16話 魔法少女研修1 三枝 理奈です♪
真っ暗な空間に、ピンク色のふわふわの髪が靡き、首だけのライナが血まみれで浮いている。
その横には、上半身だけのエマが同じように血まみれで浮き、他にも緑の髪の委員長に、赤髪、青髪、金髪に銀髪、付き合いほとんどないが、決して忘れらない連中。
みんな血まみれの姿でニコニコ笑っている。
「またきたのかよ。まったく毎日、毎日ご苦労なことだ。いいか、人は必ず死ぬ、必ずだ。だから焦らないでもうちょっと待ってろって」
恐怖はない。わざわざ毎日迎えにきてくれるみんなに、少々の呆れと感謝の念。俺は苦笑を浮かべながらみんなを見つめた。
「またな」
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何度目かのアラームの音で、ようやく脳が覚醒しはじめる。
「ん、んっ~~」
眩しい光の中で目を開けると、ネコちゃんがプリントされたピンク色のパジャマを着崩した、黒髪ツインテールに少し眠そうな目の美少女が、天井からこちらを見ている。つまり、俺……わたしだ。
前後左右上下、6方向を鏡に囲まれた異常な部屋。それが今の俺……わたしの居る所だ。
「ふぁぁ……」
俺……わたしが自分で見ても可愛らしいと思うような仕草であくびをしながら、アラームを止めベッドから起き上がる。
「おはようございます。理奈さん」
いつの間にか部屋に入っていたのは、ブラウンのショートボブに黒い瞳のパンツスーツの美少女はアンナこと、現界名、榊原杏だ。
「んっ……おはようございます……えと、杏さん」
あくびを噛み殺しながら、俺……わたしも朝の挨拶を返す。
「………………」
杏が無表情でジーーっと見つめてくる……あっ!
「おはようございます。杏お姉ちゃん」
「理奈さん、言葉遣いには注意してください。これは遊びではありませんので。では、あらためて……今日の魔法少女研修を始めます」
そう、今の俺……わたしは、魔法少女研修の真っ最中なのだ――。
「よろしくお願いします」
あれから毎日、アンナこと杏にマンツーマンで魔法少女の能力や現界、千桜のシステム、魔法少女と千桜の歴史、その他諸々の魔法少女として必要な知識を、起床から就寝まで叩き込まれる日々が続き……。
今日は魔法少女研修5日目――。
「今日も寝坊ですか? 昨日も既定の時間には起床しているよう、言いましたよね?」
杏が無表情のままジーっと見つめてくる。
「すいません。以後、気をつけます……」
以前は寝坊なんてしなかったのに、低血圧? よく分らんが、多分この人間ボディーのせいだろう。この身体に変身させられてから、どうも朝は眠くて仕方がないのだ。
だからといって寝坊が許されるわけじゃないのは百も承知。元々、遅刻絶対許さないマンだった俺としては心から申し訳なく、ひたすら杏に謝罪する。
「昨日も同じことを言いましたよね」
「うっ、その、俺も遅刻は嫌いなんで本当に申し訳ないと思ってます。ちゃんとアラームはかけていたんですが、知らない間に止めてしまったようで……その、本当に申し訳ありません」
俺の大嫌いだった、遅刻して言い訳するクズ野郎になっていることを自覚しながら、ひたすら謝る。以前は許せなかったが、眠くなる体質だったらしょうがないのかなぁとも思う。うん、今後は、ある程度は容認することにしよう……。
「………………」
言い訳したのが気に食わなかったのだろうか、杏が無表情で睨みつけてくる。そこまで怒らなくても……いや、寝坊した方が悪いな、ゴメン。
「すいません。明日は絶対に寝坊しません。約束します」
「………………」
まだ怒ってる。俺より背の高い杏に無表情で睨まれると怖いんだけど……。
「さっき『俺』っていいましたね」
「え、あっ!」
魔法少女研修が始まってすぐに、『俺』から『わたし』に言葉遣いを変えるよう言われたのだ。思考から根本的に変えろと言われて、面倒くさいけど頑張ってたのに、完全に俺……わたしのミスだ。
「研修初日に、この姿に変身する理由を説明しましたよね。どうしてわざわざ人間の女の子に変身するのか理由を言ってみてください」
「はい。魔法少女の存在を一般社会から隠蔽するためです」
「そうです。ではなぜ、魔法少女の存在を隠蔽する必要があるのでしょう?」
「魔法少女が現界の組織に利用されたり、危険視されて排斥されないようするためです」
「そうです。魔法少女の潜界と帰界の能力を使えば、理論上あらゆる場所に侵入可能です。その能力を現界組織に利用されたり、危険視されて排斥されないように、魔法少女の存在は隠蔽されているのです」
現界から鏡界へ移動する潜界、鏡界から現界へ帰還する帰界能力。魔法少女が持つ、この2つの能力を使えば、理論上、現界のどんな場所にも侵入することができる。戦争や諜報に利用できるだろうし、危険視されれば魔法少女狩りが始まるだろう。
「そのために、身分証明書と偽装プロフィールを作成し、普通の女の子として生活するのです。理解できていますか? 三枝里奈さん」
そう、今のわたしの名前は三枝里奈。16歳の従妹、アンナこと榊原杏を『杏お姉ちゃん』と慕う13歳の女の子……という設定だ。
正直、結構面倒くさいのだが、魔法少女として三枝里奈を演じる必要があるのなら、契約通り、魔法少女として三枝里奈をやるしかない。
「はい、ごめんなさい。杏お姉ちゃん……」
三枝理奈として杏子に答える。契約は守られるべきだ。ちゃんと魔法少女しなければ。
「理解していれば、いいのです」
三枝理奈としての返事に、杏が少し頬が緩んだ……ような気がする。
「普通の女の子として行動する理由ですが、魔法少女の存在を隠蔽することも重要ですが、実はもっと切実な問題があるのです。昨年は6ユニットの魔法少女が現界で死亡しています。表向きは全て事故死とされていますが、全て暗殺です」
えっ、魔法少女って暗殺されんの!?
「死亡した6ユニットは、奇異な言動で周囲から不信な目で見られていた、という共通点がありました。不用意な言動から素性が露見し、当時交戦中だった黒狼に暗殺されたと考えて、まず間違いないでしょう」
鏡界では戦争、コッチでは暗殺……ろくでもないことをさせられるとは思ってたけど、想像以上にブラックだな。ああ、それであんな方法で契約者を探してたのか。納得だわ。
「現界で魔法少女同士の接触が禁止されているのは、魔法少女だと露見した時に他の魔法少女達に危険が及ぶのを避けるためです。たった一言の不用意な言動から、命の危険を招くこともありますので、周囲からは普通の女の子だと思われる必要があるのです」
実は少し大げさに言ってるのかと思ってたんだが……予想以上にガチなヤツだった。生死に関わるレベルのヤツじゃねーか。
「この鏡張りの部屋も、自然に女の子として行動できるようにするための仕掛けの1つです」
全面鏡張りの部屋とか、そりゃ何か意図があるよね。この部屋はトイレ、バスルームもあるが、全て鏡張りで落ち着かないことこの上ない。
「人間は……魔法少女もですが、無意識のうちに外見に合った行動をするようになります。鏡で常に女性の外見を意識すれば、心理的にも自然に女性として行動するようになるのです。着衣認知とかラベル効果と呼ばれるものですね」
何それ、マジ!?
「理奈さんも、研修初日に比べてだいぶ女の子らしくなってきてますよ。最初はだらしなく脚を広げて座っていましたが、今は自然に膝をそろえて座るようになりましたし、一つ一つの仕草が女の子っぽく可愛くなっています」
おお、言われて初めて気づいたけど、本当だ。凄げぇ! 全然気にしてなかった。確かに、いつの間にか女の子みたいな座り方してるわ!
「この方法は、常識がないと効果がないんですけどね。例えば『女の子は脚を開いて座らない』という常識がない人には効果ありません。魔法少女は常識がない人が多いので、そういう人達には体で覚えてもらうことになります」
体で……。エステラは体で覚えさせられてそうだな。
「とにかく、今、千桜は聖導連盟と交戦中です。リスク回避のためにも、常に三枝理奈としての適切な言動を心掛けて、魔法少女だということが露見しないようにしてください。理奈さんが死んでしまうと、お姉ちゃんは悲しいです」
無表情で言われても、嘘くさいことこの上ない。コミュニケーションのおける表情の大切さを実感するわ。
「分かりました。うまくできるよう頑張ります」
鏡に写る可愛らしい容姿に合った、可愛らしい喋り方を心掛ける……できているかどうかは、別問題が……。
「はい、お願いします。三枝理奈として自然に行動できるようになるまで研修は終了しませんので、頑張ってください。それでは、理奈さんが支度を整えたら朝食にしましょう」
俺……わたしは杏に見送られ、鏡張りの洗面所へ向かう。
全面鏡なのに、なぜか洗面所の正面にも別に鏡が用意されている。コレ、無駄じゃね? などと思いながら、歯磨き。あ、食後もちゃんと磨くよ。
洗顔後にスキンケア。その後は髪のお手入れ。
ツインテールって面倒臭さそうだけど、あら不思議。髪留めが無くても、自然にツインテールの髪型に戻るんですよ!
強引に別の髪型にもできるけど、勝手にツインテールに復元していくので、頭がヘンな状態になるのよ。まさにツインテールも身体の一部的な感じ。
と、ここまでで朝食前の準備はだいたい終了。正直、『前』に比べると凄げぇ面倒くさいんだよね。まあ、契約だからちゃんとやるけどさ。あ、研修終わったら、どうか分からんけど……。
準備されていたネコちゃんプリントのスウェットにオレンジ色の短パンというラフ私服に着替える。『前』の俺が着れば噴飯ものだが……うん、鏡に写る姿はとても可愛い!
よし! 今日も魔法少女を頑張るぜ!
あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!




