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壊れた世界の還し方〜不死身のエリンと、癒しのレン〜  作者: 佐藤 要


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第36話 すべての力


―王宮が攻め込まれる少し前―


 ヒュブリス大聖堂から煙が巻き上がる。


 私とレンは、王宮から少し離れた古びた建物に向かっていた。


「魔力が近くなってきました。あの煉瓦の建物で間違いないです。」

「よし。このまま乗り込もう!」

「あ、エリンさん、待って!」


 考えなしに突っ込もうとする私の手をレンが慌てて引っぱった。


「わっ!どうしたの!?」

「あの、ごめんなさい。でも、ちょっとだけ作戦を振り返りましょう。」


 そうだ。折角二人で色々考えたのに、また考えなしに突っ込んでしまいそうだった。


「ごめんね。落ち着いていく。」


 ふう、と息を吐いて、水筒を取り出す。

 身体能力を高める龍脈草の煎じ湯だ。


「フェンリル・テネブラの時みたいな、無茶な飲み方はダメですよ。」


 レンが心配そうに言う。

 化け物と戦った時は水筒まるっと一気飲みだった。

 不死身とは言え、私の身体に負担が掛かることをレンは絶対に望まない。


「大丈夫だよ。少しだけだから。」


 コップ半分程度を注いで飲む。

 身体に少し力が宿るのを感じた。


「さあ、後は考えた手順どおりに行こう。」

「上手くいくでしょうか。」


 心配そうなレンの耳に口を寄せ、私は作戦を繰り返した。

 くすぐったいのか、レンは少し身を震わせた。


「大丈夫だよ。レンが考えてくれたんだから。」

「はい……。でも、エリンさんが心配です。」

「ふふ。やっぱりレンは凄いよね。」


 笑った私に、レンはきょとんとしている。


「これしかないな、って方法を思いつくもの。」

「私はまだ悩んでます……。」

「心配しないでよ。」


 ゆっくりと煉瓦の建物に近づく。

 この先にマリアがいる。


「でも、ボロボロになった姿を見られて、レンに気持ち悪いと思われたら辛いかな。」

「そんなわけない……!」


 レンは私の腕にぎゅっとしがみついた。


「うう、そんなこと絶対にないですから……。」

「へへへ。ありがと。」


 泣きそうなレンの頭を撫でながら、意地悪なことを言ったかなとちょっと反省した。

 でも、レンからの愛情を感じてにやけてしまった。

 それこそちょっと締まりのない気持ち悪い笑顔だったかなあ。


「それよりレンが心配だよ。だって一時的に……」

「私こそ絶対大丈夫です。」


 レンの目には強い意志が宿っていた。

 信頼を感じる。

 

「うん。でも私はレンが本当に危なかったら、何としても二人で逃げるよ。」

「お互いにです!」


 そう言いながら二人で頷く。

 巨大な聖剣キラーバッドを構えた。


「よし、行こう。」


 思い切り剣を振るって建物の壁を破壊する。

 砂埃が舞い上がり、その先に、因縁の相手が見えた。



------------------------------------------------



「マリア・デ・ラウエレス。」

「ああ、貴女が来ましたのね。」


 あまり面白くなさそうなマリアの声が聞こえた。


「だまし討ちのエリン、でしたっけ?」

「そんな名前は嫌なんだけどね。」


 いや、うろ覚えっぽいけど。


「あら失礼しましたわ。で、何の御用?」


 敢えて挑発するようにマリアは笑った。本当に眼中にないという感じだ。


「テロ行為を止めて。」

「私に言われましても。セント・ウォールに直接行ってほしいですわ。」

「貴女もその一員のようなもんでしょ?」

「ふふふ。私は違いますわ。ただ、彼らの思想に共感しているだけ。言うならば支持者のようなものかしら。」


 むう……。ああ言えばこう言う。


「では、セント・ウォールの方々を止めていただけませんか?」


 レンが私の隣に歩み出た。


「あら、貴女もいたの?」


 マリアが笑みを浮かべた。やはり魔力が多いレンの存在は覚えていたようだ。


「ですから、彼らに直接言ってほしいですわ。」

「このままだと彼らは死んでしまいます。この計画は失敗しますから。」


 レンが言い切った。

 マリアがレンの方を向いた。レンは、私の腕を軽く引く。


「鑑定《アプレイズ》」


 マリアの意識がレンに向いた瞬間、私は小声で呟いた。



マリア・デ・ラウエレス

・職業:魔工技師

 ・レベル:38


 ・物理:149

 ・防御:418

 ・体力:98

 ・魔力:5745

 ・速度:387

 ・能力:循環≪サーキュレート≫

:対象と魔力の貸し借りを行う。

       借りる場合は無利子。貸す場合は1分につき2割の利息がつき、

      適宜強制的に回収可能。

     衝撃≪バイラル≫

     :衝撃波を放つことができる。

相手の身体に触れることで体内に打ち込むことが可能。

      魔工技術:魔力を込めた武器を作ることができる

 ・状態異常:なし



「……だいぶ想定に近い。」


 私は小さい声で呟く。

 レンがマリアから目を離さないまま、小さく頷いた。


「あらあら。随分物騒ですわね。全員死ぬなんて。」

「言い過ぎたかもしれません。でも、間違いなく言えるのは全員捕まるか死ぬか、ということです。目的を達成することなく。」

「まあ。」

「なので、止めていただかないといけません。無意味に双方の人が死んでいくだけです。できるのは、残された貴女だけです。」


 マリアは呆れたようにレンに向かって手をかざした。


「貴女、見た目の割に随分無粋ですわね。それとも、これは作戦かしら?」


 ニヤリと笑って舌を舐める。

 背中にぞくりとした悪寒が走った。


 来る。


 そう思った瞬間、マリアはレンの目の前にいた。


「あ……!」

「いただきますわ。」


 レンに触れようとした時、私の剣がマリアを襲った。

 マリアはまた姿を消すと、今度は部屋の隅にいた。


「あらあら。危ないですわね。」

「レンに触れないでくれる?」

「保護者ですの?ふふふ。じゃあ、こうしましょうか。」


 マリアがレンの方に再び手をかざす。


「防壁≪ラウンド・パイル≫」

「それは無駄ですわ。」


 レンはシールドを張ったが、マリアの能力の前では意味がなかった。


「あうっ!」

「レン!」


 マリアによって魔力が強制的に「借りられた」ことでレンの身体が力を失う。

 私はレンの身体を支えた。


「エリンさん……。」

「うん。分かってる。後は任せて。」


 その場に蹲ったレンの背中をさすった。

 レンの魔力を借りて、さらに力を増したマリアは余裕の笑みを浮かべた。


「お前……!」

「あらあら。成長のないこと。」


 私は怒りの形相で聖剣キラーバッドを構える。

 もちろん一時的とはいえレンの力を奪った怒りはある。だけど、頭は冷静だった。


「この!」


 マリアに向かって剣を振るう。

 しかし、圧倒的な速さで躱すと、私の後ろに立った。


「眠っててくださる?」


 ドン、と身体中に強い衝撃が走る。


「ぐうっ!」


 サイレントブラスターか。それとも、こいつの能力「衝撃≪バイラル≫」か。


 前にやられた時と同じだ。

 意識が消えそうになる。


「さようなら。」


 マリアの声が聞こえた。

 ゆっくりと振り返り、レンの方に向かおうとするのが見えた。


「……レン……。」




 その直後、立ち上がった私は、マリアに剣を思い切り叩きつけた。


「なっ……!」


 寸でのところで気づいたマリアは、防壁≪ラウンド・パイル≫で慌ててガードする。

 数多の魔力を貯めこみ、かなり強化されている防壁だが、聖剣の威力は到底防げない。


「このぉ!!」


 思い切り振りぬくと、マリアの身体が部屋の反対側まで吹き飛んでいった。

 

「うっ……ぐ……何故……?」


 マリアがふらつきながら立ち上がり、私を見て愕然とした。


「はぁ!?」


 私の口から大量の血が流れていた。


 倒れる瞬間、私は舌を嚙みちぎった。


 死ぬような激痛はあったが、意識を保つことはできた。

 口の中からちぎれた舌を吐き出すと、マリアの目が見開いた。


「エリンさん……。ああ、もう……」


 レンが呻いた。

 ごめんね。やっぱりこいつは強い。さっきも全く動きが捉えられなかった。

 死ぬほどのダメージを負わないで勝つなんて到底無理だ。



「正気か、お前……?」


 マリアの口調が変わった。レンの言ったとおり、男のような話し方だ。


「げほっ……ひょうひだよ……。」


 ゆっくりとマリアの方に近づく。

 耐えられないほどの痛が消え、私の身体はあっという間に回復していく。

 そのことにマリアは気づいていなかった。


「女だから手加減してやったが……これはやべえな……。」


 マリアは立ち上がるのがやっとという様子だった。

 おそらく、片方の腕は折れているし、ダメージでふらついている。

 治癒魔法を使われたら厄介だ。

 

 私は一気に距離を詰めた。


「ま、マジかよ!」

 

 私の剣は空を切った。

 マリアは少し離れた位置に移動していたからだ。


「位相≪フェイズ≫(建物の外に瞬間移動する魔法)のようなもの?正面から捉えるのはやっぱり難しいな。」


 私は心の中で冷静に考えていた。

 さっきの一撃が最初で最後のチャンスだったかもしれない。

 マリアにもう一撃、それも決定的な一撃を加えるのは至難の業だ。

 だからこそ、私とレンは、持ちうる全ての力を使う必要があった。


「はあっ……はあっ……。」


 マリアの手に握られていたのはエーテル銃だった。


「悪いけど加減できねえ。殺されたくねえからな。」


 マリアは私に向かって躊躇いなく撃ち込んだ。


「応報≪リタリエイト≫!」


 レンの声が響く。マリアがハッとレンの方を向く。

 

「暴露≪リヴィール≫」で魔力を解放したレンは、エーテル銃の熱線を全て吸収し、マリアに向けて撃ち放った。


「何だよ、てめえらぁ!」


 マリアが叫びながら瞬間移動で避ける。

 強力な魔法返しが、古びた建物に響き、一気に崩れる。

 かろうじて直撃は避けたが、爆風に巻き込まれたマリアは再び地面に転がった。


「くそっ……くそっ……どうなってるんだ……?魔力は全て借りたはず。」


 マリアは小声で呟いた。


 「暴露≪リヴィール≫」を使わなければ、レンの魔力は全て解放されない。レンの魔力を「借りた」つもりだが、それは総量に比べたら大したものではなかった。


 マリアにも相応にダメージを与えている。



 だが、ここまでだ。


 レンの残りの魔力は「借り取られる」だろうし、私の動きではマリアを捉えることはできない。


 だからこそ、全てを懸ける必要がある。



 応報≪リタリエイト≫の衝撃で建物が崩れ、瓦礫と化した。

 


 その瓦礫の上に私達3人は立っていた。


 マリアは瞬間移動で逃れ、私はレンの唱えた「防壁≪ラウンド・パイル≫」で崩れる建物から守られていた。


 私は破綻感覚≪アノミー≫で周囲を確認した。

 数か所、青く光る箇所……壊れやすい瓦礫が存在した。



「はあっ……悪いけどな。」


 マリアがレンに向かって手を伸ばす。


「ううっ!」


 レンの魔力が「借りられた」。 

 全ての力を失ったレンは、その場に崩れ落ちる。


「レン!!」


 私の目の前にマリアが来た。


「お前には死んでもらうよ。だまし討ちのエリン。」


 剣を振るう前に、マリアの手が私に触れていた。

 瞬間、身体中が破壊されるような激痛が私を襲った。

 身体の中が壊されているような言葉にならない痛み。

 

「身体の中に直接打ち込んだ……。身体中を破壊させてもらう。」


 衝撃≪バイラル≫を身体中に打ち込まれた私の身体は、全身の骨が砕かれ、血管、内臓、筋肉などすべての器官が破裂させられた。

 全身から血しぶきを上げ、私はその場に崩れ落ちた。


 冷たい目で瓦礫の上に悠然と立つマリア。


 その下に、倒れ伏す私とレン。


 砕かれた瓦礫の山は、私とレンの墓標のようだった。





「エリンさん……。」


 倒れているレンの目から涙が零れた。


 こんなみっともない姿、見せたくなかった。


 全身がボロボロになって、血まみれになって死んで……。


 「たとえ勝つためだったとしても」……大好きな貴女にだけは見て欲しくなかった。


 私達とマリアの間の瓦礫には、青い光が輝いていた。





「相棒は死んだよ。悪いな、こんなひでえ殺し方しちまって。でも、俺は死ぬわけにはいかないんでね。」


 マリアがレンに言う。


「ここで死んだら物語が終わっちまう。」


 謎の言葉を呟くマリアは、レンに手をかざした。


「もう魔力はないだろうが、念を入れさせてもらう。お前が意識を失うまで。」


 

 その瞬間、私は跳ね起きた。


 唖然とするマリアの前で、思い切り剣を振るった。

 ……地面に向けて。


 破綻感覚《アノミー》で青く輝いた場所だ。瓦礫の山が崩れ、地面に陥没が生まれた。


「嘘だろぉ!」


 飲み込まれそうになったマリアが瞬間移動で上がってくる。

 そこを掴んだ。


「回帰≪リグレッション≫!」


 叫んだ瞬間、マリアの身体から魔力が消えた。


「何だよお前!どうなってんだよぉ!」

「お前が借りた全部の魔力を「元の場所に戻した」!」

「ひっ……そんな、死んだはず、化け物!」

 

 マリアの表情が恐怖に満ちた。

 その顔にもはや余裕は微塵も感じられない。


「うわあああああ!」


 マリアの姿が消えた。

 瞬間移動で離れた場所にいた。もはや逃げようとしているのは明らかだった。

 だが……

 

「拘束≪バインドアウト≫!」


 魔力が戻ったレンの魔法が、マリアを捕獲した。


「ぐあっ!」

「ありがと、レン……!回帰≪リグレッション≫!」


 拘束したマリアを強制的に元の場所に戻す。

 ……私は思い切り剣を振り上げた。


「だ、だまし討ちの……!」

「不死身のエリンだ!」


 思い切り剣の側面を叩きつけた。

 ガン、と大きな音を立てて、マリアの身体が一回転する。


 巨大な金属の塊を叩きつけられたマリアは、全身の力を失い、完全に意識を失った。


エリンさんは、レンを危険に晒す奴は老若男女種族問わず、聖剣でぶっ叩ける人です。

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