表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/54

第12話 ここな・珊瑚ピンクの嘘と本音

 第二層五日目の朝、食料の調達に出た。


 


 美羽の地盤分析が安定してきていた。


 どの建物に近づいていいか、どのルートを避けるべきか。数字や理屈ではなく、壁の傷み方や地面の沈み具合から判断する方法を、美羽は独自に構築し始めていた。


 


 そのルートを歩きながら、ユリアが静かに言った。


 


「……美羽さんは、必要だったのだと思います」


 


「俺もそう思う」


 


「桐島さんは感知で空間を読んでいた。美羽さんは分析で空間を読んでいる。代替ではなく、別の軸で機能している」


 


「ただ、戦闘力が俺と同じくらいしかない」


 


「……私がいます」


 


「お前が全部やることになる」


 


「それは今も変わっていません。でも、それ以外の部分が補われています」


 


 聖夜は少し黙った。


 


 そうだった。第一層も、ユリアが前に出て、聖夜が判断して、桐島が感知した。今は桐島の部分が美羽の分析に変わっている。役割が変わっただけだ。


 


 ◆


 


 北西のエリアで食料を探していると、声が聞こえた。


 


「あーし、こっちにいるよ!」


 


 珊瑚ピンクの髪が、廃墟の建物の陰から出てきた。


 


 天羽ここなだった。


 


「……なんでここにいる」


 


「食料探してたら迷子になった」


 


「……一人で来たのか」


 


「うん。みんなより早く起きちゃって、ちょっと探索してみようと思って」


 


 聖夜は少し頭が痛くなった。


 


「一人で動くな。今は廃都市の中に、信用できないやつがいる」


 


「でも、うち大丈夫だと思って」


 


「大丈夫だと思うから危ない」


 


 ここながしゅんとした。


 


「……怒ってる?」


 


「怒ってない。ただ、お前は感情を読める可能性がある。それがわかったなら、一人で動かせるには惜しいと思っている」


 


「……それ、怒ってないの?」


 


「評価してる」


 


 ここなが少し考えた。


 


「……評価って、あーしのこと?」


 


「ここなのことだ」


 


「……あーしじゃなくて、うちのことね」


 


「そうだな」


 


 ここなが少し笑った。


 


「……うち、あんたに『ここな』って呼ばれると、なんか変な感じがする」


 


「嫌か」


 


「嫌じゃないけど、なんか、本名で呼ばれてる感じがして」


 


「本名だからな」


 


「そうなんだけど、あーしって呼ばれることの方が多くて。学校でも、友達でも、みんなあーしって呼ぶから」


 


「あーしって呼んだ方がいいか」


 


 ここなが少し考えた。


 


「……うちは、ここなでいい」


 


 ◆


 


 拠点に戻りながら、ここなが話した。


 


「……ねえ、聖夜に聞いていい?」


 


「何を」


 


「あんた、なんで人を助けるの? 損じゃん、このゲームだと」


 


「損かどうかで考えてない」


 


「でも、リスクはあるじゃん。戦力が分散するとか、守る対象が増えるとか」


 


「ある」


 


「なのになんで」


 


 聖夜は少し考えた。


 


「……見捨てた後が、嫌だからだと思う」


 


「見捨てた後?」


 


「廃墟の陰にいるやつを見て通り過ぎたとして、その後でどう生きていくかを想像した時、嫌だと思う。それだけだ」


 


 ここなが少し黙った。


 


「……うち、それわかる」


 


「似たような経験があるか」


 


「あるよ。友達が孤立させられてた時、止められなかった。その後が、ずっと嫌だった。何年も」


 


「……それがここにいる理由か」


 


「一部は。もう一部は、賞金。うちの家、お金ないから」


 


 あっさり言った。


 感傷なく、事実として言った。


 


「……そうか」


 


「同情しなくていいよ。うちは慣れてるから」


 


「同情はしてない。お前が正直に言ったから、俺も正直に答えた」


 


 ここながちらりと聖夜を見た。


 


「……あんた、なんで怒んないの? うち、朝一人で出て行ったじゃん」


 


「怒ったら次に一人で行かなくなるとは限らない。お前が一人で行きたくなる理由を聞いた方が有効だ」


 


「……賢いね」


 


「賢くはない。経験則だ」


 


「どんな経験?」


 


「……兄貴に怒られても、俺は同じことを繰り返していた。怒られる理由を理解しないと変わらない。理解すれば変わる」


 


「兄貴がいるの?」


 


「……いた」


 


 一拍の間があった。


 


「……過去形?」


 


「死んだ。俺がこのゲームに来る前に」


 


 ここなが黙った。


 


「……ごめん」


 


「謝るな。お前が謝ることじゃない」


 


「……でも、なんか言いたくなっちゃう」


 


「何も言わなくていい」


 


 二人で少し歩いた。


 


 ここなが、小さく言った。


 


「……うちも、誰かに「いた」って言わなきゃいけない人、できたくない」


 


「そうならないようにしろ」


 


「する。ぜったいする」


 


 ◆


 


 拠点に戻ると、ユリアと美羽が何かを話していた。


 


「……どうした」


 


「廃都市の中心部について、美羽さんから情報が出ました」


 


 美羽が地図を広げた。


 


「……昨夜から構造を分析していました。廃都市の中心に向かうほど、建物の密度が増しています。ただ、一カ所だけ密度が低い場所があります。人工的に空けられたような形跡があります」


 


「広場か」


 


「……そうだと思います。ここながゲームの知識でボスは広場の正面にいると言っていました。それと一致します」


 


「距離は」


 


「……今の拠点から、ゆっくり歩いて二時間ほどだと思います。途中に、危険なエリアが一カ所」


 


「どんな危険が」


 


「……建物が崩れかけていて、足場が不安定です。音を立てると崩れる可能性があります。振動タイプのモンスターがいれば、最悪の状況になります」


 


 ここなが言った。


 


「うち、そこ通る時に感情読んでみる。何かいるかどうか」


 


「精度は」


 


「……わかんない。でも、昨夜、試してみたら、なんか靄みたいなものが感じ取れた気がした。本物かどうかはまだわからないけど」


 


「それは、まずやってみろということだな」


 


「うん。失敗してもいいって言ったじゃん」


 


「言った」


 


 ◆


 


 夜、ここなとユリアが話していた。


 


 聖夜は少し離れた場所で、美羽と地図を確認しながら、その会話を耳で追っていた。


 


「……ユリアって、聖夜のこと、好きなの?」


 


 ここなが聞いた。


 


「……好き、という言葉の定義が、私にはまだ不明確です」


 


「えっと、一緒にいたい、とか、いなくなったら嫌、とかそういう感覚?」


 


「それは、あります」


 


「それが好きってことだよ」


 


「……そうなのですか」


 


「そうだよ。うちはそう思う」


 


 ユリアが少し間を置いた。


 


「……では、私は彼のことが好きなのかもしれません」


 


「『かもしれない』じゃなくて、好きなんだよ」


 


「……まだ確認中です」


 


「確認って何を確認するの」


 


「自分の感情が、本物かどうか。記憶がない状態で感じている感情が、正しく機能しているかどうか」


 


 ここなが少し黙った。


 


「……ユリアって、すごく真面目なんだね」


 


「真面目ではなく、慎重です」


 


「うちには同じに見えるけど。でも、その慎重さが聖夜には合ってるんだと思う。あいつも、どこか慎重じゃん。感情で動いてるけど、いつも後のことを考えてる」


 


「……よく見ていますね」


 


「うち、人見るの好きだから。陽キャって、みんなを見渡せないといけないから、自然と得意になる」


 


「それが、あなたのスキルの元かもしれません」


 


「……そうかな」


 


「感情を読む能力は、日常的に感情を観察していた蓄積から生まれるはずです。あなたはリアルで、ずっと周囲の人を見てきた」


 


 ここなが少し黙った。


 


「……なんか、そう言われると、陽キャやってきたのも無駄じゃなかった気がする」


 


「無駄ではありません。全部、今ここで機能しています」


 


 聖夜は地図から目を上げて、二人の方を見た。


 ここなとユリアが、静かに話していた。


 


 (……いい組み合わせだ)


 


 美羽が隣で言った。


 


「……ユリアさんは、ここなさんに対して、誰かに似ている対応をしていますよね」


 


「誰かに?」


 


「……聖夜さんに、です。見ていないようで見ている。言わないようで、ちゃんと言っている」


 


 聖夜は少し黙った。


 


「……ユリアはそういうやつだ」


 


「……あなたが教えたのかもしれませんよ」


 


「俺が?」


 


「……あなたのそばにいると、人は少し変わる気がします。わたくしも、そう思います」


 


 聖夜は何も言えなかった。


 


 ――何かが、微かに笑った気がした。


 


 ◆◆◆


 


 【第二層 5日目 夜】


 【HP:74/100】【LVR:58】




少しでも続きが気になったら、ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ