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第32話 第三層クリア・行くぞ

 鍵が輝いた。


 


 今回の鍵は広場の中央に出てくるのではなく、各プレイヤーの胸元に浮かんだ。全員の「存在理由」が揃った時、それが鍵の形を取った。淡い光が、それぞれの胸から出て、空中で一つに集まっていく。二十一個の光が合わさって、広場の中央に大きな光の塊になった。


 


 第三層クリアの証だ、と聖夜は思った。


 


 それを見ていたここなが、少しだけ口を開けた。それからすぐに閉じた。何か言おうとして、言葉が追いつかなかったのだと思った。


 


「……きれい」と美羽が言った。


 


「そうだな」


 


 ◆


 


 転送まで、少し時間があった。


 


 システムが「第四層への移行準備を行っています。十分お待ちください」と告知を出した。十分間、広場で待つことになった。


 


 プレイヤーたちが思い思いの場所に散った。抱き合っているグループがあった。一人で静かに座っている人間もいた。泣いている声がどこかから聞こえた。


 


 聖夜はその場に立ったまま、光の塊をぼんやり見ていた。


 


「聖夜」とここなが来た。


 


「何だ」


 


「うち、第四層でも戦えると思う」


 


「そうだな」


 


「自信があるわけじゃないけど……でも、うちが役に立てる場所が、ちゃんとここにある気がしてる。第三層でそれがわかったから」


 


 ここなが珊瑚色の髪を耳の後ろに払った。外向きの「あーし」ではなく、「うち」の声のままで続けた。


 


「聖夜がいるから、うちはここで戦える。それは言っておきたかった」


 


「……伝わった」


 


「それだけ」


 


 ここなが少し笑った。ギャルの笑顔に少し近かったが、芯に違うものが入っていた。それを見て、聖夜は少し前の自分との違いを感じた。第一層の最初に見た時、この人間がどんな人間か、わからなかった。今はわかる。


 


「ありがとう」と聖夜は言った。


 


 ここなが「なんか言い方が聖夜っぽくない」と言って笑った。


 


 ◆


 


 美羽が来た。


 


「聖夜さん」と呼んだ。会長モードでも姉モードでもない、現実人格の声だった。


 


「何だ」


 


「……わたくし、第三層に入ってから、ずっと怖かったです」


 


「言ってなかったな」


 


「言えませんでした。でも今は言えます。怖かったです、ということと、それでも行けたということを」


 


 美羽が制服の前ボタンを一つ確認した。その動作が、美羽の緊張の出方だと聖夜は知っていた。


 


「第四層でも、わたくしは指揮系で動きます。戦線に出ることはできませんが、全員を生かすための判断はします。信じてください」


 


「信じてる」


 


「……即答でしたね」


 


「信じる理由が十分ある」


 


 美羽が少し目を細めた。会長でも姉でもない、素の顔が一瞬出た。それからすぐに「ありがとうございます」と言って、元の位置に戻った。


 


 ◆


 


 ラヴィニアが来た。


 


「一個だけ言っていい?」と言った。


 


「言え」


 


「ここに来てよかった。このパーティに入ってよかった」


 


 それだけだった。続けなかった。ラヴィニアが「嫌いじゃない、という言い方しかしない」という印象は第三層中にずっとあったが、今は違った。好意を、好意の言葉で言った。


 


「俺もそう思ってる」と聖夜は言った。


 


「……そういう返し方するのね」とラヴィニアが言って、口の端を上げた。


 


「第四層でも歌えるか」


 


「歌う準備なら、さっきから終わってる。あなたたちの足を引っ張らない」


 


「引っ張られる気は最初からしていない」


 


「……嫌いじゃないわよ、あなたのこと」


 


「知ってる」


 


 ラヴィニアが少し目を細めた。それが彼女なりの最大限の感情表現だった。


 


 ◆


 


 サトミが遠くから、少し遠慮がちに立っていた。


 


 聖夜が目を向けると、サトミが少し近づいてきた。


 


「……あの、第四層も一緒に来てもいいですか」


 


「ここなに聞け」と聖夜は言った。


 


 サトミが「え?」という顔をした。


 


「靄で読んだのはここなだ。一緒に動くかどうかの判断も、あいつがする」


 


 ここなが「あーし別にいいよ。来て」と言った。


 


 サトミが少し目を潤ませた。


 


「……ありがとうございます」


 


「ただし」とここなが続けた。「計算と感情が混ざってても、うちは読める。次に計算だけで動こうとしたら、すぐわかる。そしたら話す。怒らない、話す」


 


「わかりました」とサトミが言った。


 


 ◆


 


 ユリアが聖夜の隣に来た。


 


 来ると思っていた。


 


「……手を握っていいですか」とユリアが言った。


 


「握れ」


 


 ユリアが握った。冷たい指だったが、確かな力があった。


 


「あなたが言ったこと、聞いていました」


 


「ああ」


 


「帰ってからも会いたいと言った。デスゲームの外で、それぞれの人間として会いたいと」


 


「言った」


 


「……私は、あなたにとって「それぞれの人間」の中の一人ですか」


 


「一番だ」とユリアが問う前に聖夜は言った。


 


 ユリアが少し止まった。


 


「……一番は、序列の話ですか、感情の話ですか」


 


「感情の話だ」


 


「……わかりました」


 


「わかったのか」


 


「……わかりたくなったので、わかることにしました」


 


「なんだそれ」


 


「あなたが正直に言うから、私も正直に言います」とユリアが続けた。「あなたが一番です。感情の重さで言えば、今のところ」


 


「今のところ、か」


 


「これから変わるかもしれません。でも今はそうです」


 


「十分だ」


 


 ◆


 


 転送の告知が来た。


 


 『第四層への移行を開始します。全プレイヤーは現在地で待機してください』


 


 光が走った。


 


 広場全体が白く染まり始めた。


 


 ここなが声を上げた。


 


「第四層も生き残るよ!」


 


 それが広場全体に届いた。他のプレイヤーたちが、何人かが振り返った。笑った者もいた。泣いたまま頷いた者もいた。


 


 聖夜は少し笑った。


 


 外側に出ることのない、自分でも気づかなかったような、小さな笑いだった。


 


 ユリアが、隣でそれを見ていた。


 


「……笑えました」とユリアが言った。


 


「そうか」


 


「あなたが笑うのを見るのは、好きです」


 


「言い方を覚えたな」


 


「……ラヴィニアが「好きです」と言うのを見て、言える気がしました」


 


「ラヴィニアのお陰か」


 


「……はい。感謝しています」


 


 光が全てを包んだ。


 


 転送が始まった。


 


 握った手が、まだそこにあった。


 


 【第三層 クリア】


 【HP:聖夜 78/100】【LVR:100】


 【第四層へ転送】


 【黒い手:初めて聖夜の肩に触れた】


 【「存在理由は本物だ」という言葉が残った】


 


 ――何かが、微かに笑った気がした。




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