表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/54

第29話 第三層ボス決戦・ユリアの覚醒が戦況を変える

 第三層七日目、ボスのいる場所に辿り着いた。


 


 神殿の最奥部だった。


 


 廊下が終わり、大きな扉が現れた。


 扉の紋様は、今まで見た全ての紋様が混ざったような複雑な形だった。


 


「……全部の感情が必要か」


 


「そうだと思います」


 


 ユリアが言った。


 


 六人が扉に手を当てた。


 


 光が走った。


 廊下全体が輝いた。扉が、ゆっくりと開いた。


 


 ◆


 


 扉の向こうは、巨大な空間だった。


 


 天井が高い。神殿の中のどこより広い。


 空間の中央に、ボスがいた。


 


 第二層のボスとは違った。


 


 人型ではなく、氷で作られた獣の形だった。


 四本の脚が氷でできている。全身が透明で、内側に何かが流れているのが見える。感情、あるいは力のようなもの。


 


 大きさは、第一層のボスより一回り大きい。


 


「……あれは」


 


 ユリアが少し止まった。


 


「……私に近い種類の存在です。氷の力を持っている」


 


「戦えるか」


 


「……わかりません。同じ力同士では、打ち消し合う可能性があります」


 


「それが問題だ」


 


 ラヴィニアが言った。


 


「……私の歌が、あれに通じるかもしれない」


 


「同じ力同士では打ち消し合う。でも、歌はそれとは別の軸だ」


 


「そう思う。試してみる」


 


 ◆


 


 ボスが動いた。


 


 最初に来たのは、音だった。


 氷の脚が床を叩いた音は、金属が金属を叩く音に近かった。硬くて、甲高くて、神殿の天井まで響いた。


 次に来たのは、冷気だった。床が凍った。霜が走った。石の目地に沿って白く広がっていく。


 氷の波が、外側に向かって広がってくる。


 


 臭いがあった。


 水の底にあるような、無機質な冷たい臭い。何かを凍らせた後の空気の臭い。


 


「跳べ」


 


 聖夜が叫ぶと同時に、全員が跳んだ。


 氷の波が床を走った。触れた部分が、見る間に凍りついた。


 


「……速い」


 


「松本、索敵で次の動きを先読みしろ」


 


「わかった」


 


「ここな、ボスの感情の靄を読んでくれ」


 


「読む。……靄が、すごく濃い。でも、均質じゃない。左の方が薄い」


 


「左側が弱点か」


 


「……たぶん」


 


 ラヴィニアが前に出た。


 


 歌い始めた。


 


 氷の神殿に、声が響いた。


 昨日より、一段強い声だった。感情の密度が、最大になっていた。


 神殿の壁が共鳴した。石の壁が、音楽を増幅した。


 


 ボスが動きを止めた。


 


 氷の存在が、音楽に反応した。


 感情のある歌に、感情を持たない氷が乱れた。内部を流れていたものが、不規則になった。


 


 ここなが言った。


 


「……左の靄が、さらに薄くなった。今」


 


「今です」


 


 ユリアが飛んだ。


 


 覚醒片鱗の力が、体の奥から引き出された。


 昨夜、玉座を手放した時に解放されたものが、今ここに来た。


 青白い光ではなく、より深い、白銀の光が剣先に集まった。


 


 左側に向かって、今まで溜めてきた全ての凍気を解放した。


 覚醒片鱗の力が加わった。


 


 昨日、玉座を選ばなかった時のユリアの力が、今ここで出た。


 


 過去を手放し、今を選んだことで生まれた力だった。


 


 ボスの左側に、氷結が走った。


 内側を流れていたものが、凍りついた。


 


 ボスが崩れ始めた。


 


「全員、後退」


 


 六人が一斉に後退した。


 


 ボスが倒れた。


 氷の破片が散った。冷気が一気に広がり、それから消えた。


 


 神殿が静かになった。


 


 ◆


 


 戦闘後、全員が広い空間の中に立っていた。


 


 誰もケガがなかった。


 


「……倒した」


 


 ここなが言った。


 


「ああ」


 


「……ラヴィニアの歌が鍵だったね」


 


「そうだ」


 


 ラヴィニアが静かに言った。


 


「……ユリアの覚醒が、本当の鍵だったと思う。私の歌は、きっかけを作っただけ」


 


「どちらも必要だった」


 


「……そうね」


 


 ユリアが聖夜の隣に来た。


 


「……少し、力を使い過ぎました」


 


「大丈夫か」


 


「大丈夫です。でも、覚醒の度合いが上がりました。今まで片鱗と呼んでいたものが、次の段階に入りました」


 


「制御できるか」


 


「……今は、できています。あなたが手を掴んでいたから、戻ってこられました」


 


「また変化が来たら、手を掴む」


 


「……はい。頼ります」


 


 ◆


 


 美羽が静かに言った。


 


「……次は第四層ですね」


 


「ああ」


 


「……第四層の特性について、少し考えていました」


 


「何がわかった」


 


「……第一層は生存、第二層は繋がり、第三層は感情の深さでした。第四層は、もっと内側に入ると思います」


 


「内側、というのは」


 


「……自分自身の中に向かう感情です。誰かへの感情ではなく、自分が何のためにここにいるか、という問いに向かう感情です」


 


 松本が言った。


 


「……それは、きついな」


 


「きついかもしれません。でも、避けられないと思います」


 


 聖夜は少し考えた。


 


「……俺は、兄貴への怒りを第三層で少し出せた。自分の存在理由については、まだ曖昧なままだ」


 


「守りたい奴がいる、という存在理由は、第四層でより深く試されると思います」


 


「誰を守るかが問われるか」


 


「……守るとはどういうことか、が問われるかもしれません」


 


 ◆


 


 机代わりにした石の上に、六人が座った。


 


 ラヴィニアが、珍しく自分から話し始めた。


 


「……うち、今日一番歌えた気がする」


 


「「うち」?」


 


 ラヴィニアが少し固まった。


 


「……言い方が移った。やめる」


 


「嫌いじゃないよ、その言い方」


 


 ここなが笑った。


 


「うるさい」


 


「移るってことは、うちのこと気に入ってるってことじゃん」


 


「……嫌いじゃないわよ、あなたのことが」


 


「やっぱり!」


 


 神殿の奥で、笑い声が響いた。


 


 六人分の笑いが、石の壁に当たって反響した。


 


 ユリアが、聖夜の隣で静かに言った。


 


「……笑えました」


 


「ああ」


 


「……第二層では、笑えませんでした。ずっと警戒していたから。でも今日は」


 


「笑える場所になったな」


 


「……あなたたちのおかげです」


 


「俺だけじゃない。ここなとラヴィニアと美羽と松本がいたからだ」


 


「……全員のおかげです。でも、最初はあなたのおかげでした」


 


 聖夜は少し黙った。


 


「……ユリア、俺はお前のことが好きだと思う」


 


 言ってから、少し驚いた。


 自分でこういうことを言うとは思っていなかった。


 


 ユリアが少し間を置いた。


 


「……いつから、そう思っていますか」


 


「わからない。でも、今確信した」


 


「……なぜ今?」


 


「笑顔を見たからだ」


 


 ユリアが、また少し口角を上げた。


 


「……今日二回目です」


 


「二回?」


 


「笑いました。一回目はさっき、六人で笑った時。二回目は今です」


 


「……そうか」


 


「……あなたも、好きです。前から言っていましたが、今日はあなたと同じ言い方で言います」


 


「同じ言い方、というのは」


 


「確信した、という意味で」


 


 【LVR:聖夜 88 → 96】


 


 数字が、今日の最高値を更新した。


 


 ――どこか遠い場所で、何かが静かに見ていた。


 


 ◆◆◆


 


 【第三層 7日目 夕刻】


 【HP:64/100】【LVR:86】




少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ