102話 ステラさんとの宅飲み会と秘密の依頼・後編
「大丈夫だよ、リリナ……ね?」
いやいやいやいやいや、キャバ嬢接待されるのはいいが、キャバ嬢接待させられるのは御免被りたい!
「『ね?』じゃありません! 『千桜』を指導するAAAランク魔法少女の1人として、ちゃんと時代に合わせてコンプラ感をアップデートしていかないと、新造魔法少女から『千桜』という組織を見限られることになりますよ!」
「え゛っ!?」
「現界の組織がどうしてコンプライアンスを重視しているのか理解できていますか? 社会的信用や法的ペナルティーの問題だけだと思っているなら大間違いです! 『これくらいはいいだろう』、『前はこれが普通だった』、そんなコンプラ違反が不正の常態化を招き、組織の規範を歪め、組織全体を腐敗させていくんです!」
「え、ええ……」
「腐敗した組織から1番最初に逃げ出すのは誰だと思います? そうです、将来組織の屋台骨を支えるはずの中堅や若手の優秀な人間から離れていくんです! 優秀な人間は、腐敗した組織に未来がないってことを理解しているからです。悪しき慣習をいつまでも引きずって、感覚をアップデートできないリーダーが組織の未来を潰すんです!」
「あ、いや、その……」
「今回のエミリーの件だって、『みんなこれくらいはやっている』、『これくらいの饗応は普通』、そんな『千桜』のコンプラ感の低下が離反の根底にあったのではないのですか? 『千桜』の組織全体としての腐敗を『銀翼社』に付け込まれた……そうでないと言い切れますか?」
「あうぅ、そのぉ……ゴメンなさい……」
ステラさんが膝を揃えて座りなおし、肩を落としてショボーンとしている……。
しまった!
あまりの気持ち悪さに、ついAAAランク魔法少女に説教かましてしまったぁぁぁぁぁ!
「あ、いや、そういうこともあるので、セクハラ的な身体接触は避けた方がいいかなー、なんて思ったり……?」
「コンプラ感をアップデートできずにリリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……」
ヤバい! 言い過ぎた!
ステラさんは下を向いて、ボソボソと謝り続けている……。
ステラさん、感情のアップダウンが激しいタイプだった!
「ええと……こ、これから気をつければ良いことですから、大丈夫ですよー。大丈夫ですからねー」
背中をポンポンと叩いて宥めてみるが……。
「リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……リリナに嫌われる老害でゴメンなさい……」
ヤバい!
逆パワハラってヤツをやってしまったかも!?
これじゃあ、どっちがコンプラ違反か分からなくなる!
「こ、こうした方がいいかなーっていう提案をしただけですから! 別にステラさんのこと嫌ってませんよー。嫌ってませんからねー!」
「本当?」
「えっ、ええ、本当です……」
「よかったーっ!」
ガバっと身体を起こしたステラさんが、わたしに抱きついてくる……。
「ああ、リリナに嫌われたらどうしようって思っちゃった! よかった、よかった!」
ステラさん、わたしの薄い胸に顔をうずめて……悦んでいる!?
演技か? 全部、演技だったのか!?
「ステラさん! 揶揄わないでください!」
「あははは、ゴメン、ゴメン! リリナが可愛くてつい!」
ステラさんを引きはがして怒ると、ステラさんは悪びれた様子もなくニッコニコで笑っている。
さすがAAAランク魔法少女、扱いづらいことこの上ない!
「いい加減にしてください!」
「えー、だって、私が『あーん』ってサービスしたのに、リリナは『あーん』返ししてくれないから、ちょっとイタズラしただけだよ?」
何じゃソリャ!?
アレって、わたしも『あーん』をし返さないとダメだったの!?
「ウチでは、そういうサービスは行っておりません!」
「ああっ、イイっ! イイね、今のツン加減! 素晴らしい! やっぱり、ツインテールはツンデレだよね!」
なに言ってんだこの人……。
まあ、その意見には完全に同意するが!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……メチャクチャ疲れるんで、普通にしてください。お願いします」
「あはははは、しょうがないなぁ。じゃあ狙撃任務のことを詳しく話してよ?」
!?
狙撃任務って外事部と情報部の管轄じゃないの!?
何で内務部のステラさんが知っているんだ?
AAAランク魔法少女ならアクセスできる情報なのか?
いや、鎌をかけただけかもしれない。機密保持契約にサインした以上、契約は守らねば!
「ええと、狙撃任務って何の話ですか?」
「その任務、気をつけた方がいいよ?」
ステラさんが真面目な表情になる。
本当っぽいけど、さっき学んだばかりだ。安易に信じる訳にはいかないので黙っている。
「情報部と外事部主導の極秘任務を、なんで内務部の私が知っているのか不思議でしょ? 私がAAAランクだからじゃないよ? そんなセキュリティーなら、エミリーに全情報抜かれている」
わたしの疑問を見抜いた上で、説明までしてくれる。
やはり侮れない……セクハラ魔法少女だけど!
「黒狼の金狼隊隊長だったセバスティアナを、特殊作戦部所属のAランク魔法少女・エリスと狙撃する任務……でしょう?」
「…………………………」
そこまで知っているということは、任務内容は全部把握しているのだろう。
だが、機密保持契約にサインした以上、誰にも話すべきではない。
「あら、ダンマリ? うふふっ、リリナは秘密を守れる娘で偉いわー!」
ステラさんに頭をナデナデされる……。
今回はイヤらしい感じがしなかったので、そのまま撫でられることにした。
「さっき言った『他の魚』の話、覚えてる?」
ん?
『他の魚』って、さっきステラさんが言っていた『エミリー子飼いの精鋭4ユニット』のこと……って、まさか!?
「エミリー子飼いの特殊作戦部の精鋭4ユニットの内の1ユニットは、狙撃任務成功率がほぼ100%なのに、なぜか黒狼の重要メンバーの狙撃だけ失敗する不思議なスナイパーなんだ」
「っ!!」
『他の魚』……つまり『銀翼社』のスパイ。
第4次黒狼戦役では、『千桜』は『黒狼同盟』と『銀翼社』に南北から挟撃を受けた。つまり『黒狼同盟』と『銀翼社』は連携していたということだ。
エリスは、別チームの魔法少女がセバスティアナ達に発見されたから、狙撃予定地点より前で狙撃し失敗した……本当に別チームの魔法少女は、発見されていたのか?
狙撃予定地点より前でワザと射撃を外し、セバスティアナ達に警告したのでは?
セバスティアナの狙撃が失敗したため、『千桜』は戦略予備の投入を余儀なくされ、その結果『銀翼社』の奇襲を許した……『銀翼社』はどこから『千桜』の戦略予備が前線に投入されたことを知った?
「いつから『魚たち』が『銀翼社』と繋がっていたのかは分からないけど、『千桜』と同盟を結ぶ前から、という可能性が高そうだね。隣接する魔法少女組織同士、交流がなかった訳じゃないからね」
ビール缶を口元に持ったまま、ステラさんは言葉を続ける。
「セバスティアナ個人が所有していたMGで、終戦から今まで、60ユニット以上の魔法少女の維持費を賄っていた? それは、また、ずいぶんと大量のMGを持っていたんだねえ?」
60ユニット以上の魔法少女の維持費にどれくらいのMGが必要か知らないが、もしかして『銀翼社』が裏でセバスティアナへMGを支援している?
セバスティアナへの狙撃を失敗させる必要があるから、エリスは自ら狙撃任務に志願した?
「『他の魚』のことを調べているうちに、今回の任務のことを知ったんだ。私のリリナが関係しているのに放置するわけにはいかないからさ……来ちゃった♪」
ステラさんが笑顔を浮かべる……が、目が笑っていない。
多分、今日ステラさんが来た理由の本命はコレだろう。本当に食えない魔法少女である……。
「網にかかったとはいえ、まだ網を引き揚げる時期じゃない。だが、事情を知った以上、内務部として放置するわけにもいかない。さらに言うと、今の情報部と外事部は情報管理という観点から信用することができない。そこで内務部・防諜課から、リリナに任務の依頼だ」
「任務ですか?」
「そう、任務。エリスは今回の狙撃任務に必ず失敗する。だけど、今、黒狼残党に暴れられるのは『千桜』にとってよろしくない。だから、エリスの狙撃の成否に関わらず、必ずセバスティアナを撃破して欲しい。情報部からの報酬とは別に、内務部・防諜課がセバスティアナの撃破時に、1000万MG支払おう。どう? 悪い話ではないでしょ?」
セバスティアナさえ撃破すれば、2200万MGが手に入る。
報酬が倍になる最高の任務だ。だが――。
「狙撃条件が厳しいことは理解しているよ。
リリナの技量なら距離150mは問題ないだろうけど、射線はビルとビルの間を通してで、ターゲットを視認できる時間はせいぜい1~2秒。
その上、1発で魔法騎士並みの強力な防御魔法を貫通してセバスティアナを撃破しなければならない……これはかなり難易度の高い任務だ。
でも、エリスが失敗することが分かっていれば、リリナなら準備ができる。そうでしょ?」
ステラさんが、星型の金色に輝く瞳でわたしの目を覗き込んでくる。
問題は防御魔法を貫通しうるかどうかだ……確かに、エリスが必ず失敗すると分かっているなら、わたしなら、アレを使って準備ができるかもしれない。
まったく、このセクハラ魔法少女、どこまでわたしの能力を把握してるんだ?
マジでヤンデレ彼女っぽくて、かな~り怖いんですけど!
「もちろん内務部が動いていることは、情報部や外事部には秘密だよ。すでに情報部と外事部は、エリスに暗殺任務を依頼してしまっている。この状況で連中にスパイ情報を開示して作戦内容を変更したりすれば、エリスに感づかれ、『魚たち』に逃げられる恐れがある」
「こちらの狙撃の情報が、敵に渡っていて、『狙撃状況が変わる』という可能性はないのですか?」
「ない……と言いたいところだけど、不明だね。『魚たち』が第4次黒狼戦役以前から『銀翼社』と通じていたのだとすると、現界で何らかの連絡手段を確立している可能性も完全には否定できない。
ただ、|現界で情報交換をした形跡はなかった《・・・・・・・・・・・・・・・・・》し、合同演習を連絡手段として利用している可能性が高いことから、『ない』と考えていいと思うよ」
現界での魔法少女同士の接触は禁止されているし、たとえ自分のことでも現界の情報を話すことは禁止されている。
暗殺リスクを減らすためと教わったが、ステラさんの話だと防諜的な面があるのかもしれない。
「それに、もし情報が敵に渡っていたとしても、『千桜』に情報漏洩が露見するような、あからさまな行動は取らないよ。
『エリスが狙撃に失敗し、セバスティアナが生存したまま逃亡する』というストーリーになるはずだ。狙撃前に逃亡するとか、カウンタースナイパーが投入されるとかはないね」
『銀翼社』としては、『千桜』内に諜報網があることを露見させたくはない、ということだろう。
「それであれば、何とかなるかも……確実ではないですが」
「うん、それでいいよ。困難な任務だってことは重々承知しているから、失敗しても責めたりはしない。
正直、『千桜』としては、黒狼残党の蜂起なんかより、『魚たち』を確実に処理する方が重要なんだ。
黒狼残党の蜂起なんか武力鎮圧すれば終わるけど、AAAランクのエミリーを含む『魚たち』を処理しないことには、『千桜』は十全に動けないからね。
だから、もしリリナが失敗した場合は、黒狼残党の蜂起は容認するつもりだよ」
そこでステラさんは一度言葉を切った。
「でも、『千桜』としては、内務部がスパイ情報を情報部や外事部に開示しなかったせいで、後から内務部と情報部、外事部が揉めるような事態にはしたくないんだ。
『千桜』としては、内務部と情報部、外事部が対立するのが一番マズいからね。
だから内務部は、全力で情報部と外事部の任務を支援していたという『言い訳のための証拠』を残しておきたい。それだけだよ」
「なるほど……」
当然ながら、セバスティアナ暗殺任務が失敗すれば、情報部と外事部が責任を負うことになる。
内務部として、スパイを逃すリスクを避けるのは当然だが、情報部と外事部からすれば、『エリスがスパイだという情報を共有されていれば任務は失敗しなかった』として、内務部の非協力的な態度を問題視するかもしれない。
内務部部長としては、エリスがスパイだと見抜けなかった情報部と外事部を責めてもいい立場なのだが、ステラさんは『千桜』の指導者として、内務部と情報部、外事部の関係に遺恨を残したくないのだろう。
ステラさん、意外としっかり『千桜』の指導者をやっているようである。
セクハラ魔法少女だけど!
「リリナが引き受けてくれるなら、この機密保持契約にサインし……」
「それでステラさん。わたしは、いつ、どこで、誰を狙撃すればいいのでしょう? 初めて聞くお話なので、詳しく教えていただけますか?」
今さらだけど、ちゃんと情報部と外事部との機密保持契約も守ってるからね?
「うふふっ、それでこそ私のリリナだ! 口が堅いというのは美徳だよ? じゃあ、まずは『いつ』か、ということから説明するね――」
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こうして、わたしはまた1つ、新しい機密保持契約にサインすることになったのであった――。
事前偵察 へ続く!
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