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壊れた世界の還し方  作者: 佐藤 陽佑


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第5話 ウンブラ・ノクス

 私とレンは、迫りくる影からジリジリと距離を取った。


 ウンブラ・ノクスは魔力によって具現化した、影の集合体のような存在だ。


「物理攻撃は効かないとなったら「だまし討ちのエリン」とはいかないね。」

「唯一勝てるとしたら……。」


 レンが言いかけた時、ウンブラ・ノクスとかいう化け物は、こちらに手を伸ばした。


「横に避けて!」


 レンの指示でまた反射的に飛ぶ。

 自分のいた後ろから、巨大な槍上の塊が飛び出してきた。

 避けなければ串刺しだった。


「あ、ありがとう」

「よかった……。相手は影を操り、多方向から攻撃を仕掛けてきます。」

「そんなのあり!?」


 私もレンも大粒の汗を流していた。


「救いがあるのは、一度に複数の攻撃はできないこと。それに、状態異常が効きやすいことです。」

「はは。レン……博識すぎるよ……でも!」

「横に飛んで!」


 私の言葉を遮って、またレンが叫んだ。

 今度は何もない空中から魔物の腕が巨大な刃となって降ってきた。

 これも咄嗟に躱すことができた。


「どうやって倒せるの!?」


 レンも攻撃を避けて、地面に転がっていた。


「相手の動きを少しでも止めることさえできれば!」


 止めるったってどうやって!?

 物理攻撃しかできない私と、攻撃手段を持たないレンでは話にもならない。



 私は周囲を見回した。

 逃げる道を探した。せめてレンだけでも逃がしたい。

 私は不死身だ。どんな目に会おうが、生き延びることはできる。


「エリンさん!」


 レンの声でハッとした。


 目の前に魔物が迫っていた。

 真っ黒い闇に、ぽっかり空いた目の穴。


 怖い。


「わあああ!!」


 キラーバッドを振り回した。

 魔物はそれをユラリと躱すと、金切り声のような音で何かを唱えた。


「イ、デア」


 その瞬間、私の身体に強烈な衝撃が走った。


「ぐが……!!」


そのまま吹き飛ばされ、草むらに飛び込んだ。


胸から首にかけてえぐれている。

呼吸ができない。苦しい。痛い。


「はっ……!はぁ……っ!」


肉体はすぐに回復し、呼吸が整っていくが、痛みと恐怖心は収まらない。

何とか起き上がったが、足が震えている。


「レン……レン!?」


 少し離れたところでレンが倒れていた。

 慌てて駆け寄る。


「う、エリンさん。無事ですか……?」


 レンの身体を抱きかかえる。

 身体がふらついている。


 ウンブラ・ノクスの攻撃が当たる瞬間、レンが私を突き飛ばした。

 その時に自分も攻撃を受けたのだ。


「私は大丈夫だよ!死なないんだから!そんな私を助けるなんて……ばか!」

「ごめんなさい……。でも、エリンさんが痛い思いをするのは……嫌です。」


 レンは身体を起こした。


「もう……!それでレンが傷ついたら、私は永遠に後悔するよ!」


 申し訳なさそうにしているレンを支えながら、ウンブラ・ノクスに向き合う。

 またユラリと私達に近づこうとしている。


「こいつ、実体がないの?」


「実体はありますが、身体の中がほとんど魔力で構成されていて、自由に身体の形を変えられるんです!」


 どんな化け物だよ……。

 でも、めちゃくちゃ捉えにくいが実体はある。


「唯一の弱点は状態異常です。麻痺させることができれば、魔力が離散し、実体部分に攻撃も当たります。」


 とはいえ、状態異常なんてどうすればいいのか。

 考える暇も与えないように、ウンブラ・ノクスが魔法を唱えた。


「イデ……ア」


 レンを抱えて横に飛ぶ。


 大きな破壊音と共に、躱した場所がえぐれた。


「くそっ……どうすればいいんだよ!?」


 その時、私の視界があるものを捉えた。


「もしかしたら……。」


 私はレンの方を向いた。


「実体があるってことは、イデアって魔法以外は「あいつの身体」を使った攻撃なんだよね?」


「おそらく。」


 レンも戸惑っていた。

 確信はないが、やってみるしかない。

 私は立ち上がり、レンを抱えたまま、走った。


「エリンさん!?」


 私はさっきの草地の間を駆け抜けた。


「ちょっとごめんね!」


 少し離れた場所にレンを置き、今度は一直線にウンブラ・ノクスに駆けだした。


「エリンさん!……そうか!」


 ウンブラ・ノクスは既に私に向かって腕を伸ばしていた。


 どこから来る?


 刹那、後ろから私の身体を大きな三角柱の形をした腕が貫いた。


「意識が飛ぶほどの激痛と、身体の中から血や肉がこみ上げてくる異常な感覚に狂いそうになった。」


「エリンさん!」


 レンが這いながら駆け寄ろうとしてくる。


 ダメだよ……隠れてなきゃ……。

 私の身体を貫いた物体を見る。

 黒い塊、あいつの腕。


 私は力を振り絞り、その腕に手を突っ込んだ。


「こ、れ、でどう……?」


 その時、ウンブラ・ノクスに異常が生じた。

 身体が固まり、動けないようだった。

 何かを唱えようとするが、無機質な口も動かない。


 私はゆっくりと身体を引き抜いた。


「う、うう……。」


 レンが駆け寄って、私にヒールの魔法を唱えた。

 すぐに回復するとはいえ、痛みが和らいでいくのはありがたい。


「ありがとう……。レベル上がったんだね。魔法使えるように……。」

「エリンさん!うう……無理しないで!」


 レンは泣きそうな顔で言った。

 でも、私の身体はすぐに元に戻っていった。


「同じ……大丈夫だよ……。」


 動けなくなったウンブラ・ノクスに目を向ける。


「麻痺状態ですね……。」

「こいつをね。突っ込んでやったんだ。」


 私はレンにぐちゃぐちゃになった草花を見せた。


「これは……」

「毒草だよ。体内に入ると毒が急速に回って身体が動けなくなる。」


 私はふう、と息を整えて聖剣キラーバッドを構えた。


「でも、致命傷に至るほどじゃない。」


 そして、高く振りかざした。


「だから、きっちり刺してやるんだ……」


 そのままウンブラ・ノクスに向けて振り下ろす。


「とどめをね!」



 

 ザン、と大きな音がして、ウンブラ・ノクスは両断された。


 黒い影が血のように吹き上がり、金切り声を上げて消えていった。


「た、倒した。」


 私はその場にしゃがみこんだ。

 

「エリンさん、大丈夫ですか?」

「うん。レンこそ大丈夫?」


 私がほほ笑むと、レンは泣きそうになっていた。


「ごめんなさい。足を引っ張ってしまって。」


 私はレンの身体を抱き寄せた。


「何言ってるの……?何度も助けてくれたじゃない。」


 レンの指示は驚くほど的確だった。

 まるで相手の動きを読んでいるかのような。

 私が不用意に攻撃を食らわなければ、逃げ切れたかもしれないのだ。


 レンは首を横に振った。

 何か言いたそうだったが、私は黙ってレンの顔を抱きしめた。


「ありがとう……無事でよかった。」



 落ち着いた後、二人はそっと身体を離した。


「あの化け物、一体何だったの?」


「魔力の濃度が高い場所に現れる魔物で・・・普通はこんな平凡な場所にはいないはずなんです。」


「身体のほとんどが魔力って言ってたもんね。」


「はい。魔力に溢れた場所しか形を保てないはずですから・・・でも、さっき現れた個体は、そうではありませんでした。」


 私は身震いした。


「何なのかな。」


 大したことが言えない私に代わり、レンが口を開いた。


「あまり考えたくないですが、ウンブラ・ノクスは高濃度の魔力を注がれた場合、形を維持できると聞いたことがあります。」


 つまり、それは……


「誰かが、ウンブラ・ノクスに魔力を与えた可能性があります。」


 一体誰が?

 何のために?


 それこそ、魔物を使役していると噂のベルトリアなのか。


「現状、分かりません。でも、この一帯からはもう魔力の気配はありません。」


それを聞いてほっとした。


「レンのその魔力の探知って凄いね。私さっぱり分かんない。ヒーラーはみんなできるの?」


純粋に感嘆して聞いたのだが、一瞬レンの表情が曇ったのに気付いた。


「その、大した能力ではないんですが、一応修練はしていたので。」


 どうやら誰でもできることではないらしい。


「でも、その力のお陰で助かってるよ。ありがとう。」


 私はレンの頭を撫でた。


「エリンさん……。


 レンは泣きそうな、照れたような顔をしていた。



 私は、うーんと背伸びをした。


「とりあえず、帰ろっか。」


 ニコッと笑った私を見て、レンが頷いた。

 

 何かが起きているのかもしれないが、私達にはまだ知るすべもない。

 今は二人とも無事で、温かいご飯と寝る場所があればいい。


「お金もらえたら美味しいもの食べよう!」


「はい!」


 私とレンは薬草の籠を抱えて笑い合った。




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