101話 ステラさんとの宅飲み会と秘密の依頼・前編
「来ちゃった♪」
『「来ちゃった♪」じゃねーよ! わざわざ鏡界から帰界使って忍び込むとか、どこのヤンデレ彼女だよ!』と内心でツッコミを入れる。
他には誰も居ないだろうなとリビングを見回すと、どこかの高級デパ地下で売っていそうなシャルキュトリーセット(ハムとか食肉加工食品のセット)が広げられ、すでに缶ビールが何本か開いている。
「先にやってるよー!」
『勝手にわたしの部屋で酒盛りしてんじゃねー!』という言葉が喉まで出かかるが、相手は会社でいうところの取締役クラスのお偉いさん。かろうじて自制する……。
「ええと。ステラさん、この前、『今後は事前に連絡するから心配しなくても大丈夫だよ?』って言ってませんでしたっけ?」
「あはははは! それ私の口真似? リリナ、上手だねー! 可愛い! 可愛い!」
わざわざ嫌味タップリにステラさんの口真似をしたのに、大喜びしている……。
完全に、酔っぱらい親父だ。
「ステラさん、酔っぱらってます?」
「魔法少女は酔っぱらわないよー。酔わないけど、ビールってのど越しがたまらなくて、ついつい飲んじゃうんだよね! まあまあ、座って、座って! リリナも駆けつけ1杯! どうぞー!」
いやいや、変身体で飲んだら普通に酔っぱらうから、この身体で飲酒はマズいでしょ!
「変身体なんで、遠慮しておきます……」
ステラさんの向かい側のソファーに座りながら、渡された缶ビールをテーブルへ戻す。
「さすがに、その身体でビールはマズいね。どうしよう、今日はビールしか持ってきてないんだよね……ああ、変身解除しちゃえば? うん、それがいいよ! ささ、早く変身解除しちゃって!」
冷蔵庫には、食堂で貰ってきた天然フルーツジュースや水出しコーヒー等が入っているが、ステラさんに飲まれる可能性があると思うと、何かムチャクチャ腹が立つので、言われた通り変身解除することにする――。
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「ああーーっ、いいね! これは良いツインテールだ! 可愛い! 可愛い! リリナのプラチナブロンドのツインテール、最高に可愛いよ! 本当に最高に可愛いツインテールだ!」
一瞬、『認識投影装置』のスイッチを切り忘れたのかと思うほどのベタ褒めである。
多分、わたしの微妙な不機嫌さを感じ取っての、ステラさんなりのご機嫌取りなのだろう。
「はあ、ありがとうございます……」
なんだかなーとは思うものの、『女の子は容姿を褒めておけば機嫌が良くなるだろ』という男の雑な感覚を、見た目は女の子であるわたしにも雑に適用しているのだろう。
ステラさんなりの気遣いだと認識し、一応お礼を言っておく。
「ええと、鏡界へ移動します?」
わたしの部屋まで来たということは、エミリーとニナ……スパイ関連で何か動きがあったのかもしれない。
どうなったのかは気になっていたので、話は聞きたいところだ。
「ああ、今日はそういうのじゃないから大丈夫。まあ座って、座って! はいどうぞ!」
グイっと腕を引っ張られ、ステラさんの隣に座らされ、缶ビールを渡される。
「ええと、エミリーとニナの件でいらしたのでは?」
「違う違う。外事部が私のリリナを引き抜こうとしてるって聞いて、居ても立っても居られなくなって、来ちゃった♪」
ああ、そっちですか……。
言っとくけど(言わないけど)『あんたのリリナ』じゃないからな!
確かに内務部に誘われた時、『少し時間をいただければ』とは言ったけど、検討するとも言っていないのに、内務部の内定者扱いされても困る。
外事部で暗殺者としてコキ使われるのを阻止してくれたことには感謝するが、『内定者は絶対逃がさない』という人事担当者のような執念を感じて少し怖い……。
「『来ちゃった♪』じゃないですよ! わたしだってプライベートがあるんですから、勝手に部屋に入るのは、やめてください!」
「プライベートって……あれっ、もしかしてリリナは私に見られたらマズいようなことを、するつもりだったのかなぁ? うふふふふっ」
完全なセクハラである!!
さすがに許容できず、ステラさんをギロリと睨みつける。
「いやぁ、悪いって言ってる訳じゃないんだよ? うん、うん、プライベートな時間に何をしようとリリナの自由だよ。そういうことをしたいお年頃だものねー。うふふふっ……魔法少女になって日も浅いし、ね?」
『ね?』じゃねーよ!
何が『そういうこと』だよ!
現界なら法務部案件間違いなしのセクハラ発言である!
『千桜』の内務部部長、とんでもないセクハラ魔法少女だった!
「はぁ、とにかく! 次はちゃんと事前に連絡してください。ビックリするでしょ!」
『そんなことしません!』などと言い返したりしようものなら、十中八九、ニヤニヤしながら『そんなことって、どんなこと~?』と聞き返してくるはずなので、話題ごとスルーしてしまうのが一番である。
「分かったから、そんなにツンツンしちゃダメだよ? うふっ、これからは、ちゃーんとリリナの『プ・ラ・イ・ベ・エ・ト』を、尊重してあ・げ・る♪」
耳元に息を吹きかけられる。
やることなすこと、いちいちイヤらしいセクハラ魔法少女である!
「うふふふっ」
酔っていないはずなのに、このテンション……ラティーナとは別ベクトルで背筋がゾワゾワする恐ろしさがある。
「もういいです。とりあえず……」
強引にその話を終わらせるために、プルトップを引き、隣のステラさんに向かって缶ビールを掲げる。ステラさんはニッコリ微笑み、わたしと同じように自分の缶ビールを掲げた。
「「かんぱーい!」」
そんなこんなで、なし崩し的にセクハラ魔法少女との宅飲み会が始まるのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『千桜』の指導者である12名のAAAランク魔法少女の1人、内務部部長のステラさんと、絶賛・宅飲み中である。
「まあまあ、食べてー」
ステラさんが以前のように甲斐甲斐しく世話を焼き、皿にサラミやらアイスパインやらソーセージやらを盛ってくれる。
夕食がまだだったので、ステラさんが盛ってくれた皿を受け取ろうと――。
「はい、あーん」
ステラさんは皿を片手に持ったまま、アイスパインを箸でつまみ、わたしに向かって『あーん』と言ってくる……。
「……………………」
いやいや、ないでしょ!
一応、『千桜』の指導者の1人だし、わたしを揶揄っているとみた!
「ああ、大丈夫です。自分で食べますんで……」
「あーん!」
皿を受け取ろうとするが、ステラさんがニコニコしながら、もう一度『あーん』と言ってくる……どうする!?
「あー……んんっ」
もぐもぐもぐもぐ……ゴックン。
ステラさんに『あーん』されてしまった……。
「うふふっ、美味しい?」
ステラさん、メッチャ嬉しそうに笑っている!
「ん……美味しいです」
いや、ステラさんって見た目女子大生だから、どうにもキャバクラで太客接待を受けている気分になってくるんだよねー。
そのまま『フルーツ盛り頼んじゃっていいですかー♪』とか言われそうなイメージである。
マジで、キャバクラでバイトとかしてるんじゃないだろうな!?
「ええと……それで、スパイ問題は、何か進展あったんですか?」
これ以上『あーん』とかされても非常に困るので、ステラさんから皿をサッと奪い取り、知りたかった話題へと誘導する。
「ああ、アレね。細工は流々、後は仕上げを御覧じろって感じだね」
ステラさんが自分の皿にサラミやらを盛りながらニヤリと笑う。
かなりの自信があるのだろう。
「詳しくは教えてもらえない感じですか?」
機密だろうから教えてもらえないかもしれないと思いつつ、あの後どうなっているか気になるので一応聞いてみる。
「まあ、そうなんだけど、リリナはスパイ発見の功労者だから、ちょっとだけね☆」
ステラさんが小悪魔キャバ嬢っぽく可愛らしくウインクしてくる……。
「状況証拠は集まったし、他の魚も大方網にかかったんだけど、事を急くと何匹か逃すリスクがあるから、『証拠の入手と一網打尽にできる機会』を待って、確実に仕留めることにしたんだ」
逃がす可能性があるなら、証拠が入手できて一網打尽にできる機会を待つべきだな。
「近く『銀翼社』との共同演習があるから、そこで証拠を押さえて、ベースに帰還したところを一網打尽って予定。これなら取り逃がすことなく、完全に安全に一網打尽にできるからね」
『銀翼社』は埼玉北部から群馬を勢力範囲とする魔法少女組織で、過去何度か戦っているが、今は『千桜』と同盟中……だと魔法少女研修で習った。
「黒幕は『銀翼社』だったんですか?」
「ああ、リリナには言ってなかったっけ。そう、『銀翼社』だった。『千桜』と『銀翼社』は定期的に共同演習をしているんだけど、その時に情報のやり取りをしているみたい」
同盟といっても、完全に味方という訳でもないのか。
『国家に真の友人は居ない』とか誰か言ってたしな。
「『銀翼社』はどうするんです?」
「放置かな。AAAランク魔法少女の裏切りを防げなかった私たちが悪かったってだけだよ。さすがに今は最高レベルの警戒対象になってるけどね」
組織同士なんて、そういうものなんだろう。
CIAだって日本支部があるとかないとか聞いたことあるしな。
「他の魚は多いんですか?」
「エミリー子飼いの精鋭4ユニットだね。ニナ達を泳がせておいて良かったよ。見逃していたら面倒な事になっていた。全員Aランクだから、野戦になるとさすがに厳しいからね。ベースの中なら問題ない。制圧部隊も手配済みだよ」
ここら辺はわたしが心配してもしょうがない。
ステラさんが大丈夫だと言うなら、大丈夫なのだろう。
「それなら、大丈夫そうですね」
わたしとステラさんは、それぞれ新しい缶ビールの口を開け、軽く掲げて乾杯する。
「ところでリリナは、最近ずいぶん外事部と仲がいいみたいじゃない?」
ステラさんが拗ねたような表情で、わたしの太ももを人差し指でクルクルしてくる。
完全にセクハラなのだが、内務部のカードも残しておきたいという私欲から、ステラさんの手を叩き落すのを思いとどまる……。
「『認識阻害』が効いていない写真が出回ったせいで、現界で話題になったらしいんです。それで、芸能人として露出して話題の鎮静化を図ろうってことになり、外事部のヴェイルさん主導で、Vチューバ―としてデビューすることになったんです」
ずり上げられたスカートを下げ、太ももをステラさんの指から遠ざけながら、機密保持契約に抵触しない範囲で(狙撃の件は秘密)外事部との関係を説明する。
「そんなことになってるんだ! リリナがVチューバ―デビューか、絶対見るよ! 名前はなんていうの?」
そう言いながら、再び太ももへと伸びてくるステラさんの手を、さりげなくブロックする。
キャバ嬢やホステスさんの苦労が理解できたような気がする……理解したくなかったけど!
「『ミア&ミオ』って名前ですね。タレントの星名ミアのプロモーション企画の1つで、わたしはミオって名前でオマケで出る感じです」
「おお、スパチャで応援しちゃうよー! 頑張ってねミオちゃん!」
ニコニコしながら身体ごとにじり寄ってくるステラさん。
ソファーの端に追い詰められ、イヤらしい手つきで太ももをナデりナデりされ……ゾゾゾゾゾーーーっと鳥肌が立つ!
ミアなら抱きしめられても嫌な感じはしないんだけど、ステラさんは、とにかく手つきがオッサン臭くてヤらしいんだよ!
「ええと、ステラさん、セクハラですよ」
「えー、いいじゃん、女の子同士なんだからさー! ね?」
わたしを見つめたまま、潤んだ金色の星型の瞳がゆっくりと近づいてくる!?
こ、これって、もしかして貞操の危機!?
「えっ、あ、あの、わたし――」
ステラさんとの危険な宅飲み会は、まだまだ続くのであった――。
ステラさんとの宅飲み会と秘密の依頼・後編 へ続く!
※10月5日(月)19時投稿予定
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