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壊れた世界の還し方〜不死身のエリンと、癒しのレン〜  作者: 佐藤 要


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第44話 穏やかな日のこと

久しぶりにのんびりした回です。

最後の方は、次回へのつなぎが入ります。


 ベルトリアに行くのは早くても10日後になった。

 レン以外の3人の入国申請が必要だからだ。

 

「ベルトリアに入国する時は申請なんてなかったのに。」

「レンゾ(リンデール以東の地域)はベルトリアの「同盟国」だからですね。逆にハルバートからベルトリアと周辺圏内に入ろうとすれば入国審査があります。」


 なるほど。でも10日は長い気がする。


「確かに、審査に10日も掛かるなんて驚きました。私がハルバートからレンゾに入国した時は1時間程度で入国審査が終わりましたから。」

「そんなに違うの!?」

「入国審査を厳格にするのは、他国を信用していないからだと思います。」

「ますますハルバートって国はおかしいっスね。……あ、すんません。レン姐さん。」


 出身国を貶したと思い、ボーンズはレンに謝った。

 レンは苦笑いを浮かべた。


「別に気にしないですよ。」

「そ、そうっスか。」


 ボーンズはほっと胸を撫でおろした。


「私とサリーさんにも一応謝ってよ。理由はないけど。」

「何でっスか!?」



 ハルバートへの出発まで時間があるので、準備をしつつ、のんびりと過ごすことにした。


「図書館で本を借りてきませんか?ベルトリアの歴史やマデリーンのことを調べれば、何かエリンさんの記憶の手がかりになるかもしれないですし。」

「おお、いいね!」

「クイーンズパークには国立図書館があって、蔵書量は世界一らしいです。」


 楽しそうにレンが言った。


「俺も今のハルバートの状況でも調べてみますかね!」

「よし、早速行ってみよう!」



 国立図書館はクイーンズパークの中央通りから少し離れた場所にある。

 緑が豊かな国立公園に隣接しており、多くの人が集まっていた。

 幸いにして私達の家からは徒歩圏内だ。


「広い公園だね。お店も多いし、すごくいい感じ。」


 周辺にはキッチンカーや屋台が出ているほか、カフェ、レストランが幾つもあり、食欲が刺激される。


「エリン姐さんにはたまらない場所っスね。」

「お昼はこの辺りで食べましょうね。」


 やった!図書館行ってのんびりとランチ。


「まずは調べものをしましょうか。」


 楽しそうなレンの様子に私も嬉しくなる。


「レンは本が好きだもんね。」

「はい。図書館だったら何時まででも滞在できると思います。」

「あはは。今日は幾らでもゆっくりしようよ。」


 公園は広くて緑も豊か。晴れた日の散歩にはもってこい。

 もしベルトリアに住むなら、これは休日の定番コースになりそうだ。


「お、だまし討ちのエリンだ。」

「テロ集団を打ち取った英雄だな。」


 周囲の人達がちょっと騒いでいる。やっぱり表彰されたからかな。ちょっと恥ずかしいけど感謝されるのは嬉しいかも。


「テロの協力者を半殺し、いや全殺しにして大通りを引きずって晒し物に……。服が返り血で真っ赤に染まっていたとか……。」

「元老院も敵に回るのを恐れてベルトリアに豪邸まで与えたらしいわよ。」

「新たな脅威を迅速に懐柔する政治的判断。見事という他にないザマスね。」


 また脚色されてるよ!

 何故いつも危険人物扱いなんだよ!


「晒し者にしてない!不可抗力なんだけど!」

「ま、まあエリンさん……。」

「ははは。落ち着くっスよ。」


 レンとボーンズが私をなだめる。

 何でいつも私ばっかり……!


「隣の子が、可愛い顔して市中引きずり回しの魔法を唱えてたって子か。」

「あれが槍使いかしら。お母さんを守護天使にしてる中年っていうのは。」

「現世に舞い降りた地獄の3連星というにふさわしいザマス。」


 ……って、二人も言われてるじゃん!


「し、市中引きずり回しの魔法なんてないです!」

「ちょいちょい!守護天使は俺の可愛い奥さんっすよ!」


「「「ひー!すいません!」」」


 二人は必死で誤解を解こうとしているが、逆に市民を怯えさせている。

 私の気持ちが分かったようだな。


-----------------------------------------------


 何とか人々の誤解を解いた後、図書館に入って各々に本を探した。

 レンはこの世界の神話やベルトリアの歴史の本を5、6冊積んでいた。

 

「以前、転生の女神が現れたことがありましたよね。神々の存在にもエリンさんの記憶のヒントがあるのかなと思って。」


 レンが熱心にメモを取っている間、私はもう一つ気になっていたことを調べることにした。


 英雄バッドガイのことだ。


 500年前に悪の精霊達を倒して世界を救った人というのは分かっている。

 だが、他に知っていることと言えば、私が持っている巨大な聖剣キラーバッドの所有者だったこと、精霊達を倒した後、神聖国家フルベングにて人間同士の戦争に参加。その後、アルコール中毒で死んだということくらいだ。


 バッドガイは何者だったのか、聖剣キラーバッドはどう作られたのか。それを知れば、私だけがキラーバッドを扱える理由が分かるかもしれない。


「でも、何百冊あるんだろ、これ。」


 バッドガイ関連の本はとにかく多く、どれを選べばいいか分からない。 

 レンに相談してみよう。


「そうですね……まずはバッドガイの出身地であるレンゾの作家の本が良いかもしれません。」


 レンはメモを書く手を止めて、バッドガイ文学の棚に来てくれた。

 手慣れた様子で書籍をパラパラとめくる。


「戦争の時にフルベング側について、ベルトリア・ハルバートの連合軍と戦った人物ですし、その3国の関係者が書いた書籍は、解釈が全然違うと思います。そういう意味で……あ、この人がいいかも。」


 レンは幾つかの本を手に取ると、その中の一冊を取り出した。


「レンゾの小さな少年」というタイトルの本だった。


 著者名はビクター=オリビエ。

 かなり古い書籍のようで紙の色が一部変色している。


「中身は見てないですが、著書の記録を見る限り、バッドガイと同年代の人物のようなので、レンゾで実際に交流があったのかもしれません。」


 同時代を生きた人物なら、バッドガイの実像に近い姿を描いているかもしれない。


 少年時代から書かれているみたいだから、読むのに時間がかかりそうだけど……ちょっと読んでみようかな。


 私はその本をめくり始めた。



-----------------------


 豊かな時代があった。

 人々は精霊達を敬い、供物を捧げ、その恵みに感謝しながら暮らしていた。

 

 だが、いつからか精霊達の声が乏しくなると、人々は飢えに悩まされるようになった。

 人間に尽くすことを拒んだ精霊達が、悪意を持って人を支配し始めたからだ。


 牙を剥いた精霊達による支配は世界中に広がり、フルベング、ベルトリア、ハルバートといった大国でさえ、国家存亡の危機に陥っていた。


 そのような時代、レンゾ国の東にある小さな村に一人の少年がいた。


 ローランズ=カリム。


 後に英雄バッドガイと言われる少年は、この村で最後に生まれた子供だった。



 私――ビクター=オリビエは、カリムの家の隣に住んでいた。

 身体の弱かった私は、他の子どものように外を走り回ることができず、家で一人で過ごしていた。


 小さなカリムは、そんな私に常に声を掛けてくれる唯一の存在だった。


「オリビエ姉ちゃん、花冠作ったよ。」


 真っ白な花を丁寧に結った花冠は、カリムの小さな手から私の頭に飾られる。


「ありがとう。とても素敵ね。」

「オリビエ姉ちゃんはお姫様みたいだから。」

「まあ、お上手。」


 カリムは手がとても器用だった。

 頭も良く、優しく、身体も丈夫だった。


 学校のない村で、僅かに教養のあった私は、カリムに勉学を教えてあげていた。

 私達は姉弟のように仲が良く、彼は私を慕ってくれていた。


「おれ、いつか、この村から出るんだ。30分走ったら一周できる。そんな小さい世界で生きていたくない。」


 ある日、カリムがそんなことを呟いた。私は寂しさを感じたが、驚きはなかった。


「そうね。カリムならきっと偉い人になれるわ。」

「オリビエ姉ちゃんも一緒に行こうよ。」

「私は無理よ。身体が弱くて、外では生きていけないわ。」

「おれが背中に背負ってやるよ。」


 私よりずっと小さいカリムに背負われる姿を思い浮かべ、思わず笑ってしまった。カリムは私を見て、不思議そうに言った。


「どうしたんだよ?」

「いいえ。……そうね。いつか追い抜かれてしまうわ。」

「オリビエ姉ちゃんは、ずっと変わらないんだろ?」

「そうね。」


 私は笑った。さっきとは全く違った笑顔で。


「オリビエ姉ちゃん、俺がいないと一人になっちゃうだろ。」

「そうね。でもいいのよ。私は一人に慣れているから。」

「寂しいじゃないか。」

「あら、カリムが?お母さんと一緒に寝るのやめたって言ってたのに、まだお姉ちゃんが恋しいの?」


 からかって言ったつもりだったが、カリムは気にしていなかった。


「うん。俺、オリビエ姉ちゃん好きだもん。」

「カリム……。」

「だから連れていくからな。」


 カリムはどこまでも真っ直ぐで眩しかった。

 太陽のように、日陰にいた私を照らしてくれる。

 そんな彼が、愛おしかった。



 今、この本を書くにあたり、皆さんに最初に告白しなくてはならない。


「さあ、今日は何を教えようかしら。」

「治癒魔法はもう覚えたよ。」

「凄いわね。じゃあ、簡単な補助魔法にしましょうか。」

「よし。」




 私は魔女だ。


 人間よりも遥かに長い時を生き、幾つもの時代を見届けてきた。

 そんな私の運命を大きく変えた一人の少年。


 ローランズ=カリム。


 あの子は、私が初めて心から守りたいと思った人だった。


 ……でも、それだけじゃない。


 あの子は、私に初めて「生きていてほしい」と願ってくれた人だった。


 だからこそ、私はこの物語を書き残さなくてはならない。


読んでいただき、ありがとうございました!

真面目な話が続いたので、ふざけた日常も入れつつ、次回は英雄バッドガイの実像を書いていきたいです。

それはハルバートにも繋がる話で……


もし面白いと思っていただいたら、感想などをいただけると嬉しいです。

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