閑話 エリンとレンの日常①
2人で買い物する話です。
※レン視点です。
「レン、今日は買い物に行かない?」
ビトーの町に滞在中、エリンさんは私に提案した。
「いいですね。これから旅に必要なものを色々準備しておきたいですし。」
「それもあるんだけどさ。もっと重要なものがあるよ。」
「何でしょうか?」
私が首を傾げて聞くと、エリンさんは声を張り上げた。
「服だよ!」
エリンさんは、今の自分を見てほしいと言わんばかりに手を広げた。
「ずっと私の恰好っておかしいなと思ってたんだよ!薄手の赤いシャツにでかいバックル。作業着のようなポケット多めの緑ズボン。街を歩いてる女性は皆可愛い恰好してるじゃん!」
確かに、ガイタンのような猥雑な町では大して気にしていなかったが、ビトーはそこそこ賑わっている都市だ。
街には可愛らしい服装の女性がたくさん歩いている気がする。
「わ、私は良いと思いますが。」
「気を遣わなくてもいいよ。流石にこれはない。「だまし討ちのエリン」なんてエンタメ枠で語られるのも、この服装のせいだと思うんだよ。」
「それは考えすぎでは……。」
エリンさんはお洒落好きなのかもしれない。
豪快でポジティブな普段の姿とのギャップに、ちょっとキュンとする。
「あとね。ちょっと言いづらいんだけど……。」
エリンさんが私の方を見た。
「レンも相当地味だよ。」
私の服にも言及された!
「これは、魔法の効果を高める機能のあるローブなんです。ほら、膝のあたりにあるラインは魔法文字になっていて、これが……。」
「あのね、機能なんてのはお洒落の前では二の次なんだよ。」
エリンさんの圧が強い!
「外は暑いのに、全身を包むような長袖のローブ、しかもフード付き。さらに色も灰色。コーディネートには季節感がつきものでしょ!」
何故急にそんな知識を!?
確かに私の恰好は地味だし、正直暑い。でも、ちょっとでも魔法の効果が高い方がパーティには大切なことだと思う。
それに、正直服装のことはよく分からない。
「レンは滅茶苦茶可愛いのに、なんでそんな冴えない恰好なのかってずっと思ってたんだよ!もう買い換えよう!この際!」
か、可愛い?
エリンさんの言葉は温度高めだから、胸がドキドキする。
というか、冴えない恰好だと思ってたんですね……。
「わ、分かりました。」
こうして、今日は二人で服を買いに行くことになった。
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ビトーの中心である旧市街を横切る大通りは、多くの店と行きかう人々で賑わっている。
何気ない小物を見るのは好きだし、美味しそうなジェラートを売っている店も気になる。
でも、今日のエリンさんはそんな店には見向きもしない。
「ここにしよう!」
エリンさんが選んだのは、カジュアルだけど少し高めの店だった。
店の中は広く、たくさんの女性で溢れている。
人気のお店なんだ、と分かる。
「いらっしゃいませ~。どんな服をお探しですか?」
早速、女性の店員が声をかけてきた。
買い物で声をかけられるのは、ちょっと苦手だ。自信がないからなのかな。
「白いシャツとベージュとかカーキ系のパンツとか、いや、私なら黒系がいいかな。あとは淡いブルー系のトップスとか。」
……エリンさんはいつの間にファッションに目覚めたんだろうか。
少し前まで記憶がなかったとは思えないほど饒舌だ。私にはまるで分からない。
「うーん、レンはどんなのがいいと思う?」
店員から受け取った幾つかの服を見せながら、エリンさんは私に聞いてきた。
自分の身体に服を重ねている。
背が高くてスタイルの良いエリンさんには、正直、どれも似合いそうだった。
「試着もできますよ~。」
店員さんに促されるまま、エリンさんは試着室に入った。
カーテンからひょいっと顔を出して店員を呼んだ。
「あと、動きやすい白か茶色の靴もね。」
……もはや常連の雰囲気すらある。
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「どうかな?」
試着室のカーテンを開けて出てきたのは、白い無地の半袖シャツに、黒いパンツを来たエリンさんだった。
胸元のボタンを少しだけ開けて、小さなアクセサリーが光っている。
細めのベルトで結んだパンツも、細くて長い脚のラインが映えていた。
どうしよう。すっごく格好いい。
「レン?どう?」
エリンさんはあらためて私に聞いた。
しばらく見惚れていたせいか、言葉を失ってしまった。
「あ、う、すごい似合ってます……!ほんとに!」
「へへ、そうかな?これならオールシーズン着れそうだし、一つあってもいいかな。」
素敵な大人の女性みたいなスタイルなのに、ふにゃっとした笑顔は少女みたいで。
そのギャップも可愛くて。
わあ、どうしたらいいのかな。
凄く胸が苦しい。
何だか変だよ。
「お客様、すっごくお似合いです!モデル顔負けです!」
店員も手を合わせて溜息を吐いている。
数多のコーディネートを担当してきた店員さんでも驚くくらいなんですね。
「もう一種類着てもいい?」
エリンさんの言葉に、私と店員は勢いよく首を縦に振る。
試着室のカーテンを閉めると、店員さんが私を見た。
「お連れ様、すごい美人ですね!まるで女優みたい!」
本当にそのとおりだと思う。
エリンさん自身が普段の服装が嫌になるのも分かる。
でも、私は普段の恰好も好きだなあ。
あったかいエリンさんらしくて。
「出るよ~。」
エリンさんの声が聞こえた。
カーテンを開けると、今度は全く違っていた。
ライトブルーのシャツに、ベージュのロングスカート。
赤い髪の毛を少し横に流している。
これはこれで、ふわっとした感じでとっても可愛い。
「こっちも、すごく似合います!」
強めに言っちゃった。
店の中に響いてないか、恥ずかしくなった。
「ありがと。へへ。買おうかな~。」
エリンさんは店員を呼んだ。
「お客様!こちらも凄くお似合いです!お買い上げでよろしかったですか?」
「うん。あと、この子の服も買うから、まだ待ってて。」
そうだ。私の服も買うんだった。
エリンさんが素敵すぎてすっかり忘れていた。慌てて周りを見渡すけど、どんな服を選べばいいかさっぱり分からない。
「お客様はどんな服にされますか?」
店員に言われてますます焦ってしまう。
服なんて……今まで全然気にしてこなかったから。
そう思うと、女性として少し悲しい気持ちになる。
「お顔立ちがとても可愛いから、きっと明るめの服が似合いますよ。」
「いや、実は幾つか考えてるんだよ。」
店員を制してエリンさんが服を持ってきた。
黄色とか、淡い色とか、確かに明るめの服。
あまり着たことがない色。
「まず、このセットで試してみて。」
エリンさんに渡された服を持って、試着室に入る。
薄い青色の長い服と、ほんのり黄色の入ったブラウス。
「……これ、どうやって着るんだろう。」
そう言えば、町を歩いている人にも似た服を着ていた人がいたような。
思い出しながら、なんとなく着てみる。
「あの、着ました。」
試着室を出てみた。
エリンさんと店員がこっちを凝視している。
「「……」」
何も言わない。
変なのかな。着方間違えたかな。
「お客様、これ履いてみてください。」
「ナイスチョイス。」
店員がそっと出してきたのは大き目の白い靴。
履いてみると見た目ほど大きくなく、足にはしっかりと馴染んだ。
「あと、これも。」
「分かってらっしゃる。」
エリンさんが持ってきたのは小さい掛けカバン。
肩から掛けてみた。
「「がわいいーーー!!」」
エリンさんと店員が同時に叫んだ。
思わずビクッとなる。
「お客様可愛すぎます!キャミワンピと小さなカバンが清楚さを引き上げて、ちょっと大きめの靴とのアンバランス感がたまらない!可愛さの暴力、大量破壊兵器です!」
店員さん……?
「どうしよう……。危ないかも、私。」
エリンさんは机に顔をうずめて何かを呟いている。どうしたらいいんでしょうか。
「あの……。」
私が声を掛けようとした時、エリンさんは違う服を突き出してきた。私の方は見ずに。
「それは買い。次はこれ着てみて。大胆かもしれないけど絶対似合うから。最初から選んでたから。そう、変な気持ちとかないから!絶対だから!」
捲し立てるように服を渡されて、カーテンを閉められた。
……なんか寂しいな。
渡された服を見て、私は目を開いた。
「ええ?これ……!?」
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「はあ……逸材ですね。」
店員は手を合わせながら言った。
「守ってあげなきゃ……ぶつぶつ……」
エリンさんは真剣な顔で何かを呟いていた。
「あの…着替えたんですが。」
私はおずおずとカーテンを開けた。
肩が見えるノースリーブに、少しだけ丈の短い黒のスカート。しかも少しフリルもついている。
「これは、恥ずかしいです。」
エリンさんと店員の方は、無言だった。
いたたまれない気持ちになってくる。
「……あの、着替えます。」
「「待ってーー!!」」
2人が勢いよく止めてきた。
「レン、ごめんね。私、感動して。」
何故かエリンさんは涙目だった。
「宣材写真に使わせてもらえないでしょうか。」
店員が言った。何……写真?
とにかく恥ずかしかったので、すぐに着替えることにした。
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「お買い上げありがとうございましたー!是非またご来店を!」
店員に見送られて、私達は店を後にした。
「服、買えて良かったですね。」
「あ、うん、そうだね!」
ぼーっとしてたエリンさんは、私の方を見ずに答えた。
何だろう。
なんだか寂しいなあ。
似合ってないとかではない……と思う。エリンさんだって可愛いとは言ってくれたから。
でも、ずっと素っ気ない。
笑ってもくれない。
あ、何だか…辛くなってきた。
涙が出そうだ。
今までもっと辛いことも耐えてきたのに、なんでこんなくらいで……。
エリンさんだから。
理由は明白だ。
会って数日しか経ってないこの人が、私にとって、今までの人生になかったくらい大切だから。
だから辛いんだ。
「ねえ、レン。」
エリンさんは唐突に私の手を握ってきた。
急な行動に、溢れそうな涙が止まった。
「私がレンのこと守るからね!」
真剣な眼差しで見つめられた。
理由はさっぱり分からないけど、すごく嬉しいし、ドキドキする。
「あ、は、はい。ありがとうございます。」
顔が熱くなるのが分かる。
「だから、あの服、私と一緒の時だけ着てね。」
珍しく恥ずかしそうに言うエリンさんは、とっても可愛いかった。
「はい。あ、でも、いつも一緒にいますから。」
そう答えると、エリンさんは、嬉しそうに笑った。そして、手を繋いだまま歩きだした。
繋いだ手はあったかくて、安心感とともに、胸が高鳴る。
変だなあ、私。
「近づく奴らは排除しないと……。」
呟くエリンさんもちょっと変?だった。




