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壊れた世界の還し方〜不死身のエリンと、癒しのレン〜  作者: 佐藤 陽佑


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8/9

閑話 エリンとレンの日常①

2人で買い物する話です。


※レン視点です。



「レン、今日は買い物に行かない?」


 ビトーの町に滞在中、エリンさんは私に提案した。


「いいですね。これから旅に必要なものを色々準備しておきたいですし。」

「それもあるんだけどさ。もっと重要なものがあるよ。」

「何でしょうか?」


 私が首を傾げて聞くと、エリンさんは声を張り上げた。


「服だよ!」


 エリンさんは、今の自分を見てほしいと言わんばかりに手を広げた。


「ずっと私の恰好っておかしいなと思ってたんだよ!薄手の赤いシャツにでかいバックル。作業着のようなポケット多めの緑ズボン。街を歩いてる女性は皆可愛い恰好してるじゃん!」


 確かに、ガイタンのような猥雑な町では大して気にしていなかったが、ビトーはそこそこ賑わっている都市だ。

 街には可愛らしい服装の女性がたくさん歩いている気がする。


「わ、私は良いと思いますが。」

「気を遣わなくてもいいよ。流石にこれはない。「だまし討ちのエリン」なんてエンタメ枠で語られるのも、この服装のせいだと思うんだよ。」

「それは考えすぎでは……。」


 エリンさんはお洒落好きなのかもしれない。

 豪快でポジティブな普段の姿とのギャップに、ちょっとキュンとする。


「あとね。ちょっと言いづらいんだけど……。」


 エリンさんが私の方を見た。


「レンも相当地味だよ。」


 私の服にも言及された!


「これは、魔法の効果を高める機能のあるローブなんです。ほら、膝のあたりにあるラインは魔法文字になっていて、これが……。」

「あのね、機能なんてのはお洒落の前では二の次なんだよ。」


 エリンさんの圧が強い!


「外は暑いのに、全身を包むような長袖のローブ、しかもフード付き。さらに色も灰色。コーディネートには季節感がつきものでしょ!」


 何故急にそんな知識を!?

 確かに私の恰好は地味だし、正直暑い。でも、ちょっとでも魔法の効果が高い方がパーティには大切なことだと思う。

 それに、正直服装のことはよく分からない。


「レンは滅茶苦茶可愛いのに、なんでそんな冴えない恰好なのかってずっと思ってたんだよ!もう買い換えよう!この際!」


 か、可愛い?

 エリンさんの言葉は温度高めだから、胸がドキドキする。

 というか、冴えない恰好だと思ってたんですね……。


「わ、分かりました。」


 こうして、今日は二人で服を買いに行くことになった。


 -------------------------------------------------------------------


 ビトーの中心である旧市街を横切る大通りは、多くの店と行きかう人々で賑わっている。

 何気ない小物を見るのは好きだし、美味しそうなジェラートを売っている店も気になる。

 

 でも、今日のエリンさんはそんな店には見向きもしない。


「ここにしよう!」


 エリンさんが選んだのは、カジュアルだけど少し高めの店だった。

 店の中は広く、たくさんの女性で溢れている。

 人気のお店なんだ、と分かる。


「いらっしゃいませ~。どんな服をお探しですか?」


 早速、女性の店員が声をかけてきた。

 買い物で声をかけられるのは、ちょっと苦手だ。自信がないからなのかな。


「白いシャツとベージュとかカーキ系のパンツとか、いや、私なら黒系がいいかな。あとは淡いブルー系のトップスとか。」


 ……エリンさんはいつの間にファッションに目覚めたんだろうか。

 少し前まで記憶がなかったとは思えないほど饒舌だ。私にはまるで分からない。


「うーん、レンはどんなのがいいと思う?」

 

 店員から受け取った幾つかの服を見せながら、エリンさんは私に聞いてきた。

 自分の身体に服を重ねている。

 背が高くてスタイルの良いエリンさんには、正直、どれも似合いそうだった。


「試着もできますよ~。」


 店員さんに促されるまま、エリンさんは試着室に入った。

 カーテンからひょいっと顔を出して店員を呼んだ。

 

「あと、動きやすい白か茶色の靴もね。」


 ……もはや常連の雰囲気すらある。


--------------------------------------------------------------------------------


「どうかな?」


 試着室のカーテンを開けて出てきたのは、白い無地の半袖シャツに、黒いパンツを来たエリンさんだった。

 胸元のボタンを少しだけ開けて、小さなアクセサリーが光っている。

 細めのベルトで結んだパンツも、細くて長い脚のラインが映えていた。

 

 どうしよう。すっごく格好いい。

 

「レン?どう?」


 エリンさんはあらためて私に聞いた。

 しばらく見惚れていたせいか、言葉を失ってしまった。


「あ、う、すごい似合ってます……!ほんとに!」

「へへ、そうかな?これならオールシーズン着れそうだし、一つあってもいいかな。」


 素敵な大人の女性みたいなスタイルなのに、ふにゃっとした笑顔は少女みたいで。 

 そのギャップも可愛くて。


 わあ、どうしたらいいのかな。

 凄く胸が苦しい。

 何だか変だよ。


「お客様、すっごくお似合いです!モデル顔負けです!」


 店員も手を合わせて溜息を吐いている。

 数多のコーディネートを担当してきた店員さんでも驚くくらいなんですね。


「もう一種類着てもいい?」


 エリンさんの言葉に、私と店員は勢いよく首を縦に振る。

 試着室のカーテンを閉めると、店員さんが私を見た。


「お連れ様、すごい美人ですね!まるで女優みたい!」


 本当にそのとおりだと思う。

 エリンさん自身が普段の服装が嫌になるのも分かる。


 でも、私は普段の恰好も好きだなあ。

 あったかいエリンさんらしくて。

 

「出るよ~。」


 エリンさんの声が聞こえた。

 カーテンを開けると、今度は全く違っていた。


 ライトブルーのシャツに、ベージュのロングスカート。

 赤い髪の毛を少し横に流している。


 これはこれで、ふわっとした感じでとっても可愛い。


「こっちも、すごく似合います!」


 強めに言っちゃった。

 店の中に響いてないか、恥ずかしくなった。


「ありがと。へへ。買おうかな~。」


 エリンさんは店員を呼んだ。


「お客様!こちらも凄くお似合いです!お買い上げでよろしかったですか?」

「うん。あと、この子の服も買うから、まだ待ってて。」


 そうだ。私の服も買うんだった。

 エリンさんが素敵すぎてすっかり忘れていた。慌てて周りを見渡すけど、どんな服を選べばいいかさっぱり分からない。


「お客様はどんな服にされますか?」


 店員に言われてますます焦ってしまう。

 服なんて……今まで全然気にしてこなかったから。

 そう思うと、女性として少し悲しい気持ちになる。


「お顔立ちがとても可愛いから、きっと明るめの服が似合いますよ。」

「いや、実は幾つか考えてるんだよ。」


 店員を制してエリンさんが服を持ってきた。

 黄色とか、淡い色とか、確かに明るめの服。

 あまり着たことがない色。


「まず、このセットで試してみて。」


 エリンさんに渡された服を持って、試着室に入る。

 薄い青色の長い服と、ほんのり黄色の入ったブラウス。


「……これ、どうやって着るんだろう。」


 そう言えば、町を歩いている人にも似た服を着ていた人がいたような。

 思い出しながら、なんとなく着てみる。


「あの、着ました。」


 試着室を出てみた。

 エリンさんと店員がこっちを凝視している。


「「……」」


 何も言わない。

 変なのかな。着方間違えたかな。


「お客様、これ履いてみてください。」

「ナイスチョイス。」


 店員がそっと出してきたのは大き目の白い靴。

 履いてみると見た目ほど大きくなく、足にはしっかりと馴染んだ。


「あと、これも。」

「分かってらっしゃる。」


 エリンさんが持ってきたのは小さい掛けカバン。

 肩から掛けてみた。


「「がわいいーーー!!」」


 エリンさんと店員が同時に叫んだ。

 思わずビクッとなる。


「お客様可愛すぎます!キャミワンピと小さなカバンが清楚さを引き上げて、ちょっと大きめの靴とのアンバランス感がたまらない!可愛さの暴力、大量破壊兵器です!」


 店員さん……?


「どうしよう……。危ないかも、私。」


 エリンさんは机に顔をうずめて何かを呟いている。どうしたらいいんでしょうか。

 

「あの……。」


 私が声を掛けようとした時、エリンさんは違う服を突き出してきた。私の方は見ずに。


「それは買い。次はこれ着てみて。大胆かもしれないけど絶対似合うから。最初から選んでたから。そう、変な気持ちとかないから!絶対だから!」


 捲し立てるように服を渡されて、カーテンを閉められた。

 ……なんか寂しいな。


 渡された服を見て、私は目を開いた。


「ええ?これ……!?」


--------------------------------------------------------------------------------


「はあ……逸材ですね。」


 店員は手を合わせながら言った。


「守ってあげなきゃ……ぶつぶつ……」


 エリンさんは真剣な顔で何かを呟いていた。


「あの…着替えたんですが。」


 私はおずおずとカーテンを開けた。

 肩が見えるノースリーブに、少しだけ丈の短い黒のスカート。しかも少しフリルもついている。


「これは、恥ずかしいです。」


 エリンさんと店員の方は、無言だった。

 いたたまれない気持ちになってくる。


「……あの、着替えます。」

「「待ってーー!!」」


 2人が勢いよく止めてきた。


「レン、ごめんね。私、感動して。」


 何故かエリンさんは涙目だった。


「宣材写真に使わせてもらえないでしょうか。」


 店員が言った。何……写真?


 とにかく恥ずかしかったので、すぐに着替えることにした。


--------------------------------------------------------------------------------


「お買い上げありがとうございましたー!是非またご来店を!」


 店員に見送られて、私達は店を後にした。


「服、買えて良かったですね。」

「あ、うん、そうだね!」


 ぼーっとしてたエリンさんは、私の方を見ずに答えた。


 何だろう。


 なんだか寂しいなあ。

 似合ってないとかではない……と思う。エリンさんだって可愛いとは言ってくれたから。


 でも、ずっと素っ気ない。

 笑ってもくれない。


 あ、何だか…辛くなってきた。

 涙が出そうだ。

 今までもっと辛いことも耐えてきたのに、なんでこんなくらいで……。


 エリンさんだから。


 理由は明白だ。


 会って数日しか経ってないこの人が、私にとって、今までの人生になかったくらい大切だから。


 だから辛いんだ。



「ねえ、レン。」


 エリンさんは唐突に私の手を握ってきた。

 急な行動に、溢れそうな涙が止まった。


「私がレンのこと守るからね!」


 真剣な眼差しで見つめられた。

 理由はさっぱり分からないけど、すごく嬉しいし、ドキドキする。


「あ、は、はい。ありがとうございます。」


 顔が熱くなるのが分かる。


「だから、あの服、私と一緒の時だけ着てね。」


 珍しく恥ずかしそうに言うエリンさんは、とっても可愛いかった。


「はい。あ、でも、いつも一緒にいますから。」


 そう答えると、エリンさんは、嬉しそうに笑った。そして、手を繋いだまま歩きだした。


 繋いだ手はあったかくて、安心感とともに、胸が高鳴る。


 変だなあ、私。


「近づく奴らは排除しないと……。」


 呟くエリンさんもちょっと変?だった。

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