表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/54

第21話 クリアの夜・ユリアがここなを認める

 第二層の鍵が完全に輝いた。


 


 機械音声が告げた。


 


『第二層クリア。参加者の皆様、おめでとうございます。間もなく第三層へ転送されます。転送前に三十分の猶予を設けます』


 


 広場のあちこちから、安堵の息が漏れた。


 泣いているプレイヤーがいた。座り込んでいるプレイヤーがいた。誰かが誰かの肩を叩いていた。


 


 シルエットは、静かに消えた。


 次の層で会おう、という言葉だけ残して。


 


 聖夜はLVRを確認した。


 


 【HP:68/100】【LVR:78】


 


 今日一番高い数値だった。告白ボーナスが効いた。


 


「……三十分」


 


 ここなが言った。


 


「次に行く前に、やることがある」


 


「何を」


 


「ユリアに話す。告白のこと」


 


 ここなの声が、少し緊張していた。「あーし」でも「うち」でもなく、ただのここなの声だった。


 


 ◆


 


 ここながユリアの前に立った。


 


 他のプレイヤーから少し離れた場所だった。広場の端、崩れた石の壁の前。聖夜は少し離れて、二人の様子を見ていた。


 


 美羽が隣に来た。


 


「……見ていいんですか」


 


「お前も関係者だ」


 


「……関係者、ですか」


 


「ここながユリアに認められれば、陣営の形が変わる。美羽にも関係する」


 


 美羽が少し黙って、二人の方を向いた。


 


「……ユリア、なんて言うんでしょう」


 


「わからない」


 


「……わたくし、ユリアさんが怖いです」


 


「なぜ」


 


「……全部見通している感じがして。わたくし自身のことも、わたくし以上にわかっているんじゃないかと思うことがあります」


 


「ユリアはそういうやつだ」


 


「……あなたは怖くないんですか」


 


「怖い。でも、それが頼りになるということでもある」


 


 美羽が少し考えた。


 


「……なるほど。怖さと信頼は、別の話なんですね」


 


「そうだ」


 


 ◆


 


「……ユリア、話していい?」


 


「はい」


 


「……うち、聖夜のことが好き。昨夜も今日も、審判の時も、本物だった。でも、ユリアが正室だから、勝手に動くのは違うと思って」


 


 ユリアが静かにここなを見ていた。


 


「……それを、私に言いに来たんですね」


 


「そう。断られたら諦める。嘘はつかない」


 


 ユリアが少し間を置いた。


 


「……一つ聞いていいですか」


 


「何でも」


 


「あなたは、聖夜を本当に必要としていますか。LVRのためではなく」


 


「必要としてる。廃墟で一人だった時、声をかけてもらった。それだけで変わった。あの人がいると、うちはうちでいられる気がする」


 


「うちでいられる、というのは」


 


「……ずっと「あーし」でいないといけないと思ってた。陽キャとして、明るく、みんなのムードメーカーとして。でも、聖夜の前だとそれをしなくていい。うちのままでいられる」


 


 ユリアが、静かに頷いた。


 


「……もう一つ聞きます」


 


「どうぞ」


 


「私のことは、どう思っていますか」


 


 ここなが少し驚いた顔をした。


 


「……ユリアのこと?」


 


「はい。あなたが聖夜を好きなのはわかりました。でも、私との関係はどうありたいですか」


 


 ここなが少し考えた。


 眉を下げて、真剣に考えた。


 


「……うちは、ユリアのことが怖かった。最初。なんか、全部見通してるみたいで、自分が計算してたのがバレるんじゃないかって」


 


「バレていましたよ」


 


「……やっぱり」


 


「でも、あなたの計算は半分でした。もう半分は本物でした。だから私は、あなたに興味を持ちました」


 


 ここなが、少し目を丸くした。


 


「……ユリア、うちに興味持ってたの?」


 


「はい。あなたの感情を読む能力は、本物だと思います。それは私にはない能力です。私は感情を分析することができますが、あなたのように直接感じ取ることはできない」


 


「……ユリアにできないことが、うちにはできるってこと?」


 


「そうです。私たちは補完関係にあると思っています」


 


 ここなが、少し固まった。


 


「……補完関係って、なんか対等みたいな言い方だね」


 


「対等です。私が正室であることは、序列ではなく役割の話です」


 


「役割の違い」


 


「聖夜との関係において、最初に契約した者として、全体を見る責任があります。それが私の役割です。あなたにはあなたの役割がある」


 


「……うちの役割は何?」


 


「感情を読み、繋げること。あなたがいると、グループの空気が温かくなります。私には作れない温度です」


 


 ここなが、今度は目が赤くなった。


 


「……うち、泣きそう」


 


「なぜですか」


 


「……こんなにちゃんと答えてもらえると思ってなかったから」


 


 ユリアが、静かにここなの肩に手を置いた。


 冷たい手だった。でも、震えていなかった。


 


「泣いていいですよ。ここは、本物の感情が出せる場所ですから」


 


 ここなが、泣いた。


 声を出さずに泣いた。肩が震えた。


 


 少し離れた場所で、美羽が静かに言った。


 


「……ユリアさん、すごい人ですね」


 


「そうだな」


 


「……わたくしも、いつか同じように話せる日が来るでしょうか」


 


「来る」


 


「根拠は?」


 


「美羽も変わってきてるから」


 


 美羽が少し黙った。


 


「……そうでしょうか」


 


「そうだ。最初にここに来た時より、言葉が増えた」


 


「……増えましたか」


 


「増えた。最初は必要なことしか言わなかった。今は余計なことも言う」


 


「……余計なことですか」


 


「余計なことが言えるようになるのは、信頼が生まれた証拠だ」


 


 美羽が、眼鏡の奥で少し目を細めた。


 


「……なるほど。そういう見方をするんですね」


 


「するな」


 


「……はい」


 


 ◆


 


 二人の会話が終わった後、ここなが聖夜の元に来た。


 目が少し赤かった。


 


「……承認された」


 


「そうか」


 


「……ユリア、すごいね」


 


「そうだな」


 


「うちが言いたいことを全部先に言われた。うちが聞きたいことも全部答えてもらった。なんか、頭が追いつかなかった」


 


「それがユリアだ」


 


「……あんた、こんな人と一緒にいるんだね」


 


「一緒にいる」


 


「……うちでよかった? ユリアと比べると、うちって全然大したことないじゃん」


 


「比べるものじゃない」


 


「でも」


 


「ユリアはユリアで、お前はお前だ。俺が必要なのは、どちらか一方じゃない」


 


 ここなが少し間を置いた。


 


「……それ、正直に言えるの、すごいね」


 


「正直に言わないと意味がないからな」


 


「……うちも、ちゃんと言える人になりたい」


 


「なれる」


 


「根拠は?」


 


「今日のユリアへの話し合いを見てた。十分言えてた」


 


 ここなが、今度は目が赤くならずに笑った。


 


「……ありがとう」


 


 ◆


 


 転送の直前、ユリアが聖夜の隣に来た。


 


「……報告があります」


 


「ここなのことか」


 


「はい。承認しました」


 


「聞いた」


 


「あなたに確認しておきたいことがあります」


 


「何を」


 


 ユリアが聖夜を真っ直ぐ見た。


 


「……私が承認したことで、あなたの中で何かが変わりますか」


 


「変わらない」


 


「本当に?」


 


「ユリアが正室であることは変わらない。ここなへの気持ちが生まれても、それはユリアへの気持ちとは別だ」


 


「……別に持てるということが、私には不思議です」


 


「俺にも不思議だ。でも、そうなってる」


 


 ユリアが少し黙った。


 


「……私は、記憶が少しずつ戻っていますが、「愛」というものがどういうものか、まだ完全にはわかりません。でも、あなたといる時に生まれる感情は、他の何とも違います。それが愛なのかもしれないと思っています」


 


「……そうだと思う」


 


「根拠は?」


 


「お前が俺のために剣を向けた時、それが何かわかった」


 


 ユリアが、少し瞳を揺らした。


 


「……あの時は、無意識でした」


 


「無意識でそれができるのが、愛だと思う」


 


 ユリアが、しばらく聖夜を見ていた。


 


「……覚えておきます」


 


 光が来た。


 転送が始まる。


 


 聖夜はユリアの手を握った。


 ユリアが握り返した。


 


 【LVR:78 → 89】


 【《エンプティ・リンク》:感情倍率 更新】


 


 青白い光が腕に走った。


 今度は翼の形だけが残った。鎖の形は消えていた。


 


 (……少し、変わってきてる)


 


 スキルが、積み上がった感情に応じて形を変えている。


 最終層で何になるのか、まだわからない。


 


 ここなが光の中で聖夜に言った。


 


「……ユリアに承認された。だから言う」


 


「何を」


 


「うち、聖夜のことが好き。今度は「かもしれない」じゃない。確信してる」


 


 聖夜は少し間を置いた。


 


「……ユリアに聞いてから言う」


 


「ユリアに確認した。昨夜」


 


「何と言った」


 


「……「受け取り方はあなたが決めていい」って。ユリアらしい答えだった」


 


 聖夜はユリアを見た。


 ユリアが静かに頷いた。


 


「……受け取った」


 


「それだけ?」


 


「お前が確信してるなら、俺も確信できる日が来ると思う。今は、それだけだ」


 


 ここなが少し考えた。


 


「……それって、好きになりそうってこと?」


 


「なるかもしれない」


 


「……なんか、正直すぎてかわいいね」


 


「かわいくはない」


 


「かわいいよ」


 


 【LVR:ここな +17】


 


 ここなの確信が、数字を動かした。


 


 光が全てを包んだ。


 


 ――どこか遠い場所で、何かが静かに見ていた。


 


 ◆◆◆


 


 【第二層 クリア】


 【HP:68/100】【LVR:89】


 【承認完了:ここな】


 【第三層へ転送】




少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ