24話 魔法少女研修8 理奈ニャン
魔法少女研修22日目――。
「うーん、あの係長を侮っていたわ。人の好さそうな顔していたからすっかり騙されたけど、ありゃ策士だ……」
そう、今日も今日とてコスプレするわけなのだが……。
ゴスロリ → 巫女服 → メイド服 → ミニチャイナ → セーラー服 → JKブレザー → 浴衣 → アオザイ → ナース服 → 婦警服 → アイドル衣装 → くノ一 って感じで、着てきたんだけどさ、だんだん選択肢が減ってくるのよ。
で、何とか着れそうだったの『バニーガール』『ウェディングドレス』『ネコミミ着ぐるみ』の3つだった。
いや、これでもまともな方なんだよ? 他のは、『ビキニアーマー』とか『サイバーレオタード』とか『少年をヤっちゃうセーター』とか『あぶない礼装』とか、本当に歴代魔法少女が着用したのか怪しいレベルのヤツが累々と……。
『バニーガール』は、まあ定番ちゃ定番だけど、なぁ……。
『ウェディングドレス』は、なんちゃってのヤツじゃなくて、誰と結婚するんだよって突っ込みいれたくなる本格的なガチのヤツなので、ちょっと腰が引ける……。
『ネコミミ着ぐるみ』が無難そうかなぁ……あ、ガチのやつじゃなくて、ふわふわの白いファーに包まれたフードに、丸い耳がちょこんと乗ってる部屋着にするようなヤツね。
ちょっと可愛いからコレでいっかとか思って選んだのだが、着ぐるみって結構着づらいし脱ぎづらいのよ。トイレとか面倒くさそう……まあ他のよりマシってことで我慢しよう。
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「杏お姉ちゃん、おはよー」
「ニャンを付けろよ、ニャンコ野郎」
ネコミミ着ぐるみに着替えて洗面所から出てきたわたしに、杏がいつものように訳の分からないこと言ってくる。
「?」
「いえ、お姉ちゃんがその服を着た時に言われたので、理奈さんにも言ってみました。その服を選んだからには、語尾にニャンを付けなければなりません」
何だそりゃ。
「また杏お姉ちゃんが、訳の分からないことを言い始めたニャン……」
あっ!? なんだ!?
「なんじゃコリャぁニャン!?」
勝手に語尾にニャンがつく!?
「おお、思ったより可愛いですね。着ぐるみでツインテールが隠れてしまい魅力半減かと思いきや、理奈ニャンの破壊力は半端ありませんね」
「なにニャン!? なんなのニャン!?」
「ほぉぉ。今日は動画で撮りたいですね……」
「やめろニャン! どういうことか説明しろニャン!」
「それは魔法で作られた着ぐるみで、起動ワードを唱えると勝手に語尾にニャンがつくという優れモノなのです。そう、さっきの『ニャンを付けろよ、ニャンコ野郎』が起動ワードです」
バカなの!? ねえ、バカなの!? なんでそんな無意味なモノ作るんだよ!
「ちなみに停止ワードは存在しませんので、8時間はその状態が続きます」
「なんつうモノを着せるんだニャン!」
「と言われましても、選んだのは理奈ニャンですし」
「理奈ニャン言うなニャン!」
ふざけんなーー! どうすんだよ! あっ! 脱いじゃえばいいじゃん! えっ、あれ……ファスナーが動かない?
「あ、言い忘れていました。8時間は脱げませんので我慢してください」
「ふざけんなニャン! トイレどうすんだニャン!」
「ご安心ください。それを着用している間は排泄の必要はありません。見た目に反して非常に強力な魔法具でして、勤務部によって鏡界の結界内で厳重に管理されており、外部への持ち出しは原則禁止されています。今回は理奈ニャンのたっての希望ということで、特別に許可が下りました」
呪物じゃねーか! 希望って、カタログから選んだだけだし! 大体なんでそんなモンの持ち出し許可が下りたんだよ!
「では、何かしゃべってみてください?」
杏が無表情でスマホを構えている。
「動画なんか撮ったらブっ飛ばすニャン!」
「良いです。とても良いです。ではネコニャンポーズを取ってみてください」
「…………………………」
絶対、動画撮ってるだろコイツ!
「嫌ですね理奈さん、シャーーって顔してますよ。お姉ちゃんは報告書用の写真撮影しかしませんよ、ほら」
杏がスマホを見せてきた。確かにネコの着ぐるみを着た写真はあるが動画はない。さすがに杏を疑いすぎたか……おっ、おお、意外にネコの着ぐるみ可愛いじゃん! さすがコスプレ撮影には定評のある杏の撮影だ。
「ゴメンニャン。ちょっと疑い深くなってたみたいニャン。さすが杏お姉ちゃん、凄っごく可愛く撮れてるニャン!」
もともとネコっぽい顔つきのため、ネココスがメチャ似合っている。ヒゲとか描いても似合いそうだわ。
「ニャンニャン言う理奈ニャン可愛いです。写真は理奈ニャンの研修が修了した時にまとめて渡しますから、楽しみにしておいてくださいね」
スマホを返すと、パシャパシャと写真を撮りまくる。ま、まあ、わたしも可愛く撮られるのは、それほど嫌じゃないので、仕方なくポーズを決める。
「理奈ニャン、良いです、良いですよ! あの、1つお願いがあるんですが」
パシャパシャ写真を撮っていた杏が、突然何か思いついたように言った。
「なにニャン?」
「すいませんが、ニャンと言ってみていただけますか?」
いや、さんざんニャンニャン言ってるだろ?
「理奈さんが、ニャンと言ったら、ニャンニャンになるのか、ニャンのままなのか、突然ものすごく気になってしまったのです」
おお、確かに! チョー下らないけど、わたしもちょっと気になるわ!
「ニャンニャン!」
おお、ニャンニャンになった!
「1回ニャンって言ったら、ニャンニャンになったニャン!」
無表情のまま親指を立てる杏。
「パチパチパチパチ。ご協力感謝します。お姉ちゃんの知的好奇心は満たされました」
どうやら、語尾に1度だけニャンがつくようだ。って、呪物
「では撮影の続きを。招きネコちゃんポーズをお願いします……そうです、もう一度ニャンって言ってみてください。ああー、ニャンニャン可愛いです!」
無駄に高性能な呪物で、身体を動かすたびに連動して尻尾がゆらゆら揺れるんだよね。確かに動画に撮ってアップしたらバズるかも……やんないけどね。
「ああ、理奈ニャン可愛いです。そうです、ニャーって言いながら両手を上げて……ああ、ネコ可愛いです! そのままジャンプしてみてください!」
「ニャーニャン!」
「良いですぅ! そうそうにぎにぎってして……ああ、最高です! はい、そこでウインク! ああっ、良いです、良いです! 最高に可愛いです!」
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わたしと杏は今日の報告書用の撮影を一通り終え、講義に入る。
「ねえ、講義っていっても、もう大体終っちゃってるよねニャン? 魔法少女研修っていつ修了するのニャン?」
魔法少女研修の講義は、まず黒板代わりのディスプレイに表示される説明文や説明図を見ながら杏の講義を受け、筆記試験で理解度を判定される。
間違えた個所はすぐに再講義があり、完全に理解できるまで筆記試験と再講義が交互に続けられるという、マンツーマンならではの手厚いものだ。
講義内容は、女の子の身体と生活から始まり、魔法少女の生活と任務、鏡界と現界の違い、マギリングとメタルチョーカーの使用法、魔法具概要、マギトとマナ、魔塊鬼の生態、千桜の歴史と組織と運営、日本の魔法少女組織と千桜との関係、シルバーイーグルと千桜、日本魔法少女連合と千桜、様々な世界的魔法少女組織の概要、その他諸々……。
杏の教え方はツボを心得て好奇心を刺激し、杏の指導教官としての力量を感じさせるもので、わたしの若い脳は杏から与えられる知識をどんどん吸収し、すでにカリキュラムは大体修了している。
それに、前に『三枝理奈として自然に行動できるようになるまで研修は終了しない』と言われたが、もう結構良い線いってるんじゃないかな?
「三枝理奈として、かなり自然に行動できるようになってると思うニャン」
あーー、ニャンうぜぇ。
「そうですね。座学はほぼ終了してますし、三枝理奈としての行動も、おおむね問題のないレベルです。後は、各種OJTが終われば修了でしょうか」
各種OJT……。
「うへぇ……ニャン!?」
オー・ジェー・ティー!? そういえば鏡界での慣熟訓練は省略するって言われたけど、実践訓練はあるんだな……ああ、また戦うのか。久しぶりに魔法少女だってこと思い出したわー!
そうそう、そういえばそうだよねー。魔法少女って言えば、戦うってのがココの常識だもんねー。契約はちゃんと守らないとね……ああ、吐きそう……。
「凹んでいる理奈ニャンも可愛いですね、ネコミミとシッポまで一緒にションボリしているのがチョー可愛いのです。パシャリ」
無表情で連写する杏。まったく油断も隙もねーな。
「報告書と関係ない撮影はNGですニャン!」
サっと杏のスマホを奪取、画像を確認する。うーん、何な捨てネコっぽくて可愛いな……まあ今回は見逃してやるか。
「件の事件のせいでOJTを警戒する理奈ニャンも理解できますが、ご安心ください。今回のOJTは魔法少女の本来のお仕事の方で、魔塊獣を倒しに行ってもらいます」
そうそう、講義で教えてもらった魔法少女本来の仕事は、他の魔法少女との戦争ではなく、鏡界に自然発生する魔塊鬼とかいうバケモノを倒すこと……らしい。
なぜか人口の多い所の鏡界に発生することが多く、放置すると次第に力を増し現界にまで現れるようになるとかならないとか……何か本物(?)の魔法少女の敵っぽい設定のヤツだ。
魔塊鬼を倒すことで魔法少女はマギトを得られる。魔法少女組織同士の争いも、元はと言えば魔塊鬼の狩場の取り合いだったらしいので、魔法少女にとっては敵……というよりは獲物って感じ。
「あのぉ、魔法騎士とどっちが強いニャン?」
「講習でも言いましたが、魔塊鬼は、強さも外見も多種多様です。ですが今日は新宿近辺に現れる弱っちいのですから、魔法騎士を撃破した理奈ニャンなら1発だと思いますよ」
本当かなぁ……まあ、本当でもウソでも行くしかないか。魔法少女なんかにされた時点で自由なんてないのだ。契約だとあきらめて、頑張るか。
「分かったニャン……」
「ああ、力なくうなだれる理奈ニャンも良いです。パシャリ」
マジで撮られた。まったく杏は油断も隙もねーな。
「報告書と関係ない撮影はNGですニャン!」
サっと杏のスマホを奪取、画像を確認する。ネコミミとシッポがションボリとうなだれて、なんとなく捨てネコっぽくて可愛い……まあ今回は見逃してやるか。
「OJT、OJTか……ニャン。あっ、ニャン!」
そういえば、この呪物どうすんだよ!? これ着てOJTいくのか!?
「このネコミミ着ぐるみは、どうすんだニャン? まさかコレ着たまま行くのかニャン!?」
「ご安心ください。変身解除して魔法少女の服になれば、呪いは解除されることが確認されています」
あー、呪いって言っちゃたよ! やっぱ呪物だったんじゃねーかよ! まあ、解除されるなら、このままここに居るよりは、幾分マシだと思うことにするか……。
そういえば、OJTってコイツと一緒なの? コイツと一緒にOJTとか、絶対嫌なんだけど!
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