28話 JCデビュー✨
「初めまして。本日からこのクラスで学ぶことになりました、白銀澪と申します。どうぞよろしくお願いいたします♪」
朝の光が差し込み、静けさの中にほんのりとした清涼感が満ちる教室。真新しい赤いセーラー服に身を包んだわたしは、黒板の前に立ち、艶やかな黒髪ツインテールを翻して元気よく挨拶し、ニッコリ微笑んだ。
白銀澪こと、魔法少女リリナです。そう、なぜ三枝理奈という設定だったはずのわたしが、いま白銀澪などと名乗るハメになっているのか。それには、ちょっと長い説明が必要なのである……。
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話は昨日の入園時まで遡る――。
「話は聞いていると思うけど、龍鳳学園の特別クラスは、かな~り特殊な場所なんで色々あると思うけど、くれぐれも揉め事は起こさないでね」
わたしは黒塗りの高級車の後部座席で、清楚な黒のセーラー服姿のまま、運転手の黒スーツの女の子――花梨さんと話していた。
ちなみに花梨さんは、わたしの変身体での生活をサポートしてくれる担当で、黒スーツの女の子達の中で唯一名前を教えてもらった。
「はい。わたしの編入する『特別クラス』って、日本の政治経済を左右するような大物のご子息・ご息女ばかりなんですよね?」
龍鳳学園自体は中高一貫の普通の私立校なのだが、超上級国民の子息・子女を受け入れる『特別クラス』は、敷地も校舎も教師も完全に別モノ……らしい。
「そうそう。理奈ちゃんも三枝銀行頭取の孫娘って設定だから、ヘンなことはされないと思うけど、下手に揉め事を起こすと大事件になっちゃうからね」
そう、今のわたし――三枝理奈は、世界的企業グループ・三枝グループの中核企業である三枝銀行の筆頭株主兼頭取、三枝剛造の孫娘という設定なのだ。三枝ってどこかで聞いたことあると思ったわ。
「それなんですけど、三枝剛造さんの知り合いとかに会ったりしません? 本人の知り合いに問い合わせられたりしたらバレません?」
「大丈夫、大丈夫。本人とはもう話つけてあるし、三枝剛造なんて千桜の雇われ社長よ? 戸籍なんかも全部こっちで押さえてるから問題なし。私も会ったことあるけど、ただのスケベジジイだったわ」
あー、そうなんだ。千桜やっぱり凄げぇ。名前がまったく表に出てこないところがガチで怖い……。
「理奈ちゃんの入る龍鳳学園って、魔法少女研修でトップの成績の魔法少女だけが入れる最高待遇の学校なんだよ。せっかくだし、JC生活を満喫してきなよ」
トップの成績ってエステラと2人だけだからなぁ。それに……。
「わたしの編入される『特別クラス』って、問題児を一般社会から完全に隔離するための施設って聞いたんですけど、JC生活楽しめるんですかね?」
「外出や生活時間は厳しく管理されるらしいけど、最高級の食事やデザートが24時間提供されて、最新鋭の各種施設にネット使い放題、授業は出ても出なくても自由って、結構よくない?」
「それだけなら楽チン生活でよさそうですけど……千桜への運営費は払わないとダメなんですよね?」
「それは千桜の魔法少女の義務だから、しょうがないわね。でも理奈ちゃんの場合、毎日潜界して6発撃つだけの簡単なお仕事でしょ?」
確かに。小型の魔塊獣――通称ゴブリンでも毎日6匹倒せば、運営費を払っても余裕がある。新宿ベース周辺と違い、獲物に事欠かないのはありがたい。
「うーん、そう考えると楽しめるのかなぁ……JC生活?」
「楽しめる、楽しめる! ほら、本物のJCとキャッキャウフフできちゃうかもよ?」
「あ、そういうのは大丈夫なんで……」
「あはは。あっ、見えてきたよ」
気づけば車は鬱蒼とした森の細道を進み、なだらかな丘の斜面を登っていた。視界の先には、丘の中腹に巨大なコンクリートの壁が立ちはだかっている。外から見ると完全に刑務所である。
「どう見ても刑務所ですよね……」
「んー、外敵の侵入を防ぐためでしょ。30cm砲の直撃にも耐える強固なベトン製らしいよ?」
誰に砲撃されるんだよ!?
「『誰も侵入させない、誰も脱出させない』がコンセプトの施設らしいよ。真偽不明だけど、魔術的な攻撃にも対応してるとか?」
嫌なコンセプトだなぁ。
「魔術的な攻撃って、魔法少女に攻撃される可能性があるんですか!?」
「それだけ強固ってことでしょ。着くわよ。ちゃんと練習通りお嬢様してね」
車はコンクリート製のトンネルに入り、明るい照明の中を進んで巨大な地下駐車場へと出た。外来者用の入口前に停車すると、花梨さんが恭しくドアを開けてくれる。
練習通りお嬢様らしく車を降りると、ガタイの良い黒スーツの男達が出迎えてくれた。龍鳳学園のガードマンだろう。
「事前にお伝えしている通り、私物の持ち込みは一切禁止されています。三枝理奈さまはそこで止まってください」
「?」
私物の持ち込みは禁止され、必要な物はすべて学園側が用意する――事前に聞いていたので、荷物は何も持っていない……はずなのだが?
黒スーツの男に言われるまま入口で止まると、金属探知機のような機械で身体を検査される。
「スマートフォンをお持ちですね。そちらも持ち込み禁止となっていますので、お付きの方にお渡しください」
マジか!? 昨日、千桜から支給されたばかりなんだけど……本当に全部取り上げるのかよ。まあ、杏しか登録してないし、連絡しようと思えば鏡界で取れるからいいけど。
「そちらのドレッシングルームに替えが一式用意してありますので、着替えてください。今着ている衣服は返却しますので、お付きの方はこちらでお待ちください」
言われるままドレッシングルームへ入ると、妙齢のグレイスーツの女性が待機しており、手際よく下着まで脱がされ、新しいものに着替えさせられた。
魔法少女研修を受けてなかったら、多分下着脱がされた時点でパニックになってたと思う。これ、着替えの名を借りた刑務所の全裸身体検査だわ。
下着、キャミソール、靴下はすべて白のシンプルなもの。アウターは襟のラインとリボンだけ白で、他は真っ赤という特異なセーラー服。ツインテールのリボンまで白に交換される。仕立ては高級品だけど……趣味はよくない。
頭の天辺から足の爪先まで全て学園支給品に着替えさせられ、今までの服はまとめて花梨さんに渡される。完全に刑務所の入所シーンである。
「では、理奈お嬢さま、お元気で……」
涙ぐむ花梨さん。芸コマだなぁ……って、マジでヤバい所なんじゃないだろうな!? ちょっと不安になってきたんだけど!?
「花梨さん、本当に大丈夫なんだよね?」
「よよよよ……」
近づいて小声で聞くと、花梨さんはわざとらしくハンカチで目元を拭い泣きまねをする。これは大丈夫っぽいか?
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花梨さんと別れ、黒スーツの男に案内されて学園内へ。駐車場からエレベータで上がると、ホテルのフロントのような場所に出て、学園内を一通り案内された。
『特別クラス』の敷地は、学校一つ分を丸ごと占める広さで、建物も独立校舎と呼べる規模。中等部だけでなく高等部の『特別クラス』も同じ敷地にあるらしい。
外壁は落ち着いた灰色の高級石材で統一され、窓枠には真鍮の装飾。芝生は絨毯のように滑らかで、植栽はどれも樹形が整えられ、美術品のように配置されている。花壇こそないが、季節の低木が控えめに彩りを添えている……。
感想……金持ちムカつく!
これさぁ、『前』のわたしが見たらルサンチマン丸出しで発狂してたぜ。壁の石材の2つか3つ買う金があれば、魔法少女なんかになってなかったわ!
腹の底からの熱い怒りは胸に仕舞い、にこやかに黒スーツの男の後に続く。最後に、エレベータ出口脇の事務所の応接室に案内され、細かな校則や注意事項を説明される。
特別クラスの敷地内は、ほぼすべての場所が監視カメラで常時監視されている。カメラが動作していないのは私室と更衣室、トイレのみだが、一定以上の物音を感知すると自動でカメラが作動する仕組みらしい。
支給されたスマホは龍鳳学園オリジナルで、通話・発信・閲覧履歴など、あらゆるデータが学園側に記録されるとのこと。プライバシー? 何それ美味しいの? というレベルの完全監視体制。
次に私室のカードキーを渡された。衣服や小物類はすでに部屋に揃っており、それ以外に必要な物は申請すれば用意してくれるという。外部からの物品持ち込みは絶対禁止――生徒を完全に管理したいんだろうねぇ。
最後に、生徒証を渡される。顔写真こそわたしだが、名前も生年月日もまったく知らないものになっている。誰コレ? と係の人を見ると、詳しく説明してくれた。
特別クラスでは、生徒同士の諍いが家同士の問題に発展しないよう、全員にコードネームのような偽名が与えられるらしい。
まあ、日本の政治経済の動向を左右するような大物同士が争ったらマズいわなぁ。
そして、万一、校内外で問題を起こした場合には、警察や報道に記録されるのはその偽名で、実名は徹底的に隠されるんだってさ!
いやいやいやいや、ちょっと待て。これ、犯罪を犯しても『記録上は』前歴も前科もつかないってことじゃない? 権力怖えぇよ!
そんなこんなで、必死に覚えた三枝理奈のプロフィールデータは完全に無駄になり――龍鳳学園では、新しく付けられた名前『白銀澪』として生活を始めることになったのである。
1:リリナ(個体識別名)
2:三枝理奈(変身体名)
3:四樹莉里(芸名?)
4:白銀澪 ←New
どうすんだよ! わたしの名前4つになっちゃったよ!
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「初めまして。本日からこのクラスで学ぶことになりました、白銀 澪と申します。どうぞよろしくお願いいたします♪」
朝の光が差し込み、静けさの中にほんのりとした清涼感が満ちる教室。真新しい赤いセーラー服に身を包んだわたしは、黒板の前に立ち、艶やかな黒髪ツインテールを翻して元気よく挨拶し、ニッコリ微笑んだ――微笑んだのだが。
「「「「「「…………………………」」」」」」
朝の光が差し込む広すぎる教室。そこにいる生徒は、たった6人。
全員が同じ寮から歩いてきたはずなのに、互いに距離を置くように散らばって座り、黒板の前で挨拶したわたしへ視線を向ける者は誰ひとりいない……。
まず目に入るのは、廊下側の後方でタブレットを操作しているデ……恰幅のいいメガネの男子。赤い学ランがはち切れそうだ。うん、分かりやすいタイプ。話しかけたら延々語られそう。
そこから4席ほど離れた場所には、赤いセーラー服の女の子。前髪で両目が完全に隠れていて、文庫本に没頭している。存在感が薄いというか……気配が霧みたい。
中央正面には、赤い学ランを詰襟まできっちり閉め、姿勢よく教科書を読んでいる真面目そうな男子。しかも結構なイケメン。学級委員だろ、多分。
中央後方には、赤い学ランを着崩したガタイのいい男子が腕を組んでふんぞり返っている。不良ってやつだな。龍鳳学園みたいな場所にも不良っているんだ……ああ、『特別クラス』だからか。
窓際には、学級委員とは違うタイプの爽やかすぎるイケメン。赤い学ランをアイドルのステージ衣装みたいに完璧に着こなし、朝の光を浴びてキラキラしている。初めて見たわ、少女漫画に出てくるようなやつ。後ろに花とか背負ってそう。
そして最後は――赤セーラーのツインテールの女の子!?
まさかのキャラ被りである!
頬をふくらませて不機嫌そうにしているけど、誰かが話しかけたら全力でツッコミ入れそうな雰囲気……えっ、コッチ見た!?
目、目があっちゃったんだけど!? どうする!? どうすんのよコレっ!? キャラ被りの時ってどうすりゃいいの!?
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