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29話 新しいお姉ちゃん、星名ミナ

 聞きなれない目覚ましの音で目が覚める……。


「んっ……」


 眠い目をこすりながらキングサイズのベッドから起き上がり、ぼんやりした頭のままドレッシングルームへ向かう。磨かれた大きな鏡を見つめると、そこには……。


 艶やかな黒髪のツインテールを白いリボンでまとめ、ネコの目のように少し釣り気味の大きな瞳。人形めいた、作り物のように整いすぎた顔立ち。


 ああ、今日も違う……。わたしのものではない(・・・・・・・・・・)、作り物めいた美しい顔を見て安心する。


 鏡に映るのは『前』のわたしではない。この顔は魔法少女リリナのもの。過去のわたしを知る誰とも繋がっていない、まっさらな存在。


 胸の奥がふっと軽くなる。ここでは誰も『前』のわたしを知らない。その事実に心底安堵し、あらためて解放感を心の底から噛みしめる。


 たとえ死ぬまで戦う契約だったとしても……。


「よし! 今日からわたしは、女子中学生、白銀(しろがね)(みお)! 白銀(しろがね)(みお)だ! よっしゃぁぁぁ! 気合い入れていくぜー!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「初めまして。本日からこのクラスで学ぶことになりました、白銀(しろがね)(みお)と申します。どうぞよろしくお願いいたします♪」


 わたしなりに、かなーり気合いを入れてのJCデビューだったのよ、マジで……。なのに、さわやかな自己紹介(自己評価)を終えたあと、6人の生徒のうち5人はガン無視。まあ、メタルチョーカー(認識低下)の効果もあると思うけどさ。


「……………………」


 そして最後の1人、メタルチョーカー(認識低下)の効果の方をガン無視する窓際奥のツインテール美少女から、もの凄い眼力(めじから)で睨まれているという謎の状況……。


 ツインテールがわたしより少し長めで、髪と瞳が黒茶(こくちゃ)、ネコの目がわたしよりちょっとキツめな感じ。姉妹ですって言えばみんな信じそうな容姿で、完全にキャラが被ってる……。


 いや、でも、そんなに睨まれても、キャラが被った時の対応とか知らねーから! どーすんだよコレ!? これならガン無視の方がまだマシだよ!


 なんかJC族では、ツインテールは選ばれし者の髪型とされ、不用意にツインテールにするとJC族全員から制裁を受ける……とかいう都市伝説を聞いたことがあるような、ないような。ソレか? ソレなのか?


「……………………」


 ずーーーっと睨まれてる。


 だってしょうがないじゃないか、生まれた時からツインテール(コレ)なんだからさぁ! わたしみたいな『なんちゃってJC』が同じツインテールなのに不満があるのは分かるけどさぁ……。


「……………………」


 まだ睨んでるよ!


 ゴメン、許して。そんなに睨まないで! でもゴメンね、髪型は変えられないんだ。ツインテールまで含めて製造されちゃってるんだ!


「それではホームルームは終了します。白銀さんは好きな席に座ってください。特別クラスは固定の席とかはないので、明日からも自由に座ってくださいね」


 ツインテールの眼力(めじから)に怯んでいるわたしに、職員室から一緒に来た担任教師・近衛文雄(多分偽名)先生がにっこり微笑むと、スタスタと教室から出て行ってしまった。


 メガネをかけた温厚そうな三十代後半の男性教師だったのだが……えっと、6人の自己紹介とか無いの!?


 普通、転校生が来たら全員自己紹介するだろ! 『前』の時はしたぞ!? 名前くらい言うだろ普通!


 それに……好きな席って、どこに座れっていうんだよ!


 教室内では6人が、廊下側前後・中央前後・窓側前後と、見事に等間隔で座っている。わたしがどこかに座れば、必然的にわたしが選んだ(・・・・・・・)誰かの近く座ることになる……。


「……………………」


 まだ睨んでるよ、あのツインテール……。どうする?


 同じツインテール同士、類似性の法則やミラーリング効果は働くはずだ。それにフランクリン効果も組み合わせれば……いける。


 頭をフル回転させ、即座にプランニング開始。


 まずは類似性の法則とミラーリング効果を狙い、ツインテールという共通点を全力でアピールしつつ、相手のツインテールを褒めまくる。


 その流れで軽い頼み事をして、フランクリン効果で距離を縮める!


 なに、魔法騎士と戦うってわけじゃない。失敗しても死にはしないイージーミッションだ。あのツインテールと仲良くなっておけば、この先の学園生活が少しは楽になる……はず。


 決断したら即行動するべし!


 ずっと凄い眼力(めじから)でわたしを睨み続けているツインテール娘の席へと、意を決して近づいていく。


「初めまして! わたしは白銀澪、よろしくね! あなたもツインテールなんだ。お揃いだね! ツインテールって可愛くていいよね! あなたのツインテールの方がちょっと長いんだ。あなたのツインテール、大人っぽい感じで可愛いね! すっごく似合ってる! 羨ましいな!」


 拒絶の言葉を挟む隙すら与えず、ツインテールを全力で褒めまくる。そのまま話しかけながら、さりげなく隣の席へと腰を下ろした。


「なっ……!?」


 ツインテール娘の肩がビクッと跳ねる。さっきまでのギラギラした眼力(めじから)が一瞬だけ揺らぎ、頬がほんのり赤く染まる。


「そ、そそそ……そんなに褒められても……べ、別に嬉しくなんか……っ」


 言いながら視線が泳ぐ。耳まで赤い。完全に照れてる。


「アンタのツインテールだって……その……悪くないわよっ!」


 最後だけ語尾が跳ねて、勢いで言い切った感じ。ツンデレーって感じの『自分でも何言ってるか分かってない照れ隠し』全開である。


 よしっ! 殺気じみた眼力(めじから)は完全に消え、現れたのは紛れもない『本物のツンデレツインテール娘』である。


 ヤバい! なにこのチョロ可愛さ! これが本物(・・)の力なのか……本物(・・)のツンデレツインテール娘、破壊力が桁違いである。


「ありがと! ねえ、名前、教えて?」


 よし、初動の類似性とミラーリング効果は成功! さらにプラン通り、フランクリン効果を狙っての簡単な頼み事で、距離を一気に縮める!


「あたしは……星名(ほしな)ミアよ……」


 ちょっと頬を染め、ツインテールを指先でくるくるしながらボソッと呟く姿は、まさにツンデレのお手本である。


「うん! よろしくねミアちゃん! 同じツインテールのお友達ができて凄っごく嬉しい! ミアちゃん、仲良くしようね?」


「しょ、しょうがないわね、アンタがそこまで言うなら……仲良くしてあげてもいいわよ?」


 これこそが本物のツンデレである! 『元祖ツンデレツインテール娘』の称号を進呈しよう!


「やったー! ありがとう! 凄っごく嬉しい!」


 ふぅ、ミアとは仲良くなれそうだ。本物(・・)の破壊力も堪能できたし、今日のJCとしてのターンはお終いでいいだろ。何か疲れたし……。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 その時、教室の扉が開き、メガネの中年女性教師が入室してきた。


「起立!」


 やっぱり学級委員だったのか、例の真面目系イケメン君が号令をかける。


「礼! 着席!」


 わたしは慌てて立ち上がるが……真面目系イケメン君は1人で号令をかけ、1人で立ち上がり、1人で礼をして、1人で着席してしまう。


 ん? どうなってんの!?


 あっけに取られ周囲を見ると、残りの5人は号令などガン無視で席に座ったままだ。隣のミアは立ち上がったわたしをキョトンと見つめている。


 わたしは急いで先生に礼をしてから着席する。


「アンタ、結構ちっちゃいわね?」


 ミアは授業を始めた教師をガン無視で話しかけてくる。


 授業とミアを天秤にかけ、好感度を下げるのは得策ではないと判断。ミアを優先することにする。中学1年レベルなら、別に勉強なんかしなくても平気だしね。


「そうかな?」


 まあ、小学校高学年くらいに見える背丈だから、低いちゃあ低い。製造スペックなので現状どうしようもない。マギトがあれば強化(エンハンスメント)できるらしいけど。


「澪、ちょっと立ってみなさいよ」


 いきなりの名前呼び捨てである。ちょっと仲良くなると距離感バグるタイプかもしれない。友達少ないタイプ……まあ、いいけど。


「?」


 ミアは先生をガン無視して立ち上がると、わたしにも立つよう促す。先生の方もわたし達をガン無視しているっぽいが、一応遠慮ぎみに立ち上がる。


 確かにミアの方が少し背が高い。杏と同じくらいかな?


「やっぱり、あたしの方が大きいわね!」


 ミアが勝ち誇ったように宣言する。身長マウントかよ!


 ここは大人っぽいとか褒めるところなのだろうか? JCの生態なんぞ知らんが……とりあえず褒めときゃいいだろ、多分。


「ミアちゃん、大人っぽくて羨ましいなー!」


 こんな感じ?


「ふふん、あたしの方がお姉さんってことね?」


 大人ぶりたいお年頃ってやつ? まあ、いいか。


「そうだね、ミアお姉ちゃん!」


「っ!? ミ、ミアお姉ちゃん……?」


 えっ、友達同士の軽口だったんだけど……マズかった?


「あ、いや、そ、そう、お姉ちゃんがいたら、ミアちゃんみたいかなぁーって……」


「んっ♪ しょ、しょうがないわね。澪がどうしてもっていうなら、『ミアお姉ちゃん』って呼んでもいいわよ?」


 いや、別に呼びたくないですけど……って、ミアの口元がニヨニヨしてる。もしかして『ミアお姉ちゃん』って呼んでほしいのか!?


 さすがに同級生をお姉ちゃん呼びはないので、やんわり断ろうとすると……。


「『ミアお姉ちゃん』って呼んでもいいわよ?」


 大事なことなの!? 大事なことなので2回言ったの!?


 どうするよ? 大事なことなので2回言われても、さすがに同級生にお姉ちゃん呼びはナシだろ……。


「えーと、ミアちゃん……」


「『ミアお姉ちゃん』」


「ミアちゃん?」


「『ミアお姉ちゃん』」


 なにこの我儘ツインテール! どうしてもわたしにお姉ちゃん呼びさせたいの!?


「ミアお姉ちゃん……?」


「なに、澪?」


 ツインテールがふりふり揺れている。ツインテールは上機嫌だ。なんだよコレ? どういう状況なんだよ!?


「もしかして、妹が欲しかったとか?」


「まさか! 妹なんていらないわよ! 妹なんていたら、後継者争いや財産相続で面倒くさい敵になるだけじゃない!」


 さいですか……。ミアが座ったので、わたしも自分の席へ座る。


「前に読んだ本にあった、上級生が下級生と姉妹(スール)になるって制度が、ちょっと良かったのよ。あたしも、そういうのやってみたいって思ってたんだけど、ただの上級生に姉貴面されるのってムカつくじゃない?」


 いや、それ姉妹制度、完全否定してるからね?


「だから、後継者争いや財産相続で敵にならない、可愛い(スール)にできる()が欲しかったのよ! 同じツインテールだし、澪は合格よ。名前もミアに(ミオ)って姉妹(スール)っぽくていいでしょ?」


 いや、『いいでしょ?』って言われてもなぁ……。


「そ、そうかなぁ?」


「そうよ! 『ミアお姉ちゃん』が嫌なら、本では『お姉さま』って呼んでたから『ミアお姉さま』でもいいわよ? 澪は『ミアお姉さま』と『ミアお姉ちゃん』、どっちがいいのかしら?」


 どっちも嫌なんですけど……。


「どっち?」


 もの凄い眼力(めじから)で睨まれる。これが本物(・・)の力なのか……。


「じゃ、じゃあ、ミアお姉ちゃんで……」


「いいわ! 澪には特別に、あたしのことを『ミアお姉ちゃん』って呼ぶことを許してあげる!」


 我儘ツインテール怖えぇ……。


 あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!

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