第28話 ラヴィニア正式合流・ユリアの承認
第三層六日目の朝、ラヴィニアが来た。
聖夜が一人で廊下に出ていた時だった。
「……言いに来た」
「何を」
「正式に入る。あなたたちのグループに」
聖夜は少し間を置いた。
「昨日まで「検討中」だったが、何が決め手になった」
「……ユリアの覚醒を見たから」
「それが決め手か」
「……彼女は、自分の力が変化することを怖がっていた。でも、それよりあなたとの関係を選んだ。そういう選択ができる人間が、信頼できるかどうかを試してみたくなった」
「俺じゃなく、ユリアを見て決めたのか」
「……あなたは最初から信頼してた。単純だから」
「単純と言うな」
「事実よ。あなたは感情が先に出る。だから読みやすい。読みやすい人間は、裏切りにくい」
「……それが信頼の根拠か」
「私の場合は、そこから始まる」
◆
ラヴィニアが正式合流の意思を告げた後、ユリアに話しかけた。
聖夜は少し離れて、二人の会話を見ていた。
「……一つ聞いていいですか」
「何でしょう」
「あなたは、私が入ることを、どう思っていますか」
ユリアが静かに答えた。
「……最初から、歓迎していました」
「最初から? 私が一時的合流と言っていた時から?」
「はい。あなたの歌が本物であることは、最初から見えていました。本物の感情を持つ人間が陣営に加わることは、良いことです」
ラヴィニアが少し間を置いた。
「……私が「嫌いじゃない」という言い方しかしないことを、どう思っていますか」
「あなたのやり方だと思っています」
「押しつけがましくないですか」
「あなたの「嫌いじゃない」は、あなたにとって最大限の表現です。それを知っていれば、軽く聞こえません」
ラヴィニアが、少し目を細めた。
「……あなた、怖い人ね」
「よく言われます」
「褒め言葉で言ってるわよ」
「ありがとうございます」
「……一つだけ確認させてください」
「はい」
「私が入ることで、あなたと聖夜の関係は変わりますか」
ユリアが静かに答えた。
「変わりません。私は正室として、陣営全体に責任を持ちます。あなたが入ることで、私の役割が増えますが、聖夜との関係は変わりません」
「……明確ですね」
「あいまいにする理由がありません」
「……嫌いじゃない答えね」
ユリアが、ほんの少し、口角を上げた。
「……承認します。ラヴィニアさん、あなたがこの陣営に加わることを、正室として認めます」
ラヴィニアが少し固まった。
「……今、承認された?」
「はい」
「……あなたから承認されると思ってなかった。もっと試されると思ってた」
「試す必要がありませんでした。あなたは昨日、ユリアの覚醒を見て何かを感じた。その感情は本物でした。本物の感情がある人間に、追加の試験は不要です」
ラヴィニアが少し間を置いた。
「……ありがとう」
「こちらこそ。あなたの歌は、この陣営に必要なものです」
◆
全員が揃った場で、ラヴィニアが正式合流を告げた。
「……本日より正式に入ります。よろしく」
「よろしく」
聖夜が言うと、ここなが飛びついた。
「ラヴィニア! うち、嬉しい!」
「……距離が近い」
「嫌いじゃないじゃん、距離近いの」
ラヴィニアが少し固まった。
「……なんで知ってるの」
「読んだ。昨日から、うちが近くにいる時、靄が嫌そうじゃなかった」
「……あなたの感知、細かすぎて怖いわよ」
「褒めて」
「……嫌いじゃないわよ、あなたの感知」
美羽が静かに言った。
「……ラヴィニアさん、よろしくお願いします」
「……よろしく。あなたとは、まだちゃんと話してなかったわね」
「わたくしは、会話が苦手です」
「私も苦手よ、嘘をつかない会話が」
「……それは同じですね」
「同じ苦手同士で、一度話してみましょうか」
「……はい」
松本が言った。
「……増えましたね、陣営」
「ああ」
「……なんか、生き延びる気がしてきた」
「根拠は」
「……みんながいる、という感覚が、今一番確かだから」
聖夜は、陣営を見渡した。
ユリア、ここな、美羽、ラヴィニア、松本。
それぞれが違う。スキルが違う。性格が違う。感情の出し方が違う。
でも、全員が今ここにいる。
(……桐島もどこかにいる)
思い出した。
第三層に来てから、桐島の姿を見ていない。別のグループでどこかを進んでいるはずだ。
(……生きてくれ)
声には出さなかった。でも、そう思った。
「ラヴィニア! うち、嬉しい!」
「……距離が近い」
「いいじゃん」
「……嫌いじゃないわよ、こういうの」
「正直になってきた」
「うるさい」
美羽が静かに言った。
「……ラヴィニアさん、よろしくお願いします」
「……よろしく。あなたとは、まだちゃんと話してなかったわね」
「わたくしは、会話が苦手です」
「私も苦手よ、嘘をつかない会話が」
「……それは同じですね」
「同じ苦手同士で、一度話してみましょうか」
「……はい」
松本が言った。
「……増えましたね、陣営」
「ああ」
「……なんか、生き延びる気がしてきた」
「根拠は」
「……みんながいる、という感覚が、今一番確かだから」
◆
夜、ラヴィニアが聖夜の隣に来た。
正式合流した最初の夜だった。
「……一つだけ言っておく」
「聞く」
「私、あなたのことが嫌いじゃない。それは最初から変わってない。でも今日、もう少し変わった」
「どう変わった」
「……「嫌いじゃない」以上かもしれない、と思い始めた」
「それは、どういう意味だ」
「……まだわからない。でも、変化してる。それだけ言っておく」
「わかった」
「……それだけ?」
「それだけだ」
「……あなたって、本当に」
「何だ」
「嫌いじゃないわよ、本当に」
ラヴィニアが少し笑った。
【LVR:ラヴィニア +14】
数字が動いた。
「……一つ聞いていいか」
「何?」
「ユリアとの承認を受けた時、どう感じた」
ラヴィニアが少し間を置いた。
「……軽かった」
「軽い?」
「もっと試されると思ってた。もっと条件を突きつけられると思ってた。でも、彼女はすぐに承認した。あの軽さが、意外だった」
「ユリアの承認は、条件じゃなく感情から来る」
「……わかってる。でも、歌が本物だということと、私が本物かどうかは別じゃないの?」
「ユリアにとっては同じだ。歌が本物なら、歌を生む感情も本物。感情が本物なら、その人間も本物。そういう論理だ」
ラヴィニアが少し黙った。
「……それは、私にとって救われる論理ね」
「なぜ」
「……ずっと、私の歌は評価されてきた。でも、私という人間は別に評価されてきたわけじゃない。歌は本物でも、人間としての私は別の話、という感覚があった。でもユリアの論理だと、それが繋がってる」
「歌が本物なら、お前も本物だ」
「……簡単に言うのね」
「簡単なことだと思ってるからだ」
ラヴィニアが、視線を外した。
「……褒めても何も出ないわよ。でも」
「でも?」
「……気分は、すごく良くない。今日初めて、本当にここにいていいんだと思えた気がする」
「それでいい」
「……ありがとう」
「礼を言うな」
「言いたいから言う」
聖夜は少し黙った。
「……お前も、嘘をつかなくなってきたな」
「……移ったのかもしれないわ、あなたから」
――何かが、微かに笑った気がした。
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