーーいベッドへダイブ!
正直JC舐めてたわ。というか、ミア舐めてたわ。
授業とかおかまいなしに、超至近距離でずーっと話し続けるんだよ。お喋りは、適当に相槌打って時々質問すればいいだけだからまだいいんだけど、距離感がヤバい。
JCってああいうモンなの? ミアがヤバいの?
常に身体が触れ合うよう距離でお喋りして、トイレとか手繋いでいくんだ。さっき部屋の前で『家に学校こと報告しなくちゃいけないから』ってバイバイするまで、ずーーっと手繋いでたんだぜ!?
「はぁ……明日もアレが続くんだろ? 大丈夫かな……」
問題は、相手が中身がアレの魔法少女じゃなく、本物のJCだということで、犯罪の香りがソコハカと……。突然『セクハラで訴えますよ!』なんて言われたら、反射的にジャンピング土下座してしまうこと請け合いである。
「どうしよう? ああ……でも、わたしが考えてどうにかなるもんじゃないよなぁ……まあ、何とかなるでしょ! はぁぁぁ……ここのベッド、広くて気持ちいいんだよねー♪」
深く考えることを止めてベッドでゴロゴロすることにする。
ゴロゴロ……。
この部屋って、2LDKで広っろいのよ。調理器具や冷蔵庫、洗濯機や掃除機もあるけど、多分誰も使ってないんじゃないか? 24時間レストラン開いてて無料だし、ランドリーバッグに入れて所定の場所に置いとけばクリーニングしてくれるし、掃除も予約しておけば勝手に入ってしてくれる。
ゴロゴロゴロゴロ……。
冷蔵庫空いてるから、アイスでもいっぱい買って入れとこうかな。レストランまで行くのめんどいし。うーん、この身体って太るのかな? 太っても、魔法少女に変身したら元に戻る……とかない? さすがにそれは都合が良すぎるか?
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。
しかし、このベッドいいよねー。メッチャ広いベッドなのでゴロゴロし放題なんだよねー。ああー、癒される……とゴロゴロを堪能していると、首にチリチリとメタルチョーカーに着信の反応がある。
『マテリアライズ』
飛び起きて、物質化されたメタルチョーカーの受信部分を指先で触れると、頭の中に言葉が響く。無線と違って、ベースから各魔法少女に個別に通信できるらしいんだよね。携帯電話っぽい?
『Y08ベースよりリリナへ……Y08ベースよりリリナへ……』
『こちらリリナ』
どうやら、JCターンが終わり、魔法少女としてのターンが始まるようだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
鏡界。横浜、Y08ベース、中央ロビー――。
中央ロビーは、ギャル風魔法少女のエリカさんに会った場所で、千桜から任務を受けたり、大型立体モニターで情報をチェックしたりする、横浜Y08ベースの魔法少女たちの溜まり場だ。
新宿ベースの中央ロビーと比べれば規模は小さいけど、コンビニ風の雑貨ショップや、テーブルとイスが並んだカフェスペースもあって、戦争が終わった今は、そこそこ魔法少女たちの姿も見える。
「リリアちゃん、龍鳳学園はどうだった?」
話しかけてきたのは、ウェーブのかかったピンクプラチナの髪をポニーテールにまとめ、花の妖精のように華やかな魔法少女衣装を身にまとった、花梨ことカリアさんだ。
「はい、初日でしたから、ちょっと気疲れしましたけど、それなりにやれてます」
「そう、よかったわ! 龍鳳学園って、言っちゃあなんだけどヘンな人ばっかりだから、人間関係が心配だったのよね……。面倒くさいことになったら、遠慮なく相談してね?」
「はい、ありがとうございます」
最初のアレですっかりブラックだと思ってたけど、千桜ってこういうサポートはちゃんとしてるんだよな。
わたしとカリアさんは、自販機でコーヒーを買って、テーブルとイスが置かれたカフェスペースへ移動する。
「今日リリナちゃんを呼んだのは、『魔法少女として最初のパーティーを組む』って任務のことなんだけど……」
鏡界では、魔法少女たちがパーティーで行動するのが普通らしく、魔法少女研修を終えた者には、この『魔法少女として最初のパーティーを組む』という強制任務が課される。
それで、龍鳳学園に編入する前に、カリアさんに紹介された七つほどのパーティーと組んで魔塊獣狩りをしてみたのだが……いまだにわたしを受け入れてくれるパーティーが見つかっていないのだ。
普通のパーティーは5~10時間かけて魔塊獣狩りをするんだけど、わたしの場合、弾があるうちはいいものの、弾が切れた途端に何もできなくなる。そのせいで、どのパーティーからも最終的には、|実力は認めるけどパーティーメンバーとしてはNG《もっと弾薬買ってから来てね》という扱いをされてしまうのだ。
「カリアさん、『魔法少女として最初のパーティーを組む』って、キャンセルすることってできないんですか?」
|NGを出したパーティー《先方》の言い分も、正直よく分かる。パーティーは利益を等分にする決まりなんだから、不公平に思われても仕方ない。だったら、最初から1人で動いたほうが、わたしも気兼ねなく狩りができる。
「気持ちは分かるけど、鏡界にいるのは弱い魔塊獣だけじゃないし、予想外のことも起こるから。パーティーなら助け合えることも多いし、時間がかかってもパーティーに入ったほうが安心よ?」
安心は安心だけど、そもそも入れてくれるパーティーがないんじゃ、どうしようもないような……。
「リリナちゃんの実力は分かってるけど、しばらくはベース周辺で弱いマゴルを狩りながら、のんびりリリナちゃんに合ったパーティーを探していこう? しばらくはJC生活を楽しみなよ!」
カリアさんってメチャ親切で良い人なんだけど、わたし的にはかなり微妙な提案である。
わたしとしては、戦争が起きる可能性を考えると、多少無理をしてでも早めにマガジンを買い増しておきたい。ちまちまとベース周辺の弱いマゴルなんか狩っていても、追加のマガジンを買うマギトがいつ貯まるのか見当もつかない。
自分の実力を過信するつもりはないが、さすがにゴブリン相手に地獄の殺戮者を使うのはコスパが悪すぎる。
正直、わたしの地獄の殺戮者の特性を考えると、パーティーを組むより1人の方が断然効率がいいので、将来的にも1人で活動していきたい。とはいえ、親切なカリアさんを無視するのも、今後のことを考えるとよろしくないよなぁ……。
「何だ、リリナ、ハブられてんのかよ?」
悩んでいると、どこかで聞いたような声がする。振り向くと、艶のある長い黒髪を姫カットにし、紅い瞳の怜悧な美貌を持つ……残念美少女、リレッタだ!
「あっ、リレッタだ!」
思わず立ち上がり、リレッタへ駆け寄る。おお、リレッタちゃんと生きてる! 元気そうじゃん! 右腕は……!?
リレッタの右腕をペタペタ触って、ちゃんと本物の腕がついているか確認する……。
「おお……腕ついてる!」
「当たり前だろ。魔法少女はそんなにヤワじゃねーよ!」
大丈夫だとは聞いていたけど、最後に見た姿が姿だったので、一応戦友だし心配してたんだよね。こうして腕がくっついた無事な姿を見ると、ちょっと感動だ。
「大丈夫だとは聞いてたけど、最後に見た姿が姿だったからさあ。右腕もちゃんとくっついたんだ。よかったな!」
「なになに? あたしのこと、そんなに心配してたの? 可愛いとこあんじゃねーか!」
怜悧な顔をニヤニヤさせる。
「そりゃあ、一緒に戦った仲だしな。無事で本当によかったよ!」
揶揄うつもりだったんだろうけど、200万も貰っちゃった上に、多額の治療費ローンを抱えてるのを知っているので、サクッと受け流す。リレッタにはローンを払い終えるまで頑張って欲しいところである。
「あなた、リレッタとどういう関係なの?」
「リレッタさんから離れてください!」
リレッタの後ろから2人の魔法少女が現れ、リレッタの腕を触っていたわたしを、ぐいっと引き離した。
1人は、紅のロングヘアをローポニテにまとめ、切れ長の目が印象的な落ち着いた雰囲気の美少女で、セーラー服風の赤と黒の魔法少女衣装を着ている。
もう1人は、白に近い薄い青色のふわっとしたセミロングの髪に、少したれ目の澄んだ金色の瞳をした癒し系美少女で、白を基調としたセーラー服風の魔法少女衣装を身にまとっている。
2人とも、わたしからリレッタを守るように、リレッタの前へ立ちふさがった。
「あ、リリナは命の恩人なんだよ。コイツが魔法騎士を倒してくれなかったら、あたしは死んでた。それに、負傷したあたしをコイツがベース近くまで運んでくれたんだ」
「そうなのね……ごめんなさい、誤解してしまったみたい」
「リレッタさんを助けてくださったんですね。ごめんなさい」
2人の雰囲気からして、たぶん同じパーティーなのだろう。リレッタの黒セーラーも加わると、3人そろってセーラー服風で、まるで戦隊モノみたいでカッコいい!
「いえいえ、お気になさらずに。リリナと申します。リレッタさんにはOJTの時に、本当にお世話になりました。たまたまわたしが魔法騎士にとどめを刺しただけで、リレッタさんが一緒に戦ってくれなかったら、わたしも死んでいました。リレッタさんには本当に感謝しています」
リレッタには200万も貰ってるからな。多少は上げといてあげないと!
「まだ小さいのに、ずいぶんしっかりしているわね……」
「ちっちゃいのに大人っぽいですね……」
「ねえ、もしかして、あの噂のツインテールって、この娘なのではないかしら?」
「えっ、あ! 魔法騎士にとどめを刺したって言ってたし、きっとそうですよ!」
赤セーラーと白セーラーが何かコソコソ話している。とりあえずリレッタに、『早くこの2人を紹介しろ』という視線を送る。
「あ、ああ。こっちの赤いのがカーミラ。で、こっちの白いのがセラフィーヌだ。あたしとパーティーを組んでいる」
雑な紹介だが、2人は怒るでもなく、わたしの方へ向き直る。
「カーミラです。リリナさん、よろしくお願いします」
「セラフィーヌです。よろしくね、リリナちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リレッタのパーティーメンバーだから、もっと、こう、ゲスっぽい感じなのかと思ったら、話し方とか仕草とか普通の女の子みたいだ。偏見はよくないな……。
「えっ、なに? あたしに話しがあるって? ああ、分かった! リリナがあたしに話があるらしいんで、ちょっと待っててくれ」
突然訳の分からないことを言い始めたリレッタにグイッと肩を抱かれ、2人から引き離される。カリアさんに視線を送ると、少し困った顔をしながらも『待ってるから』と口パクしてくれた。
「何なんだ?」
壁際まで連れてこられたわたしは、リレッタに説明を求める。
「あー、アイツ等『ホンモノ』なんだよ。悪いが話を合わせてくれねーか?」
ホンモノ……『前』の記憶が消えて、中身まで外見通りの中高生みたいになってしまった魔法少女の末路……。
「リレッタが『死ねねぇ』って言ってたのは……」
「ああ。あたしがアイツ等の面倒見てやんねーとさ……」
リレッタは大きくため息をつき、ゆっくりと話し始める。
「あたし達は『ホンモノ』のことなんて何も知らされてなくてな……。アイツらとは同期で、何度も助け合って生き延びてきた仲なんだ。だからよ、『ホンモノ』になっちまっても見捨てられねぇ……。悪いが、話を合わせてくれ」
「そうか、分かった……」
慰めようもないな。エステラやリレッタやアンナが『ホンモノ』になったら……わたしも助けてあげたいって思うだろうな。
リレッタの肩をポンと叩いてやる。
「………………」
「他の魔法少女達は知ってるのか?」
「いや、リリナだけだ。前にちょっとあってな。他の魔法少女達とはあんまり交流がねーんだ」
リレッタは少し寂しそうに笑い、それからふと思い出したように顔を上げる。
「そうだリリナ、お前、入るパーティー探してるのか?」
「ほら、わたしって6発撃ったら、後は役立たずだろ? だから、どのパーティーでも断られちゃってんだよ」
「ウチのパーティーくるか? ああ……その、ウチのパーティーってちょっと訳アリだけど、それでいいなら……アイツ等が嫌だって言えばダメだけどな」
リレッタが嬉しいことを言ってくれる。訳アリでもなんでも、『魔法少女として最初のパーティーを組む』って任務を終わらせられれば、それでいい。
「凄くありがたいんだが……わたし、『魔法少女として最初のパーティーを組む』って任務が終わったら、1人で活動するつもりなんだけど、それでもいいか?」
「ああ、別にいいぜ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2人のところに戻ると、2人も何やらコソコソ話をしている。
「リリナが、ハブられてパーティーに入れてもらえないらしいんだよ。それで、あたし達のパーティーに入れてやりたいんだけど、どうかな?」
「すいません。厚かましいのは分かっているのですが、もしよければ、リレッタのパーティーに入れてもらえないでしょうか? 『魔法少女として最初のパーティーを組む』って任務が終わるまででかまいませんので」
「リリナさんが入っても、別にいいんじゃないかしら? ねえ、セラ?」
ん? 意外に好感触?
「はい、リリナちゃんなら大歓迎です! リレッタさんの恩人なら、わたし達の恩人です!」
「そんなに簡単に、いいのか? リリナのこと知らないだろ? 一度、一緒に狩りに行ってからでも……」
「あの噂のツインテールって、リリナさんのことなのでしょう? リレッタの恩人なのだし、断る理由はないわ?」
「そうですよ。魔法騎士3ユニットを撃破したリリナさんなら、実力に不足なしです! 一緒に頑張りましょ!」
おおっ! 何かすんなりパーティー決まりそう!?
「え゛!?」
この『え゛!?』は、わたしでもリレッタでもなく、後ろに座って聞き耳を立てていたらしいカリアさんだ。なぜか急にカリアさんが立ち上がり、後ろから腕を引っぱられ、壁際に連れて行かれる。
「リリナちゃん、本気でリレッタのパーティーに入るつもりなの?」
「えっ? 何か問題あるんですか!」
やけに心配そうな顔のカリアさん。事態が呑み込めず、思わず聞き返す。
「あのリレッタのパーティーだよ?」
『あのリレッタ』って言われるほど評判悪いのか? そういえば、アンナもそんなようなこと言ってたような……。
「リレッタのパーティー、『血の宣誓』って、『ブルーライン』とか『月夜』とか『ホライズン』とか……とにかく色々なパーティと揉めてるのよ――」
でも、リレッタって喧嘩っ早いタイプではないような……そこまで考えて、『ホンモノ』の話を思い出す。
「ちょっと本人に確認してみますね?」
「えっ、本人に!? 危ないわよ、暴力沙汰になったって聞いてるわ」
「大丈夫ですから」
心配するカリアさんを宥めてからリレッタに話を聞くと、やはり揉め事は『ホンモノ』絡みの事件だったらしい。
詳しく聞くと、いくつかのパーティーが協力して魔塊獣を倒す任務があったのだが、予想以上に手強い魔塊獣に、他のパーティーが撤退しようとしたところを、リレッタが脅して無理やり戦わせ、負傷者を出してしまったらしい。
「あの時、他のパーティーが撤退していたら、最前線で戦ってたアイツ等は死んでいた。『ホンモノ』は魔塊獣を相手にすると狂ったように戦い続けるんだよ。撤退させるには気絶でもさせるしかねえんだが、あの時はそれができなかったんだ……」
そういえば、『ホンモノ』は『戦闘意欲がアホみたいに旺盛になる』って言ってたな。
「その事件以来、他のパーティーとは不仲になっちまってな。もしリリナが嫌だっていうんなら、パーティーの話は無かったことにしてもいいぜ。リリナに迷惑かけちまうかもしれねーからな……」
さっきの話を聞いて、そんなこと言われたら断れねーだろ、人として!
強制任務を終えたら1人でやっていくつもりだし、どうせ他のパーティーから加入を断られている身だ。評判が少々落ちたところで別にかまわない。それにリレッタには200万もらってるしな!
「大変だったな、リレッタ……。悪いが、しばらく厄介になるよ。よろしく頼む。6発しか撃てないけどな!」
「ああ、分かった。あたしの方こそ、よろしく頼む! その……ありがとな」
ということで、リレッタ達のパーティー、『血の宣誓』への加入が決まりました!
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