19話 魔法少女研修3 初めてのゴスロリ体験
魔法少女研修9日目――。
眠い目をこすりながら何とか規定時間までに起床。
今日は夢を見なかった……思い当たるのは、昨日、聖導連盟との休戦が成立したという話を杏から聞いたことくらいか。安心したからかもしれない……分らん。
杏の講義が終わった夕方。豪華な夕食に舌鼓を打ち、満腹の余韻に浸りながらようやく見慣れてきたロリボディで長風呂を堪能し……。
「ん?」
気分上々で風呂を出ると、奇妙なモノが置いてある。
「杏お姉ちゃーん! 服、間違えてるみたいだよ!」
バスタオルを身体に巻いて、居間に待機しているはずの杏に声をかけると、すぐに杏がドアを開けていつもの無表情な顔をのぞかせた。
「どうしました、理奈さん」
「いつもの下着とパジャマが無くて、何かヘンなのが置いてある。間違えたんじゃないかな?」
どうよ? わたし完璧に13歳の女の子じゃね!? 完璧っしょ! どっから見ても13歳の小悪魔系ツインテール美少女だわ!
鏡に写るバスタオルを巻いただけのツインテール美少女を見ると、さらに自信が増す。色気はないが、ちゃんと13歳の女の子っぽいぞ。うむうむ、これは研修卒業も近いな。
「間違いではありませんね。今日からはソレを着てください」
薄い黒い布地のようなモノを持ち上げてみる。
「なにコレ?」
「いやですね、理奈さんの下着ですよ」
あー、やっぱりそうなんだ。信じたくなかったんだよね……。布地面積の少ないフリフリのついたレースの下着……大人の下着ってやつ? いやいや、普通これはアカンでしょ。
「いやいや、杏さん、三枝理奈って13歳の女の子ですよね。さすがに、この下着は着ないですよ。設定的に矛盾があります」
「理奈さん、常に三枝理奈として行動するように言いましたが、忘れてしまいましたか?」
「いやだって、三枝理奈って13歳の女の子の設定に疑義が生じているわけで……」
「とりあえず、三枝理奈として話してください」
うっせーな、コイツ。そこまで言うならやってやんよ!
「杏お姉ちゃん、コレって大人の人が着るやつだよ。13歳の女の子はこんな下着、着ちゃダメなんだから」
「フフフ。良いですね、とても良いです。フフフフフ」
うぐっ。少し前のわたしなら、このような辱めには耐えられなかっただろうが……杏に鍛えられた今のわたしなら!
「もう、杏お姉ちゃん、真面目に聞いてよね!」
どうよ、連日の特訓の成果は! 毎日、杏から受ける辱めに耐え抜いた今のわたしにとって、この程度の恥辱は問題ないのだよ……。
「時世に疎い理奈さんが知らないのは無理からぬことですが、今時の13歳の女の子は普通にそういう下着を着ているのですよ」
嘘つけ! そんな訳ねーだろ! って、嘘だよね……? 本当に今の13歳ってこんなの着てるの!? 若者の性の乱れは、そこまで……。
「嘘、だよね……嘘だと言ってよ、杏お姉ちゃん!?」
「はい、嘘です」
ぶっコロ!! 何コイツ、何でそんなしょーもない嘘つくんだよ! 焦っちまったじゃねーかよ! 疲れるわー、マジで疲れるわー。
「理奈さんが、どれくらい現代の女子中学生文化を理解しているか試させていただきました」
「絶対それも嘘だよね……」
「ごめんなさい。慌てる理奈さんが可愛くてつい」
ついじゃねーよ! このクソ無表情女が!
「ですが、本当にこれは研修のカリキュラムに入っているのです。お姉ちゃんも理奈さんに、そのような卑猥な下着を身につけろと言うのは心苦しいのですが、お姉ちゃんの一存でカリキュラムを変更することはできないのです」
これは本当っぽくて嫌だなぁ……。
「何でそんなヘンテコなカリキュラムがあるの?」
「これは聞いた話ですが、色々な種類の女性用の衣服に慣れるためらしいですよ。設定的には13歳の女の子ですが、ほら、中身はアレですし、問題ないかと」
確かに中身はアレだけどさぁ。もういいよ、着ればいいんだろ、着れば。ただの下着だしさぁ……。
手に取ってしげしげと眺める。ただの下着だ、ただの下着なんだが……これを着てしまうと何か大切なものを失ってしまうような気がする。
「理奈さん、早くしてください」
何で薄っすらと頬を赤らめてんだよ! すごく怖いんですけど! あ、この女、スマホ取り出したよ! 何するつもりだよ!
「何でスマホ構えてるんですか? 着替えるんで、出て行ってください!」
「チッ」
舌打ちしたよこの人。ライナの態度が悪くなったのって、もしかして杏の自業自得じゃね!?
何とか杏を追い出す。どうせ監視カメラで見られてるんだろうけど、目の前で撮られるのは何かムカつく。
「隣にパジャマ代わりのベビードールが置いてありますので、それも着てくださいね」
はいはい……。
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何か大切なものを失ってしまった……。
鏡に写る、黒い大人の下着の上にベビードールを着た姿は、何と言うか……背徳的な香り。
ベビードールは露出が多いわけではないのだが、ツインテールのロリフェイス、ロリボディとセクシーな衣装のミスマッチ感の背徳さがヤバい。
これ、千桜の誰かが趣味で着せてるんじゃねーの?
「写真撮ったら肖像権の侵害とセクハラで上に報告するからね、杏お姉ちゃん♪」
リビングに戻るなりスマホを構えて待ち構えていた杏に先制攻撃を加えておく。
「うっ、可愛かった理奈さんが、だんだん調子に乗ってきました」
いや、調子に乗ってるのはお前だろ!
「とりあえず、ちゃんと着たからもういいよね?」
「そうですね。指導教官としては、これ以上言うことはありませんが、一応先輩からの助言です。明日から色々ヘンテコな衣装が出てくるから覚悟しておいてください。かく言うお姉ちゃんも、研修時には着せ替え人形のごとく色々な衣装を着させられたものです」
マジかよ。千桜の誰かの趣味説が濃厚に……確かに見た目は完璧な美少女だしな。
美少女に色々コスプレさせてコレクションしたくなる気持ちは分からないでもない。ないのだが……コスプレさせられる方になるのは心外だ。
「はぁ……分かった、覚悟しとく。じゃあ、杏お姉ちゃん、おやすみー」
明日から妙な衣装を着させられるのか……何だか疲れた(心が)ので、話しを切り上げようとすると、杏に背中を軽くたたかれる。
「実は、22時から翌日の5時までは監視カメラが切られているのです。22時から翌日の5時までは監視カメラが切られているのです」
はいはい、大事なことなので2回言ったのね。で、それ誰得情報なんだよ?
「分かった。んじゃあ、おやすみねー」
「はい、理奈さん。おやすみなさい。良い夜を」
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魔法少女研修10日目――。
「よくお似合いですよ、理奈さん」
スマホのフラッシュを浴びながら、何とか怒りを押し殺す。
「そ、そう。うれしいなぁーー」
朝から黒いゴスロリ服にヘッドドレス? ってヤツに部屋の中なのに厚底ブーツ、『ドロワーズは野暮なので不要です』と言われたので下着は黒いレースの普通のやつ……もちろん自分で着たよ。メイクも自分でした。研修でメイク習ったし。
「メイクはもっとダーク系の方がヤンデレっぽくてお姉ちゃんは好きですけど、今のゴスロリメイクも可愛いです」
パシャパシャとスマホのフラッシュを瞬かせながら、杏がわたしの周囲をぐるりと回る。3Dデータでも造るつもりかいな。
「はい笑ってください。ちょっと硬いですね。もっと自然にお願いします」
どうして黙って杏に撮影されたままになっているかというと、朝、杏が撮影許可証という書類をもってきたからだ。
配膳に来た女の子に確認したんだけど、千桜の人材育成部門らしい勤務部? という部署の正式な許可証らしい。
研修の進行具合の報告書に使用するためと書いてあったけど、コレ絶対誰かの趣味だと思うんだよね……。
「ふぅ、いい絵が撮れました。実はツインテールの魔法少女は数が少ないのです。分類すると、ツインテールはUR、ウルトラレアですよ。誇らしいです」
杏、ソシャゲにはまってそう……。
「フフフ。これは結構良いマギトになりそうですね」
「売ったりしないよね? 報告書に使うんだよね? ヘンなことに使ったら上に報告しますから!」
「チッ……分かってますよ」
また舌打ちしたよコイツ。なんか遠慮というか、常識まで無くなってきてない? ってか、最初からあったかどうか怪しいけど、コイツも魔法少女だし……。
「んっ!?」
杏の視線に何か違和感。視線の先を追って、わたしの視線は下へ……。
ってこれ、下からパンツ丸見えじゃねーか! 床面の鏡に、わたしの下着がバッチリ写ってる。思わずしゃがみこんで鏡に写らないようにしてから、ハっと我に返る。
いやいや、別にパンツくらい見られてもいいだろ。もしかして、思考まで女の子になってきてる!?
いやいや、いやいや、そうなるようになる研修を受けてるんだから当然……だよね? 問題ない……はず。今のわたしは13歳の女の子、三枝理奈……13歳の女の子、三枝理奈……契約だから、ちゃんとしてるだけだ、うん。
下着が見えで恥ずかしいと言うのは不自然ではない、というか、13歳の女の子の三枝理奈なら文句を言わない方がよほど不自然。うん、ここは普通に文句言おう。本当にちょっと恥ずかしいし……。
「あの……杏お姉ちゃん。下の鏡、下着見えちゃって恥ずかしいんだけど……」
「良いです。とても良いです。頬を染めながら、下着が見られてしまうと恥じ入ってしゃがみ込んでしまう理奈さん、とても良いです」
抗議などどこ吹く風と、杏はパシャパシャとフラッシュを瞬かせながら撮影を続ける。やっぱ腹立つな、この女!
「杏お姉ちゃん?」
さすがに声を荒げて睨みつけると、効果があったのかようやく撮影を止める。
「分かりました。一定の成果があったということで、下の鏡は止めましょう。これ以上理奈さんのパンチラが撮影できないのは残念ですが」
パンチラってなぁ……。
どんな仕掛けか分からないが、しばらくすると鏡張りだった床が大理石調に変わる。
「では、昨日の続きから始めましょう。今日も千桜の組織についてです」
何事もなかったかのように、いつもの無表情で杏に告げられ、ゴスロリ姿のまま魔法少女講義が始まったのであった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
杏の講義が一段落し小休憩中――。
「ところで理奈さん」
ゴスロリ正装で座るわたしに、杏がズイと顔を寄せてくる。
「な、なに?」
「せっかく22時から5時まで監視カメラが切れているという貴重な情報を提供したのに、どうしてすぐ寝てしまったのですか? おかげてお姉ちゃんは寝不足気味です」
また訳の分からないこと言い出したよ……。
「昨日は疲れたので(心が)、いつもより早めに寝たんだけど、何かあったの?」
「何もなかったのが大問題なのです。本来なら『イベント』が発生していたはずだったのですよ……」
「?」
「夜、初めて大人の下着を身に着けた理奈さんは、身体が火照り、寝付けずにベッドの中で何度も寝返りを繰り返していました……そして、ふとお姉ちゃんの言葉を思い出すのです……」
「???」
「そういえば、杏お姉ちゃんが明日の5時まで監視カメラが切れてるって言ってたよね。今なら……そう思った理奈さんは、身体の火照りを止めるために、その指を自らの熱く潤った……」
「やめーーーーい!! 人をネタに妙な妄想垂れ流すなーーー!!」
「妄想なんてとんでもありません。起こるはずだったの『イベント』の話しをしただけです」
「いや、いや、いや、そんなイベント起きねーから!」
「おかしいですね、監視カメラが切れていると知った他のみなさんは『女の子の神秘を探求しようイベント』が発生したのですが。どこかでフラグ立てを間違えてしまったのでしょうか」
何その妖しいイベント。絶対起きねーよ!
「大体、寝てたの知ってるってことは監視カメラ切れてないよね! 寝不足気味って、ずっと見てたってことだよね!」
「さすがは理奈さん、鋭い洞察力です」
「誰でも分かるわ!」
「ライナさんは、ちゃんと引っかかってくれたのですが……」
今、『引っかかって』って言っちゃったよコイツ。あー、ライナの態度が悪かったっての絶対コイツのせいだわ。
ゴメンね、ライナのこと誤解してたわ。他者には最低限の敬意をもって接するべきだと思ってたけど、世の中には敬意に価しないクソゴミムシ野郎も存在するわ。そう、わたしの前に!
「はぁぁ」
落ち着けわたし。クソゴミムシ野郎だと分かったならば、そう弁えた上で対応するだけのこと……。
「わたしにはそんな妙な『イベント』は起きませんので、妙な小細工はやめてね、杏お姉ちゃん?」
「そうですねぇ。そこまでおっしゃるのでしたら、理奈さんが可愛らしくお願いしてくれたら、考えてもいいですよ?」
舐めてんのかコイツ!
「~~~~~~~~~っ!!」
怒りでワナワナと震えていると、いきなりフラッシュが光り、アンナが構えたスマホからシャッター音が響く。
「ツインテールゴスロリ娘のガチギレ画像ゲットだぜ」
ブチっ! わたしの怒りが有頂天になったわ!
「…………………………」
ガシっと杏の腕を掴むと、構えていたスマホを取り上げた。そして、床に叩きつけるように頭の上に杏のスマホを振り上げる。
「ああーー、か、返してください。い、いやですねぇ理奈さん、誤解ですよ。これは……そう、理奈さんがどんな状況でも三枝理奈として行動できるか、試していたのですよ。これもカリキュラムなのです!!」
杏が目を泳がせながら、滅茶苦茶早口で言い訳する。
「あ・ん・ず・お姉ちゃん?」
スマホを地面に叩きつけるようにさらに振りかぶる。
「ごめんなさい。理奈さんのあられもない姿の動画をゲットできるとワクテカして朝の5時まで起きていたのに、空振りに終わってしまったのでついイジワルをしてしまいました。どうかお願いします。スマホを返してください」
クズがぁ!
「もうヘンな企みはしないって約束できる?」
「はい、約束します。ヘンじゃない企みで我慢します」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
あまりにもアホらしくて怒る気も失せた。大きなため息をつき、仕方なく杏にスマホを返す。
「ふぅ、みんなに頼まれていた大切な画像を危うく喪失してしまうところでした。URツインテールゴスロリ娘の画像データは大人気で予約がいっぱい入っているのです。臨時収入でウハウハです」
みんなって何だよ、みんなって! もう一度、杏のスマホを取り上げる。
「ああー、返してください……」
哀れそうな声を出す杏を無視して、保存されてる画像データをチェック。
あれ? ゴスロリ、メチャ似合ってない?
鏡に写る姿もちょっと可愛いかなって思ってたけど、杏の撮った画像はアングルや表情のとらえ方が絶妙で、ゴスロリドレスがアンティークドールのような繊細で高貴な雰囲気を演出。恥ずかしそうに頬を赤らめた表情が蠱惑的な魅力を放っている。こうやって見ると……メチャクチャ可愛い!
「可愛い……」
「そうでしょう! フフフ、理奈さんも、ようやくご自分の魅力に気が付いたようですね。コスプレ撮影には定評のある杏の傑作です。後で理奈さんにも画像データをお渡ししますよ?」
ちょっと欲しい……いや、いや、いや、いや! ダメだろ、わたし!
パンツが写った画像とガチギレ画像は削除し、杏にスマホを返す。
「ああー、パンチラ画像が高く売れるのに……」
「あ・ん・ず・お姉ちゃん、報告書用の写真だよね? 売ったらコロス!」
「はい……」
ダメなお姉ちゃん持ったみたいな気分だわ……。
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