104話 お食事会と三宅剛造氏との遭逢(そうほう)
ドアを開けてすぐの所にカーゴごと食事を置いてもらう。
ホテルの人に顔を合わせることなく夕食を受け取り、テーブルの上に配膳していく――エヴァさんとステラさんが!
「あー、大丈夫だから、リリナは座ってていいよ。ボク達がやるから!」
「ドジっ娘のリリナ、可愛い♪」
ちょっと躓いてサーロインステーキや、その他ちょっとした色々を落としそうになっただけなのに、即座に戦力外通告を受けてしまった……。
だって、こんなのやったことないから、しょーがないでしょ!
何か、エヴァさんもステラさんも、メッチャ手際よくて……凄く申し訳ない。
「リリナは、まだちっちゃいからしょうがないよ。今日はボク達が、可愛い後輩のリリナをもてなしてあげよう!」
「そうだね、ドジっ娘のリリナが可愛いかったから、今日はお姉さん達がサービスしちゃう♪」
ドジっ娘じゃねー! ちっちゃいけどさ……と思いながらも言い返すことができず、エヴァさんとステラさんが手際よくテーブルの上に配膳を進めるのを黙って眺める――。
テーブルの上には、初夏を感じさせる涼やかな初鰹のカルパッチョや、じっくり焼き上げられたサーロインステーキ、旬のヤングコーンと夏野菜のグリルが美しく並べられていく。
彩り豊かな冷製スープが注がれたガラス器は涼感を演出し、ラグジュアリーな室内をさらに華やかに彩っている。
高級料理店の給仕が務まりそうな、プロの配膳技術である!
「大先輩であるお二方に、このようなことをさせてしまい、まことに申し訳ございません。次の機会が頂けるのであれば、配膳を勉強しておきます……」
役員2人に食事の配膳をさせる新入社員という、社会人としてあるまじき失態である!
エヴァさんとステラさんに最敬礼、90度で頭を下げる。
「あはは、リリナは、いかにも新造魔法少女って感じで初々しいね」
「でしょ、でしょー! 私のリリナ可愛いでしょ!」
なぜかステラさんが胸を張って、わたしの自慢をしている。
抗議したいところではあるが、ステラさん達に配膳を全て任せてしまった引け目もあり、黙って下を向いておく。
「まあ、頑張って生き延びれば、こういうことも自然に覚えていくよ。さあ、冷めちゃう前にいただこう」
エヴァさんに促され、席に座る。
ステラさんとエヴァさんが向かい合わせに座り、わたしはステラさんの隣という席順だ。
「「「頂きます!」」」
さっそく肉厚なサーロインステーキと冷製スープを口に運ぶ……特別クラスのレストランに勝るとも劣らぬ口腔に広がる美味さに、思わず頬が緩んでしまう!
初鰹の爽やかな旨味と夏野菜の甘みにも大満足! うん、ココの食事は美味い! ダテに高級ホテルではない!
「あ、そうだ! リリナ、『アーン』してもらっていいかな? この前、私が『アーン』してあげたのに、リリナにお返ししてもらってないよね? ね? 『アーン』して♪」
美味い食事を堪能していると、隣のステラさんが訳の分からない事を言い始める。
「あー、この前のわたしの話、ちゃんと聞いてました? またコンプラの話聞きたいですか?」
「えっ!? いや、『アーン』とコンプラとは関係ないようなー?」
「いえ、普通にセクハラですので、以後、気をつけてください」
ステラさんとエヴァさん、2人からはAAAランクの魔法少女特有の強烈なプレッシャーを感じるものの、いつまでも怯んでいては、いいように転がされるだけである!
毅然とした態度で、セクハラに抗議する!
なんて、本当は、ちょっとだけプレッシャーに慣れてきただけなんだけどね……。
「ええー、でもぉ……」
「でもも何もありません! そういうのはプライベートで親密な方と楽しんでください!」
「私は、リリナと楽しみたーい!」
なに言ってんだ、この人!?
わたしがジト目になって見つめるが、ステラさんはまったく気にしていないようで、騒ぎ続けている……。
「『あーん』をリリナと楽しみたーい! 私はリリナに『あーん』してあげたのにズルい! ズルーい!」
子供かよ!
「はあ……『あーん』は検討しておきますから、とりあえず、ご飯食べちゃいなさい」
「やったー! ラッキー!」
何となく、ステラさんって見た目が女子大生っぽいので、若い娘を諭すように話してしまったのだが……。
ステラさんは特に気にした様子もなく食事を再開し、エヴァさんはそんなわたし達を生暖かい眼差しで見つめながら、静かに食事を続けるのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
美味なディナーが終わり、デザートの時間である。
保冷カバーを開けると、黄金色に輝くトロトロの完熟マンゴーと、瑞々しい翡翠色のメロンが贅沢にカットされて花の花弁のように飾られ、その上には上品な甘さの生クリームと滑らかなバニラアイスが添えられた『完熟マンゴーとメロンの特製パフェ』が現れる!
「おお、ゴージャス!」
大きなガラスコップに美しく盛り付けられたパフェは、見た目だけでも芸術品と評していいだろう。
「お、美味しいーーーーーっ!」
グラスの底には甘酸っぱいパッションフルーツのソースと涼やかなゼリー、サクサクのグラノーラが層を成しており、異なる食感と果汁の甘みが楽しめる至高の逸品である!
特別クラスのレストランのスイーツは美味しいけど、ちょっと小さめなんだよねー!
このボリュームとゴージャス感はポイントが高い!
変身体でパクついたら太りそうだけどね……。
「リリナ、『あーん』して! 『あーん』して!」
ステラさんがニコニコしながら『あーん』してアピール(?)してくる。
「えぇぇ……」
「リリナはさっき検討するって言ったよね。もう検討し終わったでしょ。さあ、早く私に『あーん』して!」
どういう理論だよ! マジで子供か? 子供なのか?
「も、もう少し検討しますから、パフェが溶けちゃう前に食べてください……」
さすがに2回も失礼な事を言う訳にもいかないので、今度はちゃんとした言葉使い(?)で、ステラさんにお願いする。
「もう! リリナは我が儘だなあ!」
我儘なのは、あんだよ!
と口まで出かかるが、言うと面倒になりそうなので、黙ってメロンをモグモグする。
「アハハ、ステラとリリナは仲がいいなぁ。しかしリリナって、本当にクロエに……「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!! 」」
エヴァさんが何か言おうとするのを遮って、ステラさんが大声で喚き始める!?
「エヴァ、それ秘密!」
「えっ、そうなの!? そういうことは最初に言っておいてよ。そんなの知らないよ」
ステラさんとエヴァさんが、よく分からないやり取りをしていると――プルルルル……と内線が鳴る。
「ほらエヴァ、内線鳴ってるよ!」
「ん、何だろう?」
エヴァさんは、内線でしばらく何やら話してから席へと戻ってくる……。
「ステラ、ゴウちゃんが挨拶に来るってさ。偶々ココに来てたんだって」
「そう言えばココって、ゴウちゃんのトコのホテルだったっけ。そう言えば、リリナにも関係あるのか。うん、了解。しかし、久っさしぶりだなぁ……」
わたしに関係ある?
誰だろう――などと思っていると、ドアをノックする音がする――。
「大変ご無沙汰しております」
魔法少女衣装のわたし達3人に驚くこともなく、深々と頭を下げたのは、仕立ての良さが一目でわかるスーツ姿の白髪に白い口ひげを蓄えた老人。
老人とは思えぬスっと背筋の伸びた美しい立ち姿に、老いではなく、人生の年輪として刻まれたシワに、深みのある顔立ち。瞳には強い意志を示す光を湛え、口元はわずかに微笑んでいる。
「ゴウちゃん、久しぶりだね。元気そうでよかったよ」
「ゴウちゃん、本当に久しぶり!」
旧知の間柄なのだろう、エヴァさんとステラさんは優しい視線を老人へと注いでいる。
『ゴウちゃん』という名称と、老人の容姿がどうにも合わないが、この老人が『ゴウちゃん』で間違いなさそうだ。
「エヴァさま、ステラさま、ご無沙汰しております。皆さまがいらっしゃっていると聞き、どうしてもご挨拶させていただきたく参上いたしました。お2人とも、本当に……本当に、お変わりなく……」
懐かしさを湛えた瞳でエヴァさんとステラさんを見つめた後、視線をわたしへと向けた老人は、一瞬で驚愕の表情に変わる。
「っ……!? ク、クロエさま!?」
「違う、違う。彼女はリリナだ。ゴウちゃんの孫娘ってことになってる……えっと、『三枝理奈』って名前でゴウちゃんのお世話になってるでしょ?」
ステラさんが慌てたように訂正する……『ゴウちゃんの孫娘』?
ゴウちゃん……ゴウちゃん、ゴウちゃん!? 三枝剛造か!
間違いない、目の前の老人は、三枝銀行の筆頭株主兼頭取で、現界での『わたしの祖父』という設定の三枝剛造氏だわ!
「初めまして、三枝理奈こと、リリナと申します。いつもお世話になっております」
わたしに似ている(?)らしい話題のクロエが何者か気になるが、今はちゃんと剛造氏に挨拶しておかないと……。
内心の緊張を表に出さないように剛造氏へ挨拶すると――剛造氏がホロリと涙を零す。
「3人でお食事をなされていたということは、クロエさまに連なるお方なのでしょうか。そのような方を私にお預けいただいたのですね。お2人の信頼を裏切るようなことは決していたしません。リリナさまは三枝がお守りいたします!」
??
事情がさっぱり分からないのでステラさん、エヴァさんへ視線を送るが、2人から視線を外されてしまう……。
「ゴウちゃん、リリナのこと、よろしく頼むね」
「ゴウちゃんに任せておけば、私も安心だから、お願いね」
「エヴァさま、ステラさま、この剛造、しかと承りました。本日は、融資のお礼だけでもと思ったのですが、思わぬ出会いに恵まれました。これほど嬉しいことはありません」
「どう、新規事業の方は上手くいきそう?」
「はい、おかげさまで。いずれエヴァさまへ詳しい報告が行くかと存じますので、詳細はそちらをご覧ください。では、私のような者がこれ以上みなさまの貴重なお時間のお邪魔するのも申し訳ありません。ごゆっくりお楽しみください――」
わたし達へ深々と頭を下げた後、最後にわたしに向かって慈愛に満ちた表情で笑いかけ……剛造氏は部屋から出て行った……。
花梨さんはただのスケベジジイとか言ってたけど、品の良い老紳士じゃないか……あ、ステラさんとエヴァさんが一緒だったからかもしれん。
『千桜』のAAAランク魔法少女2人に下手な態度取れないだろうし、何か『ゴウちゃん』という呼び方からして、かなーり親しい感じだったからね。
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「クロエさん……でしたっけ? ご説明いただきたいのですが……」
剛造氏が退出した後、コーヒーを頂きながら思い切って切り出した。
剛造氏が見間違えるほどわたしに似てるってクロエって誰よ!?
わたしが聞いていい事なのか分からないけど、気になるでしょ!
「………………………」
「リリナが色々聞きたいのは分かるけど、誰にでも言い辛い事ってあるだろ。薄々分かってるとは思うけど、以前、リリナにソックリな容姿のクロエって魔法少女がいたんだ。それだけだよ……」
エヴァさんは、黙って窓の外の黄昏時のビル街を眺めているステラさんへとチラリと視線を投げてから、それだけ言って口をつぐんでしまった。
ステラさんが、わたしを内務部に引き入れようと異常に執着していたのも、クロエという魔法少女が関係しているのかもしれないが……これ以上、踏み込まない方がいいだろう。
おそらく、わたしと容姿がソックリなクロエという魔法少女と、ステラさん、エヴァさん、剛造氏との間に、過去何かがあったのだろう。
明日の命をも知れぬ魔法少女、まあそういうことなのだろう。
クロエという魔法少女には少々興味はあるものの、だいたいの事情は察することができたし、これ以上詮索するつもりはない。
お偉いさんとの知己を得るのはいいが、面倒くさい人間関係に巻き込まれるのは御免なのである!
ということで、サクっとスルーすることに決定!
え、魔法少女になってまで人間関係に悩むとか、あり得ないっしょ!
「じゃあ、せっかくですので、デザートのお代わりをお願いしちゃって良いですか? この『完熟マンゴーとメロンの特製パフェ』が、とっても美味しかったので、できれば別のも味わってみたいのですが、ダメですかね?」
『全然、気にしていないよー』というアピールがてら、軽い口調で頼んでみる。
たしかメニューにもう一品、お勧めのデザートがあったので、せっかくだから食させていただきたい!
「ああ、いいよ、いいよ! この、『爽やかな紫陽花色のバタフライピーゼリーをあしらった柑橘タルト』を頼もうか――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目の前には、香ばしく焼き上げられたタルト生地の上に、瑞々しい黄金色の柑橘が敷き詰められ、その上を涼やかな紫陽花色のバタフライピーゼリーが彩る、食の芸術品のような『爽やかな紫陽花色のバタフライピーゼリーをあしらった柑橘タルト』!
紫から透き通るブルーへのグラデーションを描くキューブ状のゼリーと柑橘のコントラストが美しい逸品で、ディナーを完食し、ボリューミーな『完熟マンゴーとメロンの特製パフェ』まで綺麗に食べきった後にも関わらず、眺めているだけでジュルリと唾液が溢れてくる。
「リリナの言う通り、お代わりしてよかった。これは美味しそうだね!」
エヴァさんも、見た目麗しき『爽やかな紫陽花色のバタフライピーゼリーをあしらった柑橘タルト』を前に、口元を緩ませている。
「ゼリーがキラキラしてて綺麗ですね! 美味しそうです!」
「……………………」
ステラさんは、ちょっとブルーな感じで、フォークを手にしたまま黄昏時のビル街を眺めている。
わたしに対しての距離感のバグった対応から、ステラさんとクロエという魔法少女との関係が想像できるが、AAAランク魔法少女の心配をするほど余裕があるわけではない……。
「はむぅ……」
感情の起伏が激しい人との付き合いは疲れるので、わたしはステラさんを完スルーすることにする。スルーの達人、凛くんリスペクトである。
わたしは、黄昏中のステラさんを横目にフォークを取ると、ゼリーと柑橘、そしてタルト生地を一緒に口の中へ運ぶ……。
「ん~~~っ! 美味し~~いっ!」
サクサクッとした香ばしいタルトの食感と同時に、柑橘の甘酸っぱい果汁が口いっぱいにジュワッと広がり、そこにバタフライピーゼリーのぷるんとした喉越しと爽やかなレモンの香りが重なり合い……後味がびっくりするほどサッパリしている!
「美味っ!」
コレ、見た目もお洒落で味も極上なんて、ズルすぎでしょ!
「……………………」
隣でジメ~っとした空気を醸し出されるの、凄くうっとうしい!
しょうがないなぁ……。
「ステラさん、はい、『アーン』!」
黄昏た雰囲気を醸し出しているステラさんに、わたしはフォークの上にタルトを上手く乗せて『アーン』してあげることにした。
え、だってメチャうっとうしいでしょ!
テンション上がったり下がったりが激しい人って凄く面倒くさいんだけど、心の弱いわたしは放っておくこともできず、つい……。
サクっと全部切り捨てて完スルーできる凛くん、マジでリスペクトだわ!
「はい、『アーン』!」
わたしのヤケクソ気味の2度目の『アーン』の呼びかけに、クルリとわたしの方へと向き直ったステラさんが星型の瞳を煌めかせる!?
「えっ!? あ、ああっ!? つ、ついにリリナがデレた!」
デレてねーよ!
わたしの心が弱いだけだよ!
「食べないなら、やめちゃいますよ!」
「あ、あー…………んんっ……お、美味しい♪」
星型の瞳をキラキラさせながら両手を頬に当てて、蕩けるような表情を浮かべるステラさん。
まあ、機嫌が直って良かったわ。
「じゃ、じゃあ次は私の『アーン』の番だね! はい、リリナ『アーン』♪」
「あ、そういうのは大丈夫です。今のは、この前のお返しなんで」
「ええぇ~、エヴァ、ようやくリリナがデレたのに、またツンに戻っちゃったよー!」
「ステラ、凄く美味しいから、黙って食べようよー」
「せっかくリリナがデレたと思ったのに、思ったのに!」
ステラさんがブツブツ文句を言う横で、わたしは無言で、エヴァさんはわたしとステラさんを生暖かい眼差しで見つめながら、それぞれフォークを動かすのであった――。
収録・前編 へ続く!
※10月19日(月)19時投稿予定
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