23話 魔法少女研修7 エミリーとの邂逅
立体映像のモニターで場所を確認してから、アンナと2人でワクワクしながらスイーツカフェへと向かう。すれ違う魔法少女達にチラチラ見られるが、理由が分かったのでなるべく意識しないようにする。
「以前から行ってみたいと思っていたのですが、新宿ベースに来るのは年に数回なので、中々機会がなかったのですよ。リリナさんは本当に良い娘です」
うーん、娘じゃねーけどな。
「魔法少女になってから、甘いものがメチャクチャ美味しく感じるんですけど、味覚が鋭くなったとかですかね?」
「マギドールの身体が甘味を好むのは、エネルギー変換効率が高いかららしいです。変身体が甘味を好むのは、エストロゲンが甘味への嗜好性を高めるからですね。という訳で、魔法少女はみんなスイーツが大好きなのです。さあ、スイーツカフェへレッツラゴーです」
などと雑談を交わしながら、アンナお勧めのスイーツカフェへ入る。
「おおー、ミニケーキバイキングですね! ケーキみんな可愛いし、美味しそうですね!」
「そちらは量を求める派向けですね、奥にあるのが高級スイーツです。せっかく経費で落とせるのですから高級スイーツを堪能しましょう」
ゴクリ。食いしん坊ではないはずだが、パスタを食べたばかりなのによだれが溢れてくる。この身体だと血糖値とか色々心配しなくていいし、支払いは経費、ということで思いっきり食べちゃうぞー!
少し奥まった席に座り、メニューを見る。どれも綺麗&美味しそうで目移りするが……高いな。1つでパスタより高いスイーツってどうなの!? 少し躊躇するものの、どうせ経費だ。イっちゃえーっ!
わたしはメニューに『雪の女王のご褒美みたいな味』と書いてあった超高いチーズケーキとブレンドコーヒー。杏はよくわからないクリームとフルーツがごちゃごちゃ盛られた一番高いメニューのやつとアイスカフェラテ。
「おおーー!」
皿の中央に置かれたのは、雪の塊のように白いバスク風チーズケーキだ。表面は薄くキャラメリゼされ、琥珀色の光が照明を反射してきらめいている。
フォークを入れると、中心部はとろりと溶けるように柔らかく、口に運べば濃厚なチーズのコクが舌の上でゆっくりと広がり、最後にほんのりとした塩味が甘さを引き締めるぅ!
「美味しー! 美味しいですよアンナさん! こんなチーズケーキ初めて食べました!」
「このクリーム、コクと味わいが違います! はぁぁぁ、幸せを感じます! どうですかリリナさん、一口食べてみます?」
スイーツ食ってるときは食いしん坊の顔になるんだなアンナ……。
「はい、リリナさん、アーン♪」
「それはいいです」
などと、アンナと女の子同士のようにキャッキャウフフしながら高級スイーツを堪能していると……。
「ご歓談のところ、失礼いたします。少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
視線を向け、一瞬で息をのんだ。
ライトブルーの髪を三つ編みにして左へ流し、その衣装は氷の気配をまとう白と水色。さらに特徴的なのは水色の瞳に浮かぶ雪の結晶……俗に言う六花で、凍てつくような妖しい輝きを放っている。
正直な感想は、『何かヤべぇ奴来たー!』である。
オーラが違うというか、立っているだけで威圧されるような感じ。恐怖から『フォーサイト』で弱点を探りたくなるのを必死で抑える。だって弱点見えなかったら、もっと怖いじゃん!
「えっ、あっ!? 特殊作戦部長!?」
アンナが話しかけてきた氷系っぽい魔法少女を見て目を白黒させている。
特殊作戦部長といえば、千桜に12名しかいないAAAランクの魔法少女で、千桜の統合総括会議のメンバーの1人だ……と講義で聞いた。ゴメン、名前は忘れちゃったわ。顔を知らないので、本人なのか分からん。
「ふふっ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
見た者全て凍らせそうな見た目と違って、意外にフレンドリーな言葉使い。ああ、魔法少女って見た目と中身違うからな……。
「ええと、どういったご用件でしょうか?」
アンナが固まってるので、とりあえずわたしが対応する。
「Y12エリアで魔法騎士3ユニットを撃破したリリナさんですよね。お話があって声をかけさせていただきました。少しだけお時間をいただけますか?」
ちゃんと名前を覚えているのは好印象! というか、初めてわたしの名前知ってる人にあったよ!
「トドメを刺しただけで、わたしとエステラとリレッタの共同撃破ですけどね。どうぞ、お掛けください。ご一緒にスイーツとかどうです?」
ちょっと嬉しくなって椅子を勧める。どうせ経費だから大丈夫だろ。特殊作戦部長(?)は、礼を言うと素直に勧めた椅子に座った。
「初めまして。ご存じだとは思いますがリリナです。魔法少女研修で、転移装置の登録に来た帰りです」
「あわあわあわ……」
あわあわ言ってるアンナを無視して特殊作戦部長(?)に話しかける。
「初めまして。特殊作戦部長のエミリーです。今日は、統合総括会議の一員としてお話しさせてください」
一応、千桜は魔法少女同士の互助組織的で、千桜の運営組織として色々な部門が存在するが、魔法少女への明確な命令系統は存在しない……|ということになっている《・・・・・・・・・・・》。
だが実際には、統合総括会議で決定された戦略方針に従って任務が発行されるので、強制ではないものの命令系統と同様なシステムが構築されている。
いや、命令系統というよりは、発注元と下請け的な関係だな。嫌なら断ればいいが、断れば収入がなくなるから請けざるを得ないってやつ。
エミリーは発注元のお偉いさんというわけで、アンナが恐縮するのも分からないでもない。
「まず、リリナさんに謝らなければなりません。申し訳ありません。統合総括会議で回復剤を戦意高揚剤に切り替える決定を止められなかった私の責任で、あのような甚大な被害を招いてしまいました」
エミリーは真摯な態度で頭を下げる。が、違和感。ゾクっと背筋が泡立つ。コレ、絶対政治絡みのやつだ。
エミリーは、こう言ってるのだ。『甚大な被害が出たのは、回復剤から戦意高揚剤に切り替えたせいだ』『回復剤を戦意高揚剤に切り替えたのは私じゃない』『戦意高揚剤に切り替えた者に被害の責任があり、非難されるべき者だ』と。
わたしを使って回復剤を戦意高揚剤に切り替えた政敵かなにかにヘイトを向けたいのだろう。今の千桜なら、わたしの発言が少しは注目されるかもしれないからね。
考え過ぎ? いやいや、謝罪するだけならこうだ。『統合総括会議の判断ミスであのような甚大な被害を招いてしまい、申し訳ありません』これだけでいい。
統合総括会議の一員としての謝罪なら、わざわざ『回復剤を戦意高揚剤に切り替える決定を止められなかった私の責任』なんて言う必要はない。それは統合総括会議内部の話しだからだ。
こういう連中は嫌ってほど知っている。他人の思考を自分の都合のいいように誘導し、挙げ句の果てに平気で背中から刺してくる……そんな、あまりお近づきになりたくないタイプの連中だ。
「やっぱり戦意高揚剤ってやつのせいですよね。突然みんなおかしくなって……。わたしとエステラは中和剤を使ったんで大丈夫でしたけど、おかしくなったみんなを止められなくて……戦意高揚剤ってやつがなければ、もう少し……」
戦意高揚剤は最悪だけど、元々はあんな奇襲を許した防衛体制とOJTのシステムの不備のせいだと思うけどな。
「本当に申し訳ありませんでした。最後まで反対したのですが、私の力不足のせいで内務部長のステラさんに押し切られてしまいました……前線で戦わない後方の魔法少女には、前線の厳しい状況が理解できないのです」
なるほど、前線と後方で確執がある、と。で、前線のエミリーは、後方の内務部長のステラを陥れたい……という感じかねぇ?
「エミリーさんは止めようとしてくださったんですよね。それならエミリーさんは悪くないです……。でも、その内務部長のステラさんという方が、もう少し前線のことを分かっていれば……」
何も気づかないフリをして、少し悲しそうな表情を浮かべ、エミリーが望んでいるだろう言葉を言ってやる。
こういう連中には、バカのフリをし、いいように利用されているフリをする方がいいってことを嫌ってほど知っているからだ。ヘンに賢しく振る舞って警戒されたらやりにくいでしょ? 適当なところでバカのフリをしてエスケープするのが正解。
「申し訳ありません。統合総括会議内で、私にもう少し発言力があれば……」
統合総括会議で、後方の内務部長のステラより発言力を確保したい、ということかねぇ? エミリーがわたしに接触したと知れば、ステラってのも接触してくるかもしれないな……あーあ、面倒くさい。
とりあえずこのタイプの人と一緒にいるのは精神衛生上良くないので、早めに退場していただこう。せっかくのスイーツが不味くなる。
「エミリーさん、今日はわざわざありがとうございました。エミリーさんみたいな前線のことを分かってくれてる人が統合総括会議に居てくれるというだけで、少し安心できます……」
「今回の件で後方組の者達も、少しは目が覚めたと思いたいのですが……」
「エミリーさん、わたしに何かできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね!」
やるかどうかは別だけどなー。
「ありがとう。今日はリリナさんに会えてよかったです。ずっと謝りたいと思っていたのです。では、今日はこれで失礼させていただきますね。私みたいなのが居ると、ゆっくり楽しめないでしょうから、ふふっ」
まだ目を白黒させているアンナへ一瞬視線を送ると、エミリーは立ち上がった。ようやく帰ってくれるらしい、わたしも急いで立ち上がる。
「本来なら正式にお伺いして謝罪すべきなのですが、偶然リリナさんを見かけ、どうしても早くお詫びを伝えたくて……。正式な謝罪は、また日を改めて伺わせていただきますね」
「はい! エミリーさん、頑張ってくださいね!」
ファンになったかのように元気よく手を振って、エミリーの背中を見送った。
「ううっ、すいません、後方組ですいません……」
アンナが下を向いてブツブツ謝り続けてる。
そういえばアンナは勤務部っていう前線に出ない部署だったな。うーん、さっきはずいぶんと居心地悪かったろうな。でも良いじゃん、安全な後方組、最高じゃん!
「後方組、いいじゃないですか。安全な後方組、最高ですよ。わたしもアンナさんみたいな後方組がいいなー」
「リリナさん……」
アンナが瞳をウルウルさせながら見つめてくる。
「後方は戦闘以外の特殊な能力がないと配属されないですよ? リリナさんみたいな戦果を上げて注目されちゃったらまずムリですね」
えー、マジで!?
「特殊作戦部長のエミリーさんに気に入られちゃったみたいですし、特殊作戦部にスカウトされるんじゃないですかね……あっ! リリナさん、もしスカウトされても絶対入っちゃダメですよ! 収入は良いですけど、いつも最前線送りで死傷率激高ですから!」
死傷率激高でアレが上司とか、死んでも嫌だわ! スカウトされたら何て言って断るか考えとこ……。
まったく、ああいうタイプと合うと、嫌なことを思い出してそうになって気分が悪い……。
面倒事に巻き込まれそうな嫌な予感がするけど、まず目の前の魔法少女研修を終えることを考え……いや! まずは目の前の高級スイーツを堪能すべきだ!!
「よし、気分転換にスイーツおかわりしちゃいましょう! ね、アンナさん!」
「そうですね。次は2番目に高いコレを……」
わたしは、追加で苺のミルフィーユ・グラッセを、アンナがショコラ・テリーヌを注文。アンナと2人、高級スイーツを堪能させていただきました!
ああ、会計の時、全額エミリーが支払いを持ってくれると言われ無料だった。別に経費だからいいのにね。
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