閑話 エリンとレンの日常②
ただひたすら二人でいちゃつくだけの回です。
※レン視点です。
今日はいつもより早く目が覚めた。
「……まだ4時でした。」
隣のベッドで寝ているエリンさんは、まだ寝息を立てている。
いつもならエリンさんと同じくらいに目を覚ますけど、今日はまだ四時。
そっとエリンさんの横に行き、寝顔を見た。
幸せそうな寝顔にこっちも笑顔になる。
端正な顔立ちなのに、こうして寝ている時は凄く無防備。
「可愛いなあ……。」
思わず声に出てしまった。
寝ている時まで幸せそうな顔をしている。
エリンさんの赤い髪を恐る恐る撫でてみる。
ちょっとだけ癖のある、力強い髪の毛。
全然起きない。寝ている間に触るなんて、何だか悪いことしてるみたい。
「……ごめんなさい。」
ふっと正気に戻って恥ずかしくなる。
とたとたとキッチンに向かった。
多くの宿泊先では食事がついていない。
有料で付けることもできる場所はあるが、もちろん高価だ。
それほど余裕のない私達が泊まれる場所ではない。
そのため、食事はもっぱら自分達で作る。
朝食は大体エリンさんと一緒に作ることが多い。
毎日あるのはパンとサラダで、他はスープ、卵料理、スライスしたハム、ソーセージ、ヨーグルト、フルーツなどが定番。日によってエリンさんはお肉か魚、それにパスタかピザも食べる。
そう、エリンさんは朝からよく食べる人なのです。
エリンさんは料理が好きで、私もハルバートに居た頃は自炊が必須の寮で暮らしていたので、ある程度の料理はできる。
だから、朝食作りは二人にとって楽しい作業だった。
「でも、今日は先に作っておこうかな。」
起きて、朝ご飯できていたらエリンさん喜んでくれるかな。
笑顔のエリンさんを思い浮かべて、私も思わず笑みが零れた。
「……で、作りすぎたわけっスか。」
7時頃に起きてきたボーンズさんとサリーさんが食卓を見て唖然としている。
テーブルいっぱいに料理が並んでいる。
さらに、シチューまで煮込んでしまった。
……捗りすぎました。
「ごめんなさい。食べきれない分はお昼に回しますから。」
「レン姐さんにしては珍しいっスね。」
ちなみにボーンズさんは料理をしない。
放っておくとジャンクなものばかり食べてしまうので、サリーさんがいつも心配そうな顔を浮かべていた。なので、できるだけ一緒に食事を取るようにしている。
「おはよ~。いい匂い……ん?」
エリンさんが起きてきた。
そして食卓を見て目を丸くした。
「これ、レンが全部作ったの?」
「す、すいません。作りすぎてしまって……。」
エリンさんの目がみるみる輝いていく。
「美味しそう~!!」
両手を合わせてキラキラした目をしている。まるで宝物を見つけた冒険家のような。
ああ、凄く素敵な笑顔。
「でも、流石に全部は食えないっスよね?」
「レン~!」
エリンさんにぎゅっと抱きしめられた。
まだ起き抜けで体温が高い。あったかくて、いい匂い。すごくドキドキする。
「ありがと~!私、幸せ!」
うわあ……嬉しい。私の方が幸せです。
「でも、幾つかお昼に回しますね。」
「全部食べる!」
「嘘でしょ!?いくらエリン姐さんでもきついっスよ!ほら、シチューもあるんスよ?」
「シチューまであるの!?最高じゃん!」
シチューの鍋の蓋を開けて、エリンさんはさらに声を弾ませた。
「小鍋だから余裕だよ!」
「どういう理由っスか!?」
「昨日、遅くまで復旧作業のボランティアしてたから、私とレンはあんまり夜ご飯食べれなかったの。だから今、めちゃくちゃお腹空いてるの。」
「ええ……?」
ボーンズさんが引いている。
私もお腹が空いていたから、つい作りすぎたのかもしれない。
「じゃあ、いただきま~す!」
エリンさんは一つ一つ味わうように食べていく。
「お、美味しい~!朝からピザもパスタも肉も魚もあるなんて!」
料理を幸せそうに頬張るエリンさんを見て、私も心が温かくなる。
こんな日がずっと続いたら、どれだけ幸せなんだろう。
「このミックスピザ本当に最高!クレストまでカリッカリ!無限に食べられる!」
えへへ。料理褒めてもらえた。
「チキンも柔らかい!魚も香草とマッチして深い!もう、レン天才だよ!」
うわあ。涙出そう。
こんなに幸せそうに食べてもらえるなら喜んで一生作ります。
「デザートはフルーツとヨーグルト、チョコレートソースもある!」
エリンさんはよっぽどお腹空いてたのかなあ。
もうパンもサラダもパスタもぜーんぶなくなって。ふふふ……
「……って、ええ!?」
気が付いたら、ほとんど料理が残っていない。
「レン姐さん。俺はパンとサラダ、あとソーセージくらいしか食べてないっすよ……。」
じゃあ、ほとんどエリンさんが!?
「そ、そんな一瞬で……。」
「いや、レン姐さん……結構な時間、エリン姐さんに見とれてましたけど。」
私の分が……。
「あ、あれ?レン食べてなかった?」
最後のフルーツをかじりながら、エリンさんは気まずそうに私の方を見た。
「あ、だ、大丈夫です。そうだ、シチューが……って無い!」
「食べちゃった。パンに合いすぎて。」
「何か食材が……ってあるわけない!全部使っちゃいました、私が!」
自業自得だ!
食べる物がない。
あれだけ幸せに満ちていた食卓が凍り付いた。
「ご、ごめん。レン……。」
エリンさんがしゅんとして謝った。
あれだけ嬉しそうだったのに、申し訳なくなった。
私が勝手に見とれていただけなのに。
「い、いや大丈夫です!エリンさんにいっぱい食べてもらって嬉しかったです!」
これは本心。
とは言え、エリンさんはずーんと落ち込んだままだった。
食後、エリンさんは一人で散歩してくると言って、とぼとぼと外に行ってしまった。
ボーンズさんが食器の片付けする、と言ってくれたので、一旦お任せして部屋に戻った。
「嬉しかったけど……お腹空いたな……。」
何か買いに行こうかな。
でも、まだ朝の7時40分。
お店もほとんど開いてない。
「それに、食材いっぱい使っちゃったから、お金控えないと。」
エリンさん……落ち込んでたな。あんな顔させたくなかったのに。
目一杯食べて幸せになってもらいたかったのに。
こてんとベッドに横になる。
ああ、しまったなあ。私がぼーっとしてたから……。
その時、部屋のドアが開いた。
「レン、大丈夫?」
エリンさんが申し訳なさそうに入ってきた。
「エリンさん!」
私は身体を起こした。
「大丈夫ですよ!」
笑ってみせるが、エリンさんはしょぼんとしたままだった。
「ほんとに、ごめんね。これ……。」
エリンさんが手に持った紙袋を机に置いた。
とてもいい香り。
「あ、それ……。」
中には大きなハムとチーズのベーグルサンドとポテト、カフェオレ、それに幾つかのお菓子が入っていた。
「少し歩いたところにあるカフェでモーニングセットがあったんだ。」
「買ってきてくれたんですか?」
「うん……。他に店やってなくて。ごめんね……。」
申し訳なさそうに言うエリンさんに胸が締め付けられた。
「ううん。エリンさん、とっても嬉しいです!」
そこでハッと気づく。
「あの、私こそごめんなさい。朝からあんなにいっぱい作って……買っていた今日一日の食材、全部使っちゃったんです。なのに、エリンさんにお金使わせちゃって。」
エリンさんは首を横に振った。
「滅茶苦茶嬉しかったよ!レンは私が喜ぶと思っていっぱい作ってくれたんだよね?全部私が好きな物ばっかりで、感動するくらい美味しくって、夢中になって食べちゃった。でも、レンが食べてないって気が付かなくて。」
私は、落ち込んでいるエリンさんの頭を撫でる。
エリンさんは驚いて顔を上げた。
「いつもと逆ですね。えへへへ。」
エリンさんもやっと笑顔になってくれた。
美味しそうなモーニングセットを開ける。
「じゃあ、早速いただきますね!」
「うん、いただきます!」
……え?
「エリンさんの分もある!」
紙袋には、クリームパイのモーニングセットが入っていた。
「美味しそうだったから。レンと一緒に食べたいなって思って。」
「ま、まだ食べられるなんて。」
凄い……底がない。
呆気に取られる私の横で、エリンさんはクリームパイを齧った。
「うん。美味しい。……けど、レンが作ってくれたご飯の方がずっと美味しかったな。」
エリンさんはあらためて私の方を見た。
「いつも美味しい料理作ってもらえて、私幸せだね。ありがとね、レン。」
「……エリンさん……。」
すごく嬉しい。と言っても、いつもは一人じゃなくてエリンさんと一緒に作ってるんだけど。
「私の方こそ、いつもありがとうございます。」
エリンさんと顔を見合わせる。
二人とも自然に笑っていた。
あらためてお互いに対して感謝の気持ちが溢れた。
ベーグルサンドを口に運んだ。
二人で作ったものではないけれど、凄く美味しく感じた。
「どんな味?一口もらってもいい?」
「もう食べ終わってる!」




