15話 初めての現界
「っ……!」
スイッチが入ったように目が覚める。時計を見ると、アラームをセットした時間の少し前だ。
「便利だな、魔法少女……」
目を瞑って寝ると決めれば寝れるようだし、予定の時間を自分で決めておけば、その時間に勝手に起きるみたいだ。まったくもって工業製品じみてる。
はだけたバスローブを脱ぎ、昨日浴室に脱いだままになっていた下着を身に着け、鏡の前で適当に洗顔して(魔法少女の肌は汚れないけど、朝、顔洗わないの気持ち悪いからね)身だしなみを整える。
「こんなもんかねえ……」
軍服風の魔法少女衣装に着替え、ツインテールにリボンをつければ、イイ感じのツンデ……いや、ツインテール娘の出来上がりである。
「刷り込まれてた知識のおかげとはいえ、意外にすんなり着替えられるもんだな」
マギドールの身体に関しての知識が刷り込まれてるんだけど、服とかリボンとかブーツなんかは付属品扱いなのかもしれない。メンテナンス説明みたいな感じで色々知識があって助かった。
時間を食いそうだった編み上げブーツもすんなり履くことができ、適当にストレッチしながらアンナを待つ。
「ほっ! よっ! はっ!」
身体が軽い! 『前』とは比べ物にならない! どっかから力が漲ってくる感じ。服も見た目より動きやすいし、なにこの十代の時に戻ったような、この元気溌剌感! 最高なんですけど!
これ、死にそうなジイさんとかバアさんに、この状態になること教えてから契約持ち掛ければ、無条件で魂売ってくれるんじゃね?
契約に何か条件でもあるのかねぇ? どうなんだろ……黒い男って、凄い力をもってるのは事実なんだけど、神様とかとは違う感じなんだよね。体を横に曲げる運動をしながら、とりとめのないことを考える。
「んーーーーっん!」
体を前後に曲げる運動をしていると、ドアをノックする音がした後、ガチャっとドアが開いた。そういえば鍵なかったな。
「おはようございます。リリナさん」
「んっ……おはようございます、アンナさん」
身体を後ろに反らせていた俺は、急いでアンナに向き直る。
「準備はできているようですね。まず現界に行きますので、ついてきてください」
単刀直入過ぎるだろと思いつつも、迷路のような通路をアンナの後ろについて行くと、この前に乗ったエレベータに乗りマンションのエントランスロビーのような所へ出る。
「今回は、帰界を使いますが、通常はベースの転移装置を使用することになります」
アンナの言う、帰界というのは、俺の知識にあった魔法少女の固有能力の世界移動能力のことだろう。潜界は現界から鏡界への移動する能力で、帰界は鏡界から現界への移動する能力だ。
能力を使うと、空を飛ぶみたいな感じで世界間を移動することができる……らしい。転移装置なんてモノは知らないけど。
「転移装置ってのは……?」
「文字通り、世界間の転移装置です。転移装置に個体識別名を登録しておけば、メタルチョーカーを介して元いた現界の地点へ瞬時に移動できます。逆に現界からは転移装置の周囲へ即座に移動できるため、通常、潜界や帰界は使われません」
おっ、ファストトラベル的なのあるんだ。便利、便利。
「リリナさんは現界の座標が存在しないので、今回は帰界を使います。潜界と帰界は、現界と鏡界、同じ場所へ移動するので、この場所で使うと現界の街の真ん中に出現することになってしまいますので、もう少し移動します」
アンナはそう告げると、エレベーターを無視して階段を上っていく。俺はアンナの後へ続き階段を登って行った。マンションの屋上まで……。
『前』だったら途中リタイヤ確実の苦行だが、魔法少女の強靭な肉体はさしたる苦痛を感じることもなく、あっけなく屋上へ到着する。
屋上からは周囲が一望できた。この周辺では戦闘がなかったのか、街並みは綺麗なものだ。朝の太陽が無人の街を照らし、澄んだ空気が胸いっぱいに広がった。
おー、生きてるって感じがするわ!
鏡界だろうが、太陽は太陽だ。朝の清々しい空気の中で陽光を浴びると、テンション上がってくる。
「最初ですので、私がリリナさんを連れて帰界を使用します」
「あ、俺一人で……」
能力の使い方は知っている。テンション↑↑の俺は、自分で能力を使ってみたかったんだけど……突然、俺より少し背が高いアンナに、後ろから腰をギュっと抱きしめられた。
「ふぁ……」
ヘンな声出た……ま、まあ、いいか。自分で移動する機会なんてこれからいくらでもあるし、背中に何か当たってるし、何か良い匂いがするし……。
「良い匂い……」
「っ!?」
お、声に出てた!? いや、違うから! ヘンタイじゃないから!
「帰界」
心の中で色々な言い訳を考えていると、気にした風もないアンナが呟き、球形の虹色の光が俺達の周囲を包む。
「おおー!」
そのままシャボン玉のようにふわりふわりと上昇し、脚下には街並みが小さく広がっていく。
「帰界で現界まで移動するには、およそ2分程かかります」
身体を密着したまま耳元で呟かれると、妙な気分になるのでやめて欲しい……何か当たったままだし。しかし2分って結構長いな。ゆっくり上昇しながら脚下の街並みを眺めるの、俺は楽しいけど、高所恐怖症のヤツだと地獄だろ。
「結構遠くまで見えるんだ」
さらに高度が上がり、魔法少女の強化された視力のおかげで、遠くの建物が崩れている地域がチラホラ見える。
「はい、遠くから私達が良く見えるはずです。世界間を移動中は防御魔法も使えないので、良いマトになります。そういう意味もあって、潜界と帰界を使わないのです」
えっ、大丈夫なの!?
「今、近隣の地域で聖導連盟の活動は確認されていませんので、大丈夫ですよ」
アンナは俺の心配に気づいたのか、そう言って俺の身体をギュっと抱きしめる。いや、何か妙な気分になるからやめて……当たってるし。とか思ってると、真っ白な光に包まれて……さっきのビルの屋上に居た。
だが、さっきとどこかが違う……周囲を景色を見てハっと気づく。人が居るのだ。下の通りを、人々が行き交う姿が見え、現界に戻って来たことを確信した。
「お疲れさまでした」
突然後ろから声を掛けられ、ビクっと身体が跳ねる。
いつの間にか黒スーツ姿の女子高生か入学したての女子大生くらいに見える女の子が2人、俺の方に近づいてくる。
美少女過ぎるので多分魔法少女だろう……いや、髪も瞳も普通に黒色なので、違うか? 服もスーツだし、変装? とにかく俺達を待っていた関係者なのは間違いないだろう。
「あの、アンナさん」
ちなみにさっきからずっとアンナに後ろから抱かれたままの恰好だ。他の人も来たので、もう離して欲しい。
「大丈夫です、千桜のエージェントの人たちです」
いや、そうじゃなくて、何でそんなにギュって抱きしめてるんだよ。もしかして逃げないように拘束されてる!? と、振り向くと……。
「えっ!?」
アンナの髪がいつのまにか赤からブラウンに、金色の瞳が黒に変わり、服装まで白衣を羽織った魔法少女の衣装から、ダーク系のパンツスーツに変わっている!
「アンナさん、離れてもらえますか?」
そう言ったのは、俺じゃなくて黒スーツの女の子の1人だ。ウザそうな顔でアンナを見つめて……睨んでいる。
「すいません、つい」
何だよついって? 黒スーツの女の子に注意され、アンナがようやく混乱している俺を離してくれる。
「リリナさん、千桜のエージェントの者です。付いてきてください」
「あ、はい」
何だかまったく分からないまま、俺は黒スーツの2人についていく。
屋上から1つ下の階の一室。
室内は20坪ほどの広さで、小さな女性専門の総合衣料品店のように様々なファッションスタイルの下着からインナー、アウターまで様々な種類の衣服が並べられている。
訳も分からずフィッティングルームに押し込められた俺は、キョロキョロするだけだ。
「リリナさん、大丈夫です。現界での衣服を選ぶだけですから」
「はあ……」
「リリナさん、|マギリングを操作しますので見せてください」
黒スーツの女の子の1人に言われ、素直に左手を出す。黒スーツの女の子がなにやら俺のマギリングを操作すると、一瞬自分の身体が発光した!?
目の前の鏡を見ると、金髪だった髪が黒髪に、碧眼が黒目へと変わっている。さらに……着ていた軍服風の魔法少女衣装や下着、リボンまで消え去り、すっぽんぽんの姿に!?
「えっ、あっ? ええーーー!!!!」
叫びを上げる俺に、色々な衣装を持ったアンナと2人の黒スーツの女の子2人が近づいてくる。……。
「実は私、ツインテールの娘って初めてなんです」
「あ、わたしもです!」
「メジャーなようで、実は珍しいですからね」
「??」
「どんなのが似合いますかね?」
「ガーリー系でいきましょう」
「フェミニン系とかも良いんじゃないですか?」
「????」
「うーん、外見的に元気っ娘っぽいから、ストリート系とかどうです?」
「いえ、ガーリー系でいきましょう」
「変化球的にゴシック系とかもいいのでは?」
何でもいいから、とりあえず服を着させてくれーー!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結果として白のシンプルな下着に、トップスはグレーのパーカー、ボトムスはブラックのイージーショートパンツという無難なチョイス。
とりあえず服がきれてホっとするのもつかの間、着替え一式と共に、アンナと黒スーツの女の子2人に連行されるようにビルの外に停められていたスモークシールドに黒塗りの車の中へ……。
何の説明もなく、そのまま走りだす。どこに連行されるのかドキドキしていると、普通にファミレスに到着。おお、そういえばお腹が減ってる!?
アンナ曰く『その身体、変身体は遺伝子検査でも普通の人間と判別できない身体ですので、普通にお腹が減ります』とのこことで、納得。
ノーマネーだったけど、おごりということでステーキにチャレンジするが……無念にも途中でリタイヤ。いや、今の自分の身体のこと考えてなかったわ。デザートのチョコサンデーは美味でした……。
何か適当に世間話をして、黒スーツの女の子達とも、結構打ち解けた……ような気がする。最後まで名乗ってくれなかったけど。
ファミレスでの雑談や周囲の状況、聞き耳を立てての情報からすると、俺が死んでからほとんど時間は経っていないようだ。多分ネットで検索すれば、野垂れ死んだ俺のニュースが出てるんじゃないかな……記憶消されるから検索しないけど。
コーヒーを飲んだ後、出発。高速に乗る。
「アンナさん、どこへ行くんですか?」
「新宿の魔法少女研修所です。この渋滞だと少し時間がかかりそうですね。新宿ベースに登録すれば瞬間移動できるようになるんですけど、最初は普通に移動する必要があるんです。いつもはマイクロバスでお弁当を食べて、カラオケとかしながら移動するんですが、今回はアレでしたので」
「あ、はい……」
新宿に魔法少女研修所とかあるんだ。千桜って現界でも結構影響力あるのかな? とりあえず金は持ってそうだけど……しかし首都高っていつも渋滞してんな。音楽か何かかけて欲しいんだけど、何か眠くなってきた……。
「ふぁ……」
「起きましたか。もうすぐ着きますよ」
結構な渋滞で、寝てしまったようだ。高速を降りた時に目が覚め、新宿の都庁が見えるどこかのビルの地下駐車場へ入ったのは分かった……。
黒スーツの女の子達と駐車場で別れ、アンナと2人エレベーターでさらに地下へ降りる。
「リリナさんには、明日から魔法少女研修を受けていただきます。規定のカリキュラムを修了したと認められるまで続きますので、どうか精一杯取り組んでください」
うーん、卒検通るまでやらされるパターンのやつね……。面倒だけど、命がけの仕事だし、しょうがないのかもしれない。
「分かりました。頑張ります」
「リリナさんは、真面目で前向きで素晴らしいです。一人前の魔法少女になれるまで、一緒に頑張りましょう」
そうか? 普通だと思うけど……あっ! あー、連中みたいなの相手にしてると、そういう評価になっちゃうのか……まあ、分からないでもないか。
白い部屋に集められてワーワー騒いでいた連中を思いだす。ああいう連中用の刑務所的な研修なのかもしれない。
「よろしくお願いします」
素直に頭を下げる。担当の指導教官に気に入られて悪いことはないだろう、という打算的だが社会的な選択。まともじゃない人が多そうだから、評価上がるんじゃね!? 上がってどうなるかは知らんけど。
エレベーターを降り、迷路のような通路をアンナの後ろから歩いていく。少し進むとドアが並んだ通路になり、アンナに促され一室に入る……昨日の部屋より広い。ビジネスホテルのシングルルームみたいな感じだが、全面鏡張りのヘンテコな部屋だ。
「魔法少女研修が終わるまで、この部屋で過ごしてもらいます。部屋の外には出れませんの注意してください」
えー、軟禁かよ。テレビとかスマホとかないし、退屈しそうだなぁ。
「ああ、変身した状態だとマギリングとメタルチョーカーは消えたように見えますが、非物質化してるだけで、すぐ物質化することができます。マギリングとメタルチョーカーを想像しながら『マテリアライズ』と唱えてください」
「あ、はい……マテリアライズ!」
おおーー! アンナに言われたとおりにすると、何もなかったはずの左腕にマギリング、首にメタルチョーカーが現れる。
「消すときは、マギリングとメタルチョーカーを想像しながら『デマテリアライズ』と唱えれば見えなくなります。暇でしたマギリングの使い方を覚えてください」
「分かりました」
「食事は係りの者が運んできますので、ここで食べてください。では、今日はこれで終了です。明日から魔法少女研修が始まりますので、ゆっくり休んでください」
明日から魔法少女研修か、大丈夫かなぁ、俺……。
あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!




